おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第115話

軽く現実逃避をしながらしばし呆然としていると、背中がトントンと叩かれた。
振り返ってみるとマホが頭を下げている・・・エルア君?の事を見ながら耳元に近づいて来た。

「もう、ボーっとしてないで返事をしてあげてくださいよ。あの体勢で待たせてたら可哀そうです。」

「・・・いや、そう言われても・・・なぁ?」

「なぁ、じゃありませんよ。ほら早く。」

肩をポンポンと叩いて元の位置に座ったマホから目を離し、俺はエルア君を見ながらごほんっとわざとらしく咳払いをした。

「えっと・・・まぁ、とりあえず顔を上げてくれ。」

「あ、はい!分かりました!」

うわぁ、真剣な表情のまま俺をジッと見てくるよぉ・・・はぁ、マジで心苦しいんだけどしょうがないよなぁ・・・だって・・・ねぇ?

「あの・・・エルア君?で良いんだよな?」

「は、はい!あ、その、呼び捨てで読んで頂いても構いません!」

「そ、そっか・・・それじゃあエルア・・・えっと・・・・」

ぐっ、止めてくれ!そんな緊張でガチガチになった目で俺を見ないでくれ!罪悪感で押し潰されそうになるから!てかロイド!これは面白い事になってきたな的な目でこっちを見るんじゃない!後、ソフィ!俺の朝飯をもう食うな!半分ぐらい減ってるから!って、そんな事は後回しにして・・・!

「そのだな・・・あ、あれだ!ほら、俺より強い人とかいっぱいいるしさ!闘技場の王者とか良いんじゃないかな?それに訓練所で一生懸命頑張れば俺の弟子になるより良いと・・・って、あれ?」

何とか誤魔化しつつ断ろうとした俺の目に入って来たのは、目に涙を浮かべて拳をギュッと握って唇を噛みしめているエルアの姿だった・・・って、え?嘘、な、泣いてる・・・?いやいやいやちょっと待ってくれ!

「おじさん・・・」

「ふぅ、九条さん・・・」

「・・・・・ごくんっ。」

おいおい何でそんな呆れた様な目で俺を見るんだ?俺か?俺が悪いのか?
でもちょっと待ってくれよ!普通に断るだろ!だってこんなごくごく普通のおっさんに弟子入りしたって良い事ないだろ!てか、そもそもの話なんだけどさ!

「な、なぁ、何で俺の弟子になりたいんだ?正直、俺の弟子になった所で何か得られる物とは思えないんだが・・・」

「・・・そ、それは・・・・九条さんは、僕の、憧れだからです・・・」

「あ、憧れ?」

まさかの言葉に驚きよりも戸惑いが勝っていると、ロイドが手にハンカチを持ちながらこっちにやって来た。

「ふむ、それは興味深いな。どうして九条さんが憧れとなったのか、聞かせて貰っても良いかい?」

そう言ってエルアの前にしゃがみ込んだロイドは、ハンカチでそっと目元を拭うのだった・・・何て言うか、俺がロイドに弟子入りしたいんですけど・・・何なの?
そのスマートさ・・・格好良すぎて嫉妬すら覚えねぇんだけど・・・

「闘技場での決勝戦を見て・・・僕は、九条さんに憧れる様になったんです・・・」

「え、それってもしかて・・・俺が腕を貫かれたアレ?」

「・・・はい・・・」

「そ、そうか・・・」

え、アレって憧れられる様な物だったか?だってブレードが腕を貫通して激痛に
悶えながら地面を転げまわってたんだぞ?正直、アレに憧れられる場面は無いと思うんだが・・・

「あの、少し良いですか?正直、あの時に憧れを抱くような場面は無かったと思うんですけど・・・」

おっと、どうやらマホも俺と同意見の様だ。そしてロイドも小さくだが頷いてるみたいだし・・・まぁ、アレを憧れる様になったらダメだってのは俺にも分かるけど。

「そ、そんな事ありません・・・ぼ、僕、見ましたから。自分の腕を囮にしてまで勝とうと諦めず戦っていた九条さんの姿を・・・」

「いえ、まぁそうですけど・・・」

マホは何とも言えない表情で俺をチラッと見てきた。いや言いたい事はわかる。
だってその事でメチャクチャ怒られたからな・・・正直、アレは憧れるべき物じゃなくて絶対に真似しちゃダメだな!って思う所ですよね。

