《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
15-4.失った仲間
もともと3人だったのだ。
帝都の竜騎士見習い学園に通っていた。リーとマオ、そしてゴウ。幼馴染だった。3人いっしょに入園したはずなのに、ゴウは特別だった。魔法も、騎竜術も、剣術も優れていた。
よくゴウに鍛えてもらったものだ。
誰がイチバン先にガールフレンドが出来るかという話になったことがあった。ゴウだろう。それが一致した意見だった。幸が不幸か小隊の3人が男だったので、下卑た話も遠慮なくできた。
なのに。
ゴウは、死んだ。
ゾンビに噛まれてしまったのだ。
目が白濁して、顔がケロイドに覆われていくゴウの変貌を、リーはいまでも忘れない。最後にゴウは言った。
「お前らは、立派な竜騎士に、なれよ」
だから――。
(こんな場所で死ぬわけにはいかないッ)
巨大種につかまれて、身動きできなくなっているリーは、己のチカラを解放しようと決意した。
が。
瞬間。
リーに噛みつこうとしていた、人面蛇の首が斬り落とされた。
ゾンビの生首が、リーの目の前に転がっていた。白濁した目が、リーのほうを見つめてきた。
死んだ――のか?
いや。まだだ。別の場所からまた蛇みたいな首が生えていた。
しかし、この首を切り落としたのは、いったい誰だろうか。
「大丈夫っスか?」
少女がリーのすぐ近くに着地した。短い赤毛の少女。シャルリス・ネクティリアだ。
「ひっ」
と、リーは短い悲鳴をあげた。
シャルリスは竜具を装備していなかった。布の鎧だけだ。右肩から変異種ゾンビみたいな腕を生やしている。その腕の先端が、巨大なナイフのようになっていた。さらに背中からは翼らしきものを生やしている。その翼で、飛んできたらしかった。
「あ、ビックリさせちゃったっスね。驚かなくても良いっスよ。助けに来ただけなんで」
「あ、危ない!」
シャルリスの背後から、巨大種の生やした腕が迫っていた。シャルリスは振り向くこともなく、右肩から生えている肉の刃で、それを切り落としていた。
(この人、強い)
戦い慣れている。
ゾンビへの怯懦がみじんも感じられなかった。
リーは、シャルリスに担ぎ上げられた。まるでお姫さま抱っこされるようなカッコウになった。
女子とこんなに密着するのは、はじめての経験だった。肉の翼を生やしているとはいえ、女の子らしい良い匂いがした。それにとても柔らかい。
シャルリスは肉の翼を広げて、城壁の歩廊まで飛びあがった。歩廊にいた帝都の竜騎士――そのなかにはマオもいる――が、シャルリスの姿を見て腰をヌかしていた。
「もう落っこちちゃダメっスよ」
シャルリスはまるで子供をあやすみたいにそう言うと、巨大種のほうへと飛んで戻って行った。
見下ろす。
シャルリスをはじめに、チェイテ・ノスフィルトとアリエル・キャスティアンの3人が、巨大種を仕留めていた。
「おい、大丈夫か?」
と、マオが駆け寄ってきた。
「う、うん。たぶん」
これといってケガはない。足首をつかまれていた部分には、まだ軽く痛みが残っている。傷というほどではない。噛まれてもいないし、出血もなかった。
「なら良かった。ゴウにつづいて、お前まで死んじまうかと思ったぜ」
と、マオが胸をナで下していた。
「助けられたみたいだ。シャルリス・ネクティリアに」
お姫さま抱っこをされたことを思い出すと、赤面をおぼえた。リーが勝手にそう感じるだけかもしれないが、お姫さま抱っこというのは、男性が女性にたいしてするからカッコウがつくのだ。その逆だと、恥ずかしい。
「あのバケモノは、なんか言ってたか?」
「よく覚えてないけど……」
敵意は感じられなかった。むしろ優しかった。そう思う。ああ見えても、いちおう人間なのだろう。
「しかし、クルスニクの竜騎士ってのは、どうなってやがるんだ。あの巨大種を仕留めちまいやがったぜ」
「たぶん、あの3人は特別なんだと思う。覚者に育てられてるから」
「だな。これは油断できねェな」
と、マオが苦笑していた。
巨大種の死体が、城壁によりかかるようにして倒れていた。
が。
もう1匹。
帝都の竜騎士たちが引きつけていたはずの巨大種が、探索隊のほうへと猛進していた。いまの騒動で巨大種のターゲットが変わったのかもしれない。
人影がひとつ巨大種のうえに跳び乗るのが見えた。
いったい誰だろうか。
近くに落ちていた双眼鏡を手に取って、覗きこんでみた。
黒髪に黒目の男性。
あれは。
「覚者ヘリコニアだ」
ヘリコニアが両手に炎を宿していた。その手で巨大種に触れた。
瞬間。
ボッ、と巨大種のカラダが燃え上がった。巨大種のカラダは黒い燃えカスとなって、舞い上がって行く。まるで黒い吹雪が、廃都に降り注いだかのようだった。
「あれが覚者のチカラかよ。桁外れだな。おい」
と、マオが呟いた。
歩廊にいた帝都の竜騎士たちは、ただその黒い燃えカスに魅入っていた。そのなかには、全身に包帯を巻きつけているシャングもいた。シャングの手は、握りコブシに固められて震えていた。
帝都の竜騎士見習い学園に通っていた。リーとマオ、そしてゴウ。幼馴染だった。3人いっしょに入園したはずなのに、ゴウは特別だった。魔法も、騎竜術も、剣術も優れていた。
よくゴウに鍛えてもらったものだ。
誰がイチバン先にガールフレンドが出来るかという話になったことがあった。ゴウだろう。それが一致した意見だった。幸が不幸か小隊の3人が男だったので、下卑た話も遠慮なくできた。
なのに。
ゴウは、死んだ。
ゾンビに噛まれてしまったのだ。
目が白濁して、顔がケロイドに覆われていくゴウの変貌を、リーはいまでも忘れない。最後にゴウは言った。
「お前らは、立派な竜騎士に、なれよ」
だから――。
(こんな場所で死ぬわけにはいかないッ)
巨大種につかまれて、身動きできなくなっているリーは、己のチカラを解放しようと決意した。
が。
瞬間。
リーに噛みつこうとしていた、人面蛇の首が斬り落とされた。
ゾンビの生首が、リーの目の前に転がっていた。白濁した目が、リーのほうを見つめてきた。
死んだ――のか?
