《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

15-4.失った仲間

 もともと3人だったのだ。
 帝都の竜騎士見習い学園に通っていた。リーとマオ、そしてゴウ。幼馴染だった。3人いっしょに入園したはずなのに、ゴウは特別だった。魔法も、騎竜術も、剣術も優れていた。


 よくゴウに鍛えてもらったものだ。


 誰がイチバン先にガールフレンドが出来るかという話になったことがあった。ゴウだろう。それが一致した意見だった。幸が不幸か小隊の3人が男だったので、下卑た話も遠慮なくできた。


 なのに。
 ゴウは、死んだ。
 ゾンビに噛まれてしまったのだ。


 目が白濁して、顔がケロイドに覆われていくゴウの変貌を、リーはいまでも忘れない。最後にゴウは言った。


「お前らは、立派な竜騎士に、なれよ」


 だから――。
(こんな場所で死ぬわけにはいかないッ)
 巨大種につかまれて、身動きできなくなっているリーは、己のチカラを解放しようと決意した。


 が。
 瞬間。
 リーに噛みつこうとしていた、人面蛇の首が斬り落とされた。


 ゾンビの生首が、リーの目の前に転がっていた。白濁した目が、リーのほうを見つめてきた。


 死んだ――のか?


 いや。まだだ。別の場所からまた蛇みたいな首が生えていた。


 しかし、この首を切り落としたのは、いったい誰だろうか。


「大丈夫っスか?」


 少女がリーのすぐ近くに着地した。短い赤毛の少女。シャルリス・ネクティリアだ。


「ひっ」
 と、リーは短い悲鳴をあげた。


 シャルリスは竜具を装備していなかった。布の鎧クロス・アーマーだけだ。右肩から変異種ゾンビみたいな腕を生やしている。その腕の先端が、巨大なナイフのようになっていた。さらに背中からは翼らしきものを生やしている。その翼で、飛んできたらしかった。


「あ、ビックリさせちゃったっスね。驚かなくても良いっスよ。助けに来ただけなんで」


「あ、危ない!」


 シャルリスの背後から、巨大種の生やした腕が迫っていた。シャルリスは振り向くこともなく、右肩から生えている肉の刃で、それを切り落としていた。


(この人、強い)


 戦い慣れている。
 ゾンビへの怯懦がみじんも感じられなかった。


 リーは、シャルリスに担ぎ上げられた。まるでお姫さま抱っこされるようなカッコウになった。


 女子とこんなに密着するのは、はじめての経験だった。肉の翼を生やしているとはいえ、女の子らしい良い匂いがした。それにとても柔らかい。


 シャルリスは肉の翼を広げて、城壁の歩廊アリュールまで飛びあがった。歩廊アリュールにいた帝都の竜騎士――そのなかにはマオもいる――が、シャルリスの姿を見て腰をヌかしていた。


「もう落っこちちゃダメっスよ」


 シャルリスはまるで子供をあやすみたいにそう言うと、巨大種のほうへと飛んで戻って行った。


 見下ろす。
 シャルリスをはじめに、チェイテ・ノスフィルトとアリエル・キャスティアンの3人が、巨大種を仕留めていた。


「おい、大丈夫か?」
 と、マオが駆け寄ってきた。


「う、うん。たぶん」


 これといってケガはない。足首をつかまれていた部分には、まだ軽く痛みが残っている。傷というほどではない。噛まれてもいないし、出血もなかった。


「なら良かった。ゴウにつづいて、お前まで死んじまうかと思ったぜ」
 と、マオが胸をナで下していた。


「助けられたみたいだ。シャルリス・ネクティリアに」


 お姫さま抱っこをされたことを思い出すと、赤面をおぼえた。リーが勝手にそう感じるだけかもしれないが、お姫さま抱っこというのは、男性が女性にたいしてするからカッコウがつくのだ。その逆だと、恥ずかしい。


「あのバケモノは、なんか言ってたか?」


「よく覚えてないけど……」


 敵意は感じられなかった。むしろ優しかった。そう思う。ああ見えても、いちおう人間なのだろう。


「しかし、クルスニクの竜騎士ってのは、どうなってやがるんだ。あの巨大種を仕留めちまいやがったぜ」


「たぶん、あの3人は特別なんだと思う。覚者に育てられてるから」


「だな。これは油断できねェな」
 と、マオが苦笑していた。


 巨大種の死体が、城壁によりかかるようにして倒れていた。


 が。
 もう1匹。


 帝都の竜騎士たちが引きつけていたはずの巨大種が、探索隊のほうへと猛進していた。いまの騒動で巨大種のターゲットが変わったのかもしれない。


 人影がひとつ巨大種のうえに跳び乗るのが見えた。


 いったい誰だろうか。
 近くに落ちていた双眼鏡を手に取って、覗きこんでみた。


 黒髪に黒目の男性。
 あれは。


「覚者ヘリコニアだ」


 ヘリコニアが両手に炎を宿していた。その手で巨大種に触れた。
 瞬間。
 ボッ、と巨大種のカラダが燃え上がった。巨大種のカラダは黒い燃えカスとなって、舞い上がって行く。まるで黒い吹雪が、廃都に降り注いだかのようだった。


「あれが覚者のチカラかよ。桁外れだな。おい」
 と、マオが呟いた。


 歩廊アリュールにいた帝都の竜騎士たちは、ただその黒い燃えカスに魅入っていた。そのなかには、全身に包帯を巻きつけているシャングもいた。シャングの手は、握りコブシに固められて震えていた。

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