《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
23-2.族長ゴゴラル
「どりゃぁぁッ」
ドワーフの住処へとつながるという石段をおりていた。
トツジョ。人影が襲いかかってきた。
シャルリスは咄嗟に剣を抜いた。ルエドが「止まれ」とハンドサインを送ってきた。
襲撃者を受け止めたのは、先頭にいたミツマタだった。
階段は不思議と青白く発光しており、その光が襲撃者の姿を照らしていた。
ノルマンヘルムをかぶった小男だった。ホントウに小さい。シャルリスの腰のあたりまでしか背丈がない。
これが――。
ドワーフか。
「てめェ、いったいどの面下げて、ここに戻ってきたかッ!」
小男は幅広の剣を構えていた。
ミツマタが大槌でそれを受け止めていた。つばぜり合いのような案配になっている。
ルエドが割って入った。
「いったい、どうしたって言うんですか」
小男はすぐに剣を引いた。
「これは失敬。ブザマなところを見せた。ワシはドワーフたちの族長をやっている。ゴゴラル・ゴゴリアルと申す者」
ゴゴラルはまるで子供みたいな背丈しかないのに、顔にたっぷりと白ヒゲをたくわえていた。
その白ヒゲには土が付着している。
青白く発光した洞窟の光を受けて、ノルマンヘルムが輝いていた。
「族長でしたか。我々は地上都市の竜騎士です。ドワーフの使者から、話を聞いてやってきました」
「うむ。待っていた。よく来てくれた。しかしその前に、そこにいる男は、覚者じゃな。たしかミツマタとか名乗っておったか。故郷を裏切り、名前すら捨てたか」
「彼がどうかしたのですか?」
「ドワーフは、人間たちの建造した地上都市に移住したい。その件について話し合いたいのはヤマヤマじゃが、その男を我がドワーフの里に入れることは出来ん。その男は外に放り出しておいてくれ」
ゴゴラルは剣先で、ミツマタのことを指してそう言った。
「はぁ、しかし……」
と、ルエドは困ったように縁なしメガネを、薬指で持ち上げていた。
覚者というのは、もともと皇帝陛下直属の部隊だ。無下に扱うわけにはいかない。ルエドはそれで困惑したのだろう。
ミツマタは他人に何か指図される前に、黙って地上へと戻って行った。
ミツマタは全身大岩の姿をして、何を考えているのか読み取りにくい。けれどその全身から寂寞とした気配を発しているようにも見えた。
「いったいなんなんっスか。イキナリ切りつけてきて、チョット酷いんじゃないっスか」
と、シャルリスはたまらずクチをはさんだ。
ミツマタには世話になったこともあって、肩を持ちたい気分だった。
おい、とルエドが注意してきた。
「構わん。ドワーフ移住の件で呼びつけたのに、イキナリ切りつけてビックリさせてしまったのは事実じゃ。しかしこちらも事情がある。こんなところで立ち話もなんじゃから、下へ案内しよう」
ゴゴラルはそう言うと、幅広の剣を鞘におさめて、階下へとおりて行った。
戸惑いがあったけれど、引き返すわけにもいかない。
ゴゴラルについて、階段をくだって行く。
大空洞に出た。
「うわぁ」
と、シャルリスは思わず感嘆の声をあげた。
巨大な空洞。天井からは岩の氷柱が垂れさがっていた。魔法が使われている様子もないのに、洞窟全体が青白く光っていた。
そしてその洞窟のなかには、人工的な建造物が並んでいるのだ。高層の建物も並んでいる。そんな景色をヘイゲイできる崖上に、シャルリスは立っているのだった。
「ようこそ、これがドワーフの里じゃ!」
と、ゴゴラルは誇らしげに胸を張って言った。
その声は野太く、大空洞のなかに響きわたった。その小さなカラダから発せられた声とは思えなかった。
「ここにはどれぐらいドワーフが住んでいるんっスか? けっこうな大都市って感じっスけど」
「もともとは10万人以上のドワーフがここに住んでいたとされている。しかし今、生き残っているのはたったの300人じゃ」
と、ゴゴラルは指を3本立ててそう言った。短いけれど太い指だった。
「こ、これだけ大きな都市に300人しか、住んでいないっスか」
