《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

20-1.シャルリスの戦い Ⅰ

(なんて強さだ)


 シャルリスを相手に、リーは翻弄されていた。


 シャルリスに近づこうにも、無限に肉の腕が生えてきて、近寄ることすらままならない。


 右から腕がつかみかかってくる。身をかがんでかわす。今度は左。ドラゴンの腕ではじき返す。下方から2本。はばたいて逃げた。


 融合種のゾンビを相手にしたという竜騎士たちの話を思い出した。リー自身には経験のないことだけれど、まるで、それを相手にしているかのようだ。


 伸縮自在の腕が、四方八方から襲いかかってくるのだ。


 右。腕。反応が遅れた。頬を殴り飛ばされた。


 クチのなか、血の味。
 唾液を、吐きだす。


「どうしたっスか。意気揚々とケンカを売りに来たわりには、たいしたことないっスね。そのカラダは見かけ倒しっスか」
 と、シャルリスは挑発してきた。


(クソッ)


 廃都探索作戦のさいに、シャルリスのチカラは観察していた。自分なら止められる。リーはそう見積もっていた。甘かった。シャルリスはまだまだ実力を隠していたようだ。


 もはやこの強さは、竜騎士長――いや、それよりも上――覚者に匹敵するほどだ。


 シャルリスのなかには【腐肉の暴食】が宿っているのだ。ならば、それ相応のチカラがあってもオカシナ話ではない。


(でも、こいつはオレが倒さないと)


 シャングは、クルスニク人抹殺のために動いている。そしてマオはチェイテと戦っている。


 シャルリスを倒せるのは、リーしかいない。リーならばシャルリスを倒せると信じて、シャングは送り出したのだ。


 ただでさえ帝都の人間は、クルスニク人にたいして感染の恐怖をいだいている。こんな怪物を帝都内に放置しておくわけにはいかないのだ。


(そうだよな。ゴウ)
 と、失った親友のことを思った。


 クルスニク人なんて来なければ、ゴウも死ぬことはなかった。


 そしてマオもいる。
 リーがどんな怪物になろうとも、友達でいてくれる。そう言ってくれた。ならばその気持ちに応えたい。


「うううぅぅッ」
 と、リーはうなった。


 左半身のドラゴンのカラダが、右半身へと侵食していく。ドラゴンの細胞によって、全身に尋常ではないチカラがみなぎってくる。


 ドラゴンという生物が、いかに強靭な生き物なのか、リーならばわかる。自分の人間としての感覚を、埋め込まれたドラゴンの細胞が支配していくかのようだ。


(でも、これなら……ッ)


 シャルリスめがけて突進した。


 シャルリスは全身から肉の腕を生やした。闇夜のなかでも目立つ真っ白い腕の群れが、リーにつかみかかってくる。すべて引きちぎった。さっきまでとは違う。


 ドラゴンのチカラが高まっているのだ。
 シャルリスに届く。


 その顔を殴りつけた。


 女子の顔を殴りつけることにたしいて罪悪感のようなものもあったけれど、シャルリスを、女子、という性別に分類して正しいのかどうかは曖昧なところだ。


 シャルリスが地上へと叩き落とされる。が、すぐに、肉の翼を広げて飛びあがってきた。


 つかみかかってくる。


 殴られて、殴り返す。
 肉の音が響き合う。


 もはや魔法でも騎竜術でもない。怪物同士の殴り合いである。


 だが、わずかにリーのほうが押していた。


(やれるぞ)


 このチカラ。竜人族と生み出す人体実験によって得たチカラだ。
 欲しかったわけではない。


 帝都は金をはらって、実験体を集めている。竜人族を生み出すための実験だ。


 リーは両親に売られたのだ。リーは貧民街の出自だった。両親ともに生活が苦しかったのだろう。愛されてはいなかったのかもしれない。実験体として差し出されて以降は、両親に会ってはいない。


 でも。
 不幸ではなかった。


 シャングが目をかけてくれた。ゴウやマオもいた。みんなが家族みたいなものだ。


 マオも親から愛されなかったようだ。そういう点でも気が合った。


(オレたちは、影だ)


 マオは、ノスフィルト家という輝きから生み出された、影の部分だ。そしてリーも、竜人族という光から生み落とされた影だ。


(ここでオレが、シャルリスを仕留める。そして帝都に安寧をもたらすんだ)


 そう思った矢先だった。
 シャルリスが、リーから距離をとった。


 シャルリスには月の後光がさしていた。リーは目をしばたいた。
 なにやら様子が妙だった。
 シャルリスの首のあたりから、別人の頭が生えていた。


 なんだ……あれは?
 見ればみるほど怪物である。

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