おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第199話

「ふぅ、これだけの数のモンスターを相手にすると流石に疲れるもんだな……」

そう呟きながら軽く肩を回して周囲に転がっている何十体ものモンスターの亡骸と止めを刺された変異種モンスターを眺めていると、ソフィが涼しい顔のままこっちに向かって歩いて来た。

「九条さん、怪我は無い?」

「あぁ、ソフィの方は?」

「問題ない。」

「そうか……よしっ、そんじゃあ最後の仕上げとするとしますかね。」

「分かった。」

俺とソフィはアイテムを入れているポーチの中からネットを取り出すと、いつもの様に納品の作業に取り掛かった……のだが、その時ふと気になる事が頭に浮かんだ。

「そう言えばソフィ、お前が止めを刺したのって変異種モンスターで間違い無いんだよな?」

「うん。ボスのコアとある宝箱は無かった。」

「そうだよなぁ……じゃあ、ここの部屋のボスって何処に消えたんだ?」

「…‥多分あれ。」

「あれ?」

ソフィが部屋の隅の方に指を向けたのでそっちの方に目を向けてみると、そこには他の白いまゆより明らかにサイズ感が違う物が存在していた。

「………なるほど、あっさり負けて餌にされてた訳か。」

「どうする。あれも納品する?」

「あぁ、そのついでに宝箱の中身も確認しておくか。もしかしたらコアクリスタルが手に入るかも……っておい!先に目の前のモンスターの納品を終わらせなさい!」

……それから目に見えて作業効率が上がったソフィに呆れながらも納品を終わらせた俺達は、かなりデカい繭の上に立つと武器を突き立てて中を確認していった。

「よっと…………あーらら、随分とまぁ悲惨な姿になっちゃってるなぁ。」

「九条さん、宝箱。」

「はいはいそう慌てんなっての……よっこいせっと!」

ボスの物と思われる太い骨の間にあった宝箱を抱えて取り出した俺は、それを床の上にぽいっと放り投げた……するとその中から、ガシャンという音が聞こえてきた。

「おっ、これはもしかして……」

「開けて来る。」

「は、えっ!?」

素早い動きで繭の上から降りて宝箱に駆け寄ったソフィは勢いよく蓋を当て中身を目にすると………物凄くしょんぼりとした雰囲気を漂わせ始めた………

「……宝石しか入って無かった。」

「そ、そうか………まぁそんな落ち込むなって!そんだけのお宝があれば結構な額の収入になると思うし、それで今日はパァーっと美味い物でも食べようぜ!な?」

「……分かった。それじゃあこれは回収しておく。」

うーん、無表情でもテンションが落ちてるのが丸わかりだな………しょうがない、今日の飯は気合を入れて作るとしますかねぇ。

(マホ、そんな訳だから色々と協力頼んだぞ。)

(任せて下さい!腕によりをかけて美味しい料理を作りますよ!)

なんてやり取りをした後に再び納品作業に戻ってからしばらくして、俺とソフィは周囲を見渡してモンスターの亡骸が残ってないのを確かめると大きな扉付近で待っているロイドとイリスの方に歩いて行った。

「2人共、納品お疲れ様。手伝えなくてすまなかったね。」

「いや、別に謝る必要はねぇよ。それよかイリス、足の具合はどうだ?」

「うふふ、九条さんとロイドさんのおかげで特に問題は……………」

「……ん、どうかしたのか?」

微笑みながら包帯の巻かれてる足首に手を当てたイリスは何故か急に黙り込むと、ジッと俺の顔を見上げてきて……?

「んっ……何だか急に足が痺れてきてしまいましたぁ………」

「………へ?」

「どうしましょう……これじゃあここから出る事が出来ませんねぇ……」

………おかしいなぁ、変異種モンスターが俺を捕食しようとしていた時の目つきとイリスの目つきがそっくりに見えるぞ?どうなってるんだろうねっ!?

「……ロ、ロイド?治療は……ちゃんとしたんだよな?」

「あぁ、だけどまだ完全に毒が抜けきっていない様だね。これはどうしたものか。」

「……おい、なんでそっち側に回ったんだよ?!」

「ふふっ、言っている意味がよく分からないな。」

「ぐっ!そ、それじゃあ完全に解毒が出来るまでここで待ってれば!」

「九条さん、ここは湿気が酷い。」

「いや、それはそうだけどさ……」

………え、これってどう考えても俺がどうにかしなきゃいけない流れになってね?どういう事?俺の事を護るって決めた仲間は一体何処に行ったんだよ?!

(……ご主人様、もう諦めましょう。)

(……えっ?)

(さっきは危ない所を助けて貰ったんですから、そのお礼として外まで連れて行ってあげましょうよ。)

(うっ、それを言われると……)

確かに捕食される一歩手前の所を救ってくれたイリスに礼をしなきゃいけないってのは理解出来るんだが…………何故か物凄く嫌な予感がするんだよなぁ。

「それじゃあソフィ、私はイリスの武器を運ぶからモンスターを頼んだよ。」

「うん。任せて。」

「あれ、勝手に話が進んでいるぞ?」

「それでは九条さん、街までよろしくお願いしますね。」

「………………はいよ。」

既に拒否権なんて物が存在しない事を改めて悟った俺は静かにため息を零しながらイリスに背を向けてしゃがみ込んだ……………………ん?

「イリス、この状態も疲れるから早く背中にってうおっ!?」

(あー!ちょっと何をしてるんですかイリスさん!羨ましい!)

「うふふ、こうして九条さんの腕の中に居るとドキドキしちゃいますねぇ……」

突然膝に座って首に手を回されたせいで反射的にお姫様抱っこの形をしてしまった俺は、至近距離で見つめて来るイリスを見てメチャクチャって言うか?!

「いや、ちょまっ!?近い近い近い!」

「おやおや、これは何とも大胆な事だね。」

「……凄い。」

「感心してる場合か?!って言うかイリス!お前、足が痺れて歩けないんじゃなかったのかよ!?」

「あっ、何だかまた痺れてきましたぁ……」

「嘘つけ!絶対歩けるだろうってちょっと待ってくれ!ちゃんと街まで運ぶから顔を近づけて来るんじゃない!」

「うふふ、うふふふふ…………」

吐息を感じるぐらい近くで見つけて来たイリスを抱えて立ち上がった俺はロイドとソフィと顔を見合わせた後に急いでボス部屋を出て行った!!っていうか、どうしてイリスは男なのに体が柔らかくて甘い匂いがするんだよ!?!?!

……俺は心臓の動きが早くなっているのがバレません様にと祈りながら、捕食者の目つきで見つめてくるイリスを抱き抱えながらダンジョンの外を目指すのだった!

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