おっさんの異世界生活は無理がある。
第136話
慌ただしくも楽しかった日々から時間は過ぎ、季節は春へと変わり始めていた。
俺達が挑んだダンジョンも雪解けと同時に無くなってしまい、木々には新緑が芽生えて気温も心地よく感じるほどになっていた。
それに気分を良くした俺以外の3人は、春物の服を買いに仲良く出かけていった。
春物の服に興味が無かった俺は皆を見送った後に掃除や洗濯を済ませると、楽に稼げるクエストが無いか探す為に斡旋所に向かった。
そこでクエストボードを見ながら何か良いクエストが無いか探していると、加工屋の店主と偶然にも遭遇した。
「お、九条さんじゃねぇか。」
「あ、どうも。珍しいですねここで会うなんて。」
「まぁそうだな。俺も滅多な事じゃここには足を運ばないからな。」
「ですよね、いままでお見掛けした事無いですし・・・えっと、じゃあどうして?」
「なに、ちょっとしたクエストの発注をしに来たのさ。」
「クエストの発注?なにか困り事でもあるんですか?」
「んー、困り事っちゃあ困り事なんだが・・・そうだ!九条さん、この後に用事とかあるか?」
「いえ特には。」
「なら丁度良い!悪いんだが、俺が出したクエストを受けちゃくれないか?」
「え、俺がですか?」
「あぁ、ここで会ったのも何かの縁だと思うしな。どうだ、やってくれないか?」
「まぁ・・・別に良いですけど、俺以外は誰も来ませんよ?春物の服を買いに行ったんで、夜まで帰って来ないと思いますから。」
「問題ないさ。そもそもこのクエストは1人居れば充分だからな!」
「そうなんですか?って事は、討伐クエストとか採集クエストって訳じゃないんですよね。」
「そうだ、俺が九条さんに頼むクエストは・・・・」
そう言って不敵な笑みを浮かべた親父さんにクエストの内容を聞いた俺が、加工屋でどんな事をしているのかと言うと・・・・
「げほっげほっ!・・・すごい埃が溜まってますね。」
飾られていた武器や防具を工房に運び終えた後、ほこりを吸わない様に布で口元を覆ってはたき片手に店内の掃除をしているのだった。
「はっはっは、そこら辺はあんま掃除してないからな。」
「そうなんですか・・・にしても、まさかクエストの内容が大掃除の手伝いとは想像もしてませんでしたよ。」
「まぁそうだろうな。正直、うちの店はそこまで見栄えが良い訳じゃないから掃除をしようがそんなに変わらないと思うんだが・・・」
「ダメだよお父さん!この時期は新米冒険者さんがレベル上げの為に王都からやって来て稼ぎ時なんだから少しでも頑張らないと!」
「・・・とまぁ、こんな感じで娘から尻を叩かれてな。」
「それで、クエストで掃除の手伝いを募集しようとしてたんですか。」
「そういう事だ。流石に2人だけじゃ骨が折れると思ってな。」
「むぅ、私は2人だけで大丈夫って言ったのにお父さん聞いてくれないんだもん。」
「当たり前だ、武器も防具もそれなりに重量があるんだからな。」
「そんなの、私だって気合を入れれば持てるもんね!」
「はっ、そんなの1個2個ずつ持てるってだけの話だろうが。現に、武器に詰まった樽を持ち運べなかったじゃねぇか。」
「あ、あれはしょうがないじゃん!ぎっしり詰まってたんだから!」
「それで1本2本ずつ抜き出して運んでたんじゃ日が暮れるんだよ!」
「なにさ!お父さんだって重いの持つと腰がやばいって運べなかったじゃん!」
「やかましい!ぐだぐだ言ってんじゃねぇ!」
「そっちこそ!」
「・・・あの、父娘喧嘩してないで掃除してもらえます?」
ったく、どうして俺の周囲に居る父娘はこうも喧嘩ばっかりしてんだろうな。
まぁこの人達の場合は仲の良さが手に取る様に分かるから問題ないんだけどさ・・・そう言えば、エルア達は帰ってから仲良くやってんのかねぇ。大丈夫だとは思うが、時間があったら手紙でも出して近況を聞いてみるか。
何て事を考えながら気恥ずかしそうに微笑む2人と掃除を再開しようとした瞬間、店の扉がガチャッと開かれて屈強な体つきの厳つい男が軽く頭を下げて入って来た。
「あ、いらっしゃいませ!・・・って言いたいんですけど、今は見ての通り大掃除中で武器や防具は販売できないんですよ。」
「いや、階に来たんじゃなくて手入れを頼んでた道具を受け取りに来たんだが。」
「あ、そういう事でしたか!それじゃあカードをお預かりしても良いですか?」
「あぁ、分かった。」
男は娘さんに歩み寄っていくと、ポケットの中からカードを取り出して手渡した。
それを受け取った娘さんはいつも通りの手続きを済ませると、そのまま店奥に入っていった・・・それにしても、この人が扱う道具って一体どんな武器なんだ?
