おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第21話

(…………なぁマホ、やっぱり俺はここで待ってても良いか?)

(もう!ご主人様、急に何を言い出しているんですか!?)

(いや、だってさぁ……)

建物の陰に立ちながら二の足を踏んでいる俺の視線の先では、目的地である建物に出入りしている沢山の女の子グループやカップル達の姿が見えていて………ぐぅっ!

(ほらほらご主人様、お店はもう目の前にあるんですから早く行ってくださいよ!)

(こっちの気も知らないで好き勝手な事を……ってか、どうしてそんなテンションが高めなんだよ?)

(そりゃあ私だって女の子ですからね!それにご主人様からお洋服をプレゼントして貰えるってなったらこんな感じになりますよ!)

(そ、そういうもんなのか……)

(そういうもんなんです!なのでご主人様、何時までもグズグズしていないでお店に入って下さいよね!ここで帰っちゃったら、お店まで来た意味がありませんよ!)

(………まぁ、それもそうだよなぁ。)

大きくなれる様になったマホと外を出歩くにはどうしたって洋服は必要だしな……しょうがない、覚悟を決めてあの地獄に足を踏み入れるとするか!

そう意気込んで歩き出そうとした直後、背後からタッタッタっと誰かが走って来る足音が聞こえてきたので何気なく振り返ってみると……

「九条さん、やっと見つけたよ!」

「ロ、ロイド!?ど、どうしてこんな所に?!」

「そんな事はどうでも良い!それよりもこっちに来てもらおうか!」

「お、おい!?」

キッと睨みつける様な視線を送ってきたロイドは有無を言わさず俺の腕を凄い力で掴んでくると、そのまますぐ近くの路地の奥に向かって歩き始めた?!

(ヤ、ヤベェ!これ、もしかしなくても完全にキレまくってるよな!?)

(えぇ、当然そうでしょうね。ご主人様、覚悟しておいた方が良いですよ。)

我関せずといった感じのマホにそう言われてしまった俺はロイドに人の気配が全然しない場所に連れて来られると、目線で促されるまま正座をするのだった……

「九条さん、私がどうして怒っているか……分かっているよね?」

う、腕を組みながら睨みつけてくる美少女がこんなに恐ろしいものだなんて想像もしてなかったんですけど!?こ、これは返答を間違える訳にいかないぞ……!

「え、えっと……斡旋所でボスを倒したのはロイドって……言ったから…かな?」

「あぁその通り大正解だよ。貴方がそう言ってくれたおかげで私は朝から大変でね。道行く人にボスを倒したんですね!凄いですね!何て言われてしまい何処で尾ひれが付いたのか知らないが私は傷ついた貴方を護る為に隠していた力を使いボスを一瞬で倒したことになっているよ。ふふふっ、そのおかげで一緒に冒険をしてほしいというお誘いを朝から大勢の人にされてしまったよ!あぁ貴方のおかげでね!!」

「す、すいませんでしたぁ!!!」

少しずつ早口になり最後には怒鳴り声を上げたロイドに心の底から恐怖心を覚えた俺は即座に土下座をして地面に額をこすり付けるのだった!

(あーあ、これはロイドさんマジギレしちゃってますね。)

(くっ、まさかここまで大変な事になるとは……完全に予想外だ!)

「それで?どうして私がボスを倒したなんて嘘をついたのか話してもらおうか。」

目、目が語っている……嘘や誤魔化しを言ったらお前の存在を消してやると怒りに満ちたロイドの目が語っているっ!

「じ、実はですね!今のロイドさんみたいになるのはとても面倒だと思ってですね!だったらその、普段から騒がれ慣れているであろうロイドさんに全ての責任を被せてしまえば良いじゃないかと考えて………………はい、すみませんでした……………」

「………はぁ………まさかそこまで包み隠さず堂々と理由を言われるとはね……」

「こ、ここで嘘を吐く度胸は流石に……ついでにぶっちゃけると、ロイドを噂の的にしたらすぐに騒ぎも収まるんじゃないかなーとか思ったりしまして……」

「……確かに私はこういった事には慣れているから噂が消えるのも早いだろうけど、何も言わずに全てを押し付けてくるのは感心しないな。そのせいで朝から本当に苦労したんだから。」

「はい……本当に申し訳ありませんでした………」

「全く、反省している様だから今回は許してあげるけど次は無いからね。」

「了解しました……って、もう許してくれるのか?」

「あぁ、九条さんにはボスとの戦闘で助けて貰った恩があるからね。さぁ、そろそろ立ち上がるといい。」

「お、おう……」

戸惑いながら爽やかに微笑むロイドが伸ばしてきた手を掴んで立ち上がった俺は、今になって自分勝手な考えで迷惑を掛けた事を後悔するのだった……

(ご主人様、ロイドさんの心の広さに感謝して下さいね。)

(わ、分かってるって……)

マホに言われた事を身に染みて感じながら頭をガシガシと掻いていると、ロイドが腕を組んで顎を触りながら俺の顔をジッと見つめてきた。

「そう言えば九条さん、さっきはあんな所で何をしていたんだい?見ていた感じではあの店に入るかどうか悩んでいる様だったが、もしかして彼女さんに贈り物でも?」

「え、いや……そういう訳じゃねぇけど……」

「ふむ、それならば一体どうして?」

「あー……それはその…………あっ、ちょっと聞きたいんだがお前はあの店について詳しかったりするか?」

ロイドの質問に対する答えを考えていたその時、妙案とは言い難いけどある考えが浮かび上がってきた俺は少し悩んだ後にそれを実行してみる事にした。

「ん?まぁそうだね。これまでにも何度か女性に誘われてあの店で買い物をした事があるからね。」

「そ、そうか!……あのさ、迷惑を掛けた俺がこんな事を言うのも図々しいとは思うんだけど、時間が合ったら少し手を貸して欲しいんだが……ど、どうだ?」

「ふむ、その内容は?もしかして洋服を買うのを手伝って欲しいのかい?」

「そ、そうだけど……よく分かったな。」

「ふふっ、あの店に関係している事と言ったらそれぐらいかなと思ったんだよ。だが九条さん、手伝うのは構わないが誰の為に服を買うんだい?もしかして貴方かい?」

「いや、俺じゃない。マホ、出て来てくれ。」

「……マホ?」

(えぇっ!?だ、大丈夫なんですかご主人様?ロイドさんの前に姿を現しても……)

(……俺の直感だけど、ロイドなら大丈夫だと思う!それに何か問題があったら俺がどうにかするから安心して出て来い!)