「多くはゾンビたちにやられてしもうてな」
「ドワーフもゾンビになるっスか」
「ドワーフももとをたどれば、人の派生。どうやらゾンビになるようじゃな」
「そうなんっスね」
それを聞くと、ドワーフたちに親近感をおぼえた。ゾンビという共通の敵を抱えているのだ。
「どうぞ、こちらに」
と、ゴゴラルはさらに歩みを進めた。
シャルリスたちはそれに続いた。石段をさらにくだると、崖上から見えていた都市に入ることが出来た。
当たり前だが、行き交う人たちも、みんなドワーフだった。
ドワーフたちはノルマンヘルムをかぶって、スコップなりピッケルなりをかついでいた。
ドワーフたちも物珍しいようで、シャルリスたちのことを見つめていた。
踏みならしてできたような道を進んで行く。
城があった。
石造りの巨大な城は、人間の建造するそれと変わりなかった。ツララ石の下に建てられた城の姿は壮大だった。
城の入口には、鉄の門があった。門の左右にドワーフの衛兵と、ドラゴンの石像が置かれていた。
「ドワーフにも、竜神教みたいなのがあるんっスか?」
と、シャルリスは気になって尋ねた。
「まさにその竜神教が、ドワーフたちの唯一の宗教じゃ。ワシだって、ドラゴンの精神を宿す戦士のつもりじゃ」
シャルリスの知っている宗派ということで、ドワーフたちにますます親しみがわいた。
「ボクだって、ドラゴンの精神を宿した戦士っスよ」
「聞いておる。クルスニクの竜騎士たちは、地上を大移動したのであろう。それを守護した勇敢な竜騎士たちの活躍は、ワシらドワーフの胸を打った」
と、ゴゴラルは、みずからの胸をたたいていた。
「なんか、知ってくれてると、うれしいっスね」
けっして名声が得られるような戦いではなかったけれど、こうして周囲から称賛されるのは悪い気がしない。
「クルスニクの戦士たちのいる都市ならばと思って、ワシらもそちらに移住しようと考えておるのじゃ」
「でも、こんな立派な都市があるなら、べつに移住する必要もなくないっスか? ここにはゾンビも来ないっスよね。見たところ瘴気も入ってきてないみたいですし」
「たしかに瘴気もゾンビも、ここには来ない。じゃが、人手があまりにも不足しておる。ワシらドワーフは建築や鍛冶といった技術には長けておるが、狩りは苦手なのじゃ。だから、出来ることなら地上都市の世話になりたいと思うておる」
むろん、ただで世話になろうとしておるわけではないぞ――と、ゴゴラルはつづける。
「ワシらの建築技術や、鍛冶技術はきっと役に立つはずじゃ」
「なるほど技術提供ってヤツっスね」
「まぁ、そんなところじゃな」
と、ゴゴラルはたっぷりとたくわえた白ヒゲをナでつけていた。
城の中へと招き入れられた。
こうして城のなかに入ってみると、自分たちが洞窟のなかにいるとなんて信じられなかった。
石造りの通路は、人間の城とかわりない。
ところどころに、青白く光る物体がつるされていた。
「これは魔法じゃないっスね」
と、天井からつるされている丸いものを、シャルリスは指差した。
「それはドワーフたちが照明に使う、光鉱石と言われるものじゃ。見てのとおり常に光を発する鉱石じゃ」
「下ってきた階段が明るかったのも、そういうわけっスね」
「うむ」
「へぇ。地中には、こんなのもあるっスね」
「ワシらと手を組めば、こういったものも提供することが出来る」
廊下を歩いて行くと、大きな両開きのトビラがあった。
ゴゴラルは全身でもたれかかるようにして、そのトビラを開けた。
重々しくトビラが開く。
その先にあったのは、地上都市の作戦会議室によく似た部屋だった。
中央には巨大な長机が置かれていて、石造りのイスが並べられていた。壁面にはドワーフの形をした石像がいくつも並べられていた。
「ここは、なんの部屋っスか?」
「ここは、ドワーフたちの会議室じゃ。すぐにお茶の準備をするから、すこし待っていておくれ」
お茶はけっこうですとか、そういうわけにもいかん――といったルエドとゴゴラルの押し問答のすえに、運んできてもらうことになった。
そのあいだシャルリスたちは、各々好きなイスに腰をおろすことにした。
