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おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第168話

「それでは私は馬車を運転して参りますので、九条殿は正門の近くにてミアお嬢様のお帰りをお待ちして下さい。」

「はい、分かりました。」

17時50分頃、夕暮れに染まった校舎の外でセバスさんを見送った俺は指示通りに正門の方へ歩いて行くと、詰所に居る警備の人達や帰って行く数人の生徒を静かに眺めながら生徒会に向かったお姫様の帰りを待っていた。

「……それにしても、今日は本当に何にも無い1日だったなぁ。」

休憩時間の度にお姫様にこき使われたりはしたが、テロリストが学園を襲撃してきたり、変にプライドの高い執事といきなり戦う事になったり、超絶美少女と運命的な出会いをしたり……そんなイベントは一切起こらなかったなぁ。

別に面倒事に巻き込まれるのは好きじゃないが、異世界の学園に来たんだからそれっぽいイベントの1つや2つ発生してくれても良いだろうに………ってな事を考えていると、校舎の中からエルアとオレットさんが楽しそうに話しながら姿を現した。

「ふふっ、それでね……って、あっ!九条さんじゃないですか!おーい!」

会話中だったオレットさんは俺に気が付くと元気よく手を振ってくれて、その隣に居たエルアも控えめに手を振りながらこっちに向かって歩いて来た。

「九条さんこんにちは、ここで何をしてるんですか?」

「ん?生徒会に行ったミアお嬢様の帰りを待ってるんだよ。そっちは?」

「私達は部活動が終わったのでこれから帰る所です。」

「へぇ、部活動ねぇ……」

異世界の学園にも部活ってちゃんと存在してるのか……まぁ、帰宅部だった俺にはなんの思い入れも無いから別に懐かしくもなんとも無いんだけどさ……

「お、もしや私達がそれぞれどんな部活に入っているのか興味津々ですかぁ?」

「うおっ!?ちょ、近いんだが……!」

当時の記憶が少しだけ蘇ってきて軽くテンションが下がっていると、ニヤニヤしたオレットさんがいきなり急接近して来て下から顔を覗き込んで来た?!そんな突然の事に驚いていると、呆れた様子のエルアがオレットさんの肩に手を置いた。

「オレット、興奮すると人に接近するのは悪い癖だって言ってるだろ。」

「あっはは~ごめんごめん!」

軽い調子で謝りながら離れていったオレットさんは改めて俺に向き直ると、右手に持っていた鞄の中から布製で手のひらサイズの黒いバッグの様な物を取り出して目をキラキラさせながらこっちを見てきた。

「それでは九条さん!まずは私が入っている部活の話を聞きたいですか?聞きたいですよね!ねぇ!」

「わ、分かった!聞くから!だからにじり寄って来ないでくれ!」

「私が入ってる部活……それはなんとぉ!!」

オレットさんが勿体ぶった感じで叫んだ次の瞬間、カシャッという音が聞こえたと思ったら急に目の前が真っ白になった?!咄嗟に顔の前に手をやったのだが……その光は一瞬の内に消えてなくなってしまっていた?

