おっさんの異世界生活は無理がある。
第179話
【拝啓 マホさん ロイドさん ソフィさんへ
こちらの事情で大変申し訳ないのですが、奉仕義務の期間が5日程延長される事になりました。
それで非常に心苦しいのですが、もうしばらくの間だけ家事の方をよろしくお願い致します。
九条透より】
……ってな感じの手紙を送ってから数日後、俺は荷造りをしながら窓の外に浮かぶ月をぼんやりと眺めてため息を零していた。
「やっぱりあいつ等からの返事は帰って来なかったか……」
あーあーやっぱ怒ってんだろうけどさぁ、思ってたより大怪我だったらしくて完治を目指すなら時間が必要ですってお医者さんに言われたんだからしょうがなくね?
まぁ安静にしてたのは屋敷に帰って来た日とその翌日だけで、その次の日からは普通に奉仕業務をこなしてたんだけどな……働いてないと無駄に暇だったからさ。
「うーん……それにしてもマホ達にどうやって言い訳をしたものか……深夜に城内を探検してたら階段から足を踏み外したんだよ!……いや、流石にこれはマヌケ過ぎるだろ……それにどうして深夜にそんな事をしてたのか聞かれる事になるだろうし……あーマジでどうやって説明すればいいだ!?」
立ち上がって思いっきり背伸びをしながらそんな事を大声でぼやいていると、扉の鍵がガチャッと開かれて誰かが部屋に入って来た!……いや、誰が入って来たのかは大体予想出来てるから別に驚く事でも無いんだけどさ。
「ちょっとアンタ、荷造りは順調に進んでるの?」
「まぁな……ってかそうじゃなくて、せめてノックをしてから俺が出迎えるまで少し待ってくれよ。いきなり入って来られるとドキッとして心臓に悪いんだから。」
「ほっほっほ、それは申し訳ございませんでした。」
……本当に申し訳ないと思ってんのかしら?なんて気持ちでセバスさんをジトッとした目で見ていると、その隣に立ってたお姫様が我が物顔でソファーに座り込んだ。
「ふんっ。私がアンタの怪我の事とか色々誤魔化しながらお父様に説明したおかげでまだこの部屋を使う事が出来てるんだから、ぶつぶつと文句を言わずに感謝の言葉でも伝えて来なさいよ。」
「いや、そもそも俺が大怪我をしたのはお前が身勝手な理由であの屋敷に行ったからなんですけど……あ、すみません!部屋を使わせてくれてありがとうございます!」
「分かれば良いのよ。」
な、なんて横暴なお姫様なんだ!?ちょっとでも反抗的な態度を見せようものなら床に黄金色の魔方陣を出現させやがって!斬られるはずは無いと思うが、怖いものは怖いんだよ!ちきしょう!!俺も欲しいな伝説級の武器がさぁ!!
「はぁ……って言うかこんな時間にわざわざ何し来たんだ?まさかまたどっかに行くからついて来いって話じゃないだろうな。」
「まぁ、それも考えてはいたんだけどね。今日は別の用事で来たのよ。」
「か、考えてはいたのかよ……」
あれだけ危険な目に遭ったってのに懲りないお姫様だなぁ……そう思って顔が若干引きつっていると、セバスさんが微笑みながら静かにソファーの横にやってきた。
「九条殿、私が今朝したお話を覚えておいででしょうか。」
「え、確か……明日は早朝から国王陛下達に予定が入ってるから、最後の挨拶をする事が出来ないとかって話でしたよね?」
「はい、その通りでございます。ですので、こちらを国王陛下よりお預かりして参りました。」
セバスさんはそう言って上着のポケットに手を入れて王家の模様が描かれた小さな白い封筒を取り出すと、俺に歩み寄って来てそれを手渡してきた。
「あの、これは……」
「そちらの封筒には報酬の小切手が入っております。どうぞご確認を。」
「あっ、なるほど……」
えっと1日奉仕して1万5千Gで………あ、延長された分はタダ働きって事だから実質…………幾らだ?まぁ、ざっと数えて10万ちょっとって所かな?
