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おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第72話

玄関ホールまで護衛された俺は、侵入者を連行してきますと言ったカームさん達と別れて1人で屋敷の外に出た。

「あー疲れたぁ!」

叫ぶようにそう言って大きくノビをしていると、玄関ホールにあるシャンデリアが2,3度点滅してから明るくなった。どうやら電力の復旧に成功したみたいだな。
そんな事を考えていたら、会場の方から複数の人影がこちらに向かっていることに気が付いた・・・あの人影は!

「マホ!それにロイドとソフィ!」

そう、こちらに走り寄って来たのは笑顔を浮かべた俺の仲間達だった!あぁ、俺はやっと平和な日常に戻って来たんだな!そう喜んで階段を降りた俺は、向かってくるマホを手を広げて迎え入れた!

「おじさーん!」

「マホ―!」

俺とマホの距離がどんどんと近づいてく!うん、こんな時は恥ずかしがらずに熱い抱擁をするべきだよな!そう思ってマホを抱きとめようとした瞬間!

「この嘘つき!」

「ぐふうっ!」

マホはがら空きの俺のボディに思いっきりブローを叩きこんで来た・・・!俺は息を吐きだしながら腹を押さえて倒れこむと、そのままの状態でマホの事を見上げた。
あ、あれれ?何だかとってもご立腹じゃありませんか・・・?突然の暴行に驚いた俺は、絞り出すように声を出して質問を投げかける。

「あ、あの、嘘つきとは一体・・・・」

「分からないですか、分からないですよね。えぇ知っていますよ、おじさんが自分の言葉に無責任って事は!いつもならこれぐらいで許してあげますが、今回はだめです!私がどれだけ心配したと思っているですか!」

マホに投げつけられている言葉を聞いて、俺はやっとマホが怒っている理由を理解した。

「えっと・・・いつでも話しかけろって言ったのに、会話できなくなったから怒っているんでしょうか・・・?」

「そうに決まっているじゃないですか!!」

「ひぃ!ごめんなさい!!」

マホは頭上から怒りの感情をぶつけてくる!そのあまりの迫力に俺は思わず大声で謝罪していた・・・いやだってメチャクチャ怖いんだもん!

「落ち着いてマホ、怒るよりも先に怪我の手当てをした方が良いんじゃないか?」

そう言って、ロイドが怒るマホの肩に手を置いた。そのおかげでマホは幾分か冷静さを取り戻したみたいだ・・・良かったぁ・・・って、は?

「け、怪我?!マホが怪我したのか!?一体いつ!どこで!誰にやられた!」

俺はマホにグッと近づくと、体中をチェックする!クソっ、まさか怪我をしていたなんて!やっぱりあの時俺も一緒に脱出するべきだったのか!?
そんな後悔をしていると、マホが俺の体をグイッと押して距離を取った。そして俺の顔を見て大きな声を出した。

「ち、違いますから!怪我をしているのはおじさんですよ!」

「・・・・え、俺?」

「おや、もしかして気が付いていないのかい?ほら、ここだよここ。」

そう言ってロイドは自分の左頬を人差し指でつんつんと触った。同じ様に左頬を触った瞬間、ぬるっとした感触と鋭い痛みが襲ってきた!慌てて指を離すと赤くドロっとした液体が指の先についていた。

「うわっ、ここも怪我してたのか。一体いつの間に・・・・もしかしてあの時か?」

思い出していたのはブレードの突きをギリギリでかわした時の事だ。
あの時に怪我をしていたとは、全く気が付かなかった・・・てかこれ、傷跡残らねぇだろうな?・・・そんな事を考えていると、不意にマホに話しかけられた。

「おじさん、今のはどういう意味ですか?」

「は?何が?」

「ですから、ここも怪我をしていたのかってどういう意味ですか?」

「どういう意味って・・・・あ」

自分の失言に気が付いた俺は、反射的に怪我をした場所を右手で押さえていた。
そんな俺の姿を見たマホの目が、突如としてすっと細くなっていった。

「なるほど・・・ロイドさん、ソフィさん、お願いします。」

「あぁ、任せてくれ。」

「了解。」

まず、返事をしたロイドが俺の背後に回り込むと脇の下に腕を入れて羽交い絞めにして来た!って言うか背中に何か慎ましくて柔らかい物が当たっているんだが?!
しかし、その感触を確かめている暇も無く今度はソフィが俺の左袖をめくり上げた!
そこには赤黒くなっている布がきつく巻き付けられていて・・・それを見たマホがニッコリと微笑んで俺に質問してきた・・・

