《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

23-2.族長ゴゴラル

「どりゃぁぁッ」


 ドワーフの住処へとつながるという石段をおりていた。


 トツジョ。人影が襲いかかってきた。


 シャルリスは咄嗟に剣を抜いた。ルエドが「止まれ」とハンドサインを送ってきた。


 襲撃者を受け止めたのは、先頭にいたミツマタだった。


 階段は不思議と青白く発光しており、その光が襲撃者の姿を照らしていた。
 ノルマンヘルムをかぶった小男だった。ホントウに小さい。シャルリスの腰のあたりまでしか背丈がない。


 これが――。
 ドワーフか。


「てめェ、いったいどの面下げて、ここに戻ってきたかッ!」


 小男は幅広の剣を構えていた。
 ミツマタが大槌でそれを受け止めていた。つばぜり合いのような案配になっている。


 ルエドが割って入った。


「いったい、どうしたって言うんですか」


 小男はすぐに剣を引いた。


「これは失敬。ブザマなところを見せた。ワシはドワーフたちの族長をやっている。ゴゴラル・ゴゴリアルと申す者」


 ゴゴラルはまるで子供みたいな背丈しかないのに、顔にたっぷりと白ヒゲをたくわえていた。
 その白ヒゲには土が付着している。
 青白く発光した洞窟の光を受けて、ノルマンヘルムが輝いていた。


「族長でしたか。我々は地上都市の竜騎士です。ドワーフの使者から、話を聞いてやってきました」


「うむ。待っていた。よく来てくれた。しかしその前に、そこにいる男は、覚者じゃな。たしかミツマタとか名乗っておったか。故郷を裏切り、名前すら捨てたか」


「彼がどうかしたのですか?」


「ドワーフは、人間たちの建造した地上都市に移住したい。その件について話し合いたいのはヤマヤマじゃが、その男を我がドワーフの里に入れることは出来ん。その男は外に放り出しておいてくれ」


 ゴゴラルは剣先で、ミツマタのことを指してそう言った。


「はぁ、しかし……」
 と、ルエドは困ったように縁なしメガネを、薬指で持ち上げていた。


 覚者というのは、もともと皇帝陛下直属の部隊だ。無下に扱うわけにはいかない。ルエドはそれで困惑したのだろう。


 ミツマタは他人に何か指図される前に、黙って地上へと戻って行った。


 ミツマタは全身大岩の姿をして、何を考えているのか読み取りにくい。けれどその全身から寂寞とした気配を発しているようにも見えた。


「いったいなんなんっスか。イキナリ切りつけてきて、チョット酷いんじゃないっスか」
 と、シャルリスはたまらずクチをはさんだ。


 ミツマタには世話になったこともあって、肩を持ちたい気分だった。


 おい、とルエドが注意してきた。


「構わん。ドワーフ移住の件で呼びつけたのに、イキナリ切りつけてビックリさせてしまったのは事実じゃ。しかしこちらも事情がある。こんなところで立ち話もなんじゃから、下へ案内しよう」


 ゴゴラルはそう言うと、幅広の剣を鞘におさめて、階下へとおりて行った。


 戸惑いがあったけれど、引き返すわけにもいかない。
 ゴゴラルについて、階段をくだって行く。


 大空洞に出た。
「うわぁ」
 と、シャルリスは思わず感嘆の声をあげた。


 巨大な空洞。天井からは岩の氷柱が垂れさがっていた。魔法が使われている様子もないのに、洞窟全体が青白く光っていた。


 そしてその洞窟のなかには、人工的な建造物が並んでいるのだ。高層の建物も並んでいる。そんな景色をヘイゲイできる崖上に、シャルリスは立っているのだった。


「ようこそ、これがドワーフの里じゃ!」
 と、ゴゴラルは誇らしげに胸を張って言った。


 その声は野太く、大空洞のなかに響きわたった。その小さなカラダから発せられた声とは思えなかった。


「ここにはどれぐらいドワーフが住んでいるんっスか? けっこうな大都市って感じっスけど」


「もともとは10万人以上のドワーフがここに住んでいたとされている。しかし今、生き残っているのはたったの300人じゃ」
 と、ゴゴラルは指を3本立ててそう言った。短いけれど太い指だった。