いや。まだだ。別の場所からまた蛇みたいな首が生えていた。
しかし、この首を切り落としたのは、いったい誰だろうか。
「大丈夫っスか?」
少女がリーのすぐ近くに着地した。短い赤毛の少女。シャルリス・ネクティリアだ。
「ひっ」
と、リーは短い悲鳴をあげた。
シャルリスは竜具を装備していなかった。布の鎧だけだ。右肩から変異種ゾンビみたいな腕を生やしている。その腕の先端が、巨大なナイフのようになっていた。さらに背中からは翼らしきものを生やしている。その翼で、飛んできたらしかった。
「あ、ビックリさせちゃったっスね。驚かなくても良いっスよ。助けに来ただけなんで」
「あ、危ない!」
シャルリスの背後から、巨大種の生やした腕が迫っていた。シャルリスは振り向くこともなく、右肩から生えている肉の刃で、それを切り落としていた。
(この人、強い)
戦い慣れている。
ゾンビへの怯懦がみじんも感じられなかった。
リーは、シャルリスに担ぎ上げられた。まるでお姫さま抱っこされるようなカッコウになった。
女子とこんなに密着するのは、はじめての経験だった。肉の翼を生やしているとはいえ、女の子らしい良い匂いがした。それにとても柔らかい。
シャルリスは肉の翼を広げて、城壁の歩廊まで飛びあがった。歩廊にいた帝都の竜騎士――そのなかにはマオもいる――が、シャルリスの姿を見て腰をヌかしていた。
「もう落っこちちゃダメっスよ」
シャルリスはまるで子供をあやすみたいにそう言うと、巨大種のほうへと飛んで戻って行った。
見下ろす。
シャルリスをはじめに、チェイテ・ノスフィルトとアリエル・キャスティアンの3人が、巨大種を仕留めていた。
「おい、大丈夫か?」
と、マオが駆け寄ってきた。
「う、うん。たぶん」
これといってケガはない。足首をつかまれていた部分には、まだ軽く痛みが残っている。傷というほどではない。噛まれてもいないし、出血もなかった。
「なら良かった。ゴウにつづいて、お前まで死んじまうかと思ったぜ」
と、マオが胸をナで下していた。
「助けられたみたいだ。シャルリス・ネクティリアに」
お姫さま抱っこをされたことを思い出すと、赤面をおぼえた。リーが勝手にそう感じるだけかもしれないが、お姫さま抱っこというのは、男性が女性にたいしてするからカッコウがつくのだ。その逆だと、恥ずかしい。
「あのバケモノは、なんか言ってたか?」
「よく覚えてないけど……」
敵意は感じられなかった。むしろ優しかった。そう思う。ああ見えても、いちおう人間なのだろう。
「しかし、クルスニクの竜騎士ってのは、どうなってやがるんだ。あの巨大種を仕留めちまいやがったぜ」
「たぶん、あの3人は特別なんだと思う。覚者に育てられてるから」
「だな。これは油断できねェな」
と、マオが苦笑していた。
巨大種の死体が、城壁によりかかるようにして倒れていた。
が。
もう1匹。
帝都の竜騎士たちが引きつけていたはずの巨大種が、探索隊のほうへと猛進していた。いまの騒動で巨大種のターゲットが変わったのかもしれない。
人影がひとつ巨大種のうえに跳び乗るのが見えた。
いったい誰だろうか。
近くに落ちていた双眼鏡を手に取って、覗きこんでみた。
黒髪に黒目の男性。
あれは。
「覚者ヘリコニアだ」
ヘリコニアが両手に炎を宿していた。その手で巨大種に触れた。
瞬間。
ボッ、と巨大種のカラダが燃え上がった。巨大種のカラダは黒い燃えカスとなって、舞い上がって行く。まるで黒い吹雪が、廃都に降り注いだかのようだった。
「あれが覚者のチカラかよ。桁外れだな。おい」
と、マオが呟いた。
歩廊にいた帝都の竜騎士たちは、ただその黒い燃えカスに魅入っていた。そのなかには、全身に包帯を巻きつけているシャングもいた。シャングの手は、握りコブシに固められて震えていた。
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