計算するのが面倒になった俺は報酬額を確認する為に封筒の中から綺麗な小切手を取り出して額を確認してみた。
「えー…いち、じゅう、ひゃく、せん………ん?あれおかしいな……いち、じゅう、ひゃく、せん、ま……いやいやちょっと待てって、落ち着いてぇ……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん………あのセバスさん、ちょっと良いですか?」
「おや、どうかなさいましたか?もしや小切手に不備がございましたか?」
「いやそういう訳じゃないんですけど………これ、金額が間違ってますよね?」
「いえいえ、国王陛下はその額で間違いないとおっしゃっておりましたよ。」
「へっ、い、いやいや……だ、だってこれ……報酬額がご、50万Gって、なってますけど!?!」
「はい、その額で間違いございませんよ。」
「そ、そんなはずありませんって!奉仕義務の期間で考えるとこの額は絶対に多すぎだと思うんですよ!だって延長されたって部分はタダ働きになってるんですから!」
「はい。ですから基本的な報酬額は、10万と5千Gになります。」
「で、ですよね?!じゃあ、どうしてそれが50万Gに!?」
「……あぁ、やっぱりお父様にはバレてたのね。」
「えぇ、そう言う事でございます。」
「な、何が?!」
困惑しながら2人を交互に見ていると、何かを察したらしいお姫様がやれやれと肩をすくめて小首を傾げながら俺の方を見た。
「どうやらアンタが怪我をした原因、お父様達にはバレていたみたいよ。」
「け、怪我をした原因って………まさか、幽霊屋敷の事か?!」
「そうよ。まぁアンタが大怪我をしたその翌日に行方不明だった人達が発見されたんだから、それで色々と察したんじゃない?」
「で、でも、ちゃんと誤魔化したって……」
「えぇ、ちゃんと誤魔化したわよ。夢の中だと思って城内を徘徊してたら階段の途中で足を踏み外して、それが実は現実だったって。」
「なっ!?そんな無茶苦茶な事を言ったのか?!」
「これで上手く誤魔化せると思ったんだけど、どうやら失敗したみたいね。」
「そ、そりゃそうだろよ………」
お姫様のあまりに突拍子もない誤魔化しを聞いてガックシと肩を落としていた俺は、手にしていた小切手を改めて見つめてみた。
「んー……本当にこんなに貰って良いんですか?」
「勿論でございます。国王陛下もその額でとおっしゃっておりましたから。もしその額で足りないとお感じならば、改めて言って頂ければとも……」
「い、いやいや!そんな訳にはいきませんよ!」
「それでしたら、是非ともその小切手をお受け取り下さい。」
「わ、分かりました……」
ぶっちゃけ最後に止めを刺したのってそこにふんぞり返ってるお姫様なんだが……何も言ってこないみたいだし、ありがたく受け取っておくかねぇ。
ふぅっと息を吐きながら俺がズボンのポケットに封筒に入れた小切手を仕舞うと、お姫様がスッと立ち上がってこっちに向かって歩いて来た……って、そんな至近距離に来なくても良いだろうが!?可愛いすぎて心臓に悪いんだよ!!
「実はその小切手とは別に、私からアンタに報酬をあげようと思ってるの。」
「ほ、報酬?な、なんだよそれ?」
「それはね………」
「そ、それは………?」
お姫様に潤んだ瞳でジッと見つめられた俺は、激しく動く鼓動の音がバレやしないかと固唾を飲んで言葉の続きを待った!だ、だってこの展開の続きは……いや待て!相手はお姫様でしかも未成年だぞ!?で、でもこれは……まさか!?
「……はっ、変な期待をしてんじゃないわよこのバカ。」
「………へっ?」
一瞬にして呆れた表情に変わって離れてセバスさんと玄関の方に歩いて行くお姫様を見て、俺は思わず素っ頓狂な声を上げて呆然としていた………
「セバス・チャンが見てる前でそんな事をする訳が無いでしょうが。そんなんだからいい歳して彼女の1人も出来た事が無いのよ。」
「ぐはっ!!」
「ふっ、それではお休みなさい九条さん。今夜は大怪我しない様にゆっくりお休みになってくださいね。」
「それでは、失礼致します。」
「あっ、おい!ほ、報酬って結局は俺をからかう為の嘘だったのかよ!?」
ガッツリ心に受けたダメージに耐えながら部屋を出て行こうとする2人の後を追いかけてそう言うと、廊下に出たお姫様がため息交じりに振り返ってきた。
「報酬をあげようとおもってたのは本当よ。ただ気が変わっちゃったから、その事についてはアンタを見送る明日の朝に話してあげる。それじゃあね。」
ひらひらと手を振って俺の前から去って行ったお姫様と丁寧にお辞儀をしてその後を追って行ったセバスさんを呆然と見送った俺は、不安と期待を7:3ぐらいに感じながら今日を終えるのだった…………
こちらの事情で大変申し訳ないのですが、奉仕義務の期間が5日程延長される事になりました。
それで非常に心苦しいのですが、もうしばらくの間だけ家事の方をよろしくお願い致します。
九条透より】
……ってな感じの手紙を送ってから数日後、俺は荷造りをしながら窓の外に浮かぶ月をぼんやりと眺めてため息を零していた。
「やっぱりあいつ等からの返事は帰って来なかったか……」
あーあーやっぱ怒ってんだろうけどさぁ、思ってたより大怪我だったらしくて完治を目指すなら時間が必要ですってお医者さんに言われたんだからしょうがなくね?