「こ、これだけ大きな都市に300人しか、住んでいないっスか」


「多くはゾンビたちにやられてしもうてな」


「ドワーフもゾンビになるっスか」


「ドワーフももとをたどれば、人の派生。どうやらゾンビになるようじゃな」


「そうなんっスね」


 それを聞くと、ドワーフたちに親近感をおぼえた。ゾンビという共通の敵を抱えているのだ。


「どうぞ、こちらに」
 と、ゴゴラルはさらに歩みを進めた。


 シャルリスたちはそれに続いた。石段をさらにくだると、崖上から見えていた都市に入ることが出来た。


 当たり前だが、行き交う人たちも、みんなドワーフだった。
 ドワーフたちはノルマンヘルムをかぶって、スコップなりピッケルなりをかついでいた。


 ドワーフたちも物珍しいようで、シャルリスたちのことを見つめていた。


 踏みならしてできたような道を進んで行く。


 城があった。
 石造りの巨大な城は、人間の建造するそれと変わりなかった。ツララ石の下に建てられた城の姿は壮大だった。


 城の入口には、鉄の門があった。門の左右にドワーフの衛兵と、ドラゴンの石像が置かれていた。


「ドワーフにも、竜神教みたいなのがあるんっスか?」
 と、シャルリスは気になって尋ねた。


「まさにその竜神教が、ドワーフたちの唯一の宗教じゃ。ワシだって、ドラゴンの精神を宿す戦士のつもりじゃ」


 シャルリスの知っている宗派ということで、ドワーフたちにますます親しみがわいた。


「ボクだって、ドラゴンの精神を宿した戦士っスよ」


「聞いておる。クルスニクの竜騎士たちは、地上を大移動したのであろう。それを守護した勇敢な竜騎士たちの活躍は、ワシらドワーフの胸を打った」
 と、ゴゴラルは、みずからの胸をたたいていた。


「なんか、知ってくれてると、うれしいっスね」


 けっして名声が得られるような戦いではなかったけれど、こうして周囲から称賛されるのは悪い気がしない。


「クルスニクの戦士たちのいる都市ならばと思って、ワシらもそちらに移住しようと考えておるのじゃ」


「でも、こんな立派な都市があるなら、べつに移住する必要もなくないっスか? ここにはゾンビも来ないっスよね。見たところ瘴気も入ってきてないみたいですし」


「たしかに瘴気もゾンビも、ここには来ない。じゃが、人手があまりにも不足しておる。ワシらドワーフは建築や鍛冶といった技術には長けておるが、狩りは苦手なのじゃ。だから、出来ることなら地上都市の世話になりたいと思うておる」


 むろん、ただで世話になろうとしておるわけではないぞ――と、ゴゴラルはつづける。


「ワシらの建築技術や、鍛冶技術はきっと役に立つはずじゃ」


「なるほど技術提供ってヤツっスね」


「まぁ、そんなところじゃな」
 と、ゴゴラルはたっぷりとたくわえた白ヒゲをナでつけていた。


 城の中へと招き入れられた。


 こうして城のなかに入ってみると、自分たちが洞窟のなかにいるとなんて信じられなかった。


 石造りの通路は、人間の城とかわりない。


 ところどころに、青白く光る物体がつるされていた。


「これは魔法じゃないっスね」
 と、天井からつるされている丸いものを、シャルリスは指差した。


「それはドワーフたちが照明に使う、光鉱石と言われるものじゃ。見てのとおり常に光を発する鉱石じゃ」


「下ってきた階段が明るかったのも、そういうわけっスね」


「うむ」


「へぇ。地中には、こんなのもあるっスね」


「ワシらと手を組めば、こういったものも提供することが出来る」


 廊下を歩いて行くと、大きな両開きのトビラがあった。
 ゴゴラルは全身でもたれかかるようにして、そのトビラを開けた。
 重々しくトビラが開く。
 その先にあったのは、地上都市の作戦会議室によく似た部屋だった。


 中央には巨大な長机が置かれていて、石造りのイスが並べられていた。壁面にはドワーフの形をした石像がいくつも並べられていた。


「ここは、なんの部屋っスか?」


「ここは、ドワーフたちの会議室じゃ。すぐにお茶の準備をするから、すこし待っていておくれ」


 お茶はけっこうですとか、そういうわけにもいかん――といったルエドとゴゴラルの押し問答のすえに、運んできてもらうことになった。
 そのあいだシャルリスたちは、各々好きなイスに腰をおろすことにした。

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