おっさんの異世界生活は無理がある。
第225話
部屋に備え付けてあったシャワーで汗を流してからベッドに寝転がっていた俺は、窓の向こうに広がっている真っ暗な景色をぼんやりと眺めていた……
「まさか始まる前にバカンスが終わっちまうとは……どこの誰なのか知らないけど、随分と余計な事をしてくれたもんだぜ。」
畑に残ってたのがモンスターの足跡だけだったらクエストで片付いたってのに……ったく、隠す気があるんだったらバレない様に徹底しろよな!!詰めが甘いんだよ!
「はぁ……マジでどうすっかなぁ……」
ため息を零しながら頭を掻いていた俺はディオスさんの発言とさっきまで考えてた事を思い出すと、体を起こしてベッドから降りると静かに窓の方に近づいて行った。
「…………あぁもう、ここまで構築されたらやるしかねぇのか?」
そんな事を呟きながらゆっくりと振り返った瞬間、コンコンと扉をノックする音が部屋の中に響き渡ってきた……?
「おじさん、マホです!」
「……マホ?」
廊下から聞こえてきた声に戸惑いながら近くに置いてあった時計に目を向けると、既に時刻は9時を回っている状態だった。
「ちょっとお話したい事があるんで、少しだけ時間を頂いても良いですか?」
「あ、あぁ、分かった!」
少し大きめの声で返事をしながら玄関に向かって行った俺は、鍵を外し扉を開けてマホを出迎える事にした。
「よぉ、こんな夜も遅い時間に話したい事があるって何なんだよ?」
「……おじさん、先に謝っておきますね……本当にごめんなさい!」
「は、いや急に謝られても困るんだがってうおっ?!」
「ふふっ、お邪魔するよ九条さん。」
「おーっほっほっほ!失礼致しますわ!」
「あ、あの……お邪魔します!」
「………ぺこり。」
「え、な……はぁっ?!」
申し訳なさそうに微笑んでいたマホを見ながら首を傾げていたその時、寝間着姿のロイドとリリアさんとライルさんとソフィが廊下の影からいきなり現れて部屋の中に押し入ってきた!?しかも甘くていい香りがふわっとってそうじゃないだろうが!!
「えっと……それじゃあ私もお邪魔しますね!」
「あ、ちょっと待て!おい!」
素早い動きで部屋の中に逃げ込んでいったマホの後ろを慌てて追いかけて行くと、ベッドやソファーに腰かけて微笑んでいる皆の姿があって?!
「さぁ、それでは全員揃った事だし旅の最後の思い出作りを始めようじゃないか。」
「おー!」
「おーですわ!」
「お、おー」
「……おー」
「いや、おーじゃなくて何がどうなってるのか説明しろ!急に人の部屋に押しかけて来て一体どういうつもりなんだよ!?」
「ふっふっふ、何をするのかと問われれば………答えは1つしかありませんわ!」
リリアさんはベッドから勢いよく立ち上がって俺の前に仁王立ちをすると、満面の笑みを浮かべながら手の甲で髪の毛をぶわぁさっとして見せた。
「九条様!私達と一緒にパジャマパーティーを開催致しますわよ!!」
「…………………はい?」
突然何を言われたのかマジで理解出来なかった俺は、首を傾げながらリリアさんの言葉を頭の中で繰り返して………
「さぁ九条さん、そんな所に立ってないでこっちに来て座ったらどうだい。」
「……いや……いやいやいや……いやいやいやいやいや!?ちょっと待ってくれ!」
「……どうかしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか!そんなのダメに決まってんだろ!?」
「おや、それはどうしてなんだい?」
「どうしてって……そんなのこの状況を見ればすぐに分かるだろうが!ってか、何で俺までパジャマパーティー?!普通そこは女子会なんじゃねぇの?!」
「えっとですね、ついさっきロイドさんが私達の事を呼びに来た時はその予定だったはずなんですけど………」
「それだと同じ階に居る九条さんが仲間外れになってしまうだろ?それだと申し訳が無いからパジャマパーティーに変更したという訳さ。」
「いや、よく涼しい顔してそんな嘘が言えるな!?」
「おや、どうしてこの話が嘘だと思うんだい?」
「そんなのお前の顔を見ればすぐに分かるわ!」
悪戯が成功したのを喜ぶ子供みたいな表情をしやがってよぉ!少し可愛いなぁとか思っちまうから微妙に怒れないだろうが!