ドワーフの住処へとつながるという石段をおりていた。
トツジョ。人影が襲いかかってきた。
シャルリスは咄嗟に剣を抜いた。ルエドが「止まれ」とハンドサインを送ってきた。
襲撃者を受け止めたのは、先頭にいたミツマタだった。
階段は不思議と青白く発光しており、その光が襲撃者の姿を照らしていた。
ノルマンヘルムをかぶった小男だった。ホントウに小さい。シャルリスの腰のあたりまでしか背丈がない。
これが――。
ドワーフか。
「てめェ、いったいどの面下げて、ここに戻ってきたかッ!」
小男は幅広の剣を構えていた。
ミツマタが大槌でそれを受け止めていた。つばぜり合いのような案配になっている。
ルエドが割って入った。
「いったい、どうしたって言うんですか」
小男はすぐに剣を引いた。
「これは失敬。ブザマなところを見せた。ワシはドワーフたちの族長をやっている。ゴゴラル・ゴゴリアルと申す者」
ゴゴラルはまるで子供みたいな背丈しかないのに、顔にたっぷりと白ヒゲをたくわえていた。
その白ヒゲには土が付着している。
青白く発光した洞窟の光を受けて、ノルマンヘルムが輝いていた。
「族長でしたか。我々は地上都市の竜騎士です。ドワーフの使者から、話を聞いてやってきました」
「うむ。待っていた。よく来てくれた。しかしその前に、そこにいる男は、覚者じゃな。たしかミツマタとか名乗っておったか。故郷を裏切り、名前すら捨てたか」
「彼がどうかしたのですか?」
「ドワーフは、人間たちの建造した地上都市に移住したい。その件について話し合いたいのはヤマヤマじゃが、その男を我がドワーフの里に入れることは出来ん。その男は外に放り出しておいてくれ」
ゴゴラルは剣先で、ミツマタのことを指してそう言った。
「はぁ、しかし……」
と、ルエドは困ったように縁なしメガネを、薬指で持ち上げていた。
覚者というのは、もともと皇帝陛下直属の部隊だ。無下に扱うわけにはいかない。ルエドはそれで困惑したのだろう。
ミツマタは他人に何か指図される前に、黙って地上へと戻って行った。
ミツマタは全身大岩の姿をして、何を考えているのか読み取りにくい。けれどその全身から寂寞とした気配を発しているようにも見えた。
「いったいなんなんっスか。イキナリ切りつけてきて、チョット酷いんじゃないっスか」
と、シャルリスはたまらずクチをはさんだ。
ミツマタには世話になったこともあって、肩を持ちたい気分だった。
おい、とルエドが注意してきた。
「構わん。ドワーフ移住の件で呼びつけたのに、イキナリ切りつけてビックリさせてしまったのは事実じゃ。しかしこちらも事情がある。こんなところで立ち話もなんじゃから、下へ案内しよう」
ゴゴラルはそう言うと、幅広の剣を鞘におさめて、階下へとおりて行った。
戸惑いがあったけれど、引き返すわけにもいかない。
ゴゴラルについて、階段をくだって行く。
大空洞に出た。
「うわぁ」
と、シャルリスは思わず感嘆の声をあげた。
巨大な空洞。天井からは岩の氷柱が垂れさがっていた。魔法が使われている様子もないのに、洞窟全体が青白く光っていた。
そしてその洞窟のなかには、人工的な建造物が並んでいるのだ。高層の建物も並んでいる。そんな景色をヘイゲイできる崖上に、シャルリスは立っているのだった。
「ようこそ、これがドワーフの里じゃ!」
と、ゴゴラルは誇らしげに胸を張って言った。
その声は野太く、大空洞のなかに響きわたった。その小さなカラダから発せられた声とは思えなかった。
「ここにはどれぐらいドワーフが住んでいるんっスか? けっこうな大都市って感じっスけど」
「もともとは10万人以上のドワーフがここに住んでいたとされている。しかし今、生き残っているのはたったの300人じゃ」
と、ゴゴラルは指を3本立ててそう言った。短いけれど太い指だった。
「こ、これだけ大きな都市に300人しか、住んでいないっスか」
「多くはゾンビたちにやられてしもうてな」
「ドワーフもゾンビになるっスか」
「ドワーフももとをたどれば、人の派生。どうやらゾンビになるようじゃな」
