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おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第161話

午後の予定に取り掛かる為に訓練所に移動してきた俺とセバスさんは、ドレスから着替える為に更衣室に向かったお姫様を待ちながら、綺麗に整列している警備兵達とその前で怖い表情をしている隊長さんの姿を眺めていた。

「……あの、セバスさん。本当に俺は訓練に参加しなくても良いんですよね?」

「はい。ミアお嬢様もそうおっしゃっていましたので、大丈夫ですよ。」

「そう、ですよね………」

確かにお姫様からは戦闘訓練には参加しなくて良いって言われたけどさ、午前中に起きた事を考えると何か裏があるじゃないかって考えちまうんだよなぁ……

「はぁ、不安だ……」

思わず心の声を漏らしながらしばらく待機していると、ドレスから動きやすそうな格好に着替えたお姫様がこっちに向かって歩いて来た……すると、その姿を見つけた
セバスさんが丁寧にお辞儀をしたので俺も同じ様に頭を下げるのだった。

「お待ちしておりました、ミアお嬢様。訓練の準備は終わりましたでしょうか?」

「はい、勿論です。」

お姫様は身に着けた胸当てを軽く叩きながらニッコリと微笑んで……何故だか俺に視線を向けてきた。その様子に嫌な予感を感じた俺だったが、それが何かを確かめる間もなくセバスさんがこっちを向いて来た。

「かしこまりました。それでは九条殿、ルーク殿に戦闘訓練を開始する準備が整った事を伝えて来てもらえますでしょうか。」

「わ、分かりました。」

俺は急いで隊長さんの元に駆け寄って行くと、セバスさんに言われた通りの言葉を伝えるのだった。そうすると隊長さんは小さく頷いて眼鏡をクイっと押し上げると、険しい表情で警備兵達を睨みつけて大きく息を吸い込んだ。

「これより、ミアお嬢様を交えた戦闘訓練を開始する!分かっていると思うが、細心の注意を払って訓練に臨むんだぞ!」

「「「「「ハッ!」」」」」

おぉ、凄い迫力だな……って、そんな事よりさっさと退散するとしますかね。ここに居たら強制的に訓練に参加させられそうな気がしてならないからな!折角お姫様が訓練には参加しなくて良いって言ってくれたんだ!それを無駄にしてたまるかよ!

そう考えて数歩後ろに下がった瞬間、突然お姫様が俺の隣を通り抜けて隊長さんの隣にやって来て警備兵達に向かって丁寧にお辞儀をしていた。

「皆さん、本日も短い時間ですが訓練のお付き合いをお願い致します。」

「「「「「ハッ!!」」」」」

……おいおい、返事のテンションが隊長さんと違いすぎじゃねぇか?どんだけ気合の入った返事をしてるんだよ。まぁ、俺には関係ないから別に良いんだけどさ。
それよりも早くセバスさんの所に……って、あれ?セバスさんは何処に行ったんだ?

「それではミアお嬢様、いつも通り型の練習から始めたいと思いますので…」

「あの、申し訳ないのですが私にもう少しだけ時間を頂けますか?」

「はぁ、構いませんが…」

「ふふっ、ありがとうございます。」

しょうがない、何か事情があって居なくなったのかもしれないし1人で元の場所に戻ってるとするか……訓練の邪魔になったらいけないからな。

「九条さん、ちょっとこの場で待っていてください。」

「……へ?」

お姫様達に背を向けて歩き出そうとした途端、急にそんな声が聞こえてきて思わずその場で足を止めてしまった。何事かと思ってもう振り返ってみると、お姫様は俺に背を向けて警備兵達の方を見ていた……あれ、何だか凄く嫌な予感がして来たぞ?

「皆さん、非常に申し訳ないのですが本日は訓練の予定を少々変更させて頂きたいと考えています。」

「内容を変更?すみませんが、私は聞いていたのですが……」

「申し訳ありません。先ほど決めた事でしたので、ルーク隊長さんにお伝えする暇がありませんでした。」

「な、なるほど……あぁいえ、責めている訳では無いのでお顔を上げて下さい。
それよりも、訓練の内容を変更したいとは一体どういう事なのですか?」

「はい。本来ならばこの後は型の練習や体力づくりをメインに行っていたのですが、本日はこちらに居る九条さんと一緒にある事をやりたいと考えているのです。」

「そ、そうなのですか?」

「い、いや、俺も初めて聞きました……ってかあの、俺は戦闘訓練に参加しなくても大丈夫って話だったんじゃ?」

「えぇ、戦闘訓練には参加しなくても大丈夫ですよ。」

「そ、それじゃあ………え?」

「九条さん、私の言葉をちゃんと聞いていますか?戦闘訓練には………って、何度も言ってるじゃないですか。」

楽しそうに満面の笑みを浮かべるお姫様を見た俺は、ずっと感じていたモヤモヤが消えていく様な感覚を感じていた……!ってか、マジで言ってるのかこのお姫様!?
そんな古典的な手をまた使ってくるなんて冗談だろ?!