(……分かりました!ご主人様のその言葉、信用させて頂きます!)

マホはそう意気込んで返事をしてくると、ポーチの中に入れたスマホの中から勢いよく飛び出して来て俺とロイドの目の前に姿を現した!

「……………………えっ?」

「えっとだな……ロイド、俺はコイツに似合う服を買いに来たんだ……」

「は、初めましてロイドさん!私はご主人様の生活をサポートする妖精でマホと申します!これからよろしくお願いしま…………ロイドさん?あの、聞いていますか?」

マホは目を見開いて固まってしまっているロイドの方に飛んで行くと、ほっぺたをペチペチと叩きながら不安そうな表情をって………マズイ、こりゃしくじったか?

「…………か………可愛い………」

「「へっ?」」

いきなり俺達の耳に届いてきた言葉に思わずポカンとして口を開けていると、急にロイドの瞳が輝き始めてマホに釘付けになった!?

「な、なんて可愛い妖精さんなんだ!?これは夢、それとも幻?いや、これは紛れもない現実だ!あぁ、素晴らしい!この世の全ての愛くるしさを詰め込んだ容姿に私の心は奪われてしまった!」

「え、え、え?」

「初めましてマホさん、私の名前はロイドと申します。もし貴女さえよければ、私とお友達になって頂けませんか?」

「あ、はい……よろしくお願いします……」

お姫様をダンスに誘う王子様みたいな所作でロイドに手を差し伸べられたマホは、小さな両手を使って人差し指をキュッと包み込んだ。

「あぁ、こんなにも幸せな出来事が今まであっただろうか!?天にも昇る気持ちとはまさに今、この瞬間の事で間違いはない!」

「ロ、ロイドさーん……盛り上がってる所で悪いんだが、本題に入って良いか?」

俺が苦笑いを浮かべながらそう言うと、ロイドはハッとした顔をして気まずそうに咳払いをして冷静さを取り戻した……っぽい?

「す、すまない。少し取り乱した。」

「そ、そうか……まぁ、落ち着いてくれたならそれで………落ち着いたのか?」

「あぁ、大丈夫だ……マホさんも驚かせてしまってすまなかったね。」

「いえいえ、可愛いって言ってくれてとっても嬉しかったですよ!」

「ふふっ、そう言ってもらえると助かるよ。可愛らしい物を突発的に目の前にすると自分が抑えられなくなってしまってね……いや、そんな事はどうでも良いか。それで九条さん、詳しい事情を聞かせてくれるかな?」

「あぁ、実はだな……」

俺は異世界から来たとかそこら辺の話は言わずにマホが大きくなれる事と妖精の服しか持ってない事、それが理由で外を出歩かせられないという事を説明した。

「なるほどね。確かに14,5歳くらいの女の子がそんな格好して九条さんと歩いていたら九条さんが捕まってしまうだろうね。」

「ロイドもそう思うだろ?だから服を買いに来たんだけどさ……ほら、あの店の客層分かるだろ?」

「あぁ、男性が1人で行くには厳しい場所だね。」

「そうなんだよ……そんな訳だから、ロイドに手を借りたいんだが……」

「ふむ、さっきも言った通り私は構わないんだが……マホさんは良いのかい?」

「はい!ロイドさんも一緒に来てくれると嬉しいです!」

「ふふっ、そういう事なら喜んでお供させてもらおうかな。マホさん、貴方に似合うとびっきり可愛い服を選んでみせるよ。」

「えへへ、ありがとうございますロイドさん!」

「悪い、助かるよ。」

「別に感謝をされる事じゃないよ。それに昨日のお礼の件もあるからね。」

「え?いやいや、それは勝手に名前を使っちまった事で終わった事だから!ってか、今回はこっちの方が迷惑を掛けちまった訳だから逆にお礼として何かさせてくれよ。俺に出来る事なら何でもするからさ。」

「……何でもかい?」

「あぁ、俺に出来る事ならな。」

……このセリフ、女性が言うと卑猥な意味になっちまう風潮があるけどおっさんの俺が言った所で問題は何もないだろ!それに相手がロイドならそこまで大変な事態になるって可能性も低そうだしな!

「……それなら今度、お願いしたい事があるからそれを叶えてもらおうかな。」

「今度?今じゃなくてか?」

「あぁ、色々と準備があるからね。」

「ふーん……分かった、それじゃあ準備が整ったら言ってくれ。」

「了解したよ。」

「えへへ、それではお話も終わったみたいですしそろそろお店に向かいましょうか!あっ、分かっているとは思いますけど……」

「はいはい、俺はロイドとは別にお前に服を買えば良いんだろ……」

「その通りです!楽しみにしていますから、頑張って選んで下さいね!」

マホはそう言って微笑みかけて来るとそのままスマホの中に戻って行った……後に残された俺は思いっきりため息を吐き出すと爽やかに微笑みかけてきたロイドと服を買う為に店の方にゆっくりと歩き始めるのだった。

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