おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第213話

翌日、バカンスに行く為に必要な物を揃える為に街にやって来た俺達はまず最初にスマホを入れる完全防水のポーチを作って貰う為に加工屋に来たんだが………

「えぇ!?ズルいズルいズルいったい!!」

「やかましい!店の中で騒ぐんじゃねぇ!」

「うぅ……だってだって!この時期にクアウォートの街に行くなんてそんなのズルいじゃんか!それも貴族様の家族旅行の付き添いでなんて羨ましすぎるよ!九条さん、一体どうしてそんな事になったの!?」

「いや、俺も昨日聞いたばっかりだから何とも………」

「このバカ、お客さんに迷惑かけるんじゃねぇ!」

「だってズルいんだもん!私なんて毎日毎日汗だくになりながら仕事ばっかりしてるって言うのに!」

「一人前になる為には修行が大事だって分かってんだろうが!文句を言うな!」

「うぅ!私だって可愛い水着とか着て海で泳ぎたいよー!!」

「………おじさん、何だか大変な事になってしまいましたね。」

「あぁ、そうだな……」

話の流れから親父さんとシーナさんにバカンスに行く事になったと伝えたんだが、まさかここまで大騒ぎするとは………いやまぁ、ぶっちゃけ意外だとは全然思わないから別に良いんだけどさ………あ、シーナさんの口が塞がれた。

……うん、ここは黙ってスルーしよう!それよりも今は、加工の依頼について話を進めるとしますかね。

「それであの、お願い出来ますかね?完全防水加工のポーチって……」

「あぁ、任せてくれ……って言いたいんだが、素材がちょっと足りなくてな。」

「おや、私達も含め九条さんはかなりの種類の素材を持っていると思うんだが。」

「確かにそうなんだが……あぁもう暴れんな!悪いな、娘が迷惑かけちまってよ。」

「気にしてない。それよりも必要な素材は何?どのモンスターを狩れば良い?」

「いや、必要な素材はモンスターから採れる物じゃ無いんだ。」

「モンスターからではない……それはつまり」

「っぷはぁ!えっとね、森の奥で採れる植物が幾つか必要なの!皆さん、そっち系の素材は全然持ってないでしょ?」

「あぁ……そういや討伐クエストは結構な頻度でやってるけど、採取系のクエストはほとんど受けた事が無いかもな。」

「でしょ?そんな訳だから、頑張ってその植物を集めて来てね!」

「あのシーナさん、その植物にはどんな効果があるんですか?」

「うーん!良い質問だねマホちゃん!実はその植物から採れるエキスがとっても重要なんだけどね、何とそれを素材に塗り込むと液体が滲み込むのを防ぐ事が出来ちゃうんだよ!どう、凄くない?!」

「はい!とっても凄いです!そんな植物があるなんて、全然知りませんでした!」

「ふふーん!でしょでしょ?実はその植物、梅雨が明けて後じゃないと採取出来ないって感じの珍しい物なんだ!」

「えっ、そうなのか?じゃあ急がないと全部採られちゃうんじゃ……」

「その点については心配は無用だぜ。森のあちこちに群生しまくってるから、すぐに手に入る代物さ。まぁこの時期にだけしか採れないって意味で、狙う奴は少なからず居るだろうけどな。」

「そうですか……えっと、その植物を採取してからどれぐらいの期間でポーチは完成するんですか?」

「2、3日もあれば余裕で仕上げられるよ!九条さんが今使ってるポーチに植物から採ったエキスをちょちょっと塗り込んで加工するだけだからね!」

「ふん、まだまだ半人前の癖にデカい口を叩きやがるじゃねぇか。」

「ふふーん、親方の娘だからね!」

さっきまであんなにガミガミ言い合ってた父娘が仲良く笑い合う姿を見ながら肩をすくめていると、シーナさんが受付の上に置いてあった紙をバッと手に取って何かを書き記し俺に手渡してきた。

「はいこれ!採って来て欲しい植物と後々で必要になりそうな素材のリスト!」

「おっ、わざわざありがとうな。助かるよ。」

「いえいえ、お役に立てたのなら何より!それじゃあ頑張って採取してきてね!多分だけど、クエストとして出てると思うからついでに稼いで来なよ!」

「ふふっ、そうさせてもらうとしようかな。」

「九条さん、ついでに討伐クエストも。」

「はいはい、分かってるよ。それじゃあ2人共、クエストが終わったら店に寄らせて貰うからその時はよろしくお願いするぞ。」

「あぁ、気を付けて行って来いよ。」

「いってらっしゃーい!また後でねー!」

親父さんとシーナさんに見送られながら加工屋を出て行った俺達は買い物の予定を取り止めて斡旋所に向かうと、渡された紙に書かれている植物を採取するクエストとその付近に関連している討伐クエストを受けて森に向かって行くのだった。

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