《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

17-1.クルスニク人抹殺

「準備はできているか?」
 シャングがそう尋ねてきた。


 帝都。
 背面地区と、右脇腹地区を区分けするための城壁。その歩廊アリュールに、リーとマオはいた。


 ここからだと、背面地区と、脇腹地区の造りの違いがよくわかる。前者は、石造りの背の高い建物が集っている。後者は、木造で素朴な風景だ。素朴というよりも、貧相というほうが的確だ。もともとは、貧民街なのだ。


 ふたつの町並みに、月光スポット・ライトが当たっていた。今日の夜空には3つの月が浮いている。


「そっちは、上手くいったんですか?」
 と、リーが尋ねる。


「ああ。皇帝陛下には眠ってもらった。クルスニク人を受け入れるような判断をした皇帝など死んだほうがマシだ。その殺害容疑をかけて、覚者ヘリコニアと副長のエレノア・キャスティアンは、城の牢に閉じ込めてある。しばらくは出て来ないはずだ」
 と、シャングは城のあるほうを親指で指した。


 ここから帝都の中心にある城も見える。都市内にかがやく魔法の照明に照らされて、城も明るく見えていた。


「こっちはいつでもいけますよ」
 と、マオが言う。


 マオも真っ赤な目は戦意にたぎっているようだった。その赤毛が風を受けて、逆巻いていた。まるで燃え盛る炎のようだった。マオ本人は嫌いな色らしいが、見ているぶんにはキレイだと思う。
マオはそれを封じ込めるかのように、ヘルムをかぶった。


「覚者ヘリコニアが異変に気付くまでが勝負だ。仮にヤツが出てきたら止める術はないからな」


「はい」
 と、リーとマオは声をそろえた。


 覚者ヘリコニアの強さは、すでに見分済みだ。たしかにあれを押さえる術はない。
 シャングは包帯をズらして、爛れたクチ元をさらけ出した。そして声を張り上げた。


「これよりクルスニク人抹殺作戦を開始する!」


 城門棟の鉄扉が不気味な音をたてて開く。背面地区にいた暴徒たちが、いっせいに右脇腹地区へとなだれ込んだ。


「これしか、方法はないんですかね」
 と、リーは尋ねた。


 クルスニク人を、帝都から追い出さなくてはならない。それはわかる。だからと言って、クルスニク人を殺してしまうのは、あまりに過激な気もする。


「仕方ない。本来なら、今回の廃都探索作戦によって、クルスニク人の多くを処理するつもりだったのだ。だからわざわざ危険な場所を、任務地として選んだ。巨大種を襲わせもした」


「はい」


「しかし、作戦は失敗に終わった。クルスニクの竜騎士と覚者ヘリコニアのせいで、すべて防ぎきられてしまった。ならば、みずからの手でクルスニク人を抹殺するしかない」


「ですが、皇帝陛下に進言して、クルスニク人に出て行ってもらうように取り計らってもらうという方法もあったのではないですか?」


「クルスニク人を受け入れるメリットもあった。ヤツらを前線の労働力として酷使することだ。今回のようにな。それに例のバケモノも、特別視されていた」


「シャルリス・ネクティリアですか」


 ああ、とシャングがうなずく。


「皇帝陛下はクルスニク人を追い出すつもりはないようだった。それは何度話し合っても同じことだった。だから我らが直接、手を下さなければならなくなったのだ。これ以上、我らの程度をヤツらに穢させるわけにはいかん」


 ビビってンのかよ――とマオが、リーの脇腹を小突いてきた。


「そりゃ……迷ってはいるよ」


 これから殺す相手はゾンビではないのだ。ゾンビでも躊躇があるぐらいだ。なのに相手は、生きた人間なのだ。


 マオがリーの胸ぐらをつかんできた。


「ゴウのことを忘れたわけじゃないだろう!」


「そりゃ、もちろん」


 ゴウ。
 リーやマオと幼馴染で、いっしょに竜騎士になる約束だった。


 だけど3ヶ月前。【クルスニク人ゾンビ化事件】の被害者となった。ゾンビ化したクルスニク人に襲われて、ゾンビになってしまったのだ。民心に動揺を与えるからという理由で、しかもその事件はあまり公にはされなかった。


「連中はゴウを殺したんだ。なのにノウノウと、この都市に居座ってやがる。これ以上、感染を広げないためにも、一刻もはやく連中を処理する必要がある」


 そうですよね、とマオがシャングに尋ねた。
 シャングはチカラ強くうなずいた。


「その通りだ。今回の騒動が終ったあと、私は裁きを受けるつもりだ。皇帝殺害の件も隠すつもりはない。自白する」


 しかしッ――と、シャングは語気を強めた。


「これからやることを悔いるつもりはない。後世の帝都のためを思えば、クルスニク人を受け入れるべきではなかった。実際、ここに集まった暴徒の連中は、クルスニク人を受け入れるべきではないと考えているのだ」


 暴徒はすでに、右脇腹地区へとなだれ込んでいた。政治的な目的のために、暴力をもって訴える。これはまぎれもなくテロだ。


「君たち若き竜騎士を巻きこんだことは、申し訳なく思っている。それでも、君たちのチカラは必要だったのだ。覚者ヘリコニアとエレノア副長の身柄を拘束してもなお、クルスニクには実力ある竜騎士が多い」


 謝らないでくださいよ――と、マオが言う。


「むしろオレは、シャング竜騎士長に感謝してるんです。チェイテ・ノスフィルトを殺すこの機会をくれたことを」


 マオは、チェイテを殺す機会があるなら、なんでも良かったのだろう。


「そう言ってもらえると、私もすこし心が軽くなる。リーはどうだ? もし罪悪感が勝ると言うのならば、作戦に参加する必要はない。シャルリス・ネクティリアを止められるのは君だけだと思うが」


「オレは――」


 すべては、この時のためだった。
 ゴウが殺されたときに誓った。クルスニク人を殺してやる、と。


 さきほどの廃都探索作戦のさいでは、クルスニクの竜騎士たちの実力を見分する機会もあった。シャルリスの実力も見ることが出来た。


 リーの決意を鈍らせているのは、まさにそのシャルリスの存在だった。助けられてしまったのだ。お姫さま抱っこをされて、担ぎ上げられた。その感触はいまでも残っている。


 だが、それでも――。
 マオやシャング竜騎士長だけに罪を背負わせるわけにはいかない。この作戦の肝は、リーにかかっている。
 シャルリス・ネクティリアを殺せるのは、リーだけだ。


「大丈夫です」
 と、意を決した。


「ならばこれより2人は標的へと向かってくれ。散開!」

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