「そ、そんな最後まで諦めない姿を見て、九条さんの弟子になりたいと思ったんですけど・・・やっぱり・・・ダメでしたよね・・・」

「そ、それは・・・えっと・・・・」

「すみません、それでは・・・お邪魔しました・・・・」

うっ、止めてくれ・・・そんな泣きそうな顔のまま出て行かないでくれ!正直、
美少女にしか見えないから罪悪感が半端ないんだって!女の子を泣かせてるという罪の意識が俺を襲ってくるんだよ!相手男の子なのにさ!?

「・・・おじさん。」

「マ、マホ?」

エルアが居なくなったリビングで葛藤する俺の服を背後から引っ張ってきたマホをに目を向けると、何故だか俺をジッと見て静かに首を横に振っていた・・・

「・・・諦めましょう。」

「あ、諦めるって・・・何を?」

「・・・分かってますよね。言わなくても。」

「そ、それは・・・」

・・・あぁ分かってる。マホの言わんとしている事は分かってる!でも弟子って
お前・・・そ、そうだロイドは!お前はどう思う!?そう聞こうとしてロイドの方を見てみると・・・

「九条さん、これはもう諦めるしかないんじゃないかな。」

「ロ、ロイドまで?!それじゃあソフィは!」

「諦めて楽になろう。」

・・・この時、俺は全てを悟ったね。俺にこの流れを変える事は出来ないと。
つまり、さっきとは違う覚悟を決めるしかないという事を・・・はぁ・・・・

「・・・はいはい分かったよ。」

俺は大きくため息を吐くと、頭をガシガシと掻きながらリビングを出て行った。
そして玄関の扉を開けて外に出ようとしているエルアの背後から声を掛けた。

「おい、エルア。ちょっと待ってくれ。」

「え・・・あ、な、何でしょうか?」

最初に出会った頃の勢いはどこに行ったのか、エルアは俺と目を合わさない様に
振り返った・・・もしかして、こっちが素だったのか?って、そうじゃなくて。

「あー・・・何だ・・・さっきの件なんだが・・・」

ぐぅ!超絶言いづらいんですけど!もうマジで俺自惚れてるとか思われんじゃねぇのか?あぁでももう決めた事だし・・・腹くくるしかねぇよな・・・!

「・・・まぁあれだ、別に断ってくれても良いんだがその・・・なってみるか?
弟子に・・・」

「・・・・え?」

気恥ずかしさから顔を逸らした俺は、エルアの反応を待ちながら自分の言った言葉に羞恥心を感じていた!だって、弟子になってみるか?って何様なんだ俺は!?
一般人を絵に描いたような人間の癖に自惚れてんじゃねぇよ!とか何とか自虐しつつ精神を保とうとしながらエルアを見てみると、彼はしばし呆けた顔をした後にハッと姿勢を正して勢いよく深々と頭を下げてきた。

「あ、あの!ありがとうございます!一生懸命頑張ります!」

エルアはそう言うと顔を上げて、嬉しそうに笑って俺の事を見ていた・・・多分、最終的には幻滅されて終わるだけだろうけど・・・そうなったら、そうなっただな。
そうなるまでは、師弟関係とやらを続けてみるとしますかねぇ・・・そう思って
自然と笑みが浮かんでいた俺だったが・・・

「あの、ちょっと聞きたい事があるんですが良いですか?」

「ん?どうしたんだ?」

「どうしてロイドさんとソフィさんが九条さんの家に居るんですか?それと、あの
女の子は一体どなたなんですか?」

浮かんでいた自然な笑みは一瞬で消えて、その代わりに引きつった笑みと冷や汗が出てくるのだった・・・!いや、こういった幻滅のされ方は流石に御免なんだが!?

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