「い、今のは一体……」

「ふっふっふーん!どうですか!これが私の部活動の正体です!」

「……突然の光で人の視界を遮る部活?」

「ちっがいますよ!まったくもう!ほら、これを見て下さい!」

ぷんぷん!ってな擬音が似合う様な怒り方をするオレットさんの声を聞きながら、手を顔の前からどかしてみると………彼女の手には見覚えのある物が存在していた。

「それは……もしかしてカメラか?」

「はい!ちょっと型は古いですが、正真正銘の魔道力カメラです!私はこのカメラを使う部活……報道部という所に所属しているのです!」

「報道部……それってどんな活動をする部活なんだ?」

「そうですねぇ……簡単に言えば、興味がある物を徹底的に追及する部活です!」

「な、なるほど……なんとも分かりやすい部活だな……」

自信満々にドヤ顔をしているオレットさんを見て苦笑いを浮かべながら、俺は彼女が手にしている物について聞いてみる事にした。

「所で話が変わるんだが、魔道力カメラって何なんだ?」

「えっ、もしかして九条さんは魔道力カメラを知らないんですか?」

「あぁ、まぁ……」

「いやぁそれは勿体ないですよ!こんなに素敵な物を知らないなんて、人生の9割を損していると言っても過言では無いですね!」

「そりゃまた随分と俺の人生は損してるんだな……」

「はい!そういう訳ですので、私が魔道力カメラについて簡単にご説明してさしあげましょう!」

「うおっと!」

得意げな顔で急接近してきたオレットさんにまたもや驚いていると、彼女はカメラを俺に見せながら早口で説明を始めた。

「この魔道力カメラはその場の風景を一瞬にして記録するというアイテムで、魔力を込めながらここにあるシャッターを押すと中にあるフィルムにその瞬間が記録されるという仕組みになっているんです!そして記録された瞬間は特別な手法を使って現像する事になるんですがこれがまたやってみると楽しいんですよ!誰でも簡単に出来るので九条さんも是非この機会に魔道力カメラを手にしてみま」

「はいはいそこまで。ほら、九条さんから離れる。」

「えぇ!まだまだ話したりないよエルアちゃーん!」

「その調子だとまた数十分ぐらい話し続けるだろ。そんな事をしてたらミア様が来た時に九条さんに迷惑がかかるじゃないか。」

「ぶぅ……それじゃあ後でエルアちゃんが私の話を聞いてくれる?」

「はいはい、聞いてあげるよ。」

「やった!それじゃあ九条さん、私の話はここまでって言う事で!」

「わ、分かった……」

部活動の話よりもカメラの話の方が長い様な気がしたけど……それは黙っとくか。
またさっきと同じ様に接近されたら、俺の心臓に悪影響だからな……それより、次はエルアの部活の事を聞いてみるとするか。

「それでエルア、お前はどんな部活動に入ってるんだ?」

「えっと…それは……」

「…それは?」

……あれ、なんでモジモジしながら静かになったんだ?もしかして聞いたらダメな感じの部活動……って、そんな部活が存在するのか?

「もう、何を恥ずかしがってるのエルアちゃん!」

「だ、だって……僕には似合わない部活だって九条さんに思われたら……」

「そんな事ないよ!あの部活はエルアちゃんにピッタリの部活だよ!九条さんもそう思いますよね!」

「……いや、聞いてもいないから何とも言えないんだが。」

「そこはそうだな!って返事をして下さい!はい、返事!」

「そ、そうだな。エルアにはどんな部活も似合ってると思うぞ。」

「ほら、九条さんもこう言ってるから教えてあげて!」

「……わ、分かったよ。」

えぇ、マジでどんな部活動に入ってるんだ?恥ずかしい部活……ダメだ、俺の頭の中には大人向けのイメージしか浮かんでこない!そんな事ある訳無いのに!で、でもそう考えてしまう!だっていい歳したおっさんだからね!