「ふふっ、表情を見ただけで私の気持ちを理解してくれているなんて嬉しいよ。」
「ぐっ……!」
本当に嬉しそうに微笑んでいるロイドと目が合って言葉に詰まってしまった俺は、それまでの完全に勢いを失ってしまい両手を腰に当てうつ向きながら深々とため息を吐き出す事しか出来なかった………
「あ、あの……ごめんなさい九条さん……ご迷惑……でしたよね?」
「……はぁ、別にライルさんが謝る事じゃないっての。」
「で、ですが……」
「本当にもう大丈夫だから……首謀者はどうせロイドなんだろうしな。」
「さて、それはどうかな?……だが九条さんが本当に私達の事を迷惑だと思っているのなら、すぐにでもこの場から立ち去るよ。」
「……分かったよ、俺もそのパジャマパーティーとやらに参加すれば良いんだろ。」
「うん、九条さんならそう言ってくれると思ったよ。」
「あぁそうかい……ただし!寝る時になったらちゃんと自分の部屋に戻れよ!流石にこの部屋で夜を明かしたなんて事がお前らの親御さんにバレたら俺の人生が瞬く間に消え去る事になるんだからな!」
「おーっほっほっほ!心得ましたわ!」
「わ、分かりました!」
「……私の親はここに居ないからこの部屋で寝ても良い?」
「ダメに決まってるでしょう!って言うか、お前ら俺に対する警戒心とか少しぐらい持ってないのか!?」
「警戒心?どうして九条さんにそんな物を抱かないといけないんだい?」
「いや、俺だって男だぞ!?お前らを……こう……ガバッとだな………」
「私、その様は心配は微塵もしてませんわ!」
「そ、そうです!私も九条さんはそんな酷い事をしないって信じてますから!」
「それに可愛い女の子が近くを通るだけでドギマギしているおじさんに、私達を襲うなんて事が出来るとも思えませんからね。」
「ふふっ、確かにね。」
「同感。」
「……その信頼は非常に嬉しいんだが、男としては少し複雑な所だな。」
「って言うかですね、おじさんはここに居る皆さんを襲って無傷で済むと思っているんですか?それに上の階には皆さんの親御さんが居て、すぐ下の階には警備隊の方達が居るんですよ?」
「……うん、悪い。まさしく愚問だったな。」
さっきまで考えていた事が本当に無駄だったんだと理解した俺は、扉の鍵を閉めてから部屋に戻り皆から少し離れた所の壁に寄りかかるのだった。
「さてと、それじゃあ早速パジャマパーティーとやらを……って、そもそもそれって何をするパーティーなんだ?正直言って全然分からないんだが……」
「うーん……何と言うか、眠くなるまで皆で楽しくお喋りするって感じですかね!」
「お喋りねぇ……どんな感じの事を話すんだ?」
「ふむ、改めて聞かれると悩んでしまうけど……それじゃあ折角だ、クアウォートでどの様に過ごす予定だったのか聞いて行こうかな。まずリリアからお願いするよ。」
「はい、かしこまりました!私が予定していたクアウォートでの過ごし方はですね、ロイド様と一緒に幸せの名所を巡る事でしたの!」
「……幸せの名所?」
「あ、えっとですね。クアウォートには友達や恋人同士で訪れると幸せが訪れる名所が幾つか存在しているんです。」
「へぇ、そうなのか。」
「ライルさん、良く知ってますね!」
「あ、あはは……私も出来ればロイドさんと巡ってみたかったので……」
流石ロイドガチ勢の2人……って言うか、クアウォートにはそんな恐ろしい名所が幾つもあるってのか?!ぜ、絶対に近寄りたくねぇ……!
