話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第176話

「はぁ……はぁ……な、なんとか逃げ切れたみたいだな……」

「えぇ、そのついでに目的の階まで上がって来れたみたいよ。」

膝に手をつきながら必死に息を整えてる俺の隣に平然と立ってたお姫様は、後ろの階段をチラッと見た後に窓から差し込む紅い光に照らされた一本道の長い廊下の先にある大きな扉を見つめていた。

「た、確かにそうみたいだな……この階は、これまで通ってきた他の階とは明らかに構造が違うからな……っと!」

腕にグッと力を込めて背筋を伸ばした俺は人差し指を口に突っ込んでいつもの様に魔法の水を飲むと、ふぅっと一息ついてブレードを握り直して扉をジッと見つめた。

「多分、あの扉の奥にオレットさんが居るはずだ。」

「そうだと良いんだけどね。もしあの部屋に居なかったら、下の階に降りて徹底的に探し回るからね。」

「……出来ればそれは避けたい所だな……人形メチャクチャ怖いし……」

「まったく、いい歳したおっさんが情けない事を言ってるんじゃないわよ。」

「いや、それはそうなんだが………って、だから先に行くなよ!」

心に若干の傷を負いながらも早足で扉の方に向かったお姫様の後を追っていると、窓から差し込んでた月明りが雲に遮られて廊下が薄暗くなってしまった……その展開に少しだけ嫌な予感を感じつつ、俺達は無事に扉の前に辿り着く事が出来た。

「さてと、それじゃあ扉を開けなさい。」

「えっ、なんで俺が?!」

「アンタはまだ私に仕えてる立場なんだから当然でしょ。ほら、早くしなさい。」

「わ、分かったよ……はぁ……」

こういう時に仕えてる側の人間って弱いよなぁ……ってな事を思いながら扉の前に立った俺は恐る恐る取っ手を握りしめると、開いた扉の隙間から何も覗いてこない様に祈りながら不気味な音を鳴らす扉をゆっくりと開いて部屋の中を覗き込んだ………

「………うーん、薄暗くてよく見えないな。」

「それじゃあとっとと入りなさいよね!」

「ちょ、背中を押すなって!!うわっ!」

背中を押されてバランスを崩しそうになりながら部屋の中に足を踏み入れた瞬間、雲に隠れていた満月が出てきて部屋の奥にあるバカでかい窓の外から部屋全体を紅い光で照らし始めて………

「……な、何なんだこの部屋は?」

月明かりが差し込む窓の近くにはサイズ感がおかしい巨大な木製の椅子が置かれていて、その周囲には大量の人形が床の上に乱雑に横たわっていた………その光景から目を反らして左右の壁の方に目を向けると天井まで続く高い棚があり、そこにも乱雑に置かれた人形が大量に置かれていた。

そして他にも焼け焦げた家具が幾つも床に存在していて……ここで何があったのか嫌でも想像出来る様な部屋になっていた。

「……多分だけど、ここは娘さんの為の人形が置かれていた部屋だと思うわ。」

「だとしたら……随分とまぁ大量に集めたもんだな……」

「えぇ、ざっと数えて数百体はあるでしょうね。」

……ビックリするぐらい肝の据わったお姫様と一緒に不気味な人形達を眺めていたその時、巨大なショーケースの様な物が左右の棚と棚の間に幾つか並んでる事に気が付いた。

お姫様もそれに気付いたらしく、俺達は無言で顔を見合わせるとそのショーケースに静かに近寄って行き中をそっと覗き込んでみた……するとそこには、等身大サイズの人形が吊るされて………って、ちょっと待てこれ人形じゃねぇぞ?!

「オ、オレット先輩!?どうしてこんな所に?!」

「わ、分からないが他のショーケースの中も見てみろ!恐らくだけど、ここに入ってるのも人形じゃなくて人だぞ!?」

慌てて他のショーケースの中を確認してみると、そこにはオレットさんと同じ様に吊るされる人が入れられていた!いや、マジでどうなってんだよこの部屋は?!

「お、おいこの人達って屋敷に入って消えた人達じゃないのか?!」

「多分そうだと思うけど、まずはオレット先輩から助け出すわ!アンタは後ろの方に下がっていなさい!」

「わ、分かった!」

鬼気迫る表情でそう指示された俺が後ろに数歩下がった直後、お姫様は持っていたエクスカリバーを左手に持ち替えて右側の空中に魔方陣を出現させた!そしてその中に右腕を突っ込むと肘の所まで石をまとわせて拳を作りショーケースを殴ろうとした!
……その次の瞬間、お姫様が何かに弾かれる様にしてこっちに吹き飛んできた?!

