おっさんの異世界生活は無理がある。
第173話
空に浮かんでる青白く輝く巨大な満月をボーっと眺めながら西洋風の人形を抱えて座っている30歳のおっさんか…………ふふっ、傍から見たらかなりの惨状だなぁ。
「ミアお嬢様、九条殿、そろそろ例の森が見えてまいりますよ。」
「……はーい。」
「いよいよね……」
荷台から運転席の方に顔を出したお姫様は、真剣な表情を浮かべて暗く薄気味悪い森の方をジッと見つめていた。
……何を期待してるのか知らないが、屋敷の発生条件と思われる少女のすすり泣く様な声も聞こえてこないんだしさっさと帰った方が良いと思うだけどな……夜更かしは美容の大敵ってよく言うしな。
…サ……シ…
「………ん?」
「おや、どうかなさいましたか九条殿。」
「あぁいや………なぁ、今何か言ったか?」
「はぁ?別に何も言ってないけど。」
「そ、そうか………」
おかしいな……確かに人の声が聞こえた様な気がしたんだが……って、そんなはずないよな!だ、だってさ!だ、だって……そんな声が聞こえたら………それって……
……ビ……イ……
「うおっ?!!?」
「ちょっと、急に大きな声を出してどうしたのよ?」
「あ、その……な、何でもない……」
「何でもないって……アンタまさか…‥」
「そ、そんなはずないだろうが!バカな事を言うんじゃない!」
「いや、まだ何も言ってないんだけど。」
そうだ!そんなバカな事があるはずないだろうが!これは俺のちょっとした不安な気持ちが聞かせた幻聴に決まってる!はっはっは!まったくヘタレすぎるのも困ったものだ……な………って……
「………へっ?」
荷台の方に居るお姫様と話していると、膝の上に置いてあった人形の感覚が忽然と消えてしまった………その直後、お姫様が驚きに満ちた表情を浮かべていた訳で……
「サビシイ……カナシイ……」
………いやいや……そ、そんな事があるはずないって……そ、そうだよ……これはお姫様が俺を驚かせるために仕掛けた魔法か何かに決まってるって……よ、よーし!そうと決まったら振り返るぞぉ!3……2……1……そいやっ!
「……ワタシト……アソンデ……クレル?」
目の前で浮かび上がっている人形がそう語り掛けてきた瞬間、夜が遅いという事もあって突然な眠気に襲われ俺は深い眠りに誘われてしまった………
「……さっさと起きなさいこのバカ!」
「ぐはっ!?」
バチンッ!という音と頬に強烈な痛みと衝撃を受けて目を覚ますと、お姫様が俺の胸倉を掴みながら立っていた?!
「って、何すんだよ!メチャクチャ痛いじゃねぇか!」
「うっさい!アンタが気絶したのがいけないでしょうが!」
「は、はぁ?!気絶なんてする訳が無いだろうが!ちょっと眠たかったから目を閉じて仮眠してたってだけだから!」
「言い訳するんじゃない!って言うか、目を覚ましたんなら周囲をちゃんと見渡してみなさい!」
胸倉から手を離して運転席を降りて行ったお姫様は顎をクイっとやってそう促してきた……俺はジンジンと痛む頬を押さえながら周囲を…………
「って、なんじゃこりゃああああ?!?!!!」
な、何がどうなってるんだ?!どうして辺り一面が真っ赤に染まってるんだよ!?俺が眠ってる間に一体何が起きたって言うんだ?!ってここ森の目の前じゃねぇか!
それにその奥の方に見えてるアレってもしかして?!
「じょ、冗談だろ……?」
「……あれが冗談に見えるなら、病院に行って診てもらった方が良いわよ。」
お姫様がため息交じりに振り返った視線の先に広がる森の奥には……異様な存在感を放ちながらゆらゆら揺れている黒くて大きな屋敷が見えていた……あっ、また急に眠気が襲ってきた様な……
「気絶しそうになってるんじゃないわよこのバカ!シャキッとしなさい!」
「き、気絶なんてしそうになってないから!って、そんな事よりセバスさんは何処に行ったんだ?さっきから姿が見当たらないが。」
「あぁ、セバス・チャンなら屋敷を偵察してくるって森の中に入っていったわ。」
「は、はぁ?それって大丈夫なのか?下手したら帰って来れなくなったり……」
「ほっほっほ、ご心配には及びませんよ九条殿。」
「セバスさん!無事だったんですね!」
「えぇ、屋敷の外周を見て回ってきただけですから。」
「そうだったんですか………それで、何か分かりましたか?」
「残念ですが、詳しい事は何も。屋敷の窓から中を覗いて見ようと思ったのですが、不思議な事にそれは叶いませんでした。」
「それじゃあ屋敷の中の状況はよく分からないって事ね。」
「はい、その通りでございます。」
セバスさんの報告を聞いたお姫様は小さくため息を吐いて屋敷を見つめた後、急に振り返って俺の事を見てきた……ヤバい、この後の最悪な展開が読めるんですけど!