「ん?どうした、俺の顔に何かついてるか?」
「あ、いえいえそういう訳では・・・」
「ふっ、お前さんの顔が厳ついから思わず見ちまったんだろうぜ。」
「親父さん・・・顔が怖すぎるのはお互い様でしょうが。」
「がっはっは!確かにそりゃそうだ!」
豪快に笑う親父さんと呆れた様子の厳つい男を横目で見ながら掃除を戻った直後、娘さんが縦長の少し小さい黒めのケースを持ってきてそれを受付の上に置いた。
「はい、お待たせ!これがお客さんが預けてた道具だよ!確認してみて!」
娘さんにそう言われた男は受付に近づいて行くと、ケースを手に取ってその中から預けていたという道具を取り出した。
「・・・うん、流石親父さんだな。これなら今後も美味い料理が作れそうだ。」
満足そうにケースから取り出した包丁を眺めていた男は、小さく頷いて包丁を再びケースの中に戻した・・・ってか、あんな厳つい顔して職業は料理人なのかよ!?
・・・とか思いつつも掃除をしていると、厳つい男が何故だか急にこっちに向かって来るとマジマジと俺の事を見てきた・・・何だ、さっきの仕返しか?
「あ、あの何か俺の顔についてますか?」
「いや、実はさっき俺の店に黒髪黒目の男を探してるって連中が来てな。
それでよく見てみたら、アンタもその条件に一致すると思ってさ。」
「・・・はい?」
「へぇ、そんな奴らがお前さんの店に来てたのか。どんな連中だったんだ?」
「さぁ?詳しい事は分からないが警備兵の様な恰好をしていたぜ。」
「ふーん、そんな人達が街に来てるんだぁ・・・一体何の目的があってそんな人探してるんだろうね。九条さんはなにか心当たりある?」
「いや、全然・・・警備兵っぽいって事は悪い奴を探してるって事じゃないのか?」
「あぁ、そうかもね!多分、凶悪犯がこの街に紛れ込んでいてその人の容姿が黒髪で黒目なんだよきっと!」
娘さんは両手を使って目を吊り上げると唸り声をあげると、俺にゆっくり近寄って来ると下から見上げてきた・・・・いや、可愛すぎるだろこの人!?どうしよう胸が張り裂けてキュン死してしまいそうなんだが?!・・・なーんて事を思いながら必死に笑顔を浮かべていると、厳つい男はケースを片手に店の出口に向かって行った。
「そんじゃあ、俺はそろそろ失礼させてもらうぜ。これから料理の仕込みを始めなくちゃならないからな。」
「あいよ、その包丁の手入れが必要になったらまた持ってこいよ。いつでも歓迎してるからよ。」
「大将!その包丁、次は私に手入れさせてよね!」
「はっはっは、考えておくよ。」
大将と呼ばれた男は豪快に笑いながら店を出て行った後、大掃除を再開した俺達は数時間かけて店を綺麗にすると工房に置いた武器防具を元の場所に戻して営業再開が出来る様にしていった。
「ふぅ・・・これで、クエスト達成ですかね。」
「あぁご苦労さん。九条さんのおかげでたすかったぜ、ありとうよ。」
「いえ、日頃お世話になってますし直接依頼されたクエストですからね。当然の事をしただけですよ。」
「そうか・・・なら、クエスト達成の報酬を渡せねぇとな。おい、報酬の入った袋を持ってこい。」
「はーい!ちょっと待っててね!」
満面の笑みを浮かべた娘さんは受付の下から袋を持ってくると、それを俺に手渡してきた。
「それが今回の報酬だよ!そんなに入って無いけど、今度お店に来た時サービスするからそれで勘弁してね!」
「分かった、そのサービス楽しみにしてるよ。」
そんなやり取りをした後に加工屋の父娘に別れを告げた俺は、市場に向かい晩飯の食材を買うと家路につくのだった。
