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おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第133話

「今日はエルアさんと過ごす最後の日なんですから、お昼はエルアさんの作るお料理が食べたいです!」

そんなマホの提案を素直に受け入れてくれたエルアと市場で食材を買った俺達は、家に戻ってエルアが作ってくれた料理で昼を済ませるのだった。

いやぁ、それにしても料理が出来なかったエルアがここまで成長するとはな・・・やっぱり師匠としての俺の指導が良かった・・・いやそうじゃないですね元々の素質ですよね分かってますよだからそんな残念な人を見る目で俺を見るんじゃない!

なーんていつも通りのやり取りをしながら昼を過ごした俺達は、街の大通りにある老舗感満載で10人前後のお客さんで賑わっている建物の前に来ていた。

「エルアさん、ここがこの街で有名なお土産屋さんです!」

「そうなんだ・・・案内ありがとう、マホさん。」

「いえいえ!」

「それにしても、家族に渡すお土産のアドバイスを求められるとは驚きだったよ。
これは、下手の物を選ぶことが出来ないね。」

「うん、責任重大。」

昼飯を食っている時に次は何処に行きたいのかエルアに聞いてみたら、家族の為にお土産を買いたいとリクエストがあったからここに来たのだが・・・

「それにしても、この街の土産物屋があるとは思わなかったな。なんか有名な土産物とか置いてるのか?」

「いや、そうではないがこの店の置かれている工芸品はどれも一級品だよ。
それに値段も手頃だから、お土産には最適だと思うよ。」

「へぇそうなのか・・・って、随分とこの店の事に詳しいんだなロイド。」

「あぁ、実はこの店は父が王都に出向く際によく利用している店でね。
その縁で私も良くこの店には来ていて、ここの店主さんとも仲が良いんだ。」

「なるほどね・・・それじゃあ何か困った事があったらロイドに聞くとして、土産物を選びに行くとするか。」

「は、はい!皆さん、よろしくお願いします!」

「あぁ、最高の品を選ぶとしようじゃないか。」

「任せて。」

「よーし、張り切っていきましょう!」

エルアと家族の為にと意気込んで入った店内は、薄明かりに照らされた落ち着いた雰囲気のある静かな空間だった。その空気感に簡単に飲まれた俺とマホとエルアは、自然とひそひそ声になりながら店内にある工芸品を見る事にしたんだが・・・

「何と言うか・・・この店に置いてある商品どれも凄い凝ってるな。」

「ですね・・・あ、このカップ見てください、凄い装飾ですよ。」

「本当だ・・・綺麗ですね・・・値段は、そこまで高くないですね。」

「うわっマジだ・・・こんなの王都で買ったら倍ぐらいしそうだけどな。」

「はい・・・どうなってるんでしょうか?」

「ふふっ、お客様のお手元に置かれてこそ意味のある物ばかりですからね。
だからお買い求めしやすいお値段で提供させてもらってます。」

「えっ?」

3人で小さなテーブルに飾られていたティーカップを見ていると、背後からとても品のある落ち着いた声で話しかけられた。誰かと思い振り返ってみると、声と同じで品のあるお婆さんがロイドと一緒に立って居た。

「紹介するよ、彼女はこの店の店主さんだ。」

ロイドがそう言うとお婆さんはゆっくりと腰を曲げて俺達のお辞儀をして来たので、俺達もそれに合わせる様にお辞儀をした。

「初めまして、この店の店主をしている者です。」

「は、初めまして、九条透です。」

「初めまして、マホです!」

「エルア・ディムルドです。初めまして。」

「はい。九条さんに、マホちゃんに、エルアちゃんね。それで、今日はどんなご用で私達のお店に来てくれたのかしら。」

「・・・私達?」

「あぁ、奥にある工房で彼女のご主人が働いているからね。」

「なるほどそういう・・・」

「ふふっ、あの人はあまり表に出たがらない人だから挨拶もせずにごめんなさい。」

「あっいえいえ、そんなに気を使って頂かなくても大丈夫ですので。」

「そうです!私達は、エルアさんのご家族へのお土産を買いに来ただけなので!」

「あら、ご家族へのお土産?」

「は、はい。明日渡す予定なので、こちらでお土産を買おうかと・・・」

「そうだったのね。ありがとうエルアちゃん、ご家族へのお土産を買うのにわざわざ私達のお店に来てくれて。」

「そ、そんな!えっと・・・あの・・・」

店主さんにお礼を言われて焦っているエルアだったが、店内のお客さん達が不思議そうにこっちを見ている事に気が付いて恥ずかしがりながら冷静さを取り戻した。

「それで、何かご家族への素敵なお土産は見つかったかしら?」

「あ、それはその、まだ選んでいる途中でして・・・」

「あら、それじゃあお邪魔しちゃったかしら。」

「そ、そんな事はありません!えっと、もしよろしかったら何か意見を頂けると嬉しいんですが・・・」

「意見?」

「はい、何かお勧めの品などがあったら教えて欲しくて・・・あ、いえ!このお店の物はどれも素敵な物だという事は分かっているんですけど!」

「ふふっ、ありがとうね。それじゃあエルアちゃんのお母様がどんな人なのか、教えて貰ってもいいかしら?」

「か、母さんですか?母さんは・・・・」

エルアは店主さんの言葉を聞いて静かになると、とても優しく穏やかな表情を浮かべていた。

「・・・とても、優しい人です。どんな時も笑顔で、どんな時も前向きで、どんな時でも僕の第一に考えてくれている・・・そんな人です。」

「素敵なお母様なのね。」

「はい・・・それと紅茶とクッキーが大好きで、よく・・・・」

ん?なんか急にエルアの表情が曇った様な・・・どうしたんだ?何か思い出すのが嫌な事でもあるのか?