「アンタ、屋敷に向かうから急いで準備を」
「俺は行かないぞ!」
「……はぁ?」
「だから行かないって言ってんだよ!あんなヤバそうな屋敷に誰が行くってんだよ!って言うかセバスさんも止めるべきじゃないですか!?明らかに危険ですって!」
「ほっほっほ、私はミアお嬢様がやりたいという事を全力でお手伝いするだけでございますので。」
「ぐっ、セバスさんに期待した俺がバカでしたね!」
「おや、ご期待に沿えず申し訳ございません。」
いやこの状況で笑ってられるってマジでこの人おかしいぞ!?お姫様が大事だって言うなら城に連れ戻せよ!孫に甘いお爺さんだってこんな危険な事は認めないと思うんですがねぇ!?
「ほら、ごちゃごちゃ言ってないで早く準備をしなさい。アンタは明日の朝を迎えるまでは奉仕義務を課せられてるんだから。」
「そ、それはそうだが………!これは奉仕の範疇なのか?!」
「当たり前じゃない。」
「勿論でございます。」
「こ、声を揃えて言いやがってぇ……!あぁもう分かったよ!行けば良いんだろ!
だけど屋敷に入って危険だと判断したら無理やりにでも脱出するからな!」
「えぇ、それで良いわよ。」
うわぁ、絶対に脱出する気がねぇよこのお姫様……あーマジで行きたくねぇな!
ってかどうして奉仕義務の最終日にこんな事をしてるんだよ俺は!ちきしょう!
「それでは九条殿、こちらが装備品となりますのでしっかりと身につけて下さい。」
「……どうも。」
セバスさんから革製のベルトと警備兵が腰に差していたブレードを受け取った俺はそれらを装備すると、大きくため息を吐きながら入念にストレッチを始めた。
……こんな時にあいつ等が居てくれたらメチャクチャ心強いんだけど、現実はそう都合よくはいかないよな………よしっ!これでピンチの時に助けが来るフラグが成立したな!まぁこっち系のフラグが成就した所は見た事無いけどさ!
ちょっとした現実逃避をしながらストレッチを終えた俺は森の手前に居たお姫様の隣に立って目の前をジッと見つめた………うん、マジで怖すぎるんですけど!?
紅く輝く満月のせいで不気味さが10割増しな感じなんだが、本当に行かないとダメなんですかね!?
「さて、アンタの準備も終わったみたいだしそろそろ行くわよ。」
「了解……っておい、武器や防具はどうしたんだよ?」
「あぁ、それについては後で説明するから安心しなさい。それじゃあ行くわよ。」
「ちょ、危ないから先に行くなってか置いて行かないでくれ!」
「それではミアお嬢様、九条殿、お気を付けて行ってらっしゃいませ。」
……セバスさんに見送られて森の中に入っていった俺とお姫様は、魔法の光で周囲を照らしながら屋敷を目指して歩いて行くのだった。
「ミアお嬢様、九条殿、そろそろ例の森が見えてまいりますよ。」
「……はーい。」
「いよいよね……」
荷台から運転席の方に顔を出したお姫様は、真剣な表情を浮かべて暗く薄気味悪い森の方をジッと見つめていた。
……何を期待してるのか知らないが、屋敷の発生条件と思われる少女のすすり泣く様な声も聞こえてこないんだしさっさと帰った方が良いと思うだけどな……夜更かしは美容の大敵ってよく言うしな。
…サ……シ…
「………ん?」
「おや、どうかなさいましたか九条殿。」
「あぁいや………なぁ、今何か言ったか?」
「はぁ?別に何も言ってないけど。」
「そ、そうか………」
おかしいな……確かに人の声が聞こえた様な気がしたんだが……って、そんなはずないよな!だ、だってさ!だ、だって……そんな声が聞こえたら………それって……
……ビ……イ……
「うおっ?!!?」
「ちょっと、急に大きな声を出してどうしたのよ?」
「あ、その……な、何でもない……」
「何でもないって……アンタまさか…‥」
「そ、そんなはずないだろうが!バカな事を言うんじゃない!」
「いや、まだ何も言ってないんだけど。」
そうだ!そんなバカな事があるはずないだろうが!これは俺のちょっとした不安な気持ちが聞かせた幻聴に決まってる!はっはっは!まったくヘタレすぎるのも困ったものだ……な………って……
「………へっ?」
荷台の方に居るお姫様と話していると、膝の上に置いてあった人形の感覚が忽然と消えてしまった………その直後、お姫様が驚きに満ちた表情を浮かべていた訳で……
「サビシイ……カナシイ……」
………いやいや……そ、そんな事があるはずないって……そ、そうだよ……これはお姫様が俺を驚かせるために仕掛けた魔法か何かに決まってるって……よ、よーし!そうと決まったら振り返るぞぉ!3……2……1……そいやっ!
「……ワタシト……アソンデ……クレル?」
目の前で浮かび上がっている人形がそう語り掛けてきた瞬間、夜が遅いという事もあって突然な眠気に襲われ俺は深い眠りに誘われてしまった………
「……さっさと起きなさいこのバカ!」
「ぐはっ!?」
バチンッ!という音と頬に強烈な痛みと衝撃を受けて目を覚ますと、お姫様が俺の胸倉を掴みながら立っていた?!
