《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

28-5.終幕

 長い、戦いだった。
 バトリが殴り付けてきて、ロンが炎で焼き付くす。


 一方で、ノウゼンハレンとディヌも争い続けていた。


 はじめてバトリに出会ったのは3年以上も前のことだ。たしか都市竜クルスニクで、休暇を堪能しているところに、ハマメリスから命令を受けたのだ。そして、バトリと戦うことになった。


 あのときからもしかすると、長い夢を見ていたのではないか――と、思った。
 ずっと、ずーっと、バトリと戦い続けていて、卵黄学園に行ったことや、帝都竜ヘルシングに避難したことや、地上都市で暮らしていたことなど、すべては夢のなかの出来事だったのではないか、という錯覚すらあった。


 そんな錯覚を感じたのも、《不死の魔力》がロンの体内に入っているから、かもしれない。いずれはロンはゾンビになる。


 時間はもう、あまり残されていない。


 シャルリスのもとに行けば、治癒してもらえるだろう。が、今はこの場所を離れるわけにもいかない。


 都市竜ダンピールはすでに老いているが、最後の死力をふりしぼったのか、ドラゴン・ゾンビにかぶりついていた。
 2匹の巨大なドラゴンが争う姿は、凄まじいものがあった。まるで大陸と大陸の衝突である。


 その勢いでバトリが、ドラゴン・ゾンビの頭部から落っこちてきた。
 好機。
 落っこちたバトリに、ロンはかぶりついた。バトリのカラダを咀嚼して呑みこんだ。


(やったか?)


「やったか、と思ったじゃろう」
 と、すぐ近くで声がした。


 ドラゴンになっているロンの腹から、バトリが顔を生やしていた。


「オレに、寄生したのか」


「はじめから、これが出来れば良かったんじゃがな。ドラゴンの血を攻略するのに、時間がかかったわ」


 やれやれとでも言いたげに、バトリは頭をふっていた。


「やってくれる」


 ひきちぎったのだが、今度は翼から顔を生やしてきた。


「いひひっ。ムダじゃ。ムダじゃ。こうなったワシは、そう簡単には引きはがせん」


「いちおう地上都市には、分離する薬が残されているがな」


「それまでには、ワシはオヌシを殺せるぞ」


「なるほど。オレの負け、ってわけか。いちおうバトリの望みを聞いておこうか」


「何度も言うてるじゃろうが。ワシの望みはドラゴンと人類の滅亡。この世界に真の終焉を与えることじゃ」


「世界の幕引きってか」


「オヌシをゾンビにして、ワシの手駒にしてしまえば、もうそれも叶ったようなものじゃがな」


 そのときだ。
 ウォリャァァァ――ッ、と獣の咆哮が聞こえてきた。


 ディヌのカラダが空中に投げ飛ばされていた。ノウゼンハレンが跳びあがって、ディヌの腹にコブシを叩きこんだ。
 そのまま落下していく。
 落下したさきには、ドラゴン・ゾンビのカラダがあった。


 ディヌのカラダが、ドラゴン・ゾンビの背中に叩きつけられていた。ドゴォ、と大地が揺れるような音が響いた。
 そしてディヌのカラダがはじけ飛んでいくのが見えた。


 ノウゼンハレンのコブシは、イーヴァルディの大槌に匹敵するほどの破壊力がある。人類に勝利をもたらすコブシである。


 弾けとぶのはディヌのカラダだけかと思いきや、その土台となったドラゴン・ゾンビもろとも飛散していた。


「あやつ、とんでもないバケモノじゃな。ワシのドラゴン・ゾンビを粉砕しおった」
 と、バトリがドンビキしていた。


「オレを育ててくれた人だからな。そりゃ強いさ」


「オヌシの親というわけか」


「ディヌとか言ったか。あの男も死んじまったようだぜ」


「構わん。もう話は出来た」


 そうは言うがバトリはどことなく寂しげだった。


「ならもうやり残したことはないんだな?」
 と、ロンが尋ねる。


「なにを言うておるか。まるでワシが死ぬみたいなことを言うではないか。状況がわかっておるのか?」


「やり残したことはないのかと尋ねてるんだ」


「じゃから、人類に滅亡という大仕事が残っておる。それからシャルリスともすこし話がしたい」


「そんなもんか」


「変なことを尋ねるではないか。死ぬのはオヌシのほうだと言うのに」


「どうだかな」


 ロンには、切り札があった。
 まさか、これが――こんな間の抜けた名前のヤツが、切り札になるなんて思いもしなかった。


 ポケットに手を入れた。
 黒い丸薬。
 その名も《オネムチャン》である。


 バトリのみを眠らせることが出来ると聞いている。本来は、分離する薬を注射するさいに、バトリが暴れないようにと用意されていたものだった。


 まさか、こんな使い方をすることになるとは思わなかった。


「お疲れさま、バトリ。もうユックリと休め」


 丸薬をかみ砕いた。
 苦い。
 すぐに唾液といっしょに飲みこんだ。


「なにを言うておるか、オヌシ……」


 バトリが眠りに落ちたようだ。
 ホントウに効果があるのか疑問だったが、杞憂だったようだ。

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