「そうなんっスね」
それを聞くと、ドワーフたちに親近感をおぼえた。ゾンビという共通の敵を抱えているのだ。
「どうぞ、こちらに」
と、ゴゴラルはさらに歩みを進めた。
シャルリスたちはそれに続いた。石段をさらにくだると、崖上から見えていた都市に入ることが出来た。
当たり前だが、行き交う人たちも、みんなドワーフだった。
ドワーフたちはノルマンヘルムをかぶって、スコップなりピッケルなりをかついでいた。
ドワーフたちも物珍しいようで、シャルリスたちのことを見つめていた。
踏みならしてできたような道を進んで行く。
城があった。
石造りの巨大な城は、人間の建造するそれと変わりなかった。ツララ石の下に建てられた城の姿は壮大だった。
城の入口には、鉄の門があった。門の左右にドワーフの衛兵と、ドラゴンの石像が置かれていた。
「ドワーフにも、竜神教みたいなのがあるんっスか?」
と、シャルリスは気になって尋ねた。
「まさにその竜神教が、ドワーフたちの唯一の宗教じゃ。ワシだって、ドラゴンの精神を宿す戦士のつもりじゃ」
シャルリスの知っている宗派ということで、ドワーフたちにますます親しみがわいた。
「ボクだって、ドラゴンの精神を宿した戦士っスよ」
「聞いておる。クルスニクの竜騎士たちは、地上を大移動したのであろう。それを守護した勇敢な竜騎士たちの活躍は、ワシらドワーフの胸を打った」
と、ゴゴラルは、みずからの胸をたたいていた。
「なんか、知ってくれてると、うれしいっスね」
けっして名声が得られるような戦いではなかったけれど、こうして周囲から称賛されるのは悪い気がしない。
「クルスニクの戦士たちのいる都市ならばと思って、ワシらもそちらに移住しようと考えておるのじゃ」
「でも、こんな立派な都市があるなら、べつに移住する必要もなくないっスか? ここにはゾンビも来ないっスよね。見たところ瘴気も入ってきてないみたいですし」
「たしかに瘴気もゾンビも、ここには来ない。じゃが、人手があまりにも不足しておる。ワシらドワーフは建築や鍛冶といった技術には長けておるが、狩りは苦手なのじゃ。だから、出来ることなら地上都市の世話になりたいと思うておる」
むろん、ただで世話になろうとしておるわけではないぞ――と、ゴゴラルはつづける。
「ワシらの建築技術や、鍛冶技術はきっと役に立つはずじゃ」
「なるほど技術提供ってヤツっスね」
「まぁ、そんなところじゃな」
と、ゴゴラルはたっぷりとたくわえた白ヒゲをナでつけていた。
城の中へと招き入れられた。
こうして城のなかに入ってみると、自分たちが洞窟のなかにいるとなんて信じられなかった。
石造りの通路は、人間の城とかわりない。
ところどころに、青白く光る物体がつるされていた。
「これは魔法じゃないっスね」
と、天井からつるされている丸いものを、シャルリスは指差した。
「それはドワーフたちが照明に使う、光鉱石と言われるものじゃ。見てのとおり常に光を発する鉱石じゃ」
「下ってきた階段が明るかったのも、そういうわけっスね」
「うむ」
「へぇ。地中には、こんなのもあるっスね」
「ワシらと手を組めば、こういったものも提供することが出来る」
廊下を歩いて行くと、大きな両開きのトビラがあった。
ゴゴラルは全身でもたれかかるようにして、そのトビラを開けた。
重々しくトビラが開く。
その先にあったのは、地上都市の作戦会議室によく似た部屋だった。
中央には巨大な長机が置かれていて、石造りのイスが並べられていた。壁面にはドワーフの形をした石像がいくつも並べられていた。
「ここは、なんの部屋っスか?」
「ここは、ドワーフたちの会議室じゃ。すぐにお茶の準備をするから、すこし待っていておくれ」
お茶はけっこうですとか、そういうわけにもいかん――といったルエドとゴゴラルの押し問答のすえに、運んできてもらうことになった。
そのあいだシャルリスたちは、各々好きなイスに腰をおろすことにした。
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