「・・・おじさん、これは一体何ですか?」

「・・・・ファッション?」

「おじさん!!!」

「はいすみません!戦闘中に負傷しました!」

怒っているマホに冗談が通じる訳も無く、俺は大声で怪我をした事を報告した。
・・・うん、分かってる。冗談を言う場面ではありませんでしたね・・・

「全く!どうして黙っていたんですか!」

「いやだって、怒られると思って・・・」

「いい歳してそんな子供みたいな言い訳しないでください!」

「・・・はい。」

「こういう傷が後々酷くなる事もあるんですよ!分かっているですか!?」

「はい、仰っている通りで・・・本当に申し訳ありません・・・」

もう何か、隠し事がバレて説教食らっている子供だな・・・そんな事を考えていると、ロイドが羽交い絞めを止めた。そしてマホに近づいていくと、肩をぽんぽんと叩いて話しかけていた。

「マホ、それくらいでもう良いんじゃないかい?」

「・・・そうですね。それじゃあおじさん、少しだけジッとしていてくださいね。」

マホはそう言って俺のそばに来ると、巻かれている布を丁寧に外していく。布の下には小さな傷が何カ所かあり、そこから少しだけ出血していた。

「はいこれ。」

「あ、ソフィさんありがとうございます。それじゃあ手当てをしますので、腕を私に向けて伸ばしてください。」

言われた通りにすると、マホはソフィから受け取ったケースの蓋を開けてクリームを指につけた。そしてそれを傷跡に丁寧に塗り込んでいく。多少の痛みがあったが、塗り終わる頃には痛みは引いていた。そしてクリームを塗り終わると、包帯を俺の腕に巻いていた。

「・・・はい!これでお終いです!」

「おぉ、ありがとな。」

「いえいえ・・・所でおじさん、他に隠している事はありませんよね?」

そう言って怪しむ様に俺に視線をぶつけるマホを見て、俺は洗いざらい話すことにした。だって、今のマホに隠し事が通じるとは思えないからな。

「えっと、実は腕に怪我をしたと同時に微量の毒を盛られたんだよ。まぁ効果は一時的な物らしくって、今は何ともないけどな。」

「え、え?!ど、毒って大丈夫なんですか!」

俺の毒という言葉を聞いてマホが慌てた様子でそう聞いて来た。ロイドとソフィも真剣な面持ちで俺の事を見ていた。そんな3人を安心させるために、俺は軽く左腕を回しながらマホの質問に答える。

「あぁ、どうやら本当に微量らしくてな。ほんの数分で効果は無くなったんだよ。
まぁ心臓とかその辺りに打ち込まれたらやばかったけど、腕だから大丈夫だろ。」

何でもない感じでそう言うと、マホは一応は納得した感じでこっちを見た。

「そうですか・・・でも、後でちゃんと検査して下さいね?」

「あぁ分かってるよ。俺も毒攻撃とか初めてだし、多少は不安だからな。」

まさか現実で毒攻撃を受けるとか考えもしなかったからな。ゲームとかだと解毒の魔法があるけど、この世界だとそんな魔法無さそうなんだよな・・・

「ふむ、九条さん。その毒がどこにあるか覚えているかい?」

「勿論。っていうか、塗られてたのはこれだ。」

腕を組んで顎に手をやるロイドの前に、俺はポケットから取り出したハンカチを広げて見せた。するとそこには、俺に刺さっていたトゲがしっかりと入っていた。

「一応持ってきたんだよ。治療する時に必要かもと思ってな。」

「うん、流石九条さんだね。それじゃあこれは、後で救護隊の人に渡しておくよ。」

「よろしく頼んだ。」

俺はトゲをハンカチでもう一度包むとロイドに手渡した。そのすぐ後、俺はロイドの言葉に疑問を感じていた。

「そう言えば、あの会場の方にいる人達って・・・」

俺が視線を向けた先では、数多くの人と馬車が会場の前でせわしなく動いていた。

「あぁ、彼らは街の警備兵と救護隊だよ。どうやら騒ぎを聞いた近隣の住民が連絡してくれたみたいだね。」

「なるほどね・・・あ、そう言えばどうなんだ会場の方で怪我人とかは?」

「幸い客人の中には怪我人は出ていないよ。まぁ護衛部隊と襲撃者の双方で怪我人が出たけどね。ただ命に別条のある物は1人もいないよ。」

「そうか、流石ロイドだな。」

「ふっ、私だけの実力じゃないさ。皆が力を合わせた結果だよ。」

ロイドが爽やかに笑って俺を見た後に、ふと思い出した事があったので、ソフィとマホの事に話しかける。

「そう言えば、シアンとアリシアさんはどうなったんだ?」

「彼女達なら、今は救護部隊の人達に診てもらっている最中だと思います。」

「ふーん、怪我とかはしてないんだよな?」

「はい!ソフィさんが頑張ってくれましたから!」

「ぶいっ。」

マホの言葉を聞いたソフィがVサインをしながら自慢気に・・・まぁほぼ表情に変化はないが、そんな感じで見ていた。そんなソフィの頭を撫でながら、俺は言葉をかける。

「よくやったな。今度なんか欲しい物があったら買ってやるぞ!」

「なら、今度本を買って。」

「おぉ!・・・5、6冊くらいな。」

「おじさん・・・」

「こら、そんな目で俺を見るな。しょうがないだろ、俺も金欠なんだよ。」

俺も個人的に欲しい本とかあって、お財布の中身が寂しい状態なんだよ!だからそんな、残念な人を見る目で俺を見るんじゃない!