「くっ!」

「うわっと!」

突然襲い掛かって来た衝撃に耐えつつお姫様の肩を抱き止めて体勢を崩さない様に踏ん張っていると、そのまま部屋の中央付近までやって来てしまっていた。

「お、おい、大丈夫か?」

「えぇ、なんとかね……」

戸惑いの表情を浮かべながらそう告げたお姫様は、俺から離れてエクスカリバーを持ち替えるとショーケースを睨みつけていた。

「まったく何なのよあれ!殴ろうとしたら思いっきり邪魔されたんだけど!!」

「そ、それを言われても困るんだが………って、なんだ!?」

理不尽に怒鳴ってきたお姫様にどう返事をするのが正解なのか悩んでいると、部屋の中にあった人形が一斉にガタガタと揺れ始めた?!おいちょっと待てよ!これってかなりマズイ状況なんじゃないのか?!ってかメチャクチャ怖いんですけど!!

「……ダメだよお姉ちゃん、私のお人形を勝手に持っていこうとしたら。」

「誰っ?!」

お姫様が突如として聞こえてきた少女の声に怒鳴りながら返事をした瞬間、さっきまで何も座っていなかった巨大な椅子に何かがぼんやりと姿を現し始めた!!?!

「ちょ、ちょちょ!な、なんだよアレ?!」

「うっさい!狼狽えてないで武器を構えなさい!」

目の前で起きてる現象とお姫様どっちにビビるべきなのか困惑しながらブレードを構え直した俺は、次第に姿を現していく何かを警戒しながら見つめていた……そして人形の揺れが収まったと同時に俺達の前に現れたのは、焼け焦げた真っ白なドレスを身にまとった怖すぎるぐらいに綺麗で大きな人形だった。

「……アンタ、何者?」

「ふふっ、私が説明しなくても分かってるんじゃないの?お姉ちゃん。」

「そ、それじゃあやっぱり……お前はこの屋敷で死んだ……」

「そう、数百年前に人々に焼き殺された可哀そうな少女。」

ゾクッとする様な明るい声でそう答えた人形に嫌悪感を露わにしながら睨みつけたお姫様は、エクスカリバーの剣先をビシッと向けた。

「ふんっ、人の事を人形に変えようと外道な事をしてた奴が可哀そうな少女だなんて笑わせるんじゃないわよ。」

「ふふっ、外道だなんて酷いなお姉ちゃん。私はただ、お友達を沢山増やしたかっただけなんだよ?」

「だったら遺産でも何でも使って人形を集めれば良かったでしょ。どうして人を人形に変えるなんて発想が生まれるのよ。」

「それはねぇ、生きてるお人形が欲しかったからだよ!」

「………何ですって?」

「だから生きてるお人形が欲しかったの!お父様がくれたお人形はどれも可愛かったけれど、私が話しかけても返事をしてくれなかったの。それじゃあつまらないから私は生きてるお人形を作る事にしたんだ!どうかな?凄いと思わない?」

ギシギシと音を鳴らしながら首を左右に振って楽しそうに話す人形を目の当たりにしながら、俺は冷や汗を流して周囲の警戒をしつつお姫様に目を向けた……うわぁ、どうやら理解し合えないと悟ったみたいだな……まぁ、俺も同じ気持ちだけどさ。

「……凄いと思わないしそんな事はどうでも良いから、今すぐここに居る人達を解放しなさい。もし断ったりしたら……」

「断ったりしたら?」

「……アンタを跡形も無く消し飛ばすわ。」

「……へぇ、それは怖いなぁ。」

エクスカリバーが放つ光とお姫様の気迫に脅しではない事を感じたのか、人形から楽しそうだった雰囲気が消え去り部屋の中が異様な空気に包まれ始めた………

「それで解放するの?消えるの?さっさと選びなさいよ。」

「うーんそうだなぁ………あっ、良い事を思いついちゃった!」

「……良い事?」

「うん!あのね、私のお友達を返すのも消えるのも嫌だから……」

言葉を途切れさせた人形が何十本も指のある両手をバッと俺達の方に向けた瞬間、乱雑に置かれていた全ての人形が浮かび上がった?!

