《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

27-5.シャルリスとバトリVSチェイテとアリエル

 地上都市クルスニクのなかで、戦闘を起こすのは得策とは思えなかった。バトリが何をしでかすか、わかったもんじゃない。
 仮に瘴気でも放たれたら、都市にいる人たちまでゾンビ化してしまう。


 とにかくバトリを、ここから逃がしてやりたい――というのが、シャルリスの気持ちだった。


 ここには今、ロンもいるのだ。ロンに見つかったら、バトリが逃げるというのは不可能だ。


 肉の翼を広げて、地上都市の外へと飛びだした。


 アリエルとチェイテは応援も呼ばずに、ドラゴンに乗って追いかけてきた。いまだ世界は赤く汚れており、ふたりともマスクを忘れてはいなかった。


(すべては、ここに収束しているのかもしれない)


 そんな予感に襲われた。


 カルクの兄が殺されたこと。チェイテとシャルリスが同じロンの小隊に入ったこと。アジサイの裁縫針が、アリエルに渡ったこと。ミツマタのイーヴァルディの大槌が、チェイテに渡ったこと。そしてシャルリスには、【腐肉の暴食】のチカラが与えられたこと。いつか、こうして衝突する運命だったのかもしれない。


 アリエルの巨大な裁縫針が、シャルリスの肉の翼を貫いた。糸が伸びており、シャルリスのカラダが引き寄せられた。


「おわっ」


 引き寄せられた先では、チェイテがドラゴンの上に立ちあがって大槌を構えていた。かろうじて、生やした肉の腕で受け止めたが、その衝撃は殺せなかった。


 シャルリスは地面に叩き落とされることになった。荒涼とした大地に叩き落とされて、砂ボコリが舞い上がった。
 叩き落とされた衝撃は、バトリが肉をクッションのようにふくらませて防いでくれた。


