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おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第135話

翌日の朝からエルアの為に色々と準備を済ませた俺は、皆と一緒に王都に向かう為の馬車が集まる街の正門前の広場にやって来ていた。そこで荷物を馬車に積み込んでいるエルアを見つけた俺達は、ある人を探しながらその馬車に近づいて行った。

「おっす、おはようさんエルア。」

「あ、おはようございます!皆さん、本当に見送りに来てくれたんですね!」

「当たり前だろ、そういう約束だったからな。」

嬉しそうに微笑むエルアと軽く話していると、俺の後ろから笑みを浮かべたマホがひょこっと顔を出してきた。

「おはようございますエルアさん!」

「うん、おはようマホさん。ロイドさんとソフィさんもおはようございます。」

「あぁ、おはようエルア。昨夜はよく眠れたかい?」

「はい!バッチリと眠れました!」

「そうか、なら良かったよ。」

「おはようエルア。荷物は全部運び終えたの?」

「はい、さっき全部積み終わりました!」

エルアがそう返事をした直後、御者の人が出発まで時間があるのでお喋りでもして時間を潰してきてはどうですかと提案をしてきた。俺達はその提案に乗って馬車から少し離れて人が全然いない広場の中央近くまで歩いて行った。

「うーん、お喋りして時間を潰せって言われても何を話すか・・・」

「あはは・・・どうしましょうか。」

改まってお喋りをすると言っても、急に話題とか思いつかないもんなぁ・・・とか思っていると、マホが何かを閃いたかの様な表情で俺達を見てきた。

「そうだ!折角ですし、今日までの事を振り返ってみませんか?」

「今日までの事?」

「はい!例えば、初めて出会った時の事をです!」

「初めて・・・そう言えば、私とエルアが初めて出会ったのは九条さんの勘違いしたからだったね。」

「あぁ、そう言えばロイドの弟子になりに来たんだと思ってたんだっけか。」

「全く、ちゃんと人の話を聞かないからそういう勘違いが起きるんですよ。」

「いやよく考えてみろよ・・・俺の弟子になりたい奴が来るとは思わんだろ。」

「そ、そんな事ありません!九条さんの弟子になりたいと思う人はいるはずです!
だって、僕がそう思ってこの街までやって来たんですから!」

「・・・だ、そうですよ。」

「い、いやまぁ・・・そう言われると反応に困るけどさ・・・」

真っすぐな瞳でエルアから見つめられて照れていると、何処からか突き刺さる様な視線を感じた・・・よしっ、この視線は絶対にあの人のだな。全く、嫉妬するぐらいならさっさと出てくれば良のにさ・・・って、あんな事があった後じゃ無理だな。

それから何度か同じ様な視線を感じながら思い出話で盛り上がっていると、御者の人が後少しで出発の時間になると大声で知らせてくれた。

「・・・残念だが、お喋りもここまでみたいだな。」

「そうですね・・・」

エルアは静かな声で呟く様にそう言うと、俺達から一歩離れると真剣な表情で俺達の事を見てきた・・・そして・・・

「九条さん、マホさん、ロイドさん、ソフィさん・・・ありがとうございました!」

辺り一面に響き渡る様な大声で感謝の言葉を伝えると、深々と頭を下げてきた。
・・・ぐっ!何だか色々な感情が込み上げてきて涙腺が熱くなってるが、まだここで終わりって訳じゃねぇんだよ!って言うか、むしろこっからが俺の本番なんだよ!

「・・・エルア、頭を上げてくれ。」

「・・・はい。」

返事をして姿勢を正したエルアを真っすぐ見つめて覚悟を決めた俺は、少し離れた場所にある建物の影に視線を向けた・・・そして・・・

「そこに居るんですよね・・・ニックさん!」

「・・・え?」

俺の言葉に驚きの表情を浮かべたエルアが同じ様に建物の影に目を向けると、そこから気まずそうな表情のニックさんが視線を逸らしながら出て来た。

「・・・はぁ、気づいてやがったのか。」

「そりゃ、あんな嫉妬心丸出しの視線を受けたら誰でも気づきますよ。」

「チッ、俺とした事が・・・」

悔しそうに呟くニックさんだったが、驚き戸惑っているエルアにチラッと目を向けるとバツが悪そうな表情でそっぽを向いてしまった。

「ど、どうしてここに父さんが・・・皆さんは、知ってたんですか?」

「いや、知ってはいなかったよ。ただエルアの事を大事に想っている彼なら、王都でジッと待っている可能性は低いんじゃないかと思ってはいたけどね。」

「うん。あの人、エルアの事が大好きみたいだから。」

「そうですね!」

呆然とした様子のエルアを横目に見ながら、俺はニックさんを手招きしてこっちに呼び寄せた・・・ふぅ、何とかここまでこじつける事が出来たか・・・でも安心するのはまだ早いぞ!最後の最後にしくじらない様に、気合を入れていくか!