「お姉ちゃんを新しいお友達として迎え入れてあげるね!」

人形の口が開きカタカタと動き笑う様な動作をして指が不気味に動き出した直後、浮いていた人形が真正面から次々と俺達に向かって襲い掛かってきやがった!?

「どうせそんな事だろうと思ってたわよっ!」

お姫様が淡く輝くエクスカリバーを素早く振り下ろすと、斬撃が光となって人形達を巻き込みながら椅子に座っているデカい人形に向かって飛んで行き物凄い衝撃音を響かせてながら直撃した!…………はずだったんだが。

「なっ?!」

「ふふっ、残念だったねお姉ちゃん。あの程度の攻撃じゃ私を傷つける事は出来ないって分かってくれたかな?」

明るい声でそう告げた少女の人形の周囲には、斬撃を防ぐ壁となった人形の残骸が幾つも転がっていた。それを見たお姫様は悔しそうに舌打ちをして少女の人形を睨みつけると、もう一度エクスカリバーを光らせ始めた。

「……なるほどね、だったら直接叩き斬って真っ二つにしてやるわよ。」

「そんな事がお姉ちゃんに出来るのかな?」

「舐めんなっ!」

「あっ、1人で突っ走るなってうおっ!?」

身を低くして勝手に駆け出したお姫様を引き留めようとした瞬間、宙に浮かんでた人形達が手に持った凶器を突き刺そうとして俺に向かって一直線に飛んで来た?!

「私とお姉ちゃんの遊びを邪魔しないでよおじさん!」

少女の叫び声が部屋に響く中で人形の攻撃を躱しながら突っ走って行ったお姫様に目を向けてみると、あっちはあっちで戦闘を繰り広げていた!って、あのデカい人形動けるのかよ?!

「チッ!ちょこまかと動くんじゃないわよ!このっ!」

「ふふふっ!ほらほらこっちだよお姉ちゃん!そんなんじゃ私を消せないよ!!」

無邪気な声で挑発する少女に乗せられ攻撃が荒くなり始めたお姫様を見て嫌な予感がした俺は、人形をぶっ壊しながらお姫様に叫ぶ様に声をかけた!

「おい少しは冷静になれ!攻撃が大振りになってきてるぞ!」

「うっさい!雑魚相手に手こずってるアンタが偉そうに指図すんじゃないわよ!」

「いやだから!あぁもう鬱陶しいんだよ!!」

「ふふふっ!あはははっ!仲間割れだなんてみっともないなぁお姉ちゃんは!」

「黙りなさい!アイツは仲間でも何でもないわよ!!」

「そうなの?じゃあ…………あのおじさんは壊しちゃっても良いよネ?」

「はっ、何を言って?!」

少女とお姫様のやり取りが聞こえてきた直後、背後から風を切る様な音が一瞬だけ聞こえてきて突然右のわき腹に鋭い痛みが走った?!

「ぐっ?!」

痛む所を咄嗟に触ってみるとぬるっとした感触が手の平に伝わってきて、鉄の臭いが周囲に漂い始めた……!って、やっぱりそういう事かよ畜生が!!

「あはははっ!ねぇ痛い?痛い?でもしょうがないよね!おじさんは壊して良いってお姉ちゃんが言ったんだから!」

「か、勝手な事を言ってんじゃないわよっ!ハァ!」

「ま、待て!大した怪我じゃないから落ち着け!ぐっ!」

焦った様子のお姫様の攻撃が更に荒くなっていった事に危機感を感じた俺は、出血してるが浅い傷だという事を伝えようとしたのだが襲い掛かってきた人形達に邪魔をされてしまった!ってか、マジで嫌な予感がデカくなって来たんだが!?

「ねぇねぇ、お姉ちゃんのせいでおじさんが怪我しちゃったね!」

「うっさい!私のせいじゃなくてアンタのせいじゃない!」

「違うよーお姉ちゃんが仲間じゃないって言ったからだよー!」

「黙れ!黙れ黙れ!アンタがいけないのよ!アンタが!」

「ふふっ、それじゃあ………」

お姫様が大きく振り上げたエクスカリバーを少女の人形に叩き込もうとした瞬間、
何故かオレットさんがお姫様と人形の間に姿を現した?!

「この子がここに捕らわれる事になったのも、私のせい?」

「それ、は、きゃああああああああああ!!!」

「ミア!!」

少女の言葉に動揺してお姫様が動きを止めてしまった直後、人形の左手から無数の糸の様な物が出てきてお姫様を絡み取り始めた!!ヤバいと直感的に感じ取った俺は急いで駆け寄ろうとしたのだが、人形達が行く手を遮って来た!!

