おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第123話

「・・・うん、こんなもんで大丈夫だろ。」

ダンジョンに挑む事が決まってから1週間が過ぎた日の事、俺は昼飯に使う食材の入った袋を抱えながら1人で街の市場を歩いていた。

「それにしても、まさかエルアにリクエストされた料理の食材が切れてるとは・・・ちゃんと確認しとくべきだったな。」

とりあえず今後の事も考えて食材を多めに買ったから問題ないと思うが、またマホに説教されるなぁ・・・ご主人様!エルアさんの料理のお師匠なんですからちゃんと食材の有無は確認してくださいね!・・・・って、これ家出る前に言われたな・・・まぁ、家に食材が結構残ってたから買い物に行かなくても大丈夫だろ!とか言って、買い出しをサボってた俺が悪いから何の反論も出来ないんだけどね!

「さて、食材は買い終わったけど・・・どうすっかなぁ。」

わざわざここまで出歩いて来たから、食材だけ買って帰るってのもなんか勿体ない気がするんだよなぁ。昼飯作るまでまだ時間はあるし、どっかでなんか買ってくか?いやでも、別に買いたい物がある訳でもないからなぁ・・・

「んー・・・・ん?」

このまま帰るべきかどうか悩みながらボーっと歩いていると、何処からか甘い匂いが漂ってきている事に気が付いた。思わずその匂いがする方向に目を向けてみると、そこには可愛らしい感じのケーキ屋が存在していた。

「ケーキか・・・そう言えば、昨日エルアがレベル3になったんだけな。」

・・・うん、そのお祝いって訳でもないが頑張ってるエルアを応援する為にケーキでも買って行くか。ってなると、エルアの指導をしているロイドとソフィにも買って行って・・・俺を呆れながら見送ったマホの機嫌を取る為にもケーキを買ってくか。

俺は可愛らしい外観のケーキ屋に入ると、若い女の子やカップルに交じって自分と皆が食べる為のケーキをじっくりと選んだ・・・・ふっ、何だか変な視線を感じたがそんな事で動じる俺ではない!だってお前らの事なんて何とも思ってないからな!

思ってるとしたらレジが混んでるからイチャつきながらケーキを選ぶんじゃねぇ!って事くらいだ!分かったかこのバカップルが!!とかなんとか恨み節を炸裂させながら、俺は買ったケーキの入った箱を持って店を出た。

「よしっ、これで後は帰るだけだ・・・・な?」

あれ、店を出る前までは結構な人通りがあって賑わってたはずなんだが・・・急に静かになったな・・・ってか、あれ?

「通りを歩いてる人が・・・誰もいない?」

・・・いやいやいや、そんな事ある訳ないだろ!だってまだ昼前だぞ?出歩いてる人が居なくなるなんてそんな・・・・ねぇ?

背中から嫌な汗が出るのを感じながら周囲を見回してみると、通りの向こうに複数の人影を見つける事が出来た!あぁびっくりしたぁ・・・なんか怖い現象に巻き込まれたのかと思っ・・・た?

「・・・・え?な、何だあの人達?こっちに・・・向かって来てる?」

顔が引きつるのを感じながら通りの奥を見つめていると、サングラスをかけた屈強な男達が横一列になって道を塞ぐようにしてこっちに向かってきていた・・・へぇ、この世界にもサングラスってあるんだぁ・・・って、現実逃避してる場合じゃねぇ!

「と、とりあえず嫌な予感がするから逃げねぇと・・・って、ゲッ!」

逃げ出す為にサングラス集団の反対側に向かおうとしたのだが、そっちの方からも似た様な集団が横一列になってこっちに歩いて来やがった!?

完璧に逃げ道を失った俺は立ち往生したままどうしたもんかと悩んでいると、男達は俺を挟む様にして立ち止まった・・・おいおい、これってもしかしなくても・・・

「・・・アンタ、九条透で間違いないな。」

「へ・・・へっ?」

ドスの効いた声で名前を呼ばれた俺は、声を裏返しながら返事かどうかも分からない声を上げながらゆっくりとその声の方に目を向けた・・・そ、そこにた、立っていたのは・・・サングラス越しでも分かる程の大きな傷が顔にある、黒スーツの厳つい男性だった・・・って、こ、怖すぎるんですけどぉ?!

「アンタに2,3聞きたいことがあるんだ。悪いようにはしないから、少しだけ俺達に付き合ってもらえねぇか?」

サングラス越しの鋭すぎる眼光に睨まれた俺は、頭の中でぷつんと何かが切れた様な感覚を感じた・・・そして、その男性の方を見てニッコリと微笑むと・・・・

「おい、逃げたぞ!追え!!」

風を全身にまとわせて移動速度を上げるとケーキ屋とその横にある建物の間にある細い路地に向かって一直線で駆け出した!その直後、話しかけてきた男とは違う男の叫び声が聞こえ沢山の足音が背後から聞こえてきたぁ!!こ、これは!捕まったら確実に消されるパターンじゃないんですか?!だ、誰かぁ!助けてぇえええ!!!
ていうか、どうしてこんな事になったんだよ!?マジで意味が分かんねぇんだけど!

