《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

25-1.チェイテの覚悟

 チェイテとアリエルは、ドワーフたちを避難させていた。


 指揮権を任されたアリエルは先頭にいた。
 ほかの竜騎士がそれに続くカッコウだ。


 各々のドラゴンには木箱がつるされており、ドワーフたちがそれに乗っている。


 チェイテはドワーフを積むことはせずに、シンガリをつとめていた。


 振り向く。


 通常のゾンビたちは追いかけて来なかったけれど、巨大種だけは着実にこちらに近づいて来ていた。


 残念ながら攪乱していた小隊は、全滅してしまったようだ。
 ルエドとシャルリスも、まだ戻って来ない。


 ドワーフたちを運んでいるアリエルは、戦闘に参加できない。


(今は、私がどうにかしないと)
 と、チェイテは責任感をおぼえた。


 このままでは巨大種を、地上都市のほうへと誘ってしまうことになる。
 それだけは、避けなければならない。


 ここで巨大種をすこしでも足止めするべきだろう。出来れば仕留めたいところだが、自分のチカラだけでこれを仕留めるのは難しい。


(アリエル。あとは任せた)
 と、胸裏でつぶやいて、チェイテは手綱を引いた。


 ドラゴンを反転させる。
 迫りくる巨大種と向き合うようなカッコウになる。


 それにしても大きい。やたらと上半身だけふくれあがっている。まるで動く山だ。両腕もドラゴンをワシヅカミにできるほどの大きさがある。上半身に比べると、下半身は貧相だった。


「ノスフィルト家の名にかけて、ここで私が止めてみせる」
 と、チェイテは魔法陣を展開した。


 火球ファイアー・ボールを射出する。巨大種の一部を焼き、肉を削ることには成功した。だが、巨大な肉体のほんの一部だ。しかも、肉はすぐに再生されてゆく。


 ダメージが通っている様子はない。巨大種はその歩みを、アリエルたちのほうへと進めてゆく。


これほどの巨体のなかから、核、を見つけ出すのは至難の技だ。


(足なら……)


 その貧弱そうな足を攻撃すれば、転がすぐらいのことは出来るかもしれない。


 巨大種から肉の腕が生えてきた。カラダが大きいぶん、リーチも長いのかもしれない。
 アリエルの率いている竜騎士を狙っているようだ。


魔防壁シールド


 半透明の盾が、肉の腕をふせいだ。肉の腕は、チェイテの張った魔防壁シールドに衝突して、叩きつけられたパン生地みたいになっていた。


 魔防壁シールドを解いて、巨大種の足元に接近した。


 火球ファイアー・ボールを足に向けて、何度も撃ちこんだ。何度も何度も撃ちこんだ。撃ちこむたびに肉が削れてゆく。


 ケムリがふきあがり、巨大種の足取りに揺らぎが生じる。


 このまま攻撃をつづければ、転がすことが出来そうだ。そう期待した瞬間だった。巨大な手のひらがチェイテに襲いかかってきた。攻撃に集中していて反応が遅れた。


「キャッ」


 騎乗していたドラゴンともども、弾き飛ばされた。
 地面に叩きつけられる。


 竜具のおかげでたいていの傷は受けない。なかに着込んでいる布の鎧クロス・アーマーが打撃系の攻撃を緩和してくれる仕組みになっている。
 けれど、さすがに衝撃を吸収しきれなかったようだ。


「くっ」


 叩きつけられた衝撃で、右足をくじいてしまった。激痛。このままではドラゴンの操縦もままならない。


 マスクが外れなかったことが幸いだった。


 さらに巨大な手が、チェイテを叩き潰そうと振り下ろされる。
 これは、逃げれない。


 さりとて魔防壁シールドでも防御もむずかしい。さっきの火球ファイアー・ボールによる攻撃によって、魔力も乏しくなっていた。


 死を、予感した。


(終わるのか、ここで……)


 それも良いかもしれない。
 ノスフィルト家の名に恥じない生きざまだったはずだ。


 もともと弱小だったけれど、ついにはクルスニク12騎士と言われるまでになることが出来たのだ。


(あなたのおかげです。ロン先生)
 と、チェイテは思った。


 せめて死ぬときは、あの人に看取られたかった。火の匂いのする、あの人が近くにいないのだけが残念だ。


 叩きつけられる。


 そう覚悟した瞬間だった。

 ドォォ―――ンッ

 轟音が鳴りひびいた。


 痛みは襲って来なかった。


 チェイテの前に、大きな背中があった。岩が立っているのかと思った。その岩は大槌で、巨大種の手を受け止めていた。


「あなたは……」


「よく、やった。下がっていろ。あとは、オレ、引き受ける」
 覚者ミツマタである。

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