「人形の分際で邪魔すんじゃねぇよ!!」

床に出現させた幾つもの魔方陣の中から槍を射出して邪魔する人形達をぶっ壊していった俺は、痛みを堪えながらブレードを握りしめお姫様を助け出す為に魔法の風をまとうと少女の人形目掛けて一直線に走り出した!

「ダ……メ………避けて!!」

悲痛な叫び声をあげているお姫様が淡く光るエクスカリバーを振り上げている事に気が付いた次の瞬間、そこから放たれた斬撃が俺に向かって襲い掛かって来た!?

「ぐっ、がはっ!!」

反射的に横に転がる様にして斬撃自体は躱すことが出来たが、その衝撃を防ぐ事は出来ず俺は焼け焦げた家具を巻き込みながら壁に叩きつけられて全身に物凄い衝撃と激しい痛みが走り視界が明滅して呼吸もまともに出来る状態じゃ無くなっていた!!

「……っ!………がっ!………はっ!」

「あははははっ!面白いねお姉ちゃん!おじさんがゴミ屑の様に飛んで行ったよ!」

「ふ、ざけん、じゃない、わよ!面白くも、なんとも、無いわよ!」

「もう、お姉ちゃんったら反抗的なんだから!そんな態度ばっかりとってると、折角おじさんを助けてあげようって思ってた気持ちもなくなっちゃうなー」

「な、なんです、って?」

「あれ、気になる?仲間じゃないって言ったのに気になるの?」

「うっ、さい!そん、なことより、どうしたら、アイツを、助けられるの!?」

「うーんとねーそれはねー……お姉ちゃんの体と心を私に頂戴。」

「こ、ころと、からだ?」

「そう!今の体も好きだったんだけど、ずっと使ってて飽きて来ちゃったから!
だからお姉ちゃんの体と心を私に頂戴!そうしたらおじさんは勿論、他の人達も解放してあげるよ!どうかな?結構いい条件だと思うんだけど?」

「ほ、本当に……それで、皆を、助けてくれるのね……」

「うん!約束してあげる!」

「……分かった、わ、アンタに、私を、あげるわよ。」

「本当に!?やったぁ!それじゃあえいっ!ほらっ、扉を開けてあげたからおじさんはもう帰っていいよ!あっ、だけど最後のお別れぐらいはちゃんとさせてあげるよ!ほら、お姉ちゃんも最後伝えたい事を言って良いよ!」

………少女の明るい声が部屋の中に響いた後、俺はボロボロになった体を起こして後ろの壁にもたれかかりながらお姫様と顔を合わせた。

「……これからアンタに最後の命令をするから心して聞いておきなさい。
まずセバス・チャンに事の顛末を伝えなさい。そうすれば何があってもアンタに迷惑が掛かる様な事にはならないと思うわ。それと解放された人達を無事に街まで送ってきなさい。それとオレット先輩にはあまり無茶な事をしないように伝えておいて……それとアンタは私の我儘に付き合わされただけなんだから、責任とかを感じるんじゃないわよ!…………それじゃあね、九条さん。」

……言いたい事だけ言って満足しやがって……でもそうだよな、俺はお姫様の我儘に巻き込まれただけだから見捨てて帰った所で文句を言われる筋合いは無いもんな。だって俺は散々やめろって言って来たんだ。自業自得ってやつだよ。国王陛下達には悪いけど、お姫様がああ言ってるんだからしょうがないよな……そこまで考えた所で俺の中で何かがプツンと切れた。

「あっ、おじさんはお姫様に何も言わずに帰っちゃうんだ!まぁ私はそれでも良いんだけどね!それじゃあねおじさん!私はお姉ちゃんと一緒にずぅっとこの屋敷で」

「……うっさいクソガキ。」

「……はっ?」

俺は激痛に耐えながら壁伝いに歩いて行き開いた扉の前に立つと、風を足にまとわせ扉を思いっきり蹴り飛ばした。

「えっ、な、何してんのよアンタ!折角コイツが見逃してくれるって!」

「お前も少し黙ってろこのバカ。」

「バッ?!」

「何を勝手に諦めてるのか知らないが、お前がするべき最後の命令はそれじゃないんだよ。」

反対側にあった扉もさっきと同じ様に蹴り飛ばして退路を完全に塞いだ俺は、グッとブレードを握りしめて呆れながらお姫様に目を向けた。

「お前が戻ってこない事が大陸中に知られれば、俺がお前を見捨てて逃げ出したって事もいずれバレるんだよ。そうなれば俺だけじゃなくて仲間達にも迷惑が掛かる事になるんだ。そんな事も分からないのか?」

