おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第65話

グラス片手に会場内を眺めていると、ソフィが食べ物をちょいちょい食べながら歩いているのが見えた。

「おーいソフィ。」

俺は片手を振りながら、ソフィに向かって少し大きめの声で話しかけた。すると、ソフィが俺に気づきこっちに向かって歩いて来た。

「ここに居たんだ。」

「あぁ。悪かったな、先に会場に入ってて。」

「ううん。大丈夫。それよりも美味しい料理を発見した。今度作って。」

ソフィの言葉に思わず笑みを浮かべながら、俺は小さく頷いた。

「はいよ、ロイドにレシピを貰ったらな。」

「うん、よろしく。・・・マホは一緒じゃないの?」

ソフィが周囲を見渡しながらそう聞いてきた瞬間、タイミングよくマホが姿を現した。そして俺達に気が付くと、小走りでこっちにやって来た。

「ソフィさん!合流出来たんですね!」

「うん、何とか。マホは何か食べて来たの?」

「はい!実は美味しいクッキーがあったんです!それを食べてきました!」

「それって、真ん中にチョコがあるやつ?」

「そうです!もしかして、ソフィさんも食べましたか?」

「うん。美味しかった。」

「ですよね!おじさん、今度作ってください!」

「はいはい分かったから少し落ち着けって。」

マホとソフィのやり取りを見ながら苦笑いを浮かべていると、前の方から2人の女の子が姿を現した。

「あら、もしかして九条様達ではありませんか?」

そう言って驚いたような表情をしていたのは、派手だが綺麗なドレスを着たリリアさんと・・・

「あ、確かにリリアさんの言う通りですね!」

清楚で品のあるドレスを着たライルさんだった。2人は俺達に気が付くと、静かに歩み寄って来ると話しかけてきた。

「どうもこんばんわ。九条様、マホさん、ソフィさん。まさかこの場所で会えるとは思いませんでしたわ。」

「まぁ・・・それはそうだろな。俺達、別に貴族でも大きな店を持つ商人でもないからな。あぁ先に説明しておくと、俺達がここに来たのはエリオさんに招待状を貰ったからだ。この服と2人が着てるドレスもな。」

俺はそう言って自分の襟元を持ち、マホとソフィのチラッと事を見た。その説明にリリアさんは特に驚いた様子も無く平然としていた。

「そう言う事でしたら納得ですわ。エリオ様もカレン様も、ロイド様に似てお優しい方達ですからね。」

「あはは・・・優しいの度合いが凄すぎる気もしますけどね・・・だって九条さんが着ている服や、マホちゃんとソフィさんが着ているドレスって、どれも一級品ですから。」

ライルさんのその発言を聞いて、俺は心臓がドキッとした!・・・トキメキではなく恐怖でな!

「えっと、一級品ってどれくらいの値段が・・・?」

俺が恐る恐ると質問すると、リリアさんは何でもないような顔で普通に質問に答えた。

「そうですわね。一着で5,60万Gくらいでしょうか。」

「ごっ!」

あまりの衝撃に言葉を詰まらせ、俺は自分の着ている服をマジマジと見た。え、これって闘技場で王者を倒したのと同じ値段するの?それが・・・3着・・・?絶対に汚せないし傷1つ残せない・・・!
俺は拳を強く握りながら、改めて決意を固めていた。その時、ふとライルさんの発言で気になった部分があった。

「あの、ライルさんってソフィと知り合いなんですか?さっき普通に名前を呼んでましたけど。」

「あ、はい。実は先日、リリアさんがマホちゃんとソフィさんとお買い物している所にバッタリ出くわしまして、その時に自己紹介をさせてもらいました。」

「うん。私も自己紹介をした。」

2人はそう言って顔を見合わせた後、俺の事を見てきた。

「あぁなるほど、そういう事だったのか。」

俺がライルさんの説明に納得していると、突然リリアさんが周囲をキョロキョロしだした。そしてそのままの状態で話しかけて来た。

「と、所で・・・ロイド様は何処いずこにいらっしゃいますの?折角ですから、ロイド様の麗しい姿を拝見したいのですが・・・!」

リリアさんが若干鼻息を荒くしながらそう尋ねてきたので、俺は若干焦りながら会場の外の方を見た。

「え、えっと・・・ロイドならさっき外で女の子達と話してましたから、多分そろそろ来るんじゃないかと・・・」

そう言った瞬間、会場内にいる人達がざわッとして会場の出入り口を見た。何事かと思ってそっちを見たら、ロイドが会場に入ってくるのが見えた。まぁ、あんだけ美人だったら全員の目を引くか・・・特に・・・