「その他にもロイド様と行きたかった観光名所が幾つも……きぃー!!やっぱり私、ロイド様とバカンスに行きたかったですわ!」
「あぁ、私も皆と一緒に巡ってみたかったよ。」
「ロ、ロイド様……!な、何て勿体ないお言葉!」
「……リリアさん、絶対に一緒に巡ってみたかったって所しか聞いてませんね。」
「あぁ、ってかさっきロイド様とって言ってたからな。俺達の存在消えてるよ。」
「ですね………」
「ふふっ、それじゃあ次はライルの予定を聞いてみようかな。」
「あ、はい。私はですね、出来ればで良かったんですけど……ロイドさんとお揃いのアクセサリーを作りたかったなと思っていて……」
「お揃いのアクセサリーって、そんなのが作れるんですか?」
「えぇ、クアウォートで採れる綺麗な貝殻なんかを使って自分だけのアクセサリーを作ったりする事が出来るらしいんです……だから……」
「うん、とっても素敵なお誘いをありがとう。叶えてあげられないのが物凄く残念で申し訳が無いよ。」
「そ、そんな!ロイドさんが謝る事じゃありませんから!でも、そうですね……私も本当に残念です……」
ライルさんがしょんぼりと落ち込んでしまいどう言葉を掛けて良いのか分からずに悩んでいると、マホがバッとこっちを向いて俺の顔を見てきた。
「そ、そう言えばおじさんはどんな風に過ごす予定だったんでしたっけ!」
「お、俺か?俺は……………あっ、ヤバッ!!!」
「……どうしたの?」
「……シーナから頼まれ事をされてたのをすっかり忘れてた…………まずい、絶対に怒られる気がする……!」
「あぁ、そう言えばそうでしたね……」
「うわぁ、マジで……あぁ……やべぇ……どうすっかなぁ……」
「まぁまぁ、こうなってしまったら仕方ないさ。シーナには私も一緒に謝ってあげるからさ。」
「わ、私も一緒に謝ります!」
「私も。」
「……悪い、そうしてくれると助かる。」
あぁもう……素材を集めるって事で話は終わってたのに……このままだったら別の面倒事を押し付けられる事になる………しかも今回のよりも面倒な事を頼まれる様な気がするんだよなぁ………はぁ………
「え、えっと………ロイドさんはどんな風に過ごすご予定だったんですか?」
「ん、私かい?そうだね……人形などを扱っている店を巡ろうかと考えていたね。」
「まぁ、そうなんですの!是非とも私もご一緒したいですわ!」
「あ、わ、私もご一緒してもよろしいでしょうか!」
「ふふっ、勿論だよ。次の機会になってしまうけどね。」
「「あっ……」」
「それで、ソフィのクアウォートでの予定はどんな感じだったんだい?」
「……武器や防具を取り扱っている店を巡るつもりだった。」
「え、そうなんですか?どうしてまた。」
「クアウォートには色んな物が集まってるって聞いてた。だから珍しい武器や防具があるのかもしれない。」
「あぁ、なるほど!」
「……でも巡れなくなった。」
「……そうですね。」
マホの返事を最後に部屋の中に重苦しい空気が漂い始めていた……その次の瞬間、さっきまで座っていたロイドが急に立ち上がり手をパンっと大きく鳴らした。
「折角こうして皆で集まっているんだ、どうせならば帰る前に明るくて楽しい思い出を作ろうじゃないか。」
「……ロイド様の言う通りです!いつまでも落ち込んでいたって始まりませんわ!」
「……そうですね、それにこうして皆さんと一緒に過ごせるのが最後だと決まった訳ではありませんから。」
「そうですよ!また機会があった時に皆さんで集まりましょうよ!」
「……その時は、九条さんも一緒に。」
「はいはい、言われなくても分かってるよ。」
「おーっほっほっほ!そうと決まればもっと明るい話題を話しましょう!例えばそうですわね……ロイド様の素敵な所を題材にして!」
「はい!そうですね!」
「いや、それで盛り上がれるのはそこのファン2人だけだからね?聞いてる?」
ロイドのおかげで皆に少しずつ元気が戻って、話しが盛り上がってあっと言う間に時間が過ぎていったんだが…………
「うぅん………ロイドさまぁ………」
