おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第20話

「あっ、いらっしゃい!初めてのお客さん……だよね!何か要件があるんならここで聞くから、気軽に声を掛けてよね!」

様々な装備品が雑多に陳列されている店内に足を踏み入れた次の瞬間、受付らしき場所に立っていた威勢の良さそうなお姉さんが元気いっぱいに声を掛けてきた。

(うわぁ……あの人、絶対に陽キャだよ……ヤバい、帰りたくなってきた……!)

(ダメですよご主人様!それじゃあここに来た意味が無くなっちゃいますよ!ほら、急いで受付に向かいましょう!)

(はぁ……覚悟を決めるしかないか……)

苦笑いを浮かべながら心の中でそっとため息を零した俺は、あんまり気が乗らないまま歩き出してお姉さんの前に立った。

「おっ、迷いもせずここに来たって事はもしかして加工のご依頼かな?」

「えぇ、そうなんですけど……初めてなんでどうしたら……」

「うん!それじゃあまずは貴方のお名前を教えてくれるかな!あっ、それと預かっている素材の情報が入ってるカードも貸してね!」

「あぁ、分かりました……名前は九条透です。それで……これが俺のカードです。」

「よしっ、それじゃあ少しだけ待っててね!」

ニコッと微笑みかけてきたお姉さんは俺から受け取ったカードを目の前に置かれた機械にセットすると、小さなモニターを見ながら慣れた手付きで操作を始めた。

「……はい、これで確認終わり!それじゃあカードを返すね!いやぁ、それにしても驚いちゃったよ!本当にロイドさんが倒したボスの素材を受け取ってたんだ!」

「え、えぇ……まぁ……」

(き、昨日の今日だって言うのにもう噂が広まっているみたいですね……)

(あぁ、やっぱりロイドに責任を押し付けたのは正解だったみたいだな!)

(いやいや……ご主人様、今度ロイドさんに会った時に怒られても知りませんよ?)

(はっはっは、そんな心配はしなくても大丈夫だって!貴族のお嬢様と再会する機会なんてもうある訳が無いからな!それよりも……)

「それで九条さん、今日はどんな依頼をする為にやって来たのかな?って、そんなの聞かなくても決まってるよね!ボスの素材を加工するんでしょ?!そうでしょ!」

「は、はい!その通りです!」

受付の上に身を乗り出してグッと急接近して来たお姉さんから反射的に離れる様に半歩下がって仰け反った俺は、慌てて返事をしながら手に持ってたカードをポーチの中に仕舞い込んだ。

「了解だよ!それじゃあ、どんな風にしたいとかって希望はあるかな!」

「えっと、そうですねぇ……」

「もし素材を武器にしたいって言うならブレードやショートブレードがお勧めだよ!その他には槍とかも作れるよ!ただし、サイズの問題で大きいのは難しいかな!後は拳に付けるガントレット系の武器も厳しいと思う!」

「な、なるほど……」

「あっ、求めてるのが武器じゃなくて身につける系のやつだったらアクセサリーとか良いんじゃないかな!」

「アクセサリーですか……」

「うん!ロイドさんから貰った折角の素材でしょ?どうせだったら全部を武器作成に使うんじゃなくて、思い出として格好良くして残しておくのも良いと思うの!」

「まぁ、確かにそうかもですね……」

人生で初めてボスを倒した思い出……って言うか、油断していると一瞬でお陀仏になっちまうぞって戒めも込めてアクセサリーにして残しとくのも悪くないかもな。

(……ご、ご主人様!ご主人様!!ま、前!前を見て下さい!!)

(うおおっ!?な、何だよいきなり大きな声を………うぇっ!?)

「ねぇねぇ、それで九条さんは素材をいったぁあああい!」

ゴツン!という鈍い音が店内に響き渡るのと同時に両手で頭を押さえながら受付の向こう側にしゃがみ込んだお姉さんの背後には、立派な髭があるメチャクチャ人相の悪いおっさん……いや、男性がバカでかい握り拳を震わせながら立っていた!?