「って、何すんだよ!メチャクチャ痛いじゃねぇか!」
「うっさい!アンタが気絶したのがいけないでしょうが!」
「は、はぁ?!気絶なんてする訳が無いだろうが!ちょっと眠たかったから目を閉じて仮眠してたってだけだから!」
「言い訳するんじゃない!って言うか、目を覚ましたんなら周囲をちゃんと見渡してみなさい!」
胸倉から手を離して運転席を降りて行ったお姫様は顎をクイっとやってそう促してきた……俺はジンジンと痛む頬を押さえながら周囲を…………
「って、なんじゃこりゃああああ?!?!!!」
な、何がどうなってるんだ?!どうして辺り一面が真っ赤に染まってるんだよ!?俺が眠ってる間に一体何が起きたって言うんだ?!ってここ森の目の前じゃねぇか!
それにその奥の方に見えてるアレってもしかして?!
「じょ、冗談だろ……?」
「……あれが冗談に見えるなら、病院に行って診てもらった方が良いわよ。」
お姫様がため息交じりに振り返った視線の先に広がる森の奥には……異様な存在感を放ちながらゆらゆら揺れている黒くて大きな屋敷が見えていた……あっ、また急に眠気が襲ってきた様な……
「気絶しそうになってるんじゃないわよこのバカ!シャキッとしなさい!」
「き、気絶なんてしそうになってないから!って、そんな事よりセバスさんは何処に行ったんだ?さっきから姿が見当たらないが。」
「あぁ、セバス・チャンなら屋敷を偵察してくるって森の中に入っていったわ。」
「は、はぁ?それって大丈夫なのか?下手したら帰って来れなくなったり……」
「ほっほっほ、ご心配には及びませんよ九条殿。」
「セバスさん!無事だったんですね!」
「えぇ、屋敷の外周を見て回ってきただけですから。」
「そうだったんですか………それで、何か分かりましたか?」
「残念ですが、詳しい事は何も。屋敷の窓から中を覗いて見ようと思ったのですが、不思議な事にそれは叶いませんでした。」
「それじゃあ屋敷の中の状況はよく分からないって事ね。」
「はい、その通りでございます。」
セバスさんの報告を聞いたお姫様は小さくため息を吐いて屋敷を見つめた後、急に振り返って俺の事を見てきた……ヤバい、この後の最悪な展開が読めるんですけど!
「アンタ、屋敷に向かうから急いで準備を」
「俺は行かないぞ!」
「……はぁ?」
「だから行かないって言ってんだよ!あんなヤバそうな屋敷に誰が行くってんだよ!って言うかセバスさんも止めるべきじゃないですか!?明らかに危険ですって!」
「ほっほっほ、私はミアお嬢様がやりたいという事を全力でお手伝いするだけでございますので。」
「ぐっ、セバスさんに期待した俺がバカでしたね!」
「おや、ご期待に沿えず申し訳ございません。」
いやこの状況で笑ってられるってマジでこの人おかしいぞ!?お姫様が大事だって言うなら城に連れ戻せよ!孫に甘いお爺さんだってこんな危険な事は認めないと思うんですがねぇ!?
「ほら、ごちゃごちゃ言ってないで早く準備をしなさい。アンタは明日の朝を迎えるまでは奉仕義務を課せられてるんだから。」
「そ、それはそうだが………!これは奉仕の範疇なのか?!」
「当たり前じゃない。」
「勿論でございます。」
「こ、声を揃えて言いやがってぇ……!あぁもう分かったよ!行けば良いんだろ!
だけど屋敷に入って危険だと判断したら無理やりにでも脱出するからな!」
「えぇ、それで良いわよ。」
うわぁ、絶対に脱出する気がねぇよこのお姫様……あーマジで行きたくねぇな!
ってかどうして奉仕義務の最終日にこんな事をしてるんだよ俺は!ちきしょう!
「それでは九条殿、こちらが装備品となりますのでしっかりと身につけて下さい。」
「……どうも。」
セバスさんから革製のベルトと警備兵が腰に差していたブレードを受け取った俺はそれらを装備すると、大きくため息を吐きながら入念にストレッチを始めた。
……こんな時にあいつ等が居てくれたらメチャクチャ心強いんだけど、現実はそう都合よくはいかないよな………よしっ!これでピンチの時に助けが来るフラグが成立したな!まぁこっち系のフラグが成就した所は見た事無いけどさ!
ちょっとした現実逃避をしながらストレッチを終えた俺は森の手前に居たお姫様の隣に立って目の前をジッと見つめた………うん、マジで怖すぎるんですけど!?
紅く輝く満月のせいで不気味さが10割増しな感じなんだが、本当に行かないとダメなんですかね!?
「さて、アンタの準備も終わったみたいだしそろそろ行くわよ。」
「了解……っておい、武器や防具はどうしたんだよ?」
「あぁ、それについては後で説明するから安心しなさい。それじゃあ行くわよ。」
「ちょ、危ないから先に行くなってか置いて行かないでくれ!」
「それではミアお嬢様、九条殿、お気を付けて行ってらっしゃいませ。」
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