「す、すみません………すみません………」
「すぅ………すぅ………」
「……………」
「むにゃむにゃ……もうたべりゃれましぇんよぉ………」
「………何なんだ、この状況は?」
呆然と立ち尽くす俺の目の前には……ベッドやソファーでぐっすりと眠ってる皆の姿が見えていて…………
「いや、だから寝るなら自分の部屋に帰ってくれよぉ……」
喋り疲れたからなのか風呂上がりだからなのか気落ちしてたからのかは全く持って分からないんだが………
「すみませんが仮眠をさせて頂きますわ……」
リリアさんのその言葉を合図にして続々とベッドに潜り込んでいく女の子達………勿論、俺は止めようとしたさ!だけど誰も俺の言葉なんて聞いちゃくれねぇんだよ!だから結局の所、俺は諦めるの選択肢しか選べなかった訳でして………
「……それにしても………やっぱ辛いよな。」
この旅行を楽しみにしてずっと前から準備をしてたのに、それがこんな形で終わるなんてさ………そりゃ辛くて悲しくて悔しいって思うはずだよな。
「あーあー………やっぱやるしかねぇか。」
後頭部をガシガシと掻いて座っていた椅子から立ち上がった俺は、自分のバッグを持って静かに浴室へと向かって行った。そして寝間着から冒険用の服に着替えると、扉の鍵を確認してから部屋にショートブレードの収まっている鞘を腰に差した。
「戸締りはした……寝ている奴らが風邪をひかない様に布は掛けてある……よしっ、それじゃあ行くとしますかね。」
俺は持っていたバッグを元の場所に置いてから窓を少しだけ開けて慎重に身を乗り出すと、月明かりがぼんやり照らしている地面を見ながら深呼吸を繰り返した。
「すぅーはぁー……こんな夜中に3階から飛び降りようとしてる俺って、正真正銘のバカなんじゃなかろうか?」
……だがここまでフラグが構築されてまくってるんだ!このチャンスを逃す訳には絶対に行かないんだよ!折角のバカンスを無かった事にしてたまるか!!
「大丈夫……出来る……俺なら出来る……………行くぞ!!」
魔力で練り上げた風を全身に纏った俺は、窓枠に手を掛けたまま壁を蹴ると地面に向かって飛んで行くのだった!そう、全ては明日のバカンスの為にぃぃぃぃ!!!!
「まさか始まる前にバカンスが終わっちまうとは……どこの誰なのか知らないけど、随分と余計な事をしてくれたもんだぜ。」
畑に残ってたのがモンスターの足跡だけだったらクエストで片付いたってのに……ったく、隠す気があるんだったらバレない様に徹底しろよな!!詰めが甘いんだよ!
「はぁ……マジでどうすっかなぁ……」
ため息を零しながら頭を掻いていた俺はディオスさんの発言とさっきまで考えてた事を思い出すと、体を起こしてベッドから降りると静かに窓の方に近づいて行った。
「…………あぁもう、ここまで構築されたらやるしかねぇのか?」
そんな事を呟きながらゆっくりと振り返った瞬間、コンコンと扉をノックする音が部屋の中に響き渡ってきた……?
「おじさん、マホです!」
「……マホ?」
廊下から聞こえてきた声に戸惑いながら近くに置いてあった時計に目を向けると、既に時刻は9時を回っている状態だった。
「ちょっとお話したい事があるんで、少しだけ時間を頂いても良いですか?」
「あ、あぁ、分かった!」
少し大きめの声で返事をしながら玄関に向かって行った俺は、鍵を外し扉を開けてマホを出迎える事にした。
「よぉ、こんな夜も遅い時間に話したい事があるって何なんだよ?」
「……おじさん、先に謝っておきますね……本当にごめんなさい!」
「は、いや急に謝られても困るんだがってうおっ?!」
「ふふっ、お邪魔するよ九条さん。」
「おーっほっほっほ!失礼致しますわ!」
「あ、あの……お邪魔します!」
「………ぺこり。」
「え、な……はぁっ?!」
申し訳なさそうに微笑んでいたマホを見ながら首を傾げていたその時、寝間着姿のロイドとリリアさんとライルさんとソフィが廊下の影からいきなり現れて部屋の中に押し入ってきた!?しかも甘くていい香りがふわっとってそうじゃないだろうが!!