「はいはい分かりましたよ。それじゃあ私は何を買ってもらいましょうかねー。」

「え、マホもか?」

「当然じゃないですか!私も結構頑張ったんですよ!道案内とか!」

「・・・まぁそうか。分かったよ、マホの何か欲しい物があったら俺に言え。買える範囲の物なら買ってやるよ。」

「言質は取りましたからね!それじゃあ何を買ってもらいましょう!」

マホは笑顔を浮かべながら、俺に何を買ってもらおうかと考えていた。
・・・何て言うか、これでやっと終わったって感じかな?そう感じて肩の力が抜けた途端、こっちに歩いてくる2つの人影に気が付いた・・・あれは・・・

「エリオさんにカレンさんじゃないですか。」

そう、こっちに歩いて来たのはロイドの両親だった。エリオさんは俺の前に歩いてくると、突然深々とお辞儀をして来た!?

「ちょ、どうしたんですか突然!」

「九条さん、マホさんにソフィさんも・・・今回は事件解決に尽力してくれてどうもありがとう!貴方達のおかげで救われた者が大勢います。無論、私もその内の1人です。」

エリオさんにそう言われた俺達は、戸惑いながら互いの顔を見合わせた。って言うか、俺に関して言えば褒められると物凄い気まずいんだよな・・・はぁ・・・

「あの、お言葉大変嬉しいんですが・・・1つご報告がありまして・・・」

俺はある事を伝える為にエリオさんの前に立ってそう言った。顔を上げたエリオさんはきょとんとした表情で俺の事を見てきた・・・

「おや、どうかしましたか?」

「・・・あの、ですね?実はエリオさんの執務室で戦闘をする事になってしまってですね・・・その結果・・・」

俺はそこまで言うと、エリオさんの前に倒れこむ様に土下座を決める!そして腹から声を出して謝罪をする!

「執務室に置いてある家具などが壊れて使い物にならなくなってしまいました!本当に、申し訳ありませんでしたああああ!!!」

俺は額を地面にこすりつけながら、更に謝罪を続ける!

「執務用の机から始まり、部屋の中央に置かれていたテーブル!更には本棚まで壊れてしまいました!きちんと弁償いたしますので、なにとぞご勘弁おおお!!」

叫ぶようにそう言った俺は、これから言われるであろう言葉に耐える為にギュッと目を閉じる!できればキツイ罵詈雑言は勘弁してほしい!意外とメンタルもろいんで!

「・・・ふふ・・・ははは・・・」

「・・・え?」

少しの静寂の後、突然エリオさんの笑い声が聞こえてきた。何かと思って顔を上げると、彼は口元を押さえて耐えきれないと言った感じの表情をしていた。

「あっはっはっはっは!」

そして最終的に耐えられなくなったのか、大声で笑い始めた!?突然の事に驚いていると、目尻に浮かんだ涙を拭ってエリオさんが俺に笑いかけてきた。

「いやぁ失礼、まさかそんな事で大げさに謝られるとは思いませんでしたよ。」

「え、いや・・・結構な大事だと思うですけど・・・」

「なーに、そんな事は模様替えをしたと思えば何でもありませんよ。さぁそんな所に居ないで立ち上がってください。貴方達は、皆に誇れる事をしたのですから。」

俺はエリオさんに差し伸べられた手を掴んで立ち上がると、小さくお辞儀をした。
な、なんて素敵な人なんだ!俺には無い大人の余裕って物を感じるぜ!・・・何で、俺にはこういう大人としての魅力が無いのだろう・・・人生経験の差か?

「それじゃあ皆で会場に向かいましょうか。ここで立ち話をしていると、連行されて来る侵入者と鉢合わせてしまうかもしれませんからね。」

大人の魅力とは何なのか考えていると、カレンさんがそう言って微笑みかけてきた。そしてその言葉を聞いた俺達は、揃って会場に向かった。

「すまない九条さん、聞きたい事があるのだが良いだろうか。」

中庭にある噴水近くまで来た時、立ち止まったエリオさんにそう言われた。同じ様に立ち止まった俺とエリオさんを置いて、先に皆は会場に向かって行く。まぁ、近いからすぐに合流できるか。それよりも・・・・

「それで、聞きたい事って言うのは?」

「なに、簡単な話しですよ。九条さんがどうしてアリシアさんを助けようとしたのか、その理由を聞きたいんです」

「・・・・はい?」

質問の意図が読み取れなかった俺は、思わず怪訝そうにそう聞き返していた。
いやだって、そんな事を聞く必要があるのか?