「じゃ、じゃあどうするのよ!このままじゃアンタ本当に!」

「はぁ、だから言っただろ?最後の命令はそれじゃないって……つまり…」

ニヤッと笑ってブレードの剣先をお姫様の後ろで浮かんでいる人形に向けた俺は、ふぅっと息を吐いて覚悟を決めた。

「お前は俺に、私を必ず助け出せって命令しなきゃいけなかったんだよ。」

「っ!?」

「ほら、さっさと命令しろよ。そうすればいつも通りに従ってやるからさ。」

俺がそう告げるとお姫様は目を見開いてこっちをジッと見つめてきた、そしてその背後では少女の人形が口をカタカタと動かして笑う様な動作をしていた。

「あはははっ!ボロボロの癖に随分と格好つけるんだね!どうしてそんなに頑張れるのか不思議だよ!」

「ハッ、そんなの決まってるだろ。目の前で泣きそうな女の子を見捨てて逃げる様なおっさんにはなりたくないからだよ。」

「へぇ、そうなんだ!それでお姉ちゃんはどうするの?おじさんに命令するの?
私を助け出してって!」

「そ、れは……」

「まぁ私はどっちでも良いんだけど、もし命令しないって言うならもう一度だけ扉を開けておじさんが逃げれる様にしてあげるよ?でも、もし助け出してって命令するんだったら………今度こそ本当におじさんを壊すからネ。」

囁かれる様に告げられた言葉に戸惑うお姫様からの視線を逸らす事無く受け止めた俺は、黙って数秒見つめ合った後に腹をくくって静かに頷いた。

「………分かったわ、アンタにもう一度最後の命令をするわね。」

顔を伏せてもう一度という言葉が部屋の中に響いた直後、後ろの人形がカタカタと口を動かして笑う動作をした………だがそのすぐ後、お姫様はバッと顔を上げて俺の事を真剣な表情で見てきた!

「命令よ!私を今すぐに助け出しなさい!!」

「なんですって?!」

「おっしゃ!了解しました!!」

お姫様から直々に命令された俺はブレードを堅く握りしめて身を屈めると、全身に風をまとわせて人形を目指して一直線に走り出した!!だがそれを阻むかの様に人形達が次々と凶器を手に襲い掛かって来た!

「もういい!だったらどんな手を使ってでもあのおじさんを壊してやる!!」

「ぐっ、きゃあああああ!!!」

人形に操られたお姫様から叫び声が聞こえた次の瞬間、エクスカリバーから斬撃が放たれてこっちに向かって飛んで来た!俺は足にグッと力を込めて大きく横に飛んでかわすと壁際ギリギリの所で着地した!だがっ!

「ぐっ!」

動作が大きすぎたせいで隙が生まれ、人形が投げた凶器が太ももを切り裂いた!
あぁもう!さっき吹っ飛ばされたせいで全身血だらけで頭からも軽く出血してるってのにこれ以上傷を増やすんじゃねぇよ!マホに怒られるだろうが!!

「あっははは!ほらほらそんなんじゃお姉ちゃんを助け出す事なんて出来ないよ!」

チッ!いちいちムカつくなこのクソガキ!?って、そんな事に思考を使ってる場合じゃねぇ!何とかしてアイツを倒すかお姫様を救い出すかしないとマジで殺される!
って、この感覚懐かしいな!初めてのボス戦以来じゃね?!って、そうじゃなくて!

「さぁ、それじゃあどこまで耐えられるか見せてよおじさん!」

「チッ!っらぁ!」

上から襲ってきた数体の人形の攻撃をギリギリで避けて反撃して斬り壊した俺は、貯まってきた経験値のおかげで次第にかわす事よりも考える事に重点を置く事が出来る様になってきた。

……さてどうする?エクスカリバーの斬撃を避けられるのは状況から考えても残り2、3回って所だろう。それまでに何とかして打開策を見つけないとマジでヤバい!考えろ……考えるんだ!……どうすればこの状況を切り抜けられる!?

「ほらおじさん!いつまでも逃げてばっかりじゃお姉ちゃんを助けられないよ!
あれだけ大口を叩いたんだからがっかりさせないでよっ!早くしないとお姉ちゃんでまた攻撃しちゃうよ!あっはははは!」

「ぐっ、うっ……!」

いちいちうっせぇなこの野郎!……ってちょっと待てよ?どうしてアイツはお姫様を操って連続で斬撃を放ってこないんだ?それにさっきの人形の攻撃も……まさか!