「えっと……それじゃあ私もお邪魔しますね!」
「あ、ちょっと待て!おい!」
素早い動きで部屋の中に逃げ込んでいったマホの後ろを慌てて追いかけて行くと、ベッドやソファーに腰かけて微笑んでいる皆の姿があって?!
「さぁ、それでは全員揃った事だし旅の最後の思い出作りを始めようじゃないか。」
「おー!」
「おーですわ!」
「お、おー」
「……おー」
「いや、おーじゃなくて何がどうなってるのか説明しろ!急に人の部屋に押しかけて来て一体どういうつもりなんだよ!?」
「ふっふっふ、何をするのかと問われれば………答えは1つしかありませんわ!」
リリアさんはベッドから勢いよく立ち上がって俺の前に仁王立ちをすると、満面の笑みを浮かべながら手の甲で髪の毛をぶわぁさっとして見せた。
「九条様!私達と一緒にパジャマパーティーを開催致しますわよ!!」
「…………………はい?」
突然何を言われたのかマジで理解出来なかった俺は、首を傾げながらリリアさんの言葉を頭の中で繰り返して………
「さぁ九条さん、そんな所に立ってないでこっちに来て座ったらどうだい。」
「……いや……いやいやいや……いやいやいやいやいや!?ちょっと待ってくれ!」
「……どうかしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか!そんなのダメに決まってんだろ!?」
「おや、それはどうしてなんだい?」
「どうしてって……そんなのこの状況を見ればすぐに分かるだろうが!ってか、何で俺までパジャマパーティー?!普通そこは女子会なんじゃねぇの?!」
「えっとですね、ついさっきロイドさんが私達の事を呼びに来た時はその予定だったはずなんですけど………」
「それだと同じ階に居る九条さんが仲間外れになってしまうだろ?それだと申し訳が無いからパジャマパーティーに変更したという訳さ。」
「いや、よく涼しい顔してそんな嘘が言えるな!?」
「おや、どうしてこの話が嘘だと思うんだい?」
「そんなのお前の顔を見ればすぐに分かるわ!」
悪戯が成功したのを喜ぶ子供みたいな表情をしやがってよぉ!少し可愛いなぁとか思っちまうから微妙に怒れないだろうが!
「ふふっ、表情を見ただけで私の気持ちを理解してくれているなんて嬉しいよ。」
「ぐっ……!」
本当に嬉しそうに微笑んでいるロイドと目が合って言葉に詰まってしまった俺は、それまでの完全に勢いを失ってしまい両手を腰に当てうつ向きながら深々とため息を吐き出す事しか出来なかった………
「あ、あの……ごめんなさい九条さん……ご迷惑……でしたよね?」
「……はぁ、別にライルさんが謝る事じゃないっての。」
「で、ですが……」
「本当にもう大丈夫だから……首謀者はどうせロイドなんだろうしな。」
「さて、それはどうかな?……だが九条さんが本当に私達の事を迷惑だと思っているのなら、すぐにでもこの場から立ち去るよ。」
「……分かったよ、俺もそのパジャマパーティーとやらに参加すれば良いんだろ。」
「うん、九条さんならそう言ってくれると思ったよ。」
「あぁそうかい……ただし!寝る時になったらちゃんと自分の部屋に戻れよ!流石にこの部屋で夜を明かしたなんて事がお前らの親御さんにバレたら俺の人生が瞬く間に消え去る事になるんだからな!」
「おーっほっほっほ!心得ましたわ!」
「わ、分かりました!」
「……私の親はここに居ないからこの部屋で寝ても良い?」
「ダメに決まってるでしょう!って言うか、お前ら俺に対する警戒心とか少しぐらい持ってないのか!?」
「警戒心?どうして九条さんにそんな物を抱かないといけないんだい?」
「いや、俺だって男だぞ!?お前らを……こう……ガバッとだな………」
「私、その様は心配は微塵もしてませんわ!」
「そ、そうです!私も九条さんはそんな酷い事をしないって信じてますから!」
「それに可愛い女の子が近くを通るだけでドギマギしているおじさんに、私達を襲うなんて事が出来るとも思えませんからね。」
