おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第67話

俺は激しく動く心臓を抑え、壁に手をついて息を整えていた・・・いや、決して俺がマホにドキドキしすぎてそうなっている訳じゃない・・・じゃあ何故そんな事をしているかと言うと・・・

「はぁ・・・はぁ・・・つ、疲れた・・・」

だって、トイレの場所がメチャクチャ遠すぎたからな!まず屋敷に入って長い廊下を全力疾走!その後は2階に続く階段を駆け上がり、今度は入って来た方向にまたもや長い廊下を全力疾走!
その途中で実は男子トイレと女子トイレがある事が発覚し、またもや逆方向に全力疾走!そして・・・階段を通り過ぎてしばらく行った辺りに、女子トイレを発見したという訳だ・・・!

「おじさん、女子トイレの前でハァハァ言っていると下手したら捕まっちゃいますよ?」

マホは息を整えている俺を見て、首をかしげながらそう言ってきた・・・!

「お前な・・・俺の頑張り・・・見てなかったの・・・?」

「いえいえ!間近で見ていたに決まっているじゃないですか!おじさん凄く早くてとっても楽しかったです!」

「・・・そりゃどうも・・・はぁー・・・」

楽しそうに笑っているマホを見て、俺は壁に手をついてわき腹を抑えながら大きく息を吐いた・・・だって小さい女の子とは言え1人の・・・妖精?を抱えて全力疾走だぞ?そりゃ息も絶え絶えになるってもんだろう・・・
まぁ、ソフィは俺と違って息1つ乱してないけどな・・・やっぱり普段から鍛えてる奴とは体力が違うな!・・・絶対に年齢の差ではないはずだ!

「すみません、お待たせしました・・・って、九条さん大丈夫ですか?」

トイレから戻って来たシアンが心配そうな声でこっちに近寄ってくると、下から俺の顔を覗き込んで来た。

「あ、あぁ余裕余裕・・・よっこいしょっと・・・」

俺は無理やり笑顔を作ると、壁をグイッと押して体を起こした。そして、口元に指を向け魔法を使って水を飲み一息つく。

「ふぅ・・・じゃあ会場に戻るとするか。」

「はい!そうですね!」

マホの元気な返事を聞いて、俺達はゆっくりと階段のある場所まで戻って行く。 と言うか、夜の屋敷って何だか雰囲気怖いな・・・まるでホラーゲームの舞台みたいだな・・・なんて事を思いながら階段の前に辿り着いた・・・その瞬間。

「・・・あ、悪いけどトイレに行ってくる。どうも走って汗をかいたせいで体が冷えたっぽい・・・」

「なるほど、分かりました!私達はここで待ってますね!良いですか?」

そう言ってマホはソフィとシアンの事を見た。2人は特に反対もせず、同時に小さく頷いた。

「うん、大丈夫だよ。」

「問題なし。」

「じゃあ、行ってくる。」

俺は3人と階段の前で別れ、廊下の奥の突き当りにある男子トイレへ小走りで向かった。無事にっていうか普通に間に合った俺は、用を済ませるとハンカチをくわえて手を洗っていた。
それにしても、トイレ一つとっても広くて綺麗だよなぁ・・・流石っていうか何と言うか・・・俺はハンカチで手を拭きながらトイレを見渡しそう思っていた。
その次の瞬間!ドォン!!という爆発音が外の方から聞こえてきて衝撃でトイレの中が揺れた!

「な、何だ?!」

突然の事に驚いた俺は急いでトイレから出て行き、廊下の突き当りにある窓から中庭の方を見てみた。すると、遠くの方かで黒煙が上がっているのが見えた!それを見て呆然としていると、腰につけた魔法通信機器からザーザーというノイズ音と共に人の声が聞こえてきた。

『緊急事態発生!緊急事態発生!街道に停車してあった馬車が爆発しました!繰り返します!街道に停車してあった馬車』

魔法通信機器を手に持って詳しい事を聞こうとした瞬間、今度は廊下の灯りがパッと消えた!それと同時に、魔法通信機器の声がブツンと途切れてしまった。

「こ、今度は何だよ!?」

突然の事に焦りながら灯りが復旧するのを待ったが、一向に戻る気配はなかった。
それに、魔法通信機器・・・あぁ!長いんだよ名前が!通信機も全然反応する気配がない。

こちらから呼びかけたり、振ったり叩いたりしてみたがそれでも動かなかった。 通信機に組み込まれた魔石を確認すると、魔力を宿し淡く光っていたはずの魔石はその光を失っていた。

「おいおい、まさかこれって廊下の灯りが消えたのと同じ理由か?」

独り言の様にそう言った瞬間、頭の中で嫌な想像がどんどん膨らんでいった。  いやいやそんな!ねぇ・・・?こんなタイミングでまさかねぇ!・・・軽く現実逃避をして窓の外を見ていると、背後から誰かが走って来る足音が聞こえてきので警棒を手に、急いで振り返る!

