《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

22-4.次の作戦

 告白プロポーズは、むろん断った。男はべつにショックを受けた様子でもなくて、「そうですか。イキナリすみませんでした。また出直します」と言うと、爽やかに微笑んで立ち去って行った。


「な、なんだったっスか?」
 と、シャルリスは呟いた。


 告白プロポーズされたことなんて、はじめてだった。しかも付き合ってくれとかいう段階をすっ飛ばして、結婚してくれ――である。


 ビックリはしたし、チョットうれしかったし、不気味でもあった。


「シャルリスのことが、好きだったんじゃありませんか?」
 と、アリエルが言う。


「まぁ、そうみたいっスけど、ボクと会ったこともないんっスよ。付き合うならまだしも、イキナリ結婚っスよ」


「きっと告白プロポーズのやり方が下手だったんですね」


「そういう問題なんっスかね」
 と、シャルリスは首をかしげた。


 まだ心臓がドキドキしている。
 アリエルはすでに、こういった経験をくりかえしているのだろうと思うと、なんだかアリエルがずっと大人に見えた。


 シャルリスたちのもとに、伝令がやって来た。すぐに城に来てくれということだった。


 各々のドラゴンに乗って、シャルリスたちは城へと飛んで行くことにした。シャルリスが騎乗しているのは、赤いウロコのドラゴンだ。


 見習い時代から、懐かせようと苦心してきたドラゴンだ。


 シャルリスはロンに乗ることも多いが、ふつうのドラゴンに乗るさいには、このドラゴンに乗ることにしている。


 他にドラゴンを扱えないのだ。このドラゴンは見習い時代に、ロンが竜語で言い聞かせてくれているから乗れるのだが、ほかはシャルリスを食おうとしてくる。


 城。
 中庭に着地した。


 ドラゴンを竜舎につなぐ。伝令官に連れられて、作戦会議室にむかった。


 この城には、チャント王さまがいる。この地上都市の王の座には、チェイテの叔父が座っているのだ。
 都市竜クルスニクから流れてきた公爵貴族の1人であり、民衆の信望も厚かった。


 ちなみに皇帝陛下の後釜には、大公貴族の者が就いていた。


「よくよく考えてみれば、チェイテってお姫さまっスよね。王さまの娘なんだから」


「そんな大層なものじゃない。都市の王は、あくまで領主という立場。今まで通り公爵貴族であることに変わりはない」


「なんかでも、ずっと一緒にいるせいで、お姫さまって感じしないっスね」


「ノスフィルト家は代々、実力を求められる家系だから。私にも前線での活躍が求められている」 

 でも――と、チェイテはつづけた。


「ようやく、私は周囲の期待に沿えるようになってきた」


「いまやボクたちは、クルスニク12騎士の一角っスからね」


「そう。そこは、かつて私の兄がいた場所」


「チェイテのお兄ちゃんっスか」


「そう」
 と、チェイテはうなずいた。


 そう言えば、以前に聞いたことがある。


 カルク・ノスフィルト。
 若くして、クルスニク12騎士のなった兄がいたそうだ。しかし【腐肉の暴食】との戦いのさなかに死んでいる。


 チェイテはいま、その兄がいた場所に立っているのだ。


 12騎士という立場について、シャルリスやアリエルよりかは、何か思うところがあるかもしれない。


「しーっ。これから作戦会議室ですから、私語は厳禁ですよ」
 と、アリエルが鼻に人さし指を当てて、そう注意してきた。


 作戦会議室――。
 大きな木造のテーブルが部屋の中央を占めていた。背もたれの大きなイスが、いくつも並べられている。壁面には書籍が詰め込まれており、天井からはドラゴンの彫刻がつるされている。


「遅い」
 と、一言、叱責された。
 エレノア・キャスティアンだ。


 帝都竜ヘルシングに移住したさいには、副長になっていたが、この地上都市にてふたたび竜騎士長という座に返り咲いていた。


 この人は3年前となにも変わらない。
 もうそれなりの年齢のはずだが、ますます美しくなっている気がする。
 この姉妹は、いったいどうなってるんだ、とシャルリスは隣にいるアリエルをイチベツした。


「それでボクたちに、何か仕事っスか? 物資回収班の護衛なら、いつでも行けるっスけど」


「そうではない。その程度のことで、お前たち3人を呼びだしたりはしない」
 と、エレノアがかぶりを振った。


 長いブロンドの髪から、良い匂いがただよってきた。


「じゃあなんっスか?」


「実は、この付近で、我々意外にも地上で暮らしている種族がいたのだ」


「マジっスか?」


「正確には、地上ではなくて、地中だな」
 と、エレノアは人差し指で石造りの床を指差した。


「地面のなかで暮らしてるんっスか」


「ドワーフだ。この3年かけて、地上都市もだいぶ復興してきた。ドワーフの連中も、こちらに移住してきたいと言ってきているのだ。ドワーフは建築技術に長けているし、ぜひとも迎え入れたい――というのが上の意見だ」


「でも、安易な協力は、帝都みたいなことにならないっスか? 違う種族といっしょに暮らすのは難しいっスよ」


 同じ人間同士でも、帝都人はクルスニク人を受け入れることが出来なかったのだ。だからこうして地上に移住することになったのだ。


 いま別の種族を迎え入れることによって、内紛が起きるかもしれない。


「これは上の決定だ。お前が心配することではない」
 と、エレノアは一蹴した。


「それはそうかもしれないっスけど」


「痛みを知るクルスニク人は、ドワーフを受け入れてくれるだろう。私はそう信じている」


 たしかに、そう信じたい。
 幸せは、出来るだけ、みんなで享受したい。


 たとえ理想論でも、困っている人がいるなら、手を差し伸べたくなるのが人情というものだろう。


「で、ボクたちはどうすれば良いっスか?」


「ドワーフたちが、こちらに移住してくる。その運搬だ」


「ドラゴンで運ぶっスか? まさか【都市竜クルスニク脱出作戦】のときみたいに、地上を歩かせるわけじゃないっスよね」


 あんな作戦は、二度とゴメンだ。


「安心しろ。あのときほど人数もいないし、急を要しているわけでもない。それにあのときの作戦を経て、人を運ぶ技術は、ある程度できている。ドラゴンでドワーフたちを、こちらに運び込む。地上を歩かせるようなことにはならん」


「良かった」
 と、安堵の息を吐き落とした。


 だったら、そう悲劇的なことになることはないだろう、と楽観した。


「だからと言って、気を抜くなよ。城壁があるから良いものの、この地上都市の周囲にはゾンビが群がっているのだ」


「そりゃ、もちろんわかってるっスよ」


 生きた人間の匂いにつられて、ゾンビがこの近辺に引き寄せられているのだ。
 仮に城壁が破られたなら、数千数万と思われるゾンビがなだれ込んでくることだろう。


「今は私もこの都市を離れるわけにはいかない。今回の作戦の総指揮は、この男に執らせる」


 入れ――と、エレノアが声を発した。


 入ってきたのは青い髪を真ん中分けにした男だった。縁なしメガネをかけている。どこかで見たことのある顔だ。


「あああァァ――ッ」
 思い出して、シャルリスは声をあげた。

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