おっさんの異世界生活は無理がある。

祐一

第0話

今から数月前の事、俺が長らく勤めていた会社が経営不振になっただとか上の連中が色々問題を起こしたとかの理由で倒産してしまった……そんな訳で俺は次の就職先を探しながらフリーターとして働く毎日を送っていた。

「はぁ……これからどうすっかなぁ……」

今は地道にためてた貯金があるからそれを切り崩して普通に生活出来ちゃいるが、それもいつかは限界を迎えるだろうし……はぁ、まさか30歳を迎えた当日にこんな不安な気持ちになるとはな……

自分の将来の事を考えて気持ちが落ち込んでると、いつの間にか自宅のマンション前まで帰って来ていた………俺はため息を零しながらエントランスに入っていくと、いつもの様に郵便受けの中を確認してみた。

「さてと、何か届いてるなーっと……」

おっ、色々と入ってるな……とりあえず部屋に持ち帰って後で整理してみるか。
そう考えて郵便受けの中に入ってた紙の束を手に取ると、俺はエレベーターに乗って自分の部屋のある階まで上がっていた。

「ただいまー………って、別に誰も居ねぇけどな。」

独り言を呟きながらぼっちの寂しさを改めて実感しながら部屋に戻って来た俺は、持っていた紙の束をテーブルの上に放り投げて汗を流す為に風呂場に向かいシャワーを浴びた。そうしてサッパリした状態でリビングに戻って来ると、ソファーに座って重なってる紙を1つずつ手に取って確認していった。

「……お、うどんが安くなるクーポン券だ。そんじゃあこれは明日の昼飯の時に使うとして………うーん、こっちのはいらないかな……はぁ、それにしても俺の誕生部を祝ってくれる手紙とかって無いものかねぇ………って、ぼっちの俺にそんな物が届く訳が無いじゃないか!あっはっは……ははっ………」

自分の非リアっぷりに軽く泣きそうになりながらの郵便物を整理していると、その中の1つに真っ白な封筒が混ざっていた。何となくそれが気になった俺は封筒を手に取ってみた。

「……何だこれ?差出人は……書いてないみたいだな。」

差出人不明とかちょっと不気味なんですけど……なんて風に思いながら封筒の表紙を軽くなぞったり折ったりしてみると、カードの様な物と折り畳まれた紙が入ってる様な感覚が手に伝わってきた。

……よしっ、封筒を開いて中を確認してみるか。だってこれが俺宛じゃなかったら本来受け取るべき人が困るだろうからな!まぁ、金目の物が入ってたら容赦なく頂くんだけどさ!だって誰宛か書いて無いんだから俺が貰たって問題ないだろ!

そう心の中で言い訳をしながら封筒の口を慎重に開いて中身を取り出してみると、トランプぐらいの大きさの白いカードと、手紙の様な紙が折り畳まれて入っていた。
俺はひとまずカードの方をテーブルの上に置くと、紙を開いて中に書かれている文字に目を通してみた。

【「九条透(くじょうとおる)」様。30歳のお誕生日おめでとうございます。
貴方様は厳正なる抽選の結果、願いを1つだけ叶える権利を獲得致しました。
願いを叶える方法はとても簡単で、同封してあるカードを手にして願いを口にするだけでございます。是非とも後悔しない様にご利用ください。】

「………な、なんだこりゃ?………ドッキリか……何かか?」

首を傾げながらざっと部屋の中を見渡してみたが……特に変わった様な感じは無いよな……ってか、そもそもドッキリを仕掛けてくる様な知り合いとか居ないしな……

「はぁ、あほくさ。」

俺は持っていた手紙をぐしゃっと丸めてゴミ箱に放り投げて見事に………外れた。何となくやるせない気持ちになりながら立ち上がり手紙を拾ってゴミ箱に捨てると、テーブルに置かれたカードを手に取ってソファーに寝転がって天井を見上げた。

「それにしても願いを叶える権利ねぇ………もし本当に叶うんだったら、そこそこの好条件で異世界に行ってみたい気もするけどな。最初からチート級の力を持って最強ってのも憧れるけど、やっぱりゲーム好きとしては成長する楽しみも無いとな!」

ついでに異世界物には付き物のハーレム的な展開があれば更に良し!だって最近のアニメとかラノベだと絶対にそういうのが付き物だからな!

「あっ、でも異世界転生じゃなくて異世界転移が良いかな。まだ死にたくないし……って、俺はバカなのか?そんな願いが本当に叶う訳無いだろうが……はぁ、現実逃避はこれぐらいにしてカップラーメンでも作るとするか。」

『あなたの願い、聞き届けました。』

「………は?」

カードをテーブルの上に放り投げてキッチンに向かおうとした直後、部屋の中から誰かの声が聞こえてきた?………え、いやいや……この部屋には俺しかいないだろ?

突然聞こえてきた声に恐怖して心臓の動きがどんどん早くなるのを感じながら部屋の中をキョロキョロと見渡していると、テーブルの上に置いてあったカードが………勝手に浮き上がって光りだした?

「え?……え?え?」

目の前で何が起こってる全然分からず戸惑っていると、空中に浮かんだカードの光が次第に強くなってきやがった!?

「く、くそっ!?何なんだよいきなり?!」

俺はとりあえず光を何とかしようとカードに近づこうとしたのだが、何故だか全然カードとの距離が縮まらなかった!?困惑していると更に追い打ちをかけるかの様に光が強くなり始め、耐えきれなくなった俺は両腕で顔を隠し強く目を閉じた!

その次の瞬間、部屋全体がぐにゃっと曲がる様な感覚がしてと思ったら……カードから放たれる光が次第に弱くなり完全に消えてしまった……俺は恐る恐る両腕の隙間からカードがどうなったのか見て……みた………のだが………

「…………ど、どこなんだ………ここは?」

目の前に広がる光景を呆然としながら見つめた先には、朽ち果てた家具や砕けてる窓ガラス等が存在していて……ここがさっきまで居た自分の部屋ではないという事が一目瞭然で分かってしまった……

「お、おいおいどうなってんだよ………まさか……本当に?」

あり得ないとは思いながら目の前の現実を受け入れるしかないと無意識の内に心のどこかで感じていると、ゲームなどでよく見る感じの宝箱が視界に入ってきた………
俺は近くに落ちていた椅子の足を拾い上げると、なるべく体を離しながら椅子の足を使って宝箱の蓋を開けていった。

「………と、とりあえず……ミミック的な物じゃなさそうだな。」

俺はホッと胸を撫で下ろすと慎重に宝箱に近づいて行きゆっくりと中を覗き込んでみた……すると中には折りたたまれた服の様な物が入れてあって、その上には布の袋と白い封筒が置かれていた。

「……この封筒って……さっきのと同じやつか?」

持っていた椅子の足を宝箱に立てかけた俺は封筒を手に取ると、そこに入っていた手紙を取り出し書かれている内容を確認してみた。

【九条透様。そこそこの好条件で異世界に行きたいとの願い叶えさせて頂きました。それでは思う存分異世界生活をお楽しみください。】

「………はっ、はぁあああああああああ!!???!??!?!」

誰が書いたかも分からないふざけた内容の手紙を読んだ俺は、恐らく人生で一番と言えるぐらいの大絶叫をするのだった……

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