「よく・・・どうしたの?」

「・・・父の為に、職場に持って行ってました。」

「ふふっ、お父様想いの素敵なお母様ね。」

「・・・はい。」

あーららららら・・・・まさかここで地雷が出現するとは思いもしなかったな。
てか、どんだけニックさん嫌われてんだよ!あーあー・・・・もどかしい。

「うん、お母様の事はよく分かったわ。それじゃあ次は、お父様の事を聞かせてもらえる?」

「・・・・父さんは・・・・最低な人です。」

「あら、それはどうして?」

「それは・・・・母さんの事を・・・大事にしているとは思えないからです。」

おうおうおうエルアの表情がどんどん暗く沈んでいくぞ!マジでニックさんの話題って特大級の地雷だな!マホもロイドもなんとも言えない表情で押し黙っちまったしソフィも・・・って、アイツどこ行った?

「・・・これは良い物・・・どうしよう。」

あ、あんにゃろ!武器を収める鞘を見ながら買おうかどうか悩んでやがる!
どんだけマイペースなんだよ!こっちはもう気温が氷点下ですけども!?

「お父様がお母様を・・・理由を聞いてもいいかしら?」

「・・・・それは・・・」

エルアは口ごもりながらも、店主さんにぽつぽつと事情を話し始めていた。
まさか初対面の相手にそこまで話そうと思えるとは・・・これも店主さんの人徳ってやつなのか?

「なるほど、エルアちゃんとお母様が襲われたのに1週間も・・・」

「はい、だから父さんは・・・母さんと・・・僕の事なんか・・・」

「エルアちゃん、駄目よ。」

「・・・えっ?」

自分の爪が手の平に食い込むほど拳を握り悔しそうな表情をするエルアだったが、真っすぐな目をした店主さんに手をそっと包み込まれて驚きの表情を浮かべていた。
そしてそのまま拳をほどかれると、優しく頬を撫でられていた。

「お父様の事をそんな風に言っては駄目。」

「・・・で、でも父さんは・・・」

「エルアちゃん、本当は分かっているんじゃないの?お父様が、どうして貴方達の元に帰る事が出来なかったのか。」

「そ、それは・・・・」

「うん。分かっていても、貴方はお父様を許す事が出来なかったのよね。何故なら、不安で寂しい時にそばに居てくれなかったから。」

「・・・!」

「でも、もう良いんじゃないかしら。お父様を許してあげても・・・ね?」

店主さんは何とも言えな表情のエルアからそっと離れて微笑を浮かべると、静かに店の奥の方に消えて行ってしまった。

・・・って、え?嘘だろここで放置ですか?ちょっと待ってくださいよ気まずさが半端じゃないですけど!?っていうか、いつの間にか店の中に俺達以外居ないんだが他のお客さんは何処に!?どんだけ空気が読めるお客様なんだよ!

なんて思いながらほんの少しの間待っていと、店主さんが少し大きめの箱を抱えて戻ってきた。そしてそれを、俺達の近くにあった小さなテーブルの上に置いた。

「・・・え、えっと・・・」

「エルアちゃん、開けてみて頂戴。」

店主さんにそう言われたエルアが木箱の蓋をそっと開けたので、俺達もその箱の中を覗き込んでみた。すると、その中には・・・・

「うわぁ・・・素敵なティーセットですね。」

「あぁ、見事な装飾だ。」

マホとロイドが感嘆の声を漏らしながら見つめる先には、鮮やかな模様が描かれたティーセットが存在していた・・・てか、マジで凄いなこれ。職人技ってこういう事を言うんだろうな・・・ってか、ティーカップが3つって・・・粋な事をするな。

「あの、これは・・・」

「ふふっ、ご家族へのお土産にどうかしら。私はピッタリだと思うんだけど。」

「・・・・・」

エルアは店主さんの言葉を聞いてジッと押し黙ったままうつ向いてしまった。
まぁ、色々な感情がうごめいているんだろう・・・分かっていても認められないって感情は、生きてりゃ何度かあるからな・・・その感情がせめぎ合ってんだろ。
・・・今は、黙ってその感情がどう決着するのか見届ける時だな。

「・・・・・・分かりました・・・これを・・・下さい。」

おぉ、かなりの時間悩んでたが決着はついたみたいだな。とはいえ、まだ心の中は複雑そうだけどさ。

「えぇ、それじゃあ・・・これ、エルアちゃんにプレゼントするわね。」

「・・・え?」

「さぁ、受け取ってちょうだい。」

店主さんはそっと木箱を閉じてテーブルの上から持ち上げると、それをエルアの前に差し出した。

「そ、そんな頂けませんよ!ちゃんとお代はお支払いします!」

「いえ、気にしないで良いのよ。これは、主人が渡したい相手に渡せと言って造ってくれた値段の付いていない物だからね。」

「そ、そうだとしても、こんな素敵な物をタダで貰う訳にはいきませんよ!」

「あらそう?それじゃあ・・・・」

店主さんは木箱をエルアに有無を言わさず持たせると後ろに下がり、優しい微笑を浮かべていた。

「ご家族でそのティーセットを使った時の感想を、今度会いに来た時に教えて貰えるかしら。」

「そ、それは・・・」

「それじゃあ、お願いねエルアちゃん。」

「・・・は、はい・・・・」

店主さんの微笑みに何も言えなくなったエルアと俺達は、ティーセットの入った箱を抱えたまま店を後にするのだった・・・てか、こんなゴタゴタの間にソフィはあの鞘をちゃっかり買ってたのか・・・店主さんもソフィも色々と凄すぎだろ・・・・

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