おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第60話

カームさんが扉を開き、部屋の中が見えたんだが・・・何この広さ?俺の家の1階を全部ぶち抜いたレベルなんですけど・・・いや、それ以上なのか?もう、凄すぎて考えるのが面倒になって来たな・・・

「さぁ、どうぞ中へお入りください。」

軽く現実逃避をしていると、部屋の奥に座っている男性がそう言ってきた。あの髭の生えた黒髪で眼鏡をかけた渋い人がロイドの父親だろうな。多分、俺よりかなり年上だと思う。っていうか後ろにある扇形の窓がデカいな・・・
その隣に立っている、金色の長い髪をした美しい女性がロイドの母親かな?・・・見た目が若くてロイドのお姉さんって言われても違和感ないけど・・・

「さぁ九条さん、行こうか。」

「あ、あぁ・・・」

ロイドは爽やかに笑いながら部屋の中へ入っていった。俺もその後に続き、部屋の中に入っていく。

「それでは、私はこれにて失礼させていただきます。」

「あぁ。案内ご苦労、カーム。」

後ろの方を振り返ると、カームさんが扉を閉めて行ってしまった。俺は改めてご両親の方へ向かいながら部屋の中を見てみたのだが、もう流石貴族様としか言いようが無いな。

部屋の中央には背のソファーと背の低いテーブルが置いてあるのだが、これは確実に高級品だろうな。それに壁にかかっているよく分からない絵も高いだろうしってか、部屋にある家具全部が高そうに見えてしょうがないんだが!?何か1つでも傷を付けたら俺の人生が終わる気がする・・・!なので俺は慎重になりながら歩いていく。そしてロイドの両親の前に着くと、俺は背筋を伸ばし挨拶をした。

「は、初めまして!九条透と申します!」

ぐっ、あまりの緊張のせいで無駄に大声になってしまった!だがそんな事を気にする様子もなく、ロイドの親父さんは微笑みながら自己紹介をしてくれた。

「初めまして。私はロイドの父親でこの街を取り仕切っている貴族の当主で
『エリオ・ウィスリム』と言います。今日は来てくれてどうもありがとう。」

そう言った後、エリオさんは隣に立っている女性を見た。女性はエリオさんの視線に気づくと、笑顔で俺を見て自己紹介をしてくれた。

「どうも初めまして。ロイドの母の『カレン・ウィスリム』です。九条さんのお話しはロイドから良く聞いていますよ。」

あぁ、やっぱりロイドの母親だったか。って、それよりも俺の話?

「えっと、それはどんな内容でしたかね?」

俺は隣に立つロイドをチラッと見ながらそう聞いた。ロイドは俺の視線を感じたのか、こっちを見るとニコっと笑って俺を見た。はぁ・・・余計な事は言ってないだろうな?まぁ言われて困る事なんて・・・・ちょっとしかないが。

「ふふっ。とても頼りになる素敵な人で、一緒にいると毎日が楽しいと言っていましたよ。」

「そ、そうですか・・・」

俺は内心恥ずかしくなり、ロイドから視線を外した。そんな俺を見て、ロイドとカレンさんはくすくすとおかしそうに笑っていた。何と言うか、笑い方とか本当に似てるよな・・・

「それに、他にも色々と聞かせてもらっていますよ。」

うわぁ・・・ロイドが俺をからかおうとしている時と雰囲気が凄い似ている!俺は嫌な予感を感じながら、カレンさんに尋ねてみた。

「へ、へぇ・・・どんな事をお聞きになったんですか?」

「ふふふっ、それは後でのお楽しみという事で♪」

「は・・はは・・・」

俺は苦笑いを浮かべながら、隣に立っているロイドを見る。うわぁ、こっちもこっちで似たように笑ってる・・・もしかして、ロイドのからかい好きはカレンさんの影響か?そう思っていたら、エリオさんがわざとらしい咳ばらいをした。