まぁ安静にしてたのは屋敷に帰って来た日とその翌日だけで、その次の日からは普通に奉仕業務をこなしてたんだけどな……働いてないと無駄に暇だったからさ。
「うーん……それにしてもマホ達にどうやって言い訳をしたものか……深夜に城内を探検してたら階段から足を踏み外したんだよ!……いや、流石にこれはマヌケ過ぎるだろ……それにどうして深夜にそんな事をしてたのか聞かれる事になるだろうし……あーマジでどうやって説明すればいいだ!?」
立ち上がって思いっきり背伸びをしながらそんな事を大声でぼやいていると、扉の鍵がガチャッと開かれて誰かが部屋に入って来た!……いや、誰が入って来たのかは大体予想出来てるから別に驚く事でも無いんだけどさ。
「ちょっとアンタ、荷造りは順調に進んでるの?」
「まぁな……ってかそうじゃなくて、せめてノックをしてから俺が出迎えるまで少し待ってくれよ。いきなり入って来られるとドキッとして心臓に悪いんだから。」
「ほっほっほ、それは申し訳ございませんでした。」
……本当に申し訳ないと思ってんのかしら?なんて気持ちでセバスさんをジトッとした目で見ていると、その隣に立ってたお姫様が我が物顔でソファーに座り込んだ。
「ふんっ。私がアンタの怪我の事とか色々誤魔化しながらお父様に説明したおかげでまだこの部屋を使う事が出来てるんだから、ぶつぶつと文句を言わずに感謝の言葉でも伝えて来なさいよ。」
「いや、そもそも俺が大怪我をしたのはお前が身勝手な理由であの屋敷に行ったからなんですけど……あ、すみません!部屋を使わせてくれてありがとうございます!」
「分かれば良いのよ。」
な、なんて横暴なお姫様なんだ!?ちょっとでも反抗的な態度を見せようものなら床に黄金色の魔方陣を出現させやがって!斬られるはずは無いと思うが、怖いものは怖いんだよ!ちきしょう!!俺も欲しいな伝説級の武器がさぁ!!
「はぁ……って言うかこんな時間にわざわざ何し来たんだ?まさかまたどっかに行くからついて来いって話じゃないだろうな。」
「まぁ、それも考えてはいたんだけどね。今日は別の用事で来たのよ。」
「か、考えてはいたのかよ……」
あれだけ危険な目に遭ったってのに懲りないお姫様だなぁ……そう思って顔が若干引きつっていると、セバスさんが微笑みながら静かにソファーの横にやってきた。
「九条殿、私が今朝したお話を覚えておいででしょうか。」
「え、確か……明日は早朝から国王陛下達に予定が入ってるから、最後の挨拶をする事が出来ないとかって話でしたよね?」
「はい、その通りでございます。ですので、こちらを国王陛下よりお預かりして参りました。」
セバスさんはそう言って上着のポケットに手を入れて王家の模様が描かれた小さな白い封筒を取り出すと、俺に歩み寄って来てそれを手渡してきた。
「あの、これは……」
「そちらの封筒には報酬の小切手が入っております。どうぞご確認を。」
「あっ、なるほど……」
えっと1日奉仕して1万5千Gで………あ、延長された分はタダ働きって事だから実質…………幾らだ?まぁ、ざっと数えて10万ちょっとって所かな?