「ふふっ、確かにね。」
「同感。」
「……その信頼は非常に嬉しいんだが、男としては少し複雑な所だな。」
「って言うかですね、おじさんはここに居る皆さんを襲って無傷で済むと思っているんですか?それに上の階には皆さんの親御さんが居て、すぐ下の階には警備隊の方達が居るんですよ?」
「……うん、悪い。まさしく愚問だったな。」
さっきまで考えていた事が本当に無駄だったんだと理解した俺は、扉の鍵を閉めてから部屋に戻り皆から少し離れた所の壁に寄りかかるのだった。
「さてと、それじゃあ早速パジャマパーティーとやらを……って、そもそもそれって何をするパーティーなんだ?正直言って全然分からないんだが……」
「うーん……何と言うか、眠くなるまで皆で楽しくお喋りするって感じですかね!」
「お喋りねぇ……どんな感じの事を話すんだ?」
「ふむ、改めて聞かれると悩んでしまうけど……それじゃあ折角だ、クアウォートでどの様に過ごす予定だったのか聞いて行こうかな。まずリリアからお願いするよ。」
「はい、かしこまりました!私が予定していたクアウォートでの過ごし方はですね、ロイド様と一緒に幸せの名所を巡る事でしたの!」
「……幸せの名所?」
「あ、えっとですね。クアウォートには友達や恋人同士で訪れると幸せが訪れる名所が幾つか存在しているんです。」
「へぇ、そうなのか。」
「ライルさん、良く知ってますね!」
「あ、あはは……私も出来ればロイドさんと巡ってみたかったので……」
流石ロイドガチ勢の2人……って言うか、クアウォートにはそんな恐ろしい名所が幾つもあるってのか?!ぜ、絶対に近寄りたくねぇ……!
「その他にもロイド様と行きたかった観光名所が幾つも……きぃー!!やっぱり私、ロイド様とバカンスに行きたかったですわ!」
「あぁ、私も皆と一緒に巡ってみたかったよ。」
「ロ、ロイド様……!な、何て勿体ないお言葉!」
「……リリアさん、絶対に一緒に巡ってみたかったって所しか聞いてませんね。」
「あぁ、ってかさっきロイド様とって言ってたからな。俺達の存在消えてるよ。」
「ですね………」
「ふふっ、それじゃあ次はライルの予定を聞いてみようかな。」
「あ、はい。私はですね、出来ればで良かったんですけど……ロイドさんとお揃いのアクセサリーを作りたかったなと思っていて……」
「お揃いのアクセサリーって、そんなのが作れるんですか?」
「えぇ、クアウォートで採れる綺麗な貝殻なんかを使って自分だけのアクセサリーを作ったりする事が出来るらしいんです……だから……」
「うん、とっても素敵なお誘いをありがとう。叶えてあげられないのが物凄く残念で申し訳が無いよ。」
「そ、そんな!ロイドさんが謝る事じゃありませんから!でも、そうですね……私も本当に残念です……」
ライルさんがしょんぼりと落ち込んでしまいどう言葉を掛けて良いのか分からずに悩んでいると、マホがバッとこっちを向いて俺の顔を見てきた。
「そ、そう言えばおじさんはどんな風に過ごす予定だったんでしたっけ!」
「お、俺か?俺は……………あっ、ヤバッ!!!」
「……どうしたの?」
「……シーナから頼まれ事をされてたのをすっかり忘れてた…………まずい、絶対に怒られる気がする……!」
「あぁ、そう言えばそうでしたね……」
「うわぁ、マジで……あぁ……やべぇ……どうすっかなぁ……」
「まぁまぁ、こうなってしまったら仕方ないさ。シーナには私も一緒に謝ってあげるからさ。」
「わ、私も一緒に謝ります!」
「私も。」
「……悪い、そうしてくれると助かる。」
あぁもう……素材を集めるって事で話は終わってたのに……このままだったら別の面倒事を押し付けられる事になる………しかも今回のよりも面倒な事を頼まれる様な気がするんだよなぁ………はぁ………
「え、えっと………ロイドさんはどんな風に過ごすご予定だったんですか?」
「ん、私かい?そうだね……人形などを扱っている店を巡ろうかと考えていたね。」
「まぁ、そうなんですの!是非とも私もご一緒したいですわ!」