俺達が挑んだダンジョンも雪解けと同時に無くなってしまい、木々には新緑が芽生えて気温も心地よく感じるほどになっていた。
それに気分を良くした俺以外の3人は、春物の服を買いに仲良く出かけていった。
春物の服に興味が無かった俺は皆を見送った後に掃除や洗濯を済ませると、楽に稼げるクエストが無いか探す為に斡旋所に向かった。
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「なに、ちょっとしたクエストの発注をしに来たのさ。」
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「いえ特には。」
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「え、俺がですか?」
「あぁ、ここで会ったのも何かの縁だと思うしな。どうだ、やってくれないか?」
「まぁ・・・別に良いですけど、俺以外は誰も来ませんよ?春物の服を買いに行ったんで、夜まで帰って来ないと思いますから。」
「問題ないさ。そもそもこのクエストは1人居れば充分だからな!」
「そうなんですか?って事は、討伐クエストとか採集クエストって訳じゃないんですよね。」
「そうだ、俺が九条さんに頼むクエストは・・・・」
そう言って不敵な笑みを浮かべた親父さんにクエストの内容を聞いた俺が、加工屋でどんな事をしているのかと言うと・・・・
「げほっげほっ!・・・すごい埃が溜まってますね。」
飾られていた武器や防具を工房に運び終えた後、ほこりを吸わない様に布で口元を覆ってはたき片手に店内の掃除をしているのだった。
「はっはっは、そこら辺はあんま掃除してないからな。」
「そうなんですか・・・にしても、まさかクエストの内容が大掃除の手伝いとは想像もしてませんでしたよ。」
「まぁそうだろうな。正直、うちの店はそこまで見栄えが良い訳じゃないから掃除をしようがそんなに変わらないと思うんだが・・・」
「ダメだよお父さん!この時期は新米冒険者さんがレベル上げの為に王都からやって来て稼ぎ時なんだから少しでも頑張らないと!」
「・・・とまぁ、こんな感じで娘から尻を叩かれてな。」
「それで、クエストで掃除の手伝いを募集しようとしてたんですか。」
「そういう事だ。流石に2人だけじゃ骨が折れると思ってな。」
「むぅ、私は2人だけで大丈夫って言ったのにお父さん聞いてくれないんだもん。」
「当たり前だ、武器も防具もそれなりに重量があるんだからな。」
「そんなの、私だって気合を入れれば持てるもんね!」
「はっ、そんなの1個2個ずつ持てるってだけの話だろうが。現に、武器に詰まった樽を持ち運べなかったじゃねぇか。」
「あ、あれはしょうがないじゃん!ぎっしり詰まってたんだから!」
「それで1本2本ずつ抜き出して運んでたんじゃ日が暮れるんだよ!」
「なにさ!お父さんだって重いの持つと腰がやばいって運べなかったじゃん!」
「やかましい!ぐだぐだ言ってんじゃねぇ!」
「そっちこそ!」
「・・・あの、父娘喧嘩してないで掃除してもらえます?」
ったく、どうして俺の周囲に居る父娘はこうも喧嘩ばっかりしてんだろうな。
まぁこの人達の場合は仲の良さが手に取る様に分かるから問題ないんだけどさ・・・そう言えば、エルア達は帰ってから仲良くやってんのかねぇ。大丈夫だとは思うが、時間があったら手紙でも出して近況を聞いてみるか。