「あ、あぁ!何てお美しいんでしょうかロイド様!この目にしっかりとぉ、焼きつけなくては!」

「そ、そうですね!私もしっかりとまぶたに焼き付けます!」

ここにいるロイドファン2名の視線を・・・って違う!周囲にいる女の子も同じ様な視線を奪われてる!そんな周囲の状況に若干驚いていると、突然女の子の高笑いが聞こえてきた。

「おーっほっほっほっほ!おーっほっほっほっほ!」

何事かと思って声が聞こえた方を見たら派手な服を着た茶髪の若いイケメンと、金髪ロングで毛先がロール状になって派手なドレスに派手な扇子の様な物を持った勝気そうな女の子が手の甲を口元に当て笑っていた!・・・・え?女の子の情報の方が多い?当たり前だろうが!男の情報とかどうでもいいわ!

・・・あまりの衝撃にそんな事を考えていると、いつの間にか隣に来ていたマホが俺の袖を何度も力強く引っ張りながら興奮した様子で話しかけて来た。

「み、見てくださいおじさん!お嬢様です!典型的なお嬢様がいますよ!凄いです!物凄く派手ですね!うわぁー!いるんですねあんな典型的なお嬢様!私、本の挿絵でしか見た事ありませんよあんな派手なお嬢様!しかも隣には王子様みたいな恰好をしたイケメンがいますよ!」

「いや、ちょ、そんなに袖を強く引っ張んなって!ソフィも無言で引っ張るの止めてくれる?!」

マホと同じ様に静かに興奮した様子のソフィが、俺の袖を引っ張りながら派手なお嬢様の事をジッと見ていた。そのお嬢様は高笑いを止めた後、ツカツカと勢いよくロイドに近づいていった。

「はぁー・・・まさか彼女がこのパーティーに参加しているだなんて・・・」

その様子を見ながらリリアさんは深いため息を吐き、額を抑えて首を横に振っていた。ライルさんはそんなリリアさんを見て、ただただ苦笑いを浮かべていた。

「えっと、2人はあの人の事を知ってるのか?」

「えぇ一応は・・・まぁ聞いていればどういう人物か分かりますわよ・・・」

「あ、あはは・・・」

「え、どういう事?」

俺がリリアさん達に向かってそう言った瞬間、お嬢様が物凄く大きな声でロイドに話しかけ始めた。

「お久しぶりですわねロイドさん!この私『アリシア・ペティル』を覚えておいでかしら!」

お嬢様の質問に、ロイドは爽やかに微笑みながら言葉を返した。

「あぁ、勿論覚えているよ。同じ王立学園で学び合った学友を忘れるはずがないだろう?」

「が、学友ではありません!私達はライバルですわよ!」

「ふふっ。確かにアリシアさんとはいつも競い合っていたから、ライバルと言えるかもしれないね。」

「言えるかもしれないじゃなくて、紛れもなくライバルですわ!」

そう言って、お嬢様はビシッとロイドに指を突きつけた。その後ろで、イケメン野郎はにこやかに微笑んでいた・・・だけどあいつの笑顔何か気に入らねぇな・・・・まぁ良い、それよりも。

「・・・王立学園?ライバル?」

初めて聞いた言葉や、突然のライバル発言を聞いて俺は思わず小さな声でそう呟いていた。その瞬間、袖がグイッと引っ引っ張られたので何事かと思ったらマホがとても良い笑顔を浮かべ俺の事を見ていた。

(じゃじゃーん!久しぶりにチュートリアル的な説明をさせて頂きます!)

(・・・王立学園についてか?)

(はい!この世界では結構常識的な事なので、一応こっちで説明させてもらいますね!)

(あぁ、心遣いありがとよ。それじゃあ手短に頼むな。)

(了解です!王立学園とは文字通り王国に設立されてる学園で、貴族や裕福な家庭の子供が通う学園です!以上!)

