おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第40話

何故だか女の子から追われていた俺は、いつの間にか、見知らぬ小さな公園に辿り着いていた。辺りを見回してみると、いつの間にか少女はいなくなったようだ。

「ふぅー・・・疲れたぁ・・・」

俺は少し休憩しようと、公園内にあったベンチへと腰かけて目を閉じる。全く、いきなりこんな目に遭うとかどういう事だよ。折角今日は面白そうなラノベに出会って良い日だと思ったんだけどな。そんな事を考えながら目を開けると、いつの間にかフードの少女が目の前にいた!

「うわっ!」

急な事に驚いて、俺は持っていた袋を落としてしまった!その拍子に中のラノベが地面に投げ出された。ってかいつの間に!どうする、どう逃げればいい?!なんて思っていたら少女は落ちたラノベを拾い集め、袋に入れなおし俺に渡してくれた。

「これ、落としたよ。」

「あ、あぁ。ありがとう。」

俺が戸惑いながら礼を言うと、少女はそのまま俺の隣に腰掛けて来た。
えぇ何この展開?・・・もういいや、逃げるのも疲れたし諦めて色々聞き出すか。

「えぇーっと、さっきから何で俺を追いかけてきていたんだ?」

俺がそう言うと少女はこちらの方を向いてジッと見てきた。それからしばらくの沈黙の後、少女はおもむろにフードを取って素顔をさらした。そこには幼い顔をした銀髪の美少女がいた。っていうか、やばい。心臓と手汗がヤバい。
何なんだこの世界の異常な美形率は。俺の心臓をぶっ壊したいのか?なんて思いながら視線をそらそうとして気が付いた。・・・あれ?どこかで見た気がするような・・・

「貴方、前に闘技場に来ていたよね。ロイドと一緒に。」

「・・・あぁ、思い出した。お前闘技場の王者だろ。」

そりゃ見た事ある気がするわ。確かに俺は闘技場でロイドと一緒にこの子を見ている。え、てかさ。

「お前あの闘技場でロイドが見えていたのか?かなり距離があったと思うんだが。」

「うん。私目が良いから。」

「いや、目が良いってレベルじゃない気がするが・・・」

だってこの子が闘技場に現れたのはほんの十数分の事だ。その間にロイドを認識していたとかどれだけだよ・・・まぁ王者は伊達じゃないって事か?

「まぁいい。聞きたいことがあるんだが、何でさっきから俺の事・・・・あぁ、自己紹介がまだか。初めまして俺の名前は九条透だ。そちらのお名前は?」

俺がそう言うと少女はまたジッとこちらを見てきた。それからまた少しの間が空いて名前を教えてくれた。

「私の名前は『ソフィ・オーリア』。」

「うん、えっとソフィさん?」

「ソフィで良い。」

「・・・分かった。じゃあソフィ、なんで俺を追いかけて来たんだ?強い人かどうか聞いて来たのと何か関係あるのか?」

俺がそう聞くと、ソフィは俺から視線を逸らし正面を向いた。・・・何と言うか沈黙が多い子だな。喋るのが苦手なのか?俺はソフィが話し出すのをジッと待った。
少ししてソフィはゆっくりと話し始めた。

「私は今、闘技場の王者をしている。」

「まぁ、そうだろうな。」

「王者になってからの私の毎日は、週に6日の訓練と1日の休日の繰り返しになった。」

「・・・それで辛くなったから、自分を倒してくれる人を探してるとか?」

「ううん、強くなるのは楽しい。戦うのも楽しい。」

「あ、そうなの・・・え、じゃあ強い人かどうか聞いて追いかけてきたのも単に強い奴と戦いたかったからって事か?」

「・・・それも理由1つ。」

そう言うとソフィは腰につけたポーチから一冊の本を取り出した。それはソフィが本屋で手に取っていたラノベの最新刊だった。

「これに出てくる王女様は私と同じ。」

「・・・同じ?どういう事だ?」

「無口で、人付き合いが苦手で、毎日訓練ばかりしている。」

あぁしまった!つい聞いてしまった!くぅ・・・自分でネタバレを聞いてしまうなんて!俺が軽く後悔している横でソフィは話を続ける。

「でも、1つだけ違うところがある。」

「・・・それは?」

「彼女には一緒に冒険をする仲間がいる。」

「あぁ、確かにこの表紙に・・・出てる・・・・」

俺はソフィが持っている表紙を見る。そしてソフィの顔を見る。・・・え?この表紙の王女らしきヒロインと容姿が全く同じなんだが・・・偶然とは考えにくいし、もしかしてソフィがモデルなのか?

「どうかした?」

「あ、いやこの王女とソフィが似てるなぁっと・・・」

「・・・そう?」

どうやら本人に自覚はないようだ。いや髪の色から瞳の色まで同じなんだけど・・・まぁ本人に自覚が無いなら掘り下げても仕方ないか。とりあえず話の続きを聞こう。

「まぁいいや。それより仲間がいる所が違うって言ってたけど、確か闘技場はギルドに所属してないと参加できないんだろ?ソフィのギルドには他に人はいないって事か?」

「そう。ギルドは闘技場に参加するから作っただけ。だから私以外に誰もいない。」

まぁそうだよな。闘技場で見た時ソフィは一人で戦っていたんだから。

「うーん、まぁその本の王女との違いは分かった。でも、なんでそれが強い人かどうか聞くことに繋がるんだ?」

「・・・」

ソフィは俺の質問に、少しうつ向いて黙ってしまった。その横で俺はソフィの答えを待つ。それからしばらくしてソフィは小さな声で語り始めた。

「私は王者でいる事は楽しい。訓練も嫌いじゃない。戦う事も好き。でも、この本を読んでから少し思った事がある。私もこの物語の王女のように冒険がしてみたいと。」

ソフィはそう言うと、本を大事そうに手に持って黙ってしまった。

「・・・つまり王者でいる事も好きだけど、自分より強い人と戦って、その結果もし負けたとしたら本のように冒険が出来る。だから強そうな人を見つけては声をかけていると。」