「オヌシの動きは、精彩を欠いておる。相手があの2人では本気も出せんであろう。やはりワシが出る」


「でも……」


 バトリでは、チェイテとアリエルをゾンビにしてしまうかもしれない。ゾンビならまだしも、殺してしまうかもしれない。


「オヌシはいったい、誰の味方じゃ。ワシの味方をすると言うのならば、あやつらを殺しても構わんであろう」


「ボクは、誰の味方でもないっスよ。ただ、みんなが幸せになれば良いと思って」


 チェイテやアリエルだって、大切な友達だ。
 でも、バトリだって、もうシャルリスのなかでは切り捨てることのできない存在だった。


「まるで駄々っ子じゃな。あれも厭、これも厭では、何も得られんぞ」


「だって……」


「今までオヌシは何を見てきた。待っていれば、誰かから幸せが与えられると思うではないわ。みずから勝ち取りに行くものじゃ」


 シャルリスのカラダから、バトリの腕が伸びてきた。その腕が、チェイテとアリエルの乗っていたドラゴンの足首をつかんだ。


 引きずり下ろした。


 2匹のドラゴンが地面に叩きつけられる。ドラゴンの叫び声が響く。さらに大きな砂ボコリが舞い上がらせた。


 チェイテとアリエルの対処は早かった。


 ドラゴンから降りて、駆けてくる。


 今度はシャルリスの意思で、肉の腕を両肩から生やした。


 まずは右肩の手。チェイテに殴りかかる。しかしその腕は、アリエルの裁縫針に貫かれてしまった。


 次は左肩の手を伸ばす。チェイテは大槌でそれを叩き潰した。


「くっ」


 やはりイーヴァルティの大槌は強い。
 気が付くとチェイテがすぐ目の前まで接近していた。


「シャルリス。目を覚まして」
「ボクは、眠ってなんかないっスよ」


 チェイテのコブシが、シャルリスの頬を殴りつけた。それはみじんも手加減のないコブシだった。ここ数年のあいだで大きく育ったチェイテのコブシは重たかった。


 しかし、やられっぱなしではない。


 シャルリスも自分自身の右手で、チェイテの頬を殴りつけていた。互いに小さく吹き飛ばされた。


 シャルリスは仰向けに倒れた。
 赤黒く染まった世界の向こうに、空が見て取れた。


「もう良い」
 声がした。


 バトリは、シャルリスに気遣って今まで、出てこなかったのだろう。が、ついに焦れたようだ。シャルリスの意識は、バトリに入れ替わった。
 
 ☆

 バトリは、シャルリスのことが好きだ。赤毛に赤目の同胞でもあり、いままで一緒に過ごしてきた時間がある。
 夢を通じて、過去の経験を共有した仲だ。それにシャルリスは、バトリがドラゴンの餌になることに反対もしてくれた。だから、シャルリスが悲しむようなことは出来るだけしたくない。


 が、しかし――。
(こやつらは、邪魔じゃ)
 と、思う。


 チェイテ・ノスフィルト。アリエル・キャスティアン。シャルリスを通じて2人を見てきた。長い付き合いではある。
 が、ふたりからはバトリを思いやる気持ちは感じられない。


 そりゃそうだろう。バトリはチェイテの兄を殺している。敵の親玉に情けを寄せるような人間などいない。


 ならば、バトリも2人を排除するまでだ。

 
(すまんのぉ。シャルリス)


 この行動が、シャルリスの気持ちを踏みにじることはわかっている。それでも、ふたたびドラゴンの餌にされるのだけはゴメンだ。


 バトリは自身の腹から、無数の腕を生やした。まずはチェイテだ。つかみかかろうとしたが、大槌で逆に腕を叩き潰されてしまった。


 チェイテとアリエルのふたりは、ドラゴンに騎乗しなおしていた。
 騎竜してバトリに向かって疾駆してくる。


「ワシをふつうのゾンビとは思わぬことじゃ」


 肉の腕を伸ばして、2匹のドラゴンのクチに巻きつけた。クチを開けられないようにしたのだ。


 ドラゴンの弱点はそのクチだ。クチさえ開かせなければ、ドラゴンなどたいしたことはない。さらに轡を封じることによって、手綱での操作にも支障をきたすことが出来る。


 その伸ばしている肉の腕に、アリエルが跳び乗った。


 腕づないに駆けてきて。バトリに接近してくる。


「せやぁぁッ」
 と、裁縫針でバトリの額を貫いてきた。


「小癪な。額を貫いたぐらいで、このワシをやれると思うわぬことじゃ」


「まだまだァ」


 アリエルの針が抜かれて、何度もバトリのカラダを貫いた。カラダに糸が通されてゆく。腹から生えている無数の腕を、カラダに縫い付けていく。


 この裁縫術は、かつてアジサイが使っていたものだ。


 あの甘ったれた小娘が、これほど強くなったのかと思うと、時の流れを感じさせられた。


 しかし。


「ワシのカラダは、その程度でおさえられんわッ」


 みずからのカラダを、ふくらませた。


 カラダが、どんどんと膨れ上がってゆく。天に向かってそり立つ肉のイモムシとなった。頭部からバトリの上半身が生えているようなカッコウだ。かつてロンと戦ったときにとっていた形態だ。


 シャルリスとチェイテはドラゴンに乗って、バトリの周囲を旋回していた。腕を伸ばして、とらえようとする。
 が、2人とも華麗にバトリの手をかわす。
 見事と言わざるを得ない騎竜術だ。


(さすが、あの覚者に育てられた竜騎士なだけはあるな)
 と、感心してしまう。


 長期戦はマズイ。
 この騒動をロンに気取られたら、厄介なことになる。
 この2人を早急に片付ける必要があった。


 しかし、片付けられるか?


 かつての甘ったれた卵たちは、いまやクルスニク12騎士と呼ばれる立派な戦士たちなのだ。

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