おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第207話

【夏にお勧めするお料理特集!】と題されてたコーナーに置いてあったレシピ本を何冊か買い、マホに渡されたメモに書かれていた店で日焼け止めを幾つか手に入れた俺は夕焼けに染まる大通りの途中で立ち止まって大きく伸びをしていた。

「ふぅ……マジで嫌な汗を掻いたぞ………」

マホの奴め……日焼け止めを売ってる店が化粧品を取り扱ってる店だってしっかり教えてくれよな……見つけたと同時にふら~っと入ったら、ほとんど若い女の子しか居なかったじゃねぇか!居心地が悪すぎるっての!

「……でもまぁ日焼け止めを探したのは確かだし、一応は感謝しておかないとな。」

さてと、それじゃあ必要な物も買ったしそろそろ家に………いや、久しぶりに外に出た事だしもう少しぶらついてみるか?皆にお土産でも買ってけば、もう少しぐらい自堕落な生活を続けても文句は言われないだろうし………

「よしっ、そうと決まれば早速………ん?」

とりあえずケーキ屋に行ってみようと考えて歩き出そうとした瞬間、前から走って来た何やら豪勢な馬車がゆっくりと速度を落として俺のすぐ横の路肩に停まった……そして何故か座席を隠していた赤いカーテンと窓が開かれて…………え?

「お久しぶりですわね、九条様。ご機嫌はいかがですか?」

「リ、リリアさん?それに………ライルさん?」

「あ、お久しぶりです九条さん。お元気でしたか?」

「ま、まぁ元気だけど……」

数カ月ぶりに再会した2人を目の当たりにして驚き戸惑っていると、リリアさんが目をキラキラさせながら周囲をキョロキョロと見回し始めた……?

「そ、それで九条様!貴方が居るという事は勿論!」

「……期待している所で申し訳ないんだが、ロイドは居ないぞ?」

「…………はああああああああああ…………」

こ、こんにゃろう!なんて分かりやすい反応をしやがるんだよ!おっさん少しだけ傷ついたじゃねぇか!!

「もうリリアさん、九条さんに失礼ですよ。」

「ですがライルさん!私はロイド様がこの場にいらっしゃると思ったから、わざわざ馬車を停めたんですよ!それなのに!」

「いやいや、そこで俺を睨まれても困るんですけど?!」

「す、すみません九条さん……はぁ……残念です……」

「もしもーし……こんだけ近かったら小声でも聞こえるからな?」

ったく、これだからロイドのファン筆頭のお嬢様は……それに露骨ではないにしろライルさんもガッカリしてる感じだし……って、俺が責任感じる必要はねぇってば!

「……まぁ良いですわ!明日はロイド様達と一緒にお買い物をするのですかららね!おーっほっほっほっほ!」

「買い物?……あぁ、そう言えばそんな話をしてたな。何を買いに行くんだ?」

「あら、ロイド様から聞いておりませんの?それはですね」

「あー!ダメですよリリアさん!その話は九条さんには秘密なんですから!」

「はっ!し、しまったですわ!つい口がすべってしまいましたわ!」

「あ、えっと……秘密ってどういう……」

「そ、それは、その、えっと………」

「お、おーっほっほっほっほ!九条様が気にするお必要はご、ございませんわ!さぁ急いで馬車を出しなさい!ロイド様達と巡るお店の下見に行きますわよ!」

「は、かしこまりました。」

「え、ちょ!?」

「おーっほっほっほっ………」

「し、失礼しますううううぅぅぅ…………」

「……………えぇー…………」

リリアさんの高笑いとライルさんの謝る声を聞きながら遠ざかってく馬車を呆然と眺めていた俺は、周囲から変な目で見られている事を感じてそそくさとその場を移動するのだった……!

いやもう本当に勘弁してもらえませんかね!?騒動を起こすだけ起こして処理せず去って行くとか酷過ぎるんじゃないですか?!変な噂が広まったらどうしてくれる!ロイドに頼んで権力の力を行使してもらうぞちきしょうめ!

「……それにしても、買い物の内容が俺に秘密ってどういう事だ?」

帰ったらマホに聞いて……いや、あの2人の様子じゃ教えてくれないだろうな……うーん、どうしたもんかねぇ……とりあえず聞くだけ聞いて、教えてくれなかったら諦めるとするか。

そう考えを固めていつも行くケーキ屋に向かった俺は、季節限定のケーキを幾つか買ってから家に向かって歩いて行くのだった。

「おっさんの異世界生活は無理がある。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く