「つまり戦闘訓練には参加しなくても良いですけど、それ以外の事に参加しなくても良いなんて私は言っていませんよ。」

「い、いやいや!ちょっと待ってください!でも今からやるのは戦闘訓練ですよね?だったら俺はやっぱり参加しなくても大丈夫って話になるんじゃないですか!?」

「ですから先ほども言いましたが、本日は予定を少々変更させて頂きます。」

お姫様がそう言って微笑んだ瞬間、急に背後から肩を優しく叩かれた?!
誰かと思って振り返ると、そこにはニッコリと笑っているセバスさんの姿が!

「セバスさん丁度良い所に!急にお姫様が戦闘訓練の予定を変更するって言い始め…て……」

「おや九条殿、私の手元をジッと見つめてどうかなさったのですか?」

「……あの、どうして訓練用とおぼしき武器を持ってらっしゃるのでしょうか?」

「ほっほっほ、それは勿論……」

ほがらかに笑い出したセバスさんは、警備兵達がさっきから手にしている訓練用の木製ブレードを無理やり俺の手に握らせてきやがった訳でして……

「これから九条殿に必要になる物だからでございます。」

「…………」

思わず絶句したまま片手に持たされたブレードを呆然と眺めていると、背後に居たお姫様の声が耳に届いてきた……

「それれは皆さん、これより私と九条さんの模擬戦闘を始めたいと思いますので準備の方をお願い致しますね。」

お姫様のその言葉が静かになった訓練所に響き渡った瞬間、俺と警備兵達は驚きの声を上げるのだった。

「ちょっと待ってください!それはあまりにも危険すぎます!」
「そうです!考え直してください!」
「もし模擬戦闘の相手が欲しいのならば私が!」
「いや、それなら私が!」
「うるさい!お前では実力不足だ!ここは私が!」
「いえ!私がお相手致します!」

「全員静かにしろ!ミアお嬢様がいらっしゃるのだぞ!」

…隊長さんの怒気を含んだ大声が聞こえた途端、さっきまで騒いでいた警備兵達は一瞬にして静かになってしまった。

「…ミアお嬢様、なぜ九条透と模擬戦闘する事になさったのですか?よろしければ、理由を聞かせて頂きたいのですが。」

「模擬戦闘をする理由ですか?そうですね……簡単に申し上げるならば、九条さんの実力を確かめたいと思ったからですね。」

「実力を?」

いや隊長さん、そんないぶかし気な目で見られても困りますよ!俺だって事情が呑み込めてないんですから!

「……それならば、私の部下が九条透の相手をして実力を確かめます。もし模擬戦闘でこの男がミアお嬢様に怪我を負わせる様な事があれば、その時はそれなりの対処をする必要性が出てきますから。」

「た、対処!?そ、それって一体なにをされるんですか?!」

「ふふっ、心配しすぎですよルーク隊長さん。それに訓練なのですから、危険は常に付きまとっている物じゃありませんか?」

「それは…そうですが……」

「あの?対処の内容を教えて貰いたいんですけど!無視しないで下さい!」

「それにもし模擬戦闘中に負傷したとしても、それは九条さんのせいではなく実力の足りない私のせいです。ですから九条さんが責任を負う必要はありません。」

「あれおかしいな、俺の声が聞こえてないのか?それともそんなに存在感が無いですかね?」

「…‥かしこまりました。ミアお嬢様がそうおっしゃるのであれば。」

「あっ、話し合いが終わったぽい……当事者の俺を抜きで……」

お姫様に対して礼をした隊長さんは、警備兵達に向き直ると眼鏡を押し上げてからビシッと背筋を伸ばした。

「全員よく聞け!これよりミアお嬢様と九条透の模擬戦闘を行う!分かったら急いで打ち込み用の人形を片付けろ!」

「「「「「ハ、ハッ!」」」」」

警備兵達は戸惑いながら返事をすると、訓練所内に設置されている訓練用の人形を次々と移動させ始めた………そして数分後、綺麗に片付いた訓練所の壁際に移動した警備兵達に見守られながら、俺はお姫様と中央部分で対峙する事になってしまった。

