おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第171話

執事服の内ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認しながら前を歩くお姫様の後をついて行ってた俺は、その途中でちょっとした質問をしてみた。

「……なぁ、こんな時間に危険を冒して何処に行こうっていうんだ?」

「あら、アンタの事だからそれぐらいの予想はついてるんじゃない?」

「まぁそりゃそうなんだが……ぶっちゃけ外れて欲しいから言いたくない。」

「それじゃあ到着するまでのお楽しみって事にして起きなさい。」

「……はい。」

願わくばこの予想が外れて欲しいと思いながらお姫様と薄ぼんやりと明るい廊下を早足で歩いていると、少し先の曲がり角の向こうから光と足音が近づいてきた!

「お、おいあれって!」

「静かに!こっちに来なさい!」

お姫様は人差し指を口元に当ててそう言った後、壁に沿って歩いて行き曲がり角の手前で立ち止まってしまった!………いや、それで隠れてるつもりなのか?!流石にそれは無理があるだろうが!!なんて思いながらお姫様と同様に壁に身を寄せた俺は近づいて来る光と足音を聞きながら心臓をバックンバックンさせていた!

そして曲がり角のすぐ向こう側で足音が止まった瞬間、俺は警備兵に見つかるのを覚悟して堅く目を閉じた…………のだが、何故だか足音が徐々に遠ざかって行った?不思議に思って目を開けると、足音と共に光も少しずつ離れていってしまった……

「な、なんで……」

「あっちの廊下とこっちの廊下は管轄している警備兵が別なの。だからこっちまでは来ないで引き返していったのよ。」

「そ、そうだったのか……いやでも、そうだとしてもこっちまで巡回してくる可能性はあったんじゃないのか?」

「それは無いわ。警備兵は常に規則正しく同じ巡回ルートを歩いているから、そこを外れて来る事なんて無いからね。」

「な、なるほど……ってか、随分とそう言う事に詳しいんだな。」

「まぁね。それよりも早く行くわよ。急がないとここを管轄している警備が来ちゃうから。」

「あぁ、分かった。」

こうして俺は妙に慣れた感じで警備兵の目をかいくぐるお姫様の後について行き、1階まで降りて来たのだが……何故か俺達は城門とは正反対の方向に向かっていた。

「なぁ、正門はこっちじゃなくてあっちなんだが……」

「そんなの知ってるわよ。」

「じゃあどうして、こっちに来たんだ?」

俺がそう尋ねると、お姫様はため息交じりに振り返って呆れた感じでこっちを見てきた………え、そんなにバカにされる様な質問をしたか?

「あのね、警備が一番厳重な正面から堂々と出て行けるわけないでしょ。それぐらい理解してなさいよねこのバカ。」

「バカって……それじゃあ何処に向かってるんだよ?」

「食糧庫にある勝手口よ。そこから裏庭を通って街に出て行くわ。」

「……でもさぁ、勝手口も裏庭も警備兵が巡回してるんじゃないのか?」

「当然してるけど安心しなさい。勝手口には特殊が鍵が掛かっているからずっと警備している訳じゃないし、裏庭も広いから警備が手薄になる所が必ずあるのよ。」

「そうなのか……って、警備情報に詳しすぎだし勝手口の鍵はどうすんだ?内側から開けられたとしても、外から掛けられないとバレた時に大事になるぞ。」

「ふんっ、警備情報なんてお姫様である私には簡単に手に入るに決まってるわよ。
それと勝手口の鍵に付いては安心しなさい、ほら。」

お姫様はスカートのポケットの中に手を入れると、幾つかの鍵が付いたキーリングを取り出して俺に見せてきた……って、もしかして!?