「僕が入ってる部活はですね……」

「……ぶ、部活は?」

「……………家庭部です。」

「……か、家庭……部?……ん?どんな部活だそれ?」

エルアに尋ねてみたが恥ずかしいのかまたもや口を閉ざしてしまった……すると隣に居たオレットさんが、やれやれといった感じで俺の方を見てきた。

「エルアちゃんが恥ずかしがっちゃったんで、私が代わりに説明しますね。
家庭部と言うのは、主に料理を作って食べてる感じの部活ですね。」

「……え、それじゃあ料理部なのでは?」

「まぁそうなんですが、部の創立者が花嫁修業になったら良いね!的な感じで家庭部って名付けたみたいですね。」

「花嫁修業って……学生の内からそこまで考えてたのか……」

「そうらしいですよ。だから料理部じゃなくて、家庭部って事らしいです。」

「……それは分かったが、どうしてエルアは恥ずかしがってるんだ?」

理由が分からず改めて聞いてみたんだが、エルアはもじもじしてうつ向いた状態でぶつぶつと何かを呟いていた……

「……だ、だって……僕が花嫁修業とか……そう思われたら……うぅ……」

「……悪いエルア、声が小さくてうまく聞き取れなかったんだが……」

「花嫁修業してるって思われるのが恥ずかしいらしいです!」

「ちょ、オレット?!」

「な、なるほど……」

……難聴系主人公の気持ちを一瞬味わえたが、オレットさんのおかげで何を呟いていたのかが分かってしまった……って、花嫁修業してるのが恥ずかしい?

「別に恥ずかしがる必要は無いだろ。エルアも女の子なんだから花嫁修業くらい…」

「ち、違います!僕が家庭部には入ったのは花嫁修業の為じゃなくて、料理の勉強がしたかったからです!九条さんに教わった事だからもっと上達したくって!」

「そ、そうだったのか……なら、最初からそう言えば良かったじゃないか。」

「それは…そうなんですけど……やっぱり恥ずかしくって……」

……花嫁修業をしてるって思われるのがどう恥ずかしいのか分からないが、エルアがそう思うんならしょうがないか。とりあえずこれ以上の追及は止めておこう。

「あら、皆さん楽しそうですね。」

エルアが落ち着きを取り戻すのを待っていると、笑みを浮かべたお姫様がいつの間にか俺達のすぐ近くにやって来ていた。

「あっ、お帰りなさいませミアお嬢様。もう生徒会のお仕事は終わったのですか?」

「はい、お待たせして申し訳ございませんでした。それで、皆さんは何のお話をしていらしたのですか?」

「別に大したことは話してないよ。私達が所属してる部活について、九条さんに説明してあげてただけだからさ!」

「あら、そうなのですか?確かオレット先輩は報道部に所属していましたよね。最近は何か気になる話題が見つかりましたか?」

「うーん、それがなかなか見つからないね!帰らずの屋敷について調べたいって顧問の先生に言ってみたんだけど、危険すぎるからダメって言われちゃったからね。」

「……帰らずの屋敷?それってもしかして……」

オレットさんの口から出て来た言葉に思わず聞き返すと、彼女は目をキランとさせながらこっちを見てニヤッとした。

「お、もしかして興味ある?実はねぇ……」

勿体ぶった感じでオレットさんが話を始めようとした直後、停車場の方から馬車を運転したセバスさんがやって来た。

「申し訳ございません。少々時間が掛かってしまいました。」

「いえ、私も今来た所なので大丈夫ですよ。それよりもオレット先輩、その件は危険なので絶対に調べない様に忠告したはずですが……まさか……」

お姫様の鋭い視線を受けたオレットさんは、両手を顔の前で勢いよく横に振りながらメチャクチャ慌てていた。

「いやいや冗談だって!忠告を無視したら他の部員に迷惑かけちゃうから、帰らずの屋敷については一切調べてません!誓います!」

「……まぁ、今はその言葉を信じてあげます。ただ、もしも勝手な事をすれば部活動は当面の間活動禁止にしますからね。分かりましたか。」

「もっちろん!……って、そろそろ私達も帰らないと陽が暮れちゃうね!」

「そうですね。もしよろしければ私達と一緒に帰りますか?」

「いや、大丈夫だよ!私の家の馬車もあそこで待ってるからさ!」

「そうでしたか。それでは、私達はここで失礼させて頂きますね。」

「うん!それじゃあねミアちゃん!それと九条さんにお爺さんも!」

「こ、こらオレット!すみません!それではまた!」

「はい、さようならです。オレット先輩、エルア先輩。」

「ほっほっほ、それではまたの機会に。」

「それじゃあ、またな。」

こうして正門の前で2人と別れた俺達は、セバスさんの運転する馬車に乗って城に帰って行くのだった。

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