「えっと、理由ですか?」

「えぇ。聞いた所によると、アリシアさんは会場の中で貴方に関して大変失礼な物言いをしたそうですね。その様な相手をどうして助けようと思ったんですか?」

・・・なんでこんな質問をわざわざして来たのかは分からないけど、別に答えられない訳じゃないから良いけどさ。

「うーん、助けたいから助けたってだけの話なんですけどね・・・」

「ふむ、それならば脱出した後に応援を呼んで助けても良かったのでは?」

まぁエリオさんのいう事はもっともだ。急いで助け出さずとも、応援を呼んで体勢を整えてからでも良いと思う・・・だけど・・・

「いやぁ、それだと嫌な記憶が残る可能性があるじゃないですか。」

「・・・嫌な記憶ですか?」

「えぇ、嫌な記憶って俺は絶対に消えない物だと思っているんですよね。楽しい思い出を作っても、幸せな時間を過ごしても、ふとした瞬間に蘇って苦しめてくる。それが嫌な記憶です。俺はそういう嫌な記憶を、なるべく持ちたくないんですよ。」

本当、俺の過去の黒歴史的な思い出はふとした拍子にフラッシュバックしてくるからな!それを思い出すと胸の辺りを無性にかきむしりたくなったり、地面でジタバタしたくなるんだよ!だから絶対にそんな記憶は持ちたくない!

「それでは、九条さんが応援を呼びに行ったらその嫌な記憶を持つ可能性があったと?」

「えぇ、確実に。」

「それは、どうしてですか?」

「いや、例えばですよ?俺が応援を呼ぶ為に脱出したとしましょうか。そうしたら、アリシアさんはゴロツキ達がいる部屋に1人きりですよ?絶対に良くない事が起こります。」

「いや、絶対とは言えないのでは?」

「そんな事はありません、あいつらは絶対に酷い事をします!そしてそうなったら、俺はアリシアさんを救えなかったという嫌な記憶を持つことになります!更にシアンに嘘をついたという嫌な記憶もプラスされます!そうなったらもう最悪です!
だから俺は、あの時アリシアさんをすぐにでも救い出す必要があったんです!」

まぁ、実際はそんなにごちゃごちゃ考える暇も無く救出を始めたんだがな。
でも、嫌な記憶を持ちたくないって言うのは本当だ。まぁ小心者ってだけかもしれないがな。

「・・・分かりました。お話しを聞かせてくれてありがとう。」

「いえ・・・でもどうして急にこんな話を?」

「なに、聞きたいと思っている人がいた。それだけの事ですよ。」

そう言ってエリオさんが俺の背後の方に視線を向けた。誰かいるのかと思って見てみたが、特に人影は見当たらなかった。首をかしげていると、会場の方からマホが駆け寄ってきた。

「おじさん、救護隊の人が毒の血清があるから早く来るようにって言ってますよ。」

「お、マジでか。じゃあ行くとするか。」

「ふふっ、すまなかったね長々と。」

「あぁ、いえいえ。」

「ん?所でお二人は何を話していたんですか?」

「いや、何で俺がアリシアさんを助けたのかって・・・」

「え、そんなのおじさんが助けたかったからですよね?」

「うん、まぁそうなんだけど・・・」

まさかこうもハッキリ断言されるとは・・・マジで俺の事を理解しすぎじゃないかしら?

「はっはっは!中々良い関係じゃないか。その関係を大事にするんだよ。」

エリオさんに微笑みかけられたマホが、元気に笑顔を浮かべると大きく頷いた。

「はい!勿論です!」

マホの声が夜空に響く中、事件は収束に向かって行った。商人と雇われたゴロツキ達は護送車でどこか遠くへ連行されて行き、怪我人は救護用の馬車で病院へと運ばれた。招待された客人達は、エリオさんとカレンさんに別れを告げて帰っていった。

俺達はというと、エリオさんが特別に用意してくれた馬車に乗りで街で一番大きな病院へと運んでもらった。そこで治療を受けた俺達は、そのまま馬車に揺られて家に帰って来た・・・

そして風呂にも入らずに自室に戻ると、ベッドに倒れ込んでそのまま眠りについた・・・あぁ・・・この世界に来てから一番しんどかった・・・・もう二度とこんな目には遭いたくねぇ・・・・

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