おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第68話

そいつらは離れた場所で立ち止まると、手を上にあげ光の球を召喚すると、その 明かりで俺達を照らしてきた。突然の光に眩しさを感じた俺とソフィは、警棒を持っていない左手を顔の前に出した。
そんな俺達を見て、何が面白いのかよく分からんが目の前の奴らはニヤニヤしながら話しかけてきた。

「おいおいこんな所でなーにしてるんですかぁ?」

「もしかして、お楽しみの真っ最中だったのかなぁ?」

「だとしたらわりぃ事したな!ぎゃははは!」

大声で馬鹿みたいに笑う連中の声を聞いて、俺の心の中は物凄く荒れていた。
だって俺、こういう奴らが大っ嫌いな陰キャだったんだもの。学生時代は同じ空間に居るのも苦痛だと感じるレベルで嫌いだったね!あぁヤダヤダ!!

陰キャぼっちの俺を弄るだけ弄って、飽きたらポイですよ!金を貸してと言われ断る事も出来ずに貸したけど二度と帰ってこなかったよ!だから嫌いなんだこういう奴らは!・・・てな感じで過去のトラウマが勝手に蘇ってきていると、ソフィが話しかけてきた。

「九条さんどうしたの?怒ってる?」

「まぁ少しな。あいつらのせいで俺の嫌な記憶が自動再生されやがった。」

「嫌な記憶?」

「あぁ・・・こういうのは忘れたって思ってもふとした事で蘇るから厄介だよマジで。」

なんて事を呑気にソフィと話していたら、イライラした様子の連中が威嚇するように大声を出してきた。

「おいおい無視してんじゃねぇよ!お前ら状況分かってんのか!」

そう大声で言った1人が俺達と似た警棒のような物を腰から取り出して、こっちに向けてきた・・・おーおー昔の俺ならチビって財布を置いて逃げ出す所だけど、今となっちゃ平然としていられるわ・・・うんうん、俺も成長したもんだな。
そんな風に自分の成長っぷりに感動していると、ナイフを持った男がイライラしながら静かな声で脅してきた。

「あんま舐めてっと殺すぞ?」

「おいおいそんなビビらせんなよ。おっさんはともかくそこのかわいこちゃんが可哀そうじゃねぇか。なぁ?」

「そうそう。後で俺らが可愛がってやるのに怯えてちゃかわいそうってもんだよな!」

そう言って大声で笑う連中を見て、俺は物凄くイライラしていた。いやぁ、マジで生理的に受け付けないな。しかもこいつら今なんて言った?俺らが可愛がる?誰を?まさかソフィじゃねぇよな。もしソフィに何かしようってそんなふざけた事を考えているなら・・・もう、容赦しなくていいよね?
そう思った俺は、ニッコリ微笑みながらソフィに話しかけた。

「ソフィ。こいつら潰すぞ。」

「うん、分かった。」

そう即答したソフィの姿が一瞬にして消えて、俺達にナイフを向けていた奴の目の前に現れた。

「は?ぐわぁ!」

突然ソフィが目の前に現れ驚いたソイツは、一瞬の内に持っていた警棒を叩き落とされると顎を殴られて前のめりに倒れこんでいった。おぉ、流石闘技場の王者だ。 目にも止まらぬ早業ってこういう事を言うんだろうなぁ。

なんて考えていたら、呆気に取られていた残りの二人が慌てた様子で腰から武器を取り出した。その光景を見た俺は、持っていた警棒を男の顔面に向けて投げつけるとそれと同時に走り出す!
風の魔法によりスピードを増していた警棒をかわす事が出来ず、男は顔面で警棒を受け止めて後ろに倒れていった。

「てめぇ!」

それを真横で見ていた最後の一人が凄い形相を浮かべ叫びながら、迫りつつある俺に警棒を振り下ろしてきた・・・それを身をかがめつつ半歩横にずれてかわした俺は、叫ばない様に男の口元を左手で抑え込み全身に電撃を放った!
あぁ可哀そうに!叫ぶことも出来ない男は全身を痙攣けいれんさせながら白目をむくと、ばたりと力が抜けて倒れてしまった。
・・・戦闘が終わりしばらく周囲の音に耳をすませていたが、増援が駆けつけて来る物音は聞こえてこなかった。

「・・・ふぅ、これで一段落か・・・とりあえず拘束するぞ。」

「了解。」

俺達は倒れている連中の手足に拘束バンドを使うと・・・とりあえずトイレの中に放り込んで身体検査を始めた。

「さてさて、何か良い物持ってるかなー・・・お、こいつらも魔法通信機器もってるのか。魔石は・・・うん、ちゃんと光ってるし使えるっぽいな。ただ、使ったら色々面倒そうだけどな。」

「うん。迂闊に使うのは危険だと思う。」

「だよな・・・でも、これが使われたら俺達にも何か情報が入るかもしれないし、 一応持っていくとするか・・・さてと、後は何かあるか?」

それから身体検査を続けていたが、めぼしい物は大して見つからなかった。持っていた装備も俺達が持っている警棒と似たような物だし、身につけている装備品は前に襲ってきた奴らと同じって事は分かったんだが、それ以上の情報は得られなかった。

「さて。これ以上は何も見つからなさそうだし、マホ達と合流して脱出するか。」

「分かった。こいつらはどうする?」

「まぁ、しばらくは気絶してるだろうから放置で良いだろ。でも、最後に・・・」

そう言った後に、俺は気絶している奴らに手を向けて電撃を浴びせた。そうしたら全員が無言のままビクンビクンしていた。それを見た後に俺達はマホが隠れた部屋の扉の前に行き、静かにノックした。すると中からマホの警戒した声が聞こえてきた。

「お、おじさんですか?」

「あぁ、やってきた奴らは襲われる前に倒したから出てきて平気だぞ。」

俺がそう言うと静かに扉が開かれて、不安そうな表情をしたマホとシアンが出てきた。ただ俺達の姿を見ると、2人は安心して笑顔になっていた。

「はぁ・・・おじさんとソフィさんが負けるとは思っていませんでしたが、無事で良かったです。」

「ははっ、そこまで信じてもらえると嬉しいよ。ありがとな」

そう言って笑顔を浮かべながら、俺はマホの頭を優しく撫でた。その後に、ソフィも無言でマホの頭を撫でていた。

「えへへー・・・」

マホは撫でられながら嬉しそうに笑顔を浮かべていた。そんなやり取りをしている俺達を見て、シアンは穏やかに笑って話しかけてきた。

「ふふっ、こんな状況なのに皆さんは落ち着いているんですね。」

「まぁ、こういう時に焦ってると危険なフラグがバンバン乱立するからな。」

「フラグ・・・ですか?」

「あれ、シアンちゃん知らないですか?フラグって言うのはですね」

ソフィに存分に撫でられ終わったマホが、楽しそうに笑いながらフラグについて説明をしようとした。だけど俺はその話を遮るように、小さく手を叩いた。

「はいはい。そう言うのはここを無事に出てから説明しろ。」

「脱出はどこからする?」

「そうだな・・・とりあえず玄関ホールに戻るぞ。侵入者が少なければ倒して脱出する。」

俺がそう提案すると、全員が静かに頷いた。それからすぐに行動を開始したが、この後がまた面倒だった。階段近くにも侵入者がいたし、そいつらを静かに仕留めた後に向かった1階にも侵入者がいた・・・ったく、こいつらどっから湧いて来てんだ!
そんな事を考えながら、俺達は玄関ホールまで向かって行った・・・さて、無事に脱出できると良いんだがな・・・

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