「うぉっほん。楽しい会話の途中で悪いが、今は本題に入ろうじゃないか。」

「本題・・・昨夜の事ですね。」

「えぇ。報告書は読ませてもらいましたが、実際に九条さんがその目で見て、聞いて、体験した事を改めて教えて欲しいんです。」

エリオさんは真剣な表情で俺にそう聞いて来た。・・・しょうがない、この母娘が気にはなるが今は話をするとしよう。

「・・・分かりました。報告書の内容と大して変わらないかもしれませんが、改めてお話しさせていただきます。まず最初に起こったのは・・・」

それから俺は昨夜に起きた事を一から説明した。停電が起き、玄関から物凄い音が聞こえ、侵入者が襲ってきてそれを撃退した。エリオさんは俺の話を聞きながら、報告書を見ていた。そして俺が話し終えると、報告書から目を離し優しく笑いながら俺を見た。

「ありがとう九条さん、初めから詳しく話してくれたおかげで状況がよく分かったよ。」

「いえ、その為に来ましたから。」

俺がそう言うと、エリオさんは考え込むようにしてもう一度報告書を見た。その時、隣にいたロイドがエリオさんに話しかけた。

「父さん。実は気になる事があるんだが、良いかな。」

「ん、どうしたんだ?」

「昨夜の事件だが。少し前に父さんが手を貸したって言う事件とは繋がりは無いのかい?」

ロイドがそう言うと、エリオさんは少し驚いたような表情をしていた。・・・これは、どうやら当たりっぽいな。そんな事を思っていると、エリオさんは大きく息を吐き報告書を机に置いて真剣な表情で俺達を見た。

「流石だロイド。中々目の付け所が良いじゃないか。」

「ふふっ、それはどうも。」

「えっと、それじゃあやっぱりロイドさんが言うようにその事件と関りが?」

「えぇ、確証を持って断言できるわけではありませんが間違いないかと。」

「そのお話し、詳しく聞かせいただくことはできませんか?」

「勿論、お話しさせていただきますよ。その為にロイドを呼び出そうとしていましたからね。」

そう言って、エリオさんは事件の事について説明してくれた。まぁかなり長いから簡単に要約すると、街で1,2を争う店を持つ商人がゴロツキ達に金を払い、商売の邪魔となる商人達に嫌がらせや脅迫をしているという書状が屋敷に届いたらしい。
それを読んだエリオさんはその書状の内容が本当の事なのかどうか調べ、それが本当の事だと確信すると商人を追い詰める為にあらゆる手段を使って証拠を集めていったらしい。

そしていよいよ商人とゴロツキ達を逮捕する直前までいったそうのだが、そこで問題が起こった。何とそいつら全員が街から姿を消してしまったんだとか。どういう事かと調べていくと、警備兵の1人が金を貰って情報を流していたそうだ。そのせいで、今も商人とゴロツキ達は居場所が分からないらしい。
エリオさんは一通り説明し終えると、深く息を吐いて椅子の背もたれに体を預けた。その姿を見ながら、俺は話を聞いて思いついた事を聞いてみた。

「もしかして、昨夜襲ってきたのはその消えたゴロツキ達ですか?」

エリオさんは、俺の顔を見てゆっくりと頷いた。それから紅茶を一口飲むと、背もたれから体を起こし俺達を見た。

「えぇ、九条さんのおっしゃる通りです。」

「でしたら、そいつらに聞けば逃げた商人とゴロツキ達の居場所が分かるのでは?」

「いえ、残念ですが・・・昨夜捕まえたのはゴロツキは、街の中で指示があるまで待機するように言われていた連中らしく、詳しい事は何も聞いていないと。」

「そうなんですか・・・あの、そいつらはロイドを連れ去ってどこに連れて行こうとしていたんですか?」

「聞く所によると、連れ去ったら街の外で仲間と落ち合う予定だったそうです。それ以外の事は何も知らないと。」

「という事は、完全に手詰まりって事ですか・・・」

俺はため息を吐くと、後頭部をさすりながら今後の事を考える。はぁ、敵の正体が分かった所で居場所が分からなきゃどうしようも出来ねぇな・・・俺は気落ちしながら隣に立つロイドの事を見た。ロイドもため息を吐きながら、悩むような表情をしていた。

「ほら、落ち込んでばかりいられませんよ?紅茶を入れましたから一息入れましょうね。九条さんが持ってきてくださったお菓子も一緒に。」

そう言って、カレンさん紅茶の入ったティーカップと綺麗に並べられた菓子の入った皿を机の上に置いた。まぁカレンさんの言う通りだな、とりあえず紅茶と菓子を頂くとするか。
・・・うん、流石貴族の家にある紅茶。高級感あふれる香りが最高だな。それに菓子も甘さ控えで美味しくて紅茶に良く合う。そんな感想を抱いていると、エリオさんが紅茶を一口飲んで口元に笑みを浮かべながら話しかけてきた。