「お前な、他のお客さんにご迷惑になるから声の大きさには気を付けろよって何度も言ってるだろうが。それと言葉遣いが馴れ馴れしすぎるぞ。」

「うぅ……親父のバカ!いきなり殴る事ないじゃんか!」

「やかましい!……お客さん、本当にうちのバカ娘がすみませんね。」

「あ、いえいえそんな!明るい娘さんで素敵じゃないですか!そ、それに接客も元気いっぱいでとってもありがたかったですから!」

「ほらほら、聞いた?元気で素敵だって!」

「……気を遣って下さってありがとうございます。」

「あ、あはは……いえ……じゃあえっと、話の続きを……」

「えぇ、突然お邪魔してすいませんでした。おい、分かってると思うが声の大きさと言葉遣いには気を付けて話せよ。」

……親父さん?いや、雰囲気的には親方って呼ぶのが正しいのかしら………まぁ、どっちでも良いが厳つい男性はそれだけ言うと店の奥に引っ込んで行ってしまった。

「ふーんだ!九条さんが良いって言うならこのままで大丈夫だよね!」

「ま、まぁそうね……」

(あ、あの人……このお姉さんのお父さんだったんですね……)

(そ、そうみたいだな……)

つーかいきなり現れたと思ったら娘の頭にゲンコツって……しかも、それを受けたお姉さんはもう平然とした顔をしているし……流石は父娘って事なのかしら?

「それじゃあ依頼の話をしようか!九条さん、素材はどうするのか決まった?」

「えっ?そうですねぇ………あの、ブレードとショートブレードを1本ずつ。それと作れそうならアクセサリーもお願いしたいんですけど……出来ますかね?」

「うん!大丈夫だと思うよ!」

「じゃあ、それで依頼させて下さい。」

「了解しました!あっ、アクセサリーは男性が身につけるの?それとも女性?」

「そう……ですねぇ…………女性っていうか、女の子用って出来ますか?」

(えっ、ご主人様!?そ、それってもしかして……!)

(………まぁ、こっちに来てからずっと世話になってるお礼ぐらいやらんとな。)

(や、やったぁ!!嬉しいです!ありがとうございますご主人様!)

(はいはい……)

マホの喜ぶ声を聞いて何とも言えないむず痒い感情を抱きながら頬を触ってると、お姉さんがグッと親指を立てながらこっちを見てきた。

「もっちろん!それなら、どんなのが良いとか要望はある?」

(ご主人様、とびっきり可愛いのが欲しいです!それと私に似合う感じで!)

(な、なんちゅう無茶振りだよ……まぁ、伝えてはみるけどさ……)

(はい!よろしくお願いしますね!)

「えっと……とびっきり可愛い……的な?」

「うんうん!なるほど!ねぇ、どんな女の子なのか教えてくれる?どうせだったら、似合うアクセサリーを作りたいからさ!」

「そ、そうですねぇ……明るくて、元気で……飛び回ってる子?」

「ふむふむ……よしっ!その子に似合うとびっきり可愛いアクセサリーを作るから、楽しみに待っててよね!」

「えぇ、よろしくお願いします。それでその……お代は?前払いですか?」

「その通り!今回は武器2本とアクセサリーを1つで……2万Gになります!」

「に、2万Gって……そんなに安いんですか?」

「えへへ、うちは安さを売りにしているお店だからね!それと加工には1週間ぐらい掛かると思うけど、そこは問題ないかな。」

「はい、大丈夫です。」

「良かった!それじゃあ引き換えに必要なデータを入れるから、悪いんだけどさっき返したカードを借してね」

「あっ、分かりました。」

それからもう一度カードをお姉さんに渡して引き換え用のデータを入れてもらった俺はそれを返して貰うと、加工の代金を支払って店を後にするのだった。

(……さてと、それじゃあ次はマホの服を買いに行くとするか。)

(はい!ご主人様のセンスが試される場所ですから、気合入れて下さいね!)

(はぁ………正直、そんな事で試されたくはないんだけどな。)

初めてプレゼントを贈る異性その相手にセンスを問われると言う地獄を味わう事になるかもしれない事実に足取りが重くなりながら、俺はマホの案内に従って服屋まで歩いて行くのだった。

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