「それではこれより模擬戦闘の説明を行わせてもらう!
その一!戦闘の勝敗は相手に参ったと言わせるか、気絶させるかのどちらかだ!
ただし、私が試合続行が不可能と判断した場合はすぐに中断させてもらう!
その二!魔法の使用は禁止とさせてもらう!もし使用した場合、即刻敗北となるので気を付ける様に!
その三!戦闘時間は15分だ!それを過ぎると引き分けと判定させてもらう!
これで説明は以上だが、両名とも質問は無いだろうか?」

離れた場所から大声で説明をしてくれた隊長さんの方を向いた俺は、背中に嫌な汗が流れるのを感じながらゆっくりと手を挙げた。

「あ、えっと……ちょっと聞きたい事があるんですけど……」

「どうした、九条透。」

「あの……マジで戦うんですか?俺が?ミアお嬢様と?」

「そうだ。」

「そ、それってマズくないんですか?万が一、怪我とかさせたら俺の奉仕義務が延長するとかって事は……」

「ふふっ、大丈夫ですよ九条さん。例え私に大怪我を負わせたとしても、なんの責任も問いませんから安心して下さい。」

「いや、それを言われた所で全然安心できないんですけど………それに俺、自分よりはるかに年下のお姫様と戦う事すら嫌なんですけども……」

「あら、お優しいんですね。ですがその考え、改めて貰わないと危険ですよ?
だって私、一切の容赦なく九条さんを倒したいと思っていますから。」

「は、ははは……じょ、冗談ですよね?」

「さぁ、どうでしょうか。冗談かどうかは模擬戦闘を通して確かめてみて下さい。」

「はは、ははは………」

小首を傾げてニッコリと微笑むお姫様に背筋がゾクッとした俺は、無理やり笑顔を作りながら隊長さんを見てみたら……

「ミアお嬢様は私が直々に指導している優秀な生徒だ。手心を加えようなどと考えていると、お前が大怪我をする事になるぞ。」

「……マ、マジですか?」

「あぁ、この場で嘘を吐く必要は俺には無いからな。」

隊長さんの言葉を聞いた後に壁際の警備兵達をチラッと見てみたら………うわぁ、静かに頷いてる奴もいるし何かを諦める様に首を横に振ってる奴までいやがる!
それってつまり………マジでガチでヤバいって事じゃねぇか!?どうしよう、わざと魔法を使ってすぐに負けるって言う手もあるんだけど…‥

「九条さん、わざと負けたりしたらどうなるか……言わなくても分かりますよね?」

「は、はい!分かっています!」

「それならきちんと模擬戦闘をしてくださいね。」

「は、はい……それじゃあえっと、上着を預けてきても良いですかね?このままだとちょっと動きにくいんで……」

「分かった、早くする様に。」

「は、はい!」

これまでの自分の考えが物凄く甘い事に気が付いた俺は、上着を脱ぎながら急いでセバスさんに向かって駆け寄って行った!

「あ、あの!すみませんが上着をお願いします!懐中時計とか壊れたら困るので!」

「ほっほっほ、かしこまりました。それと九条殿、執事服には替えがございますのでそちらは気にせず頑張って来て下さい。」

……ぐっ、そんな事を気にする暇があるならこの模擬戦闘を止めてくれよ!
それともなにか?俺がお姫様に攻撃を当てられないとか考えてるのか?……‥それはそれで凄く腹が立つなぁ!?だったらいいさ!意地でも一太刀浴びせてやるからな!
……いや、流石にそれはダメだな、うん……寸止めして参ったって言わせてやる!

そんな決意を固めてセバスさんに上着を預けた俺は、訓練用のブレードを強く握るとお姫様の前に戻り大きく深呼吸をした。

「ふふっ、どうやら覚悟は決まった様ですね。」

「はい……どうなるかは分かりませんが、全力で戦わせて貰います。」

「そうして下さい。そうでなければ、予定を変更した意味がありませんから。」

「……あの、どうして俺と急に模擬戦闘をしたいと考えたんですか?何の目的が?」

「目的ですか?それはですね……今はお話し出来ません。」

「……へ?」

「この模擬戦闘で私が納得したら、教えて差し上げます。」

「な、納得……ですか?それってどういう……」

「それは模擬戦闘を頑張って頂ければ分かります。それではルーク隊長さん、準備が整いましたので戦闘開始の合図をお願い致します。」

「かしこまりました。」

「え、もうですか?!まだ心の準備が!」

「それではミアお嬢様と九条透の模擬戦闘……‥開始!!」

上げた手を勢いよく振り下ろした隊長さんの大声が訓練所に響いた瞬間、俺とお姫様の模擬戦闘が始まるのだった!!

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