「それじゃあそろそろ次の攻撃行くよ!」

「きゃああああああ!!!」

人形はもう一度お姫様を操りエクスカリバーを振り上げる動作をしていった!
あぁ畜生!一か八かだがこの考えに賭けてみるしかねぇ!頼むから成功してくれよ!

歯を食いしばって残ってる魔力を全て使い全身に風を纏わせた俺は斬撃が放たれた来た瞬間に足腰にグッと力を入れると、ブレードを盾にする様に両手で持ち一直線に突っ込んでいった!

「ぐっがあああああああああああ!!!」

バカみたいに重たい斬撃を正面から受け流して衝撃に抵抗しながらお姫様と少女の人形の前にやって来た俺は、最後の力を込めてブレードを振り下ろそうとした!だがその次の瞬間、小さなナイフを持った人形が俺の左下腹部に勢いよく直撃してきた!

「がはっ!!」

人形に吹き飛ばされて部屋の中央近くに背中から落下した俺は、痛みに悶える事も出来ないままの状態で少女の人形に見下ろされる形になってしまった………

「………ふふっ、ふふふっ、あははははっ!あれだけ格好つけた結果がその様じゃ、情けなさすぎるよおじさん!あははははっ!」

「は、ははは……確かにな………でもまぁ、これで俺の勝ちだ。」

「ははは………はぁ?何を寝ぼけた事を言ってるの?おじさんが勝つ可能性は完全に無くなったんだよ?」

口をカタカタ動かしてバカにした口調の人形に、俺は床倒れこんだまま震えている人差し指を突き刺してやった……

「こ、これ…一度でいいから、言ってみたかったんだよ………それは、どうかな?」

力の入らない声でそう呟いた瞬間、部屋の中に物凄い衝撃と眩いばかりの光が溢れ出して人形の断末魔が響き渡ってきた………そして霞む視界の先に、オレットさんを抱えたお姫様が降りてきた。

「……ちょっと待ってなさい、すぐにアイツを片付けて来るから。」

お姫様は落ち着いた声でそう言うとオレットさんを優しく床の上に寝かせ、何やら不思議な言葉を呟きながら黄金色の魔方陣を出現させてそこにエクスカリバーを突き刺した………

「キサマアアア!!ワタシニナニヲシタアアアアアア!!!」

両腕を斬り落とされたせいなのか少女の人形の顔が焼け始め、だんだんと醜い物に変わっていった…………へへっ……何をしたのか答えてやりたいのは山々なんだが、最早喋るだけの体力が残ってねぇっての………ってか、そんな事よりも気にする事があるんじゃないのか?

「うっさいのよバケモノ。これ以上に耳障りな声を上げないでくれるかしら。」

「ナンダトオオオオ!!!」

「だからうっさいのよ。いい加減に黙りなさい。」

「ワタシニサシズスルナアアア!!!モウイイ!!ゼンインコロシテヤル!!!」

「残念だけどそれは無理ね……だって………」

冷静にそう呟いたお姫様が魔方陣の中からエクスカリバーを引き抜いた瞬間、剣の部分に青く輝く模様が浮き出てきて………

「アンタはもう、消えるしかない運命なんだから。」

お姫様が眩いばかりに輝くエクスカリバーを人形目掛けて振り下ろすと、部屋の中は一瞬にして光に包まれて音が消えていった………そして数秒後、景色と音が戻ってきたと認識した時には全てが終わっていた。

「………ははっ、こりゃすげぇや………」

朦朧としながら目の当たりにした光景に、俺は思わず感嘆の声を漏らしていた……だってこれはもう、凄すぎるとしか言いようがないもんなぁ………

「ガ、ア、アアアアアアアアア」

肩から真っ二つに斬り裂かれて最後の断末魔を上げてながら消えてく少女の亡霊が宿った巨大な人形と、跡形も残さず吹き飛んだ窓ガラスとその向こうに見える空の上から俺達を照らす青白い満月か…………ははっ、ちょっと感動するわ。

………なんて思いを感じたのも一瞬で、人形の最後を見届けたお姫様が振り返ってこっちを見た瞬間に俺の意識は深い闇の中へと落ちていくのだった。

「おっさんの異世界生活は無理がある。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く