(・・・うん、要望通りの手短さで助かるよ。)

(えへへー、もしも詳しく知りたかったら、また聞いてください!まぁ、簡単な事しか説明できませんが。)

(はいよ。)

マホに王立学園の事を教えてもらった後、俺はお嬢様が言った事が気になったのでリリアさんに聞いてみた。

「なぁ、さっきあの子が言ってたライバル発言なんだけど・・・本当なのか?」

俺の質問に、リリアさんは呆れた様な表情をして答えてくれた。

「いえ、あれは彼女が自称しているだけですわ。だってアリシアさん、成績も武術もロイド様に勝った事ありませんから。特に彼女は武術に関して全くと言っていいほど才能が無くて、いつも補習を受けていましたのよ。」

「そうなのか?じゃあなんでロイドは否定しない・・・ってする訳ないか。」

「えぇ、お優しい方ですからね。って、そんな事より少し失礼させて頂きますね。」

そう言ってリリアさんは、人をかき分けてロイド達の元へと向かった。そして2人の間に割って入ると、腕を組んでアリシアさんの事を見た。

「どうもお久しぶりですわ、アリシアさん。」

「あら、リリアさんじゃありませんか!お久しぶりですわね。貴女も来ていたなんて驚きですわ!」

「それはこっちの台詞です。今までこのパーティーに参加した事ありませんでしたよね?どう言う風の吹き回しですか?」

「あら失礼。実は今日は、私の未来のビジネスパートナーをロイドさんにご紹介しようと思って来ましたの。」

「・・・未来のビジネスパートナー?」

リリアさんがいぶかし気な表情をしながらそう言った瞬間、イケメン野郎が一歩前に出て来た。

「どうも初めまして。俺の名前は『タム・クロフ』だ。以後お見知りおきを。」

そう言って、イケメン野郎は無駄に長い前髪をファサっとかき上げた。すると女の子の歓声がどっかから聞こえて来た・・・チッ!何だテメェそれはロイドの真似か?お前がやるのとロイドがやるのじゃ月とスッポンの差があるんだよ!テメェがスッポンだ馬鹿野郎!

「ちょ、おじさん。抑えて押さえて。顔が怒りに満ちすぎです!」

「どうどう。」

2人になだめられ仕方なく怒りを鎮めた俺は、黙って事の成り行きを見守る事にした。

「彼は王国では名の知れたお店の御曹司なんですの。いずれはその後を継いで、正式なビジネスパートナーになりますのよ。」

「ははっ、そこまで有名なお店じゃないよ。年収もせいぜい1000万G程度だからね。」

何だこの野郎、謙遜するふりして自慢かこの野郎!そんだけ稼いでんのはお前じゃなくて親だろうがぁ!何を自慢げに話してんだゴラァ!てかキャーじゃないんだよ周りの女子!結局は金か?金なのか!

「はーいどうどう。」

「すてい。」

「な、何だか九条さんから負のオーラが溢れ出しています・・・!」

俺は腰につけた警棒を握りしめながらイケメン野郎を睨む!そんな視線に気が付いたのか、ロイドとリリアさんがチラッと俺の事を見た気がした。

「はぁー・・・それで?わざわざそのご立派な未来のビジネスパートナーを紹介する為に、パーティーに参加したんですか?それならもう要件は済みましたわよね?失礼ですが、ロイド様はこれからお仲間の方と合流しますので。」

リリアさんが呆れながらそう言った瞬間、イケメン野郎がやれやれ・・・みたいな感じで肩をすくめた。

「それって、もしかしてあの冴えないおっさんの事を言っているのかい?」

「「「・・・は?」」」

・・・イケメン野郎がそう言った瞬間、俺の両隣の気温が一気に下がった気がした・・・って言うかあの、ロイドの笑顔も固まったんですけど・・・あ、あれ?おかしい・・・体が震えるぞ?不思議に思ってライルさんを見たら、怯えた表情でこっちを見ながら後ずさっていた・・・待って!俺を置いて逃げないで!
そんな俺の願いも叶わずライルさんは徐々に離れていき、イケメン野郎は更に話を続けた。

「何と言うか、さっきチラッと見かけたけどあれはないね。服は高級そうだけど中身が冴えない感じ丸出しだもの。あれは服が泣いているね。外見ばっかり取り繕っても、中身があれじゃ服が可哀そうだ。」

うん、君の人を見る目は確かだ。だが空気を読む力が足りないんじゃないかな?!お前が何か言うたびにマホはお前に突っかかって行きそうだし、ソフィは隣で警棒を握りしめたまま動かないし!あぁ、ライルさんがあんな遠くに!
俺はマホの腕を引っ張りながら、ソフィの前に立って必死に牽制する!