俺の言葉にソフィはこくんと小さく頷いた。何と言うか、色々不器用な奴だな。

「なんとまぁ地道な事だな。それだったらワザと負けて王者を辞めるとかじゃダメなのか?」

「それは出来ない。ぱぱとの約束だから。」

「約束?」

「そう。私が王者になった時に約束した。絶対に勝負では手を抜かないと。だから全力で戦える強い人を探している。」

「はぁー・・・律義な事で・・・。」

冒険はしてみたいけど、父親との約束だから試合では手を抜けない。だから全力で戦って負けるかもしれない相手を探すって・・・地道すぎるだろ。

「なぁ、過去に今のソフィの話を聞いて闘技場に来てくれた奴って何人くらいいるだ?」

俺がそう言うと、ソフィは少し考えて答えてくれた。

「確か一人だけいた。」

「へぇーどんな奴だったんだ?」

「私と同じ歳くらいの男の子。同じ様に話をしたら、闘技場に来て勝ち上がってきた。」

「凄いなそいつ・・・それで結果はどうなったって、まだ王者続けてるんだからそいつは負けたんだな。」

「うん。ちょっと強かったけど私が勝った。その時に言われたことがある。」

「ふーん、何を言われたんだ?」

「『いつか強くなって、君を救いに来るよ。』って。」

「うわぁ・・・そんな事言っていたのか?」

何そいつ。自分に酔いすぎじゃね?ってか負けてる時点でカッコつけてる場合じゃないと思うんだが。

「うん。私は別に助けて欲しいとは言ってないけど。」

ソフィも不思議そうにそう言っていた。まぁそりゃそうだろ。別にいやいや王者やってる訳じゃないんだし。ただ単に、強い奴と戦いたいって負けてしまったらって話だろうに。

「まぁ、これで大体の事情は分かったよ。どういう理由で強い奴かどうか聞いていたのかもな。」

「じゃあ。」

「その前に!・・・なんで俺なんだ?正直俺は普通のおっさんだ。強さを感じる所なんて1つも無いだろ。だから理由が知りたいんだが。」

まぁチートの様な物を使ってステータスを強化しているから普通とは言えないけどな。だけど、正直俺よりも戦闘経験が豊富な奴なんて沢山いるだろ。その中でどうしてたまたま本屋で出会った俺なんだろうか。

「私が九条さんを選んだ理由は・・・」

「理由は?」

「・・・ぱぱに似ていたから。」

「・・・え?」

ぱぱに似ていた?え?・・・どこら辺が似ているんだろうか。まさかソフィの父親は結構な年齢で加齢臭がしていて、俺からも加齢臭が?!まさかそんな!それとも老けているのか俺は?!いや、ソフィの父親が老けているとは限らないじゃないか!しっかりしろ俺!と、とりあえずソフィに確かめねば!

「ど、どどこら辺が似ているんだ?」

俺が尋ねると、ソフィはこちらをジッと見つめた。内心ドキドキしながら俺はソフィの答えを待った。それからしばらくして、ソフィは答えてくれた。

「・・・雰囲気。」

「雰囲気?また曖昧だな・・・でも、そうか。分かったよ。」

まぁおじさん臭いのが似ているとか言われないだけ良かったと思うか。

「じゃあ闘技場に来てくれる?」

「って言ってもなぁ・・・イベントに参加できるかどうかも抽選で決まるからな。」

それに、もしも順調に勝ち上がったら最終的にはソフィと戦うことになる。
・・・俺に出来るんだろうか、この子に武器を向けることが。俺のそんな気持ちが伝わってしまったのだろうか、ソフィはいきなり俺の手にそっと手を重ねてきた。
あの、手汗がヤバいんで勘弁してくれませんかね。そんな俺の思いとは関係なしにソフィはこちらを見て話し始める。

「無理強いはしない。今まで何度も断られてきたから。でも・・・」

そう言葉を途切れさせ、ソフィはそっと手を離しベンチから立ち上がり俺の方を見た。その表情は先ほどまでと違い、柔らかい笑顔だった。

「貴方が来てくれたら、私は嬉しい。」

・・・・はぁ、こんな顔されて断れるほど俺の心は強くないんだよなぁ。俺はベンチから立ち上がりソフィに向かい合う。

「・・・まぁ、応募するだけしてみるよ。ただ、参加できなくても恨まないでくれよ?」

俺がそう言うと、ソフィは小さく笑ってくれた。

「うん。楽しみにしてる。」

そう言ってソフィはそのまま公園の出口に向かっていく。そして公園を出た所で、こちらに振り返った。

「じゃあね九条さん。」

「あぁ、じゃあなソフィ。」

そしてそのままソフィは姿を消した。さてと、帰ったら一応ロイド達に相談しないとな。・・・・それよりも。

「俺、こっからどうやって帰ればいいんだ?」

闇雲に逃げ回っていた俺は帰り道が分からなくなっていて、知っている道に出る頃には空はもう夕焼けとなっていた。あぁ、腹減ったぁ・・・こんな事ならソフィの後をついていけば・・・いや、それはそれで格好付かないし・・・・はぁ、疲れた。

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