「おい、もしかしてそれ使って俺の部屋に入って来たのか?」

「えぇそうよ。ここにあるのは客室用のマスターキーと勝手口の鍵、それと裏庭から街に出る為の門を開く鍵が揃ってるわ。」

「い、いやいやそれってマズくないか?そんな重要そうな鍵を持ち出してるってバレたりしたら、それも大事になるぞ。」

「そんな事にはならないから大丈夫よ。これは複製した鍵だから、元となってる鍵はちゃんと城の中に残ってるわ。」

「複製ってマジかよ……そんなのどうやって用意したんだ?」

「それはまぁ……色々と手を回してね。」

うわぁ……物凄く悪い顔で微笑んでらっしゃるじゃないですか……ったく、どんな手を使ったのか知らないが絶対に俺には教えないで欲しいな!聞いちまったら確実に後悔する事になりそうだからな!……そう決意してからしばらくして、俺達は食糧庫の扉の前に辿り着いた。

「今の時刻は?」

「あっ、ちょっと待ってくれ………1時32分だ。」

「ふぅ、それなら問題無さそうね。中に入るわよ。」

「わ、分かった。」

キィという音を鳴らしながら扉を開けて食糧庫の中に入っていった俺達は、奥の方に見える勝手口に向かって行った。そして内側にある鍵を開けて裏庭に出て行くと、お姫様は例の鍵の束を取り出して勝手口の鍵を閉めた。

「さて、ここの警備はかなり厳重だから急いで裏庭を一気に駆け抜けて街に出る門がある所まで行くわよ。ついて来なさい。」

頷いて姿勢を低くした俺は、警備兵にバレない様に裏門を目指してお姫様と一緒に駆け出した!……何かステルスゲームを実際にしてるみたいで少しワクワク……ってバレたらガチで終わりなんだから心躍らせてる場合か俺は?!

バカな考えを振り払って何とか裏門まで辿り着いた俺達は鍵を使って街の裏路地に出ると、真っ暗な周囲を目を注意深く見渡した。

「……どうやら、誰にも見られず無事に城を抜け出せたみたいだな。」

「そうね。それじゃあ次は街の東門に向かうから……フッ!」

「……えっ?」

背後から聞こえてきたお姫様の声に何事かと振り返ってみると……えっ、お姫様がぶっ壊すとアイテムが出そうな木箱を足場にして屋根に向かって飛んで行ってる?!

「ちょっ、何してんだよ!?」

「うっさい!アンタも早くこっちに来なさい!あっちから警備兵が来てるから!」

焦った様子のお姫様が視線を向けた先の方から小さな明かりが近づいて来てる!?俺は急いで魔力を込めて木箱に向かって行くと、その勢いのまま屋根に飛び移った!

「うぉっとと!」

「危ない!」

屋根に着地した直後にバランスを崩しそうになっていると、お姫様がグッと俺の手を掴んでくれて何とか落下せずに済んだ!ま、マジで死ぬかと思った……!

「まったく、気をつけなさいよね。あのまま落ちてたら警備にバレてたじゃない!」

「す、すみません……って、俺よりそっちの心配ですか……」

「当たり前でしょうが。それより貸し1だからね。」

「ぐっ……分かりました……」

「なーんか不服そうだけど……まぁ良いわ、それよりも急いで東門に向かうわよ。
早くしないと合流時間に遅れちゃうから。」

「はい………ん?合流ですか?それってもしかして……」

「えぇ、アンタが察してる通りの人物と東門を超えた先で待ち合わせしてるわ。」

「マジですか……ったく、あの人は何を考えてるんだ?」

「それは本人の口から直接聞きなさい。それよりも行くわよ。」

「……あぁもう分かりましたよ!」

俺とお姫様は屋根の上を走って東門に向かって行き、警備兵にバレない様に王都を出て行った……それからしばらく街道を歩いていると、街道の路肩停まっている1台の馬車と老人の姿が目に入って来た……って、やっぱりあの人だったか。

「……セバスさん、こんな時間にこんな所で何をしているんですか。」

「ほっほっほ、それは勿論……ミアお嬢様と九条殿をお待ちしておりました。」

俺達の目の前で月明かりに照らされながら笑い声をあげるセバスさんを見て、俺はがっくりと肩を落とすしかなかった…………

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