「それにあの方、年齢の割にはレベルが低いって聞いてますわよ。タムさんは私達とそんなに年齢は変わりませんが、レベルは既に20になっています。まさか、このレベルにも達していないなんて事はありませんわよね?」

そう言って、アリシアさんは小馬鹿にする様に笑みを浮かべていた。・・・すいません。ついこの間レベル15になったばかりです。だからもう勘弁してくれませんかね?・・・そんな願いも虚しく、タムは更に続けた。

「まぁ、ここまで達していないとしたら実力もたかが知れてるって事だな!どうだい?そんな役に立たない奴を外して俺を仲間にしてみないかい?絶対あんなおっさんよりも役に立つ自信あるよ?」

「もうタム様ったらご冗談が過ぎますよ!未来のビジネスパートナーを差し置いて勝手に話を進めないでください!それに、あの方とタム様では釣り合いませんわよ!」

アリシアさんがそう言った瞬間でした、ロイドが満面の笑みで瞳をゆっくりと開いたんです。えぇ、ちっとも笑っていない瞳を・・・それを見た瞬間、タムさんとアリシアさんの表情が強張った。そりゃそうだろ。あれを真正面から見たら誰だって恐怖する。

「ふふっ、面白い事を言う人だ。一体、誰が、役に、立たないって?」

そう言って、ロイドはゆっくりと笑顔を崩さずに2人に近づいていった。

「え、あ、いや」

「さぁ、もう一度。私の目の前で同じ事を言ってくれるかな?」

・・・その後アリシアさん泣き声にも似た高笑いをしながら、タムさんと逃げる様に会場の外へと出て行った。その後ろ姿を確認した後にロイドは大きく息を吐くと、苦笑いを浮かべながら会場内を見渡した。

「あはは、お騒がせしてすみませんでした。彼女は少々言いすぎてしまう所があるので、そこがちょっとイケない所ですね。彼もきっと、パーティーと言う事で少しだけ気分が高揚していたんでしょう。外の冷たい風にあたって、ちょっとだけ冷静になってくれたら嬉しいですね。」

ロイドが冗談めいた感じでそう言うと、会場内にほがらかな雰囲気が戻り始めた。するとそのタイミングを見計らったかの様に会場の奥から数人の執事さんが現れて、会場内にある小さなステージに椅子を並べ始めた。
その次に楽器を持った人たちが現れて、椅子に座ると優雅な曲を演奏し始めた。そのおかげで、さっきまでの張り詰めた雰囲気は完全に無くなってくれた。

「やぁ、待たせたね。」

そう言って、ロイドが爽やかな笑顔を浮かべて戻って来た。リリアさんはと言うと・・・

「し、死ぬかと思いました・・・」

「・・・お疲れ様でした。」

ライルさんに肩を優しく抱かれ慰められていた・・・全く・・・

「おい、ロイド。お前何やってんだよ。危うくパーティーが台無しになる所だぞ?」

「あぁ、すまない。ついね。」

「ついってあのなぁ・・・」

俺は後頭部をさすりながら、何とも言えない表情をしてロイドの事を見た。

「おじさん!ロイドさんはおじさんの為に怒ったんですから、怒っちゃだめですよ!」

俺の顔を見て、マホがムッとした表情を浮かべ両手をグッと握りしめながらそう言ってきた。

「うん。ロイドがああしてなかったら、私があいつの意識を刈り取ってた。」

「ちょ、怖い事言うなよ・・・」

ソフィはとても冷静にそう言ったので、俺は若干顔を引きつらせていた。

「いやいや!と言うかおじさんは、どうしてこう言う事に関しては怒らないんですか!?格好いい人が格好つけると怒るのに!」

「いや、それに関してはムカつくからとしか言いようが無いんだが・・・・俺に関しての事に怒らないのは・・・まぁ、俺より先に怒ってくれる奴がいるから別に良いかなって思ってな。」

俺はそう言いながら苦笑いを浮かべ、マホの頭に手を置いた。そしてさっきまで怒っていた皆の顔を見渡す。

「むぅ・・・そう言う物ですか・・・」

「そう言う物ですよ。」

俺は未だに納得行っていない感じのマホの頭を撫でながら、小さく笑みを浮かべていた。本当に、俺の為に怒ってくれる奴なんて良い奴らだよな。
そんな感謝の気持ちを抱いていると、不意に服の袖が引っ張られた。

「ん、どうしたソフィ・・・」

「・・・どうしたの?」

そう言って横を見ると、ソフィは少し離れた場所に立って首をかしげていた・・・え、じゃあ俺の袖を引っ張ってるのは・・・?
疑問に思い反射的に下を見て見ると、そこには金髪ロングで10歳くらいの小さな女の子が俺の服の袖を引っ張っていた・・・え、どこの子?

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