《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

15-1.帝都の竜騎士たち

「う、うわ……。これがクルスニク出身の竜騎士か」


 リー・フォルトは感嘆の声をあげた。
 これから廃都探索隊の護衛という仕事が待っている。


 その前に、都市クルスニクに属していた竜騎士たちと、帝都の竜騎士たちの顔合わせが、城の練兵場で行われることになった。


 城の練兵場は芝によって、緑のカーペットが敷かれたような案配になっている。


 昼日中の明かりがさしこんでいて、水面のようにその緑の地面がかがやいていた。
 その緑を踏み鳴らしてクルスニクの竜騎士が入城してきた。


 リーは帝都の竜騎士だったが、エレノア率いるクルスニクの竜騎士に圧倒された。


「おい、ビビるなよ。オレたちと何も変わりない。同じ竜騎士なんだから」
 と、友人のマオ・ノスフィルトがそう言って、リーの脇腹を小突いてきた。


 リーはよろめいた。


「連中は、【都市竜クルスニク脱出作戦】を生き残った強者たちだよ」


 民に地上を歩かせて、襲い来るゾンビたちを竜騎士たちが防ぎきったのだ。民の犠牲は少なかった代わりに竜騎士の被害は多かったと聞く。


 ここにいる竜騎士は、そのなかを生き残った者たちなのだ。そう思うと、赤黒い戦気すら発しているように見える。


 クルスニク人は、帝都人から嫌われている。嫌われているというか、怖れられているのだ。感染しているかもしれないから。


 しかし一方で、クルスニクの竜騎士たちの評価は高かった。彼らこそ、真にドラゴンの精神を宿す者たちだと称賛する声もある。


 クルスニク人が辛うじて受け入れられているのは、その竜騎士たちの活躍があったから――と言っても、過言ではない。


「わかってるさ。けれど、ビビってちゃナめられるだろ。オレたちにも帝都に仕える竜騎士の誇りがあるんだからよ」
 と、マオが言う。


「いや、でも……」


「オレたちだって帝都の見習いを卒業して、やっと竜騎士になったんだ。ナめられてたまるかよ」


 こうして向かい合っていれば、わかる。
 同じ竜騎士でも、見てきたものが違いすぎる。


 リーにはまだ実戦経験がない。マオだってそうだ。新米なのだ。


 一方。
 正面に並んでいるクルスニクの竜騎士はどうだ。
 面構えが違う。目つきが違う。竜騎士としての覚悟が違いすぎる。


 リーは自分が手汗をにぎっていることに気づいた。布の鎧クロス・アーマーで手を拭った。


 整列ッ――と、エレノアが声をあげた。
 まるで空気を切り裂くかのような、鋭い声だった。


(あれがエレノア・キャスティアンか)
 と、見惚れた。


 ウワサには聞いている。


 クルスニク竜騎士を率いてきた戦姫。類まれな美貌と、苛烈な性格の持ち主。


 ゾンビと戦うさいには常に先陣を切って戦うのだそうだ。たしかに美しい人だと思ったが、目に宿る光がすさまじい。


 エレノアの声を受けたクルスニクの竜騎士たちが、横陣に並んだ。


 そのなかに赤毛に赤い目をした者を探した。いた。真正面だ。シャルリス・ネクティリア。【腐肉の暴食】を宿した者と聞いている。


 そんな人間をどうして、竜騎士として招き入れているのか、リーには事情がよくわからない。が、怖い、とは思う。


 こうしている間にも、【腐肉の暴食】が暴れ出す可能性だってあるのだ。


 シャルリスのことを見ていると、目があった。赤い凛然とした目を向けられて、リーは目をそらした。


 この人もまた、地獄を見てきた騎士の顔つきをしていた。


「これより、クルスニク出身の竜騎士と、帝都の竜騎士たちと顔合わせを行う。それからすぐに廃都探索隊の護衛の任務につく。両者の実力を知るという意味でも、互いに火球ファイアー・ボールを放ってもらう。相手を殺すつもりで魔法を放て。ケガをした者は、今からおこなう任務には置いていくことになる」