計算するのが面倒になった俺は報酬額を確認する為に封筒の中から綺麗な小切手を取り出して額を確認してみた。
「えー…いち、じゅう、ひゃく、せん………ん?あれおかしいな……いち、じゅう、ひゃく、せん、ま……いやいやちょっと待てって、落ち着いてぇ……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん………あのセバスさん、ちょっと良いですか?」
「おや、どうかなさいましたか?もしや小切手に不備がございましたか?」
「いやそういう訳じゃないんですけど………これ、金額が間違ってますよね?」
「いえいえ、国王陛下はその額で間違いないとおっしゃっておりましたよ。」
「へっ、い、いやいや……だ、だってこれ……報酬額がご、50万Gって、なってますけど!?!」
「はい、その額で間違いございませんよ。」
「そ、そんなはずありませんって!奉仕義務の期間で考えるとこの額は絶対に多すぎだと思うんですよ!だって延長されたって部分はタダ働きになってるんですから!」
「はい。ですから基本的な報酬額は、10万と5千Gになります。」
「で、ですよね?!じゃあ、どうしてそれが50万Gに!?」
「……あぁ、やっぱりお父様にはバレてたのね。」
「えぇ、そう言う事でございます。」
「な、何が?!」
困惑しながら2人を交互に見ていると、何かを察したらしいお姫様がやれやれと肩をすくめて小首を傾げながら俺の方を見た。
「どうやらアンタが怪我をした原因、お父様達にはバレていたみたいよ。」
「け、怪我をした原因って………まさか、幽霊屋敷の事か?!」
「そうよ。まぁアンタが大怪我をしたその翌日に行方不明だった人達が発見されたんだから、それで色々と察したんじゃない?」
「で、でも、ちゃんと誤魔化したって……」
「えぇ、ちゃんと誤魔化したわよ。夢の中だと思って城内を徘徊してたら階段の途中で足を踏み外して、それが実は現実だったって。」
「なっ!?そんな無茶苦茶な事を言ったのか?!」
「これで上手く誤魔化せると思ったんだけど、どうやら失敗したみたいね。」
「そ、そりゃそうだろよ………」
お姫様のあまりに突拍子もない誤魔化しを聞いてガックシと肩を落としていた俺は、手にしていた小切手を改めて見つめてみた。
「んー……本当にこんなに貰って良いんですか?」
「勿論でございます。国王陛下もその額でとおっしゃっておりましたから。もしその額で足りないとお感じならば、改めて言って頂ければとも……」
「い、いやいや!そんな訳にはいきませんよ!」
「それでしたら、是非ともその小切手をお受け取り下さい。」
「わ、分かりました……」
ぶっちゃけ最後に止めを刺したのってそこにふんぞり返ってるお姫様なんだが……何も言ってこないみたいだし、ありがたく受け取っておくかねぇ。
ふぅっと息を吐きながら俺がズボンのポケットに封筒に入れた小切手を仕舞うと、お姫様がスッと立ち上がってこっちに向かって歩いて来た……って、そんな至近距離に来なくても良いだろうが!?可愛いすぎて心臓に悪いんだよ!!
「実はその小切手とは別に、私からアンタに報酬をあげようと思ってるの。」
「ほ、報酬?な、なんだよそれ?」
「それはね………」
「そ、それは………?」
お姫様に潤んだ瞳でジッと見つめられた俺は、激しく動く鼓動の音がバレやしないかと固唾を飲んで言葉の続きを待った!だ、だってこの展開の続きは……いや待て!相手はお姫様でしかも未成年だぞ!?で、でもこれは……まさか!?
「……はっ、変な期待をしてんじゃないわよこのバカ。」
「………へっ?」
一瞬にして呆れた表情に変わって離れてセバスさんと玄関の方に歩いて行くお姫様を見て、俺は思わず素っ頓狂な声を上げて呆然としていた………
「セバス・チャンが見てる前でそんな事をする訳が無いでしょうが。そんなんだからいい歳して彼女の1人も出来た事が無いのよ。」
「ぐはっ!!」
「ふっ、それではお休みなさい九条さん。今夜は大怪我しない様にゆっくりお休みになってくださいね。」
「それでは、失礼致します。」
「あっ、おい!ほ、報酬って結局は俺をからかう為の嘘だったのかよ!?」
ガッツリ心に受けたダメージに耐えながら部屋を出て行こうとする2人の後を追いかけてそう言うと、廊下に出たお姫様がため息交じりに振り返ってきた。
「報酬をあげようとおもってたのは本当よ。ただ気が変わっちゃったから、その事についてはアンタを見送る明日の朝に話してあげる。それじゃあね。」
ひらひらと手を振って俺の前から去って行ったお姫様と丁寧にお辞儀をしてその後を追って行ったセバスさんを呆然と見送った俺は、不安と期待を7:3ぐらいに感じながら今日を終えるのだった…………
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