「あ、わ、私もご一緒してもよろしいでしょうか!」
「ふふっ、勿論だよ。次の機会になってしまうけどね。」
「「あっ……」」
「それで、ソフィのクアウォートでの予定はどんな感じだったんだい?」
「……武器や防具を取り扱っている店を巡るつもりだった。」
「え、そうなんですか?どうしてまた。」
「クアウォートには色んな物が集まってるって聞いてた。だから珍しい武器や防具があるのかもしれない。」
「あぁ、なるほど!」
「……でも巡れなくなった。」
「……そうですね。」
マホの返事を最後に部屋の中に重苦しい空気が漂い始めていた……その次の瞬間、さっきまで座っていたロイドが急に立ち上がり手をパンっと大きく鳴らした。
「折角こうして皆で集まっているんだ、どうせならば帰る前に明るくて楽しい思い出を作ろうじゃないか。」
「……ロイド様の言う通りです!いつまでも落ち込んでいたって始まりませんわ!」
「……そうですね、それにこうして皆さんと一緒に過ごせるのが最後だと決まった訳ではありませんから。」
「そうですよ!また機会があった時に皆さんで集まりましょうよ!」
「……その時は、九条さんも一緒に。」
「はいはい、言われなくても分かってるよ。」
「おーっほっほっほ!そうと決まればもっと明るい話題を話しましょう!例えばそうですわね……ロイド様の素敵な所を題材にして!」
「はい!そうですね!」
「いや、それで盛り上がれるのはそこのファン2人だけだからね?聞いてる?」
ロイドのおかげで皆に少しずつ元気が戻って、話しが盛り上がってあっと言う間に時間が過ぎていったんだが…………
「うぅん………ロイドさまぁ………」
「す、すみません………すみません………」
「すぅ………すぅ………」
「……………」
「むにゃむにゃ……もうたべりゃれましぇんよぉ………」
「………何なんだ、この状況は?」
呆然と立ち尽くす俺の目の前には……ベッドやソファーでぐっすりと眠ってる皆の姿が見えていて…………
「いや、だから寝るなら自分の部屋に帰ってくれよぉ……」
喋り疲れたからなのか風呂上がりだからなのか気落ちしてたからのかは全く持って分からないんだが………
「すみませんが仮眠をさせて頂きますわ……」
リリアさんのその言葉を合図にして続々とベッドに潜り込んでいく女の子達………勿論、俺は止めようとしたさ!だけど誰も俺の言葉なんて聞いちゃくれねぇんだよ!だから結局の所、俺は諦めるの選択肢しか選べなかった訳でして………
「……それにしても………やっぱ辛いよな。」
この旅行を楽しみにしてずっと前から準備をしてたのに、それがこんな形で終わるなんてさ………そりゃ辛くて悲しくて悔しいって思うはずだよな。
「あーあー………やっぱやるしかねぇか。」
後頭部をガシガシと掻いて座っていた椅子から立ち上がった俺は、自分のバッグを持って静かに浴室へと向かって行った。そして寝間着から冒険用の服に着替えると、扉の鍵を確認してから部屋にショートブレードの収まっている鞘を腰に差した。
「戸締りはした……寝ている奴らが風邪をひかない様に布は掛けてある……よしっ、それじゃあ行くとしますかね。」
俺は持っていたバッグを元の場所に置いてから窓を少しだけ開けて慎重に身を乗り出すと、月明かりがぼんやり照らしている地面を見ながら深呼吸を繰り返した。
「すぅーはぁー……こんな夜中に3階から飛び降りようとしてる俺って、正真正銘のバカなんじゃなかろうか?」
……だがここまでフラグが構築されてまくってるんだ!このチャンスを逃す訳には絶対に行かないんだよ!折角のバカンスを無かった事にしてたまるか!!
「大丈夫……出来る……俺なら出来る……………行くぞ!!」
魔力で練り上げた風を全身に纏った俺は、窓枠に手を掛けたまま壁を蹴ると地面に向かって飛んで行くのだった!そう、全ては明日のバカンスの為にぃぃぃぃ!!!!
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