「おじさーん!大丈夫ですかぁー!」

振り返った先にいたのは、こっちに走って来るマホとソフィとシアンだった。俺は安堵のため息を吐き、警棒から手を離して近寄って行く。

「あぁ、大丈夫だ。そっちは?」

「大丈夫。それより何があったの。」

「いや、俺も詳しい事は・・・」

「あ、あれなんですか!?窓の外で煙が上がってますよ!」

「えぇ?!そんなまさか!」

シアンが窓の外を見ながら興奮した様子でそう言うと、それを聞いたマホは窓に駆け寄って行った。そんな2人を見ながら、ソフィは真剣な表情を浮かべて俺に話しかけてきた。

「・・・これ、問題発生って事だよね。」

「あぁ、そうだな・・・」

(皆!聞こえるか!)

ソフィと話していると、突然頭の中に焦ったロイドの声が聞こえてきた。その声が聞こえた俺達は、真剣な表情を浮かべ返事をした。

(あぁ、聞こえてるよ。)

(私も聞こえてます!)

(問題なく。)

(はぁ、良かった。会場の中にも外にも姿が見えないから心配していたんだ。一体どこに居るんだい?)

(俺達は屋敷の2階廊下の突き当りだ。そこの窓から外を見てる。てか、一体何があったんだ?さっきの爆発音は?確か街道の馬車が爆発したって・・・)

(えぇ?!そ、そうなんですか?)

(あぁ、九条さんの言う通りだ。街道に止めてあった無人の馬車が爆発した。幸い、怪我人はいないが招待客が混乱状態だ。今、急いで会場内に避難誘導している。  皆も急いで戻って来てくれ。そっちには3人だけか?)

(いえ!シアン・ペティルと言う女の子が一緒です!)

(シアン・ペティル?もしかして、アリシアさんの妹さんか?)

(はい!だからもし、アリシアさんに会ったらそう伝えてください!)

(分かった、それじゃあ気を付けて。)

(そっちも気を付けて。何が起こるか分からないから。)

(あぁ、分かっている。)

そう言ってロイドの声は聞こえなくなった・・・ロイドとの会話に集中していると、シアンが俺達を見て不安そうな表情を浮かべていた。

「あの・・・皆さん大丈夫ですか?急に黙っちゃいましたけど・・・」

「あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと急な事におろおろしてただけだからな!」

俺がそう言った瞬間、マホがジト目で俺の事を見てきた・・・な、何だその目は!

「おじさん・・・それは大人として恥ずかしくないですか?」

「う、うるさい!大人だって狼狽える事くらいあるんだよ!」

「まぁ、おじさんは女の子相手だと無条件で狼狽えますけどね。」

「ちょ、そう言う事を言うの止めてくれる?さ、最近ではそんな事も減ってきてるし!」

「はいはい。嘘ついてないで会場に急いで戻りますよ。」

「おい、嘘って決めつけるの早くね?もう少し信頼してくれても」

「・・・ふふっ、お二人はとっても仲良しなんですね。」

マホとくだらないやり取りをしていると、シアンがおかしそうに笑って俺達を見てそう言った。その言葉を聞いて、マホは腰に手を当てドヤ顔をしていた。

「えぇ!だって私とおじさんは信頼し合っている相棒ですからね!勿論、ロイドさんとソフィさんも大切な仲間です!」

そう言ったマホを見て、ソフィは口元に笑みを浮かべていた。

「ありがとう。私もマホを大事な仲間だと思ってる。」

「まぁ、否定はしないけどな・・・」

後頭部をさすりながら、若干恥ずかしさを覚えた俺はマホから視線をそらしてそう言った。そんな俺達を見ていたシアンの明るい声が聞こえた。

「ふふっ、羨ましいな。私も皆さんとそんな関係になりたいです。」

シアンがそう言うと、マホがムッとした表情をしてシアンの手をギュッと握って話しかけた。

「何を言ってるですか!シアンちゃんと私達はもうお友達です!ですよね?」

そう言って俺達を見るマホを見て、ソフィは静かに頷き、俺は苦笑いを浮かべた。

「うん。シアンさえ良ければ。」

「まぁ、こんなおっさんと友達になりたいって思ってくれるならって感じかな。」

俺とソフィにそう言われたシアンは、笑顔を浮かべて俺達を見た。

「は、はい!よろしくお願いします!」

嬉しそうに笑うシアンを見て、何とも温かい空気が流れた・・・その次の瞬間、 優しく笑っていたソフィが真剣な表情を浮かべてバッと振り返った。

「どうした?」

「・・・誰か来る。」

「え?誰かって・・・」

ソフィの言葉を聞き、俺は暗い廊下の奥を見た。すると幾つかの人影がこっちに近づいて来ていた。

「・・・マホ、シアン。少しだけその部屋の中に入ってろ。」

俺は警棒を抜き取り、静かな声でそう言った。その隣で、ソフィはスカートの中から警棒を取り出した。

「わ、分かりました。来てくださいシアンさん。」

「え、え?でも、お二人が・・・」

「大丈夫です、お二人なら。さぁ。」

そう言ってマホはシアンさんの手を引いて、すぐ横にある扉を開けて中に入っていった・・・・はぁ、マジですみません。勝手に使用人さんの部屋を使わせてもらいますね・・・そう思った矢先、廊下の奥から武装した3人組がやって来た。

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