俺は恐怖から出る涙を走る風で流しながら、買った食材とケーキをしっかりと抱えて暗くジメッとした路地を必死になって走り抜けた!

「はぁ・・・はぁ・・・畜生!俺が何したって言うんだよ!?」

愚痴りながら後ろから迫る男達を何とか引き離そうと、目の前に見えた曲がり角に入って行くと、高さの違うベランダが視界に入って来た!こ、これはいけるか?!

俺は躊躇ためらう間も無く足に風をまとわせると、大きく飛んで壁を蹴りベランダの手すりに向かって飛んだ!そこに足を掛けると、今度は少し高い場所にある別のベランダの手すりに向かって行き、そこを利用して俺は建物の屋根に飛び移る事が出来た!

「おっとと・・・ば、バレてないよな?」

不安定な屋根の上で何とか体勢を立て直した俺は、身を隠しながら下の様子を確認してみた。すると、さっきまで俺が居た場所に4,5人の男達の姿を発見した。

「おい、居たか!」

「いえ、こっちには来てないです!」

「くっ、何処に行ったんだ・・・もう一度周囲を徹底的に探すんだ!」

「はい!おい、行くぞ!」

・・・ど、どうやら逃げ切ったみたいだな。ってか、あのスキンヘッドがリーダー格のやつなのか?・・・とりあえず、このまま屋根伝いに家に帰るか。

「あっ、そう言えばケーキ!」

さっきのジャンプでぐちゃぐちゃになっていないか心配になった俺は、慌てて箱を開けてケーキの安否を確認した!・・・・ふぅ、少し形が崩れたが何とか無事みたいだな・・・って!

「アイツら、俺の名前を知ってたって事は家も知ってるんじゃ!?」

不安に駆られた俺は、しっかりと食材の入った袋とケーキの入った箱を抱え直すと下に注意を払いながら屋根を飛び移り我が家を目指した!そして・・・・

「あ、おじさんお帰りなさい!どうです?食材は買えました」

「そんな事よりマホ!怪しい奴が来てないか!?」

「は、え?怪しい人ですか??」

「そうだ!具体的にはサングラス姿の厳つい男達だ!来てないか!?」

「え、え?ど、どうしたんですか?何をそんなに慌てて・・・」

「良いから!」

「あ、はい、別に来てませんけど・・・皆さんも見てませんよね?」

「あぁ、私は見かけてないよ。」

「私も見てない。」

「ぼ、僕もみかけてませんけけど・・・」

「そ、そうか・・・はぁ・・・」

何とか家に辿り着いて男達が来てないか確認した俺は、そんな奴らが来てない事を知ると大きく息を吐きながら膝に手をついた・・・

「おじさん、どうしてそんな事を?何かあったんですか?」

「・・・あぁ、実はな」

「やっと見つけましたよ、九条さん。」

「!?」

ドスの効いた聞き覚えるある声に慌てて降る帰った俺の目の前には、先ほどの鋭い眼光をした男が立って居た!こ、こいつやっぱり知ってやがったか!

「あの、どちら様でしょうか?おじさんに何か」

「マホ、俺の後ろに下がってろ・・・」

「え?」

マホは俺の言葉に一瞬だけ戸惑った様な様子だったが、すぐに異常を察して言葉の通りに行動してくれた・・・そして、ロイドとソフィも俺の様子に何かを感じたのか警戒心を露わにしながら男の方に向き直った。

その直後、街の方からスキンヘッドの男が仲間を引き連れてこっちに向かっている姿が目に入ってきた・・・畜生、マジで何なんだこいつら!一体何の目的があって!

「アンタら、そこまで警戒しなくても大丈夫だぜ。別に取って食おうってんじゃねぇからな。」

「・・・じゃあ、何で俺の事を追い回したんだ。」

「だから言っただろ。2,3聞きたいことがあるってな。それと・・・」

男はサングラスを外すと、俺達の後ろの方に視線を送って小さく笑みを浮かべた。
男のその表情に疑問を感じていると、人影が後ろから現れて男の前で立ち止まった。

「しばらくぶりだな・・・エルア。」

「うん、そうだね・・・・父さん。」

「「・・・・えぇ?!」」

マホと一緒に驚きの声を上げた俺は、突然起こった親子の対面にしばし呆然とする事しか出来なかった。

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