 そう説明しているのは、帝都の竜騎士長だ。名をシャングと言う。本名なのか、通名なのかもよくわからない。ただ、人は彼のことをシャングとだけ呼ぶ。


 シャングは全身に包帯を巻きつけている。包帯のあいまからブロンドらしき髪がはみ出している。右目だけ露出しており、アメジストのような紫炎の輝きを放っていた。


 はじめてシャングのことを見たときは、リーは小便を漏らしそうになるほどビックリした。なにせ全身包帯男である。いや。女かもしれない。それすら判然としない。いまはもう見慣れた。


 クルスニクからやって来たエレノアは、シャング竜騎士長の下につく形で、副長となっている。


 実力としては、どちらが上なのかわからない。


 シャングはもともと帝都の竜騎士長であるから、エレノアが副長になるのは筋が通っているようには感じる。


「両者。距離をとって横陣に並んだ後に、魔法陣展開! 合図をすれば一斉に火球ファイアー・ボールを放て!」
 と、シャングが指示を出した。
 竜騎士たちは言われた通りに動く。


「おい、聞いたかよ。相手を殺すつもりでやれってよ。殺してしまっても処分はないはずだ。シャルリス・ネクティリアとかいうバケモノを殺すなら、今かも知れないぜ」


 右隣にいるマオ・ノスフィルトが冗談とも本気ともつかない口調でそう言う。


「オレにはあんな怪物殺せないって」


「大丈夫だ。あいつは参加しないみたいだからよ」
 と、マオが指さした先。


 部隊からすこし離れたところに、黒髪黒目の男がいた。覇気のない顔をしているが、不気味な雰囲気も持っている。


「あれって……」


 覚者ヘリコニア。
 史上最強の個体。


「ウワサには聞いてたけど、マジらしいな。覚者がクルスニクの隊についてるってのは」


「あの人って、ドラゴンに変身できるんだよね?」


「ああ。竜人族の末裔らしい」


 完璧な竜人族。もっとよく観察してみたいと思うけれど、そんなゆとりはない。


「もしオレが、殺されそうになったら助けてよ」


「こっちは、こっちで手いっぱいなんだよ」


 マオはそう言うと、正面を睨んだ。


 マオもまたシャルリスと同じく、赤毛赤目の民だった。
 リーはよくタヌキみたいな顔をしていると言われるが、マオのほうはそれとは逆でネコみたいな顔をしていると言われている。


 マオが睨む正面にいるのは、チェイテ・ノスフィルトだ。同じノスフィルト家らしいが、マオは妾の子だと聞いている。


 確執があるのだ。


「本気を出せば、このなかではリーがいちばん強いんだ。自信を持てよ」
 と、背中を叩いてきた。


「そんなこと言われても……」


 私語をつつしめッ、とシャングの叱責がとんできた。
 リーは肩をすくめた。


 両者、赤系魔法陣を展開する。
 放てェ。
 シャングが吠えた。


 その声を合図にして、火球ファイアー・ボールを放った。


 ホントウに死人が出たら、どうするのか。考えもせずに、とにかくありったけの魔力を込めたつもりだった。


 リーの放った火球ファイアー・ボールは、正面にいたシャルリスの放った火球ファイアー・ボールと衝突した。


 圧倒的だった。


 シャルリスの火球ファイアー・ボールは、リーのそれを呑みこんで、そのままリーのもとに飛んできた。


「ヤバ……っ」


 魔防壁シールドをあわてて展開した。多少は勢いを防げたはずだが、魔防壁シールドは砕けて、リーは吹っ飛ばされた。


 気づくとリーは芝の生えた地面に仰向けに倒れていた。周囲。帝都の竜騎士たちは、ほとんど倒されていた。となりにはマオもいた。そして正面には毅然として立っているクルスニクの竜騎士たちがいた。


 これが――。
 これがクルスニクの竜騎士か。
 同じ竜騎士でも、レベルが違いすぎる。


(こんな連中に勝てるのかよ)
 と、思う。


 これから行われる廃都探索作戦のさいにも、帝都の竜騎士はお荷物になるかもしれない。


 竜騎士になろうと必死に努力をしてきた。魔法も鍛えて、騎竜術も学んだ。なのに、その努力がすