おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第167話

セバスさんと一緒に校舎の中に入って来た俺は、広くて綺麗なロビーとかなり高い場所まで吹き抜けている天井を見上げながら思わず感嘆のため息を漏らしていた……

異世界の学園って事だからある程度は予想していたが、実際に目の当たりにするとやっぱ色々と凄いよな………まぁ、俺が通ってた所が凄いおんぼろの校舎だったってのがそう感じる原因の一端ではあると思うけどな……

「九条殿。もしよろしければ校舎内の事について簡単にご説明いたしますが、お聞きになりますか?」

「あっ、はい!是非お願いします。」

「かしこまりました。それでは他の生徒さんの通行の邪魔にならない様に、あちらの方に移動致しましょうか。」

「えぇ、分かりました」

人気のないロビーの壁際に移動してきた俺は、改めてセバスさんと向き合うと背筋を伸ばして説明を聞く姿勢になった。

「それではまずこの1階の説明から始めさせて頂きますね。この階には購買部や食堂といった施設から、授業で使用する為の教室が幾つかある階となっております。」

「へぇー……それじゃあ主に生徒さんが利用する為の階って事ですか。」

「その通りでございます。ただ購買部や食堂はミアお嬢様の指示で利用する事があるかもしれませんので、後でそちらにある案内板で確認をしておいて下さい。」

「……了解しました。」

かもって言うかほぼ確実に俺は使う事になりそうだから、1階にある施設や教室は念の為にすべて覚えておこう!後々になって後悔しない為にな!

「それでは次にここより上の階についてご説明致しますね。2階には1学年の教室が並んでいまして、階が上がるごとに2学年、3学年と変化してまいります。ですのでこの後、私達はミアお嬢様がいらっしゃる4階まで上がっていく事になりますね。」

「4階ですか……結構大変そうですね……」

「ほっほっほ、慣れてしまえば問題ありませんよ。」

「そうだと良いんですけど……」

俺は上を見上げて4階の位置を確認すると、心の中で思いっきりため息を吐いた…こういう時にエレベーターとかあれば楽なんだけどな……まぁ、無い物ねだりをした所で現実が変わる訳じゃねぇから諦めるしかねぇか。

「九条殿、4階に向かう際に1つ注意事項がございます。」

「…注意事項?」

「はい。4階に向かう必ず校舎に入って左側に見える階段をお使いください。」

「左側って……あぁ、すぐそこの階段ですか。でもどうしてですか?右側にも同じ様に階段がありますけど……」

「そうなのですが、これにはある理由があるのです。それを説明する為にも、あちらの生徒さんをご覧になってください。」

「は、はぁ……」

セバスさんが手を向けた先には1科の生徒と2科の生徒がそれぞれ楽しそうに喋りながら歩いていた……そして1科の生徒は左側の階段に、2科の生徒は右側の階段を上がっていった……ん?これってつまり……

「……1科と2科で使う階段が決まってるんですか?」

「はい、その通りでございます。校舎の左側には1科の生徒が、右側を2科の生徒が利用するという形になっております。」

「なるほど……そういった分け方をしてるんですか。」

「はい。ですので、間違えて右側の階段を利用しない様にお気を付けください。
右側の階段を使用しても1科の方には移動できませんので。」

「……分かりました。間違えない様に気をつけます。」

ったく、明らかに優秀な生徒とその他の生徒を分ける造りって感じでメチャクチャ嫌な感じがするな……まぁ、俺には関係ないから別に良いんだけどさ。

「それでは最後に6階より先の階の話なのですが、7階には教職員の居る部屋がありそれよりそれより上の階には理事長室があると言われております。」

「……言われております?なんだかあやふやな感じですね。」

何の気なしにそう言ってみると、さっきまで笑みを浮かべていたセバスさんが何故か神妙な顔になって俺の事を見てきて……うん、凄く嫌な予感がしてきたぞ?

「……実はですね、7階より上の階の事は非公開という事になっているのです。」

「ひ、非公開?え、でも7階より先って……」

俺は階層を順番に数えていき7階より上の階を確認しようとしたのだが……あれ、どう数えても7階までしかない?って事は……

「8階って……天井の上に?」

「えぇ、そうなのでございます……気になりますか?」

急に接近して来たセバスさんに驚きながら上体を後ろに反らした俺は、そのあまりの迫力に思わず頷いてしまっていた……するとセバスさんは周囲を気にする様に辺りをキョロキョロと見渡すと俺からそっと距離を離し……

「これは、私の古い友人の友人から聞いた話なのですが……」

「あっ、セバスさん!そろそろ待機場所に移動しませんか!ミアお嬢様がきっと俺達の事を待っているはずですから!」

俺はロビーに掛けられていた時計を指さしてセバスさんの言葉を遮る様にしてそう叫んだ!いやいや冗談じゃねぇよ!なんでここで怖い話を聞かなきゃならないんだ!ってちょっと待て!さっきまでの神妙な表情は何処へやったんだ!?

「おや、これはいけません。それでは九条殿、冗談もここまでにして4階へ向かうと参りましょうか。」

「じょ、冗談って……やっぱりからかってたんですか……」

「ほっほっほ、何の事やらさっぱりですな。それよりも急ぎますぞ九条殿。
ミアお嬢様が私達を必要としているかもしれませんからな。」

「ぐっ、分かりましたよ…!」

あぁもう!この後にはお姫様にこき使われる運命が待ってるって言うのに、こんな所で俺の精神をすり減らさないでくれよ!マジで冗談じゃねぇっての!

俺は階段に向かって歩く笑顔のセバスさんの後を歩きながら、恨みがましい視線を心の中で送り続けるのだった…!

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