そう意気込んで気まずそうな表情のニックさんを、目を合わせようとしないエルアの前に立たせたんだが・・・あぁ、緊張するなぁ!だけどここまで来たら後少しだ!
頑張れ俺!負けるな俺!この後ハッピーエンドを迎えるかは俺次第だぞ!

「・・・何しに来たんだ。」

「い、いや、そのだな・・・お、お前が心配でその」

「心配?一体何の冗談」

「はーいそこまで!」

手を叩いてパンッ!・・・・っと大きな音を鳴らした俺は、俺を睨むエルアと目を合わせた・・・うぅ、辛くて泣きそうだが我慢だ!後ろで応援してくれてる皆の期待に応えるためにもやるぞ!

「エルア・・・本当は分かってるんだろ?」

「・・・・何をですか。」

「ニックさんが家に帰らなかった理由だ。」

「それは・・・」

「それに、お前は本当は親父さんの事をそこまで憎いと思っちゃいないんだろ。」

「いえ僕は!・・・・・・・僕は・・・」

「・・・そうじゃなかったら、あんな重くて扱いにくい盾を持ってこないだろ。」

俺の言葉を聞いて完全に黙ってしまったエルアの事を見て、心の中でガッツポーズを決めた俺はなるべく優しく聞こえる様に更に話しかける。

「・・・だから、家に帰れなかった事情くらいは聴いても良いんじゃないか?
それを聞いて、それでも許せないと思ったら憎み続ければ良いさ。」

「ちょ、おい。」

「・・・分かりました・・・聴きます。」

「あぁ・・・それじゃあニックさん、お願いしても良いですか。」

「・・・はぁ、分かったよ。とはいえ、そこまで複雑な事情があったって訳でもないんだがな・・・」

ニックさんはエルアと目を合わせる事無く後頭部に手をやると、ぽつぽつのその時の事を話し始めた。

「あの時、俺が不安におびえるお前達の元に帰れなかったのは・・・お前達を襲ってきた奴を見つけて根絶やしにする為だったんだ。」

「ね、根絶やし・・・ですか?」

おいおい随分と物騒な言葉出て来たな・・・いや、別に驚く事も無いし予想してた事ではあるんだが・・・話してるニックさんの雰囲気が急に怖くなったと言うか殺意が満ち溢れてきてると言うか何と言うか・・・・ぶっちゃけこえぇ!

「あぁ、ああいう連中は1匹逃すと数を増やしてくるからな・・・そうならない様に徹底的に探し出して根絶やしにする必要があったんだよ・・・」

「へ、へへへぇ・・・そ、そうなんですかぁ・・?」

あらららら・・・俺、もしかして地雷を踏んじゃった?って、おーい!帰って来てくれマホ!ロイド!ソフィ!どうしてそんなに遠くに居るんだ!俺を見捨てるなぁ!

「それにあいつら、俺の命よりも大事な家族を狙いやがったからな・・・絶対に許す訳にはいかなかったんだ・・・だから俺は、持てる力の全てを注ぎ込んで連中を探し出して徹底的に潰してやったよ・・・1匹残らずな・・・」

「あ、あ、あのつぶ、潰したってど、どういった意味で・・・」

「・・・聞きたいか?」

「い、いえいえいえいえ!だ、大丈夫です聞きたくありません!」

これは聞いては駄目な話しだと直感で理解した俺は両手と首を横に振りながら全力で否定した!・・・そんな俺の様子を見ていたニックさんが小さくため息を吐くと、恐ろしかった気配が徐々に小さくなっていった。

「・・・これが、俺が家に帰れなかった事情って奴だ。」

「な、なるほど・・・」

それ以上何も語らなくなったニックさんからエルアの方に視線を向けると、黙ったままうつ向いていて・・・

「母さんは・・・父さんを待ってたんだ・・・」

「・・・なに?」

「・・・あの日、僕達が襲われたあの日・・・・母さんは、父さんが帰ってくるのをずっと待ってんたんだよ・・・?」

「エ、エルア・・・お前・・・」

動揺するニックさんの視線の先には、目に涙を浮かべているエルアの姿が・・・・

「絶対にお父さんが助けてくれる、護ってくれるって震えながらそう言って・・・・確かに父さんは、私達がもう二度と襲われない様にしてくれたのかもしれない・・・でも・・・!」

