《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

19-2.チェイテの戦い Ⅱ

 チェイテは落下していた。マオに落とされたのだ。


 意識はハッキリとしていた。



『最初から、何もかも手にしてる、てめェなんかに、負けるわけにはいかねェんだよ!』


 マオに言われた言葉が、チェイテに突き刺さっていた。


 自分が最初から、何もかも手にしている?


 いや。
 それはない。


 チェイテはむしろ、持たざる者だった。持たざる者なのに、持たなくてはならない重圧を、あの義弟は知らないのだ。


 チカラがなかったのに、ノスフィルト家の看板を背負わされることになった。


 誰にも弱味を吐けず、周囲が見ている虚像と、自分自身の乖離に悩まされた。それも今ではすこしマシになった。


(あの人のおかげで)


 ロン。
 あの人は、チェイテの実力を知って、チェイテのことを高めてくれた。


 ノスフィルト家の看板など、歯牙にもかけていなかった。ロンの前ではだから、なにも気負う必要はなかった。


 シャルリスやアリエルという友人もできた。友人ができたことで、チェイテは救われた。


 そう思う。


 卵黄学園でおくってきた日々が、脳裏をかすめた。
 ロンが導き、3人がその背中について行った。


 その道を――。
(ノスフィルトという名にかけられる重みを……私の歩んできた道を……)


 何も知らない者に、否定させたりはしない。


 チェイテは指笛を吹いた。
 音を聞きつけた白銀のドラゴンが、追いかけてきた。
 チェイテのカラダをすくい上げてくれた。


 マオ。
 急降下して、追いかけてきている。追撃をかけるつもりだったのだろう。


「弟のシツケは、姉の役目」


「誰が、てめェなんかに!」


「さっきは不意をつかれた。もう油断しない。私は負けるわけにはいかない」


「オレなんかに負ければ、ノスフィルト家の看板が傷つくか」


「違う」


 マオはふたたびドラゴンごと衝突してきた。


 チェイテは魔防壁シールドを張って、それを防いだ。


 マオのドラゴンは壁に叩きつけられたようなカッコウになっていた。マオ自身もまた、魔防壁シールドに顔をブツけたようだ。鼻血を出していた。


「くそっ」


「私が負けられないのは、あの人に育てられたという矜持があるから」


「あの人だぁ?」


「そう」


 ロン。
 覚者に育てられたという自負がある。チェイテの実力を知っていながら、ロンはチェイテのことを小隊に誘ってくれたのだ。ノスフィルト家など関係なく、チェイテのことを迎え入れてくれたのだ。


 ならば。
 自分に出来ることは、育てられた成果を示すこと。


 ひとつあなたは勘違いをしている――と、チェイテはつづけた。


「私はノスフィルト家として生まれた。けれど、魔力が非常に弱かった。とてもじゃないけれど、ノスフィルト家にふさわしい才能はなかった」


「でも貴様は、現にこうして、オレを圧倒してるじゃねェか」


 マオはロングソードで、魔防壁シールドを叩きつけていた。が、そう簡単に砕けはしない。マオの剣が逆に弾かれていた。


「これは、才能ではない。私の歩んできた結果に過ぎない」


「なにを意味わからねェことを」


「それからひとつ、義姉からの注意。あなたはドラゴンの扱いが乱暴すぎる。もうすこし丁寧に扱うべき」


 チェイテはそう言うと、腰に佩していた剣を抜いた。
 マオのにぎっていた手綱を切った。


 ドラゴンの制御がきかなくなったようだ。振り落とされていた。


 今度はマオのカラダが落っこちてゆく。


「世話のかかる弟」


 チェイテはそう呟いて、落っこちてゆくマオを拾い上げた。


 気絶しているようだ。


 チェイテの張った魔防壁シールドに衝突したさいに、脳震盪を起こしたのかもしれない。


 上空。
 シャルリスとリーが戦っているのが見て取れる。
 しかし援護には行く余力はなかった。


 シャルリスが無事かどうか確認しに行こうと思った。

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