「・・・確かに九条さんの言う通り手詰まりですが、それは相手も同じだと思いますよ。」

「え・・・それはどういう事ですか?」

「ふむ。九条さん、どうして今回ロイドが襲われることになったのか・・・その理由から考えてみましょう。」

「理由ですか?」

「えぇ。最初は追い詰められたことに腹を立て、復讐心から私の娘であるロイドを狙おうとした・・・そう考えましたが、それ以外にも理由が考えられます。分かりますか?」

「えっと、ロイドを狙う理由・・・もしかして、金ですか?」

俺がそう答えると、エリオさんは深く頷いてから俺の事を見た。

「えぇ、私も同じ考えに辿り着きました。逃亡を続けるにもゴロツキ達と協力していくにも金が要りますからね。恐らく、その資金がもう底を尽きようとしていんだと思います。だから復讐もかねてロイドを連れ去り、身代金を要求しようとしたんじゃないか・・・私はそう考えています。」

「って事は、まだロイドが狙われる可能性がありますね。」

「えぇ、ですが更に最悪の事態が考えられます。それは・・・」

「私の身近にいる者が狙われる。父さんはそう言いたいんだろう?」

ロイドは真剣な表情でそうエリオさんに言った。エリオさんはロイドの顔をジッと見た後、ゆっくりと頷いた。

「その通りだ。ロイドだけでなく、その周りにいる者・・・例えば九条さんや同じギルドメンバーも狙われる可能性がある。」

エリオさんがそう言った瞬間、俺の頭の中である展開が予想された。あれ、これってもしかして・・・一緒に居るのは危険だからギルドを抜けて家に帰って来いとかそう言う話になるのか?

「それじゃあ父さんは、そうならない様にする為に私を家に閉じ込めるのかい?」

ロイドは真剣な表情を崩さずに、エリオさんのそう聞いた。おいおい、マジでそう言う展開なのか?俺はロイドと同じ様にエリオさんの事を見た。エリオさんは俺達の顔を交互に見た後、突然真剣な表情を崩して笑い出した?!

「はっはっは!そんな事をする訳がないだろう。ロイドの周りにいる人物は、全員が実力のある者達ばかりだ。半年間、闘技場の王者であり続けたソフィ君。そしてその王者を破り、襲ってきた侵入者を撃退した九条さん。心配する必要はないと思うが?」

その言葉を聞いたロイドは、爽やかな笑顔で嬉しそうにエリオさんを見た。

「ふっ、その通りだよ父さん。九条さんもソフィも信頼できる人達だ。襲われたって負ける事は無いと言えるね。そうだろう?九条さん。」

「え?あぁ、まぁな。負けるつもりは微塵もないよ。」

「ふふっ、九条さんならそう答えてくれると思っていたよ。」

「あらあら、九条さんったらロイドにとっても信頼されているのね。」

「勿論だよ、だって私の大切な仲間だからね。」

・・・ぐっ!顔から火が出るほど恥ずかしいんだが!?その平然と言うの止めてもらえませんかね?とりあえず、話をそらしてしまおう!

「えっと!それよりも今後の対策を考えませんか?ゴロツキが街に潜伏している事が分かった今、何とかしていかないと!」

俺が慌てながらそう言うと、エリオさんは落ち着いた表情で話しかけてきた。

「それなら安心してください。既に手は打ってありますから。」

「そ、そうなんですか?」

「えぇ。ゴロツキに関しては、商人の証拠集めの際に全員の情報を手に入れています。ですので街中の警備を強化して、ゴロツキを見つけたらすぐに捕まえる手はずは整っています。それに、ロイドと九条さんの家の周囲の警備を強化する手配は済んでいますので。」

「ふふっ、流石父さんだね。ありがとう。」

ロイドが微笑みながらエリオさんに礼を言うと、エリオさんも笑顔でロイドの事を見た。そんな2人を見ながら、カレンさんは笑顔で手を叩いた。

「さぁ、それじゃあ難しい話はここまでにしましょうか。」

カレンさんがそう言うと部屋の中にあった張り詰めた空気が消えて、落ち着いた空気が流れ始めた。その時、ロイドが何かを思い出したのかエリオさんに話しかけた。

「そう言えば、父さんと母さんに聞きたい事があるだが良いかい?」

「おや、どうしたんだいロイド。」

「何故2人は九条さんに会いたがっていたんだい?」

「あぁ。そう言えば俺が今日ここに来ることになったのも、お二人が俺を呼んでいるってロイドから聞いたからだったな。一体どうして俺を?」

俺がそう聞いた瞬間、エリオさんとカレンさんの空気が変わった?カレンさんは興奮した様子だしエリオさんは・・・笑顔なのに目が笑ってない?