泣きながら大きな声を出したエルアは、ニックさんの事をジッと見つめると・・・静かに歩み寄ってその胸の顔をうずめた・・・

「母さんと・・・私は・・・父さんにそばに居て欲しかった・・・」

・・・縋る様に服を握りしめて呟いたエルアの言葉を聞いたニックさんは、静かに目を閉じるとそっとエルアの事を抱きしめていた。

「・・・悪かったなエルア・・・お前達が不安と恐怖に襲われている時に、すぐ近くに居てやれなくて・・・」

「う、うぅ・・・・うぅ・・・・・・」

声を殺しながら泣くエルアと父親の表情を浮かべるニックさんからゆっくりと離れて皆と合流した俺は、ホッと胸を撫で下ろしながら父娘の事を見守り続けた。
・・・しばらくして、目を赤くしたエルアと胸元がびっしょり濡れたニックさんが俺達の所に歩いて来た。

「あ、あの皆さん・・・色々とお恥ずかしい所をお見せしてしまって・・・」

「そ、そのなんだ、悪かったな、折角のお前らとの別れに水を差しちまって・・・」

「いえいえ!これにて一件落着と言う事で、私達は大満足です!ね、皆さん!」

「あぁ、エルアも胸のつかえがとれた様で良かったよ。」

「うん。すっきりした顔をしてる。」

「まぁ、あんだけ泣けばスッキリもって尻が痛い!何でいきなり蹴るんだよマホ!」

「デリカシーが欠片も無いからですよ!全くもう!」

「くっくっく・・・なんとも仲の良いこったなぁ。」

「・・・そうだね。」

痛む尻を撫でながら仲良くしている父娘を見て心の中で満足していると、御者の人がもう出発の時間になると大声で知らせてくれた・・・それを聞いた俺達はエルアとニックさんから離れて少しだけ後ろに下がった。

「これで、本当にお別れだな。」

「・・・はい。」

「エルアさん、今後はお父さんと仲良くしてくださいね!それと店主さんから頂いたティーセットは、忘れずに使ってくださいね!」

「うん、家族で使って感想を伝えるって約束したからね。」

「ふーん、ティーセットか・・・そりゃ、アイツもきっと喜ぶだろうぜ。」

「エルア、今後も盾と武器の鍛錬を忘れずにね。それと、父親が嫌いになったらいつでも遊びにおいで。歓迎するよ。」

「はい!またお邪魔させて頂きます!」

「って、おい!折角関係が修復したのに不吉な事を言うんじゃねぇよ!」

「いや、でもエルアもそろそろお父さんと一緒に下着をあらわないででででで!」

「おいごら、何がエルアの下着だ?一体何を想像しやがった!」

「と、父さん!九条さんの首元から手を離して!本当に嫌いになるよ!」

「・・・チッ!エルアのおかげで命拾いしたな!」

「だ、大丈夫ですか九条さん?お怪我はありませんか?」

「げほっげほっ!だ、大丈夫だ・・・」

「全く、不用意な発言には注意してください。」

「・・・あぁ、マジで気を付ける。」

「エルア、お勧めした本は忘れずに読んで。想像力は魔法に必要だから。」

「はい!分かりました!」

「うん、今度会った時に感想聞かせてね。」

「勿論です!あの勇者は実がお姫様で、魔王が実は勇者だったお話しはとても面白いですから!」

「・・・なぁ、どんな本をエルアにお勧めしたんだ?」

「・・・さぁ?」

・・・その後、俺達はエルアとニックさんが馬車に乗り込む姿を見届けると出発の時間ギリギリまで別れの挨拶をしていた。

「それじゃあなエルア、また暇が出来たら遊びに来い。それとニックさん、ご家族を大切にして下さいよ。」

「言わるまでもねぇよ。お前こそ、仲間を大事にしろよ。」

「言われるまでもありませんよ。」

「ふっ、そうか。」

「エルアさんさようなら!またお会いしましょうね!」

「元気でねエルア。ご家族と仲良くね。」

「またね、エルア。」

「はい!皆さんもお元気で!絶対またお会いしましょう!」

満面の笑みを浮かべるエルアと穏やかに微笑むニックさんの乗った馬車を見送った俺達は、満足しながら家に帰っていくのだった。

・・・こうして、2週間ほど続いた俺達とエルアの師弟関係は終わりを迎えた。
なんとか父娘関係も修復出来たみたいだし、これで心置きなく家に引きこもれるな!
さて、そうと決まればどんなラノベを読んでのんびり過ごすかねぇ・・・なんて事を考えながら、俺は自然と笑みを浮かべるのだった。

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