何て事を考えながら気恥ずかしそうに微笑む2人と掃除を再開しようとした瞬間、店の扉がガチャッと開かれて屈強な体つきの厳つい男が軽く頭を下げて入って来た。
「あ、いらっしゃいませ!・・・って言いたいんですけど、今は見ての通り大掃除中で武器や防具は販売できないんですよ。」
「いや、階に来たんじゃなくて手入れを頼んでた道具を受け取りに来たんだが。」
「あ、そういう事でしたか!それじゃあカードをお預かりしても良いですか?」
「あぁ、分かった。」
男は娘さんに歩み寄っていくと、ポケットの中からカードを取り出して手渡した。
それを受け取った娘さんはいつも通りの手続きを済ませると、そのまま店奥に入っていった・・・それにしても、この人が扱う道具って一体どんな武器なんだ?
「ん?どうした、俺の顔に何かついてるか?」
「あ、いえいえそういう訳では・・・」
「ふっ、お前さんの顔が厳ついから思わず見ちまったんだろうぜ。」
「親父さん・・・顔が怖すぎるのはお互い様でしょうが。」
「がっはっは!確かにそりゃそうだ!」
豪快に笑う親父さんと呆れた様子の厳つい男を横目で見ながら掃除を戻った直後、娘さんが縦長の少し小さい黒めのケースを持ってきてそれを受付の上に置いた。
「はい、お待たせ!これがお客さんが預けてた道具だよ!確認してみて!」
娘さんにそう言われた男は受付に近づいて行くと、ケースを手に取ってその中から預けていたという道具を取り出した。
「・・・うん、流石親父さんだな。これなら今後も美味い料理が作れそうだ。」
満足そうにケースから取り出した包丁を眺めていた男は、小さく頷いて包丁を再びケースの中に戻した・・・ってか、あんな厳つい顔して職業は料理人なのかよ!?
・・・とか思いつつも掃除をしていると、厳つい男が何故だか急にこっちに向かって来るとマジマジと俺の事を見てきた・・・何だ、さっきの仕返しか?
「あ、あの何か俺の顔についてますか?」
「いや、実はさっき俺の店に黒髪黒目の男を探してるって連中が来てな。
それでよく見てみたら、アンタもその条件に一致すると思ってさ。」
「・・・はい?」
「へぇ、そんな奴らがお前さんの店に来てたのか。どんな連中だったんだ?」
「さぁ?詳しい事は分からないが警備兵の様な恰好をしていたぜ。」
「ふーん、そんな人達が街に来てるんだぁ・・・一体何の目的があってそんな人探してるんだろうね。九条さんはなにか心当たりある?」
「いや、全然・・・警備兵っぽいって事は悪い奴を探してるって事じゃないのか?」
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「大将!その包丁、次は私に手入れさせてよね!」
「はっはっは、考えておくよ。」
大将と呼ばれた男は豪快に笑いながら店を出て行った後、大掃除を再開した俺達は数時間かけて店を綺麗にすると工房に置いた武器防具を元の場所に戻して営業再開が出来る様にしていった。
「ふぅ・・・これで、クエスト達成ですかね。」
「あぁご苦労さん。九条さんのおかげでたすかったぜ、ありとうよ。」
「いえ、日頃お世話になってますし直接依頼されたクエストですからね。当然の事をしただけですよ。」
「そうか・・・なら、クエスト達成の報酬を渡せねぇとな。おい、報酬の入った袋を持ってこい。」
「はーい!ちょっと待っててね!」
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