「あら、そんなの簡単な話じゃない!」

突然、カレンさんがこっちに急接近して俺の顔を覗き込んで来た!ちょ、近い近い!やめて!大人の美人さんには美少女よりも耐性が無いんですから!っていか、凄い良い匂いがする!?俺は上体をそらしながら、カレンさんから視線をそらして質問した。

「えっと、それはどういう・・?」

「勿論!ロイドちゃんとの同棲生活の話を聞きたかったからですよ!」

「・・・・え?」

カレンさんの言葉に驚いていると、カレンさんは興奮したまま更に言葉を続けて来た。

「ロイドちゃんに聞いた所によると、九条さんの朝食は美味しいとか!お風呂上りはアイスティーを飲むのが好きだとか!時々朝に弱くて起こしてあげるとか!これはもう!そう言う関係なんじゃないかとエリオさんと話していたの!ね?」

そう言って、カレンさんはエリオさんの方へ振り返った。エリオさんは笑顔のまま俺の事を見ているのだが・・・明らかに口しか笑ってねぇ?!

「あぁ、是非とも聞きたかったんだ。ロイドとどんな生活を送っているのか詳しくね。」

エリオさんは口元に笑みを浮かべながら、笑ってない目をカッと開いてこっちを見た!やべぇ、ここで間違えたらゴロツキよりも前に俺が捕まる!?

「い、いや!ちょっと待ってください!ロイドとはそんな同棲とかって感じじゃないです!いや確かに同じ屋根の下に暮らしてはいますが、他にも一緒に住んでいる人もいますから!」

「あぁ聞いているよ。ソフィ君ともう1人、君の親戚であるマホと言う少女と住んでいるのだろう?」

「そ、そうです!だからロイドとは同棲とかじゃありませんから!あくまで同じ屋根の下に暮らしている同居人です!な?ロイド!」

「あぁ確かにそうだね。九条さんとは、今の所何にもないよ。」

「そうそうその通り!・・・って今の所?」

俺は何を言っているだこいつ?と思いロイドの方を見た。ロイドは俺を見て爽やかな笑顔を浮かべていた。

「キャー!聞きましたエリオさん!ロイドったらいつの間にか立派に女の子になっちゃってたのね!」

カレンさんは、興奮しながらエリオさんのそばに行くと肩をバシバシと叩いていた。エリオさんはそんなカレンさんの方を一度見ずに、ずっと俺を見ていた!なので俺は慌てて弁解をする!

「いやいやいや!本当に何にもありませんから!ロイドも無駄に含みのある言い方をするんじゃない!」

「おや?今は何もないかもしれないが、未来の事なんて誰もわからないだろう?」

「いや分かるわ!絶対に何にもないから!」

「おやおや、それは私の可愛い娘であるロイドに魅力が無いと・・・そう言いたいのかな?」

エリオさんは机に肘をつき、目の前で両手を組むと静かにそう言った。

「そ、そう言う訳じゃありません!ロイドさんはとても魅力的なお嬢さんだと思っていますとも!」

「ふふっ、嬉しい事を言ってくれるね。」

ロイドは嬉しそうに笑いながら俺を見ていたが、そう言う時じゃはないんだよ!

「ちょ、今はそう言うの良いから!」

その後、ロイドとは本当に何にもないという事をキッチリと説明してのご両親の誤解を解く事が出来た。エリオさんは明らかに安堵していたが、カレンさんは何故だか残念がっていた・・・いやいや、貴族の娘であるロイドと一般人である俺が何かある訳ないでしょうが!
誤解を解いた後はロイドの事だけでなく、マホやソフィについても話をした。そして気が付けば時間は過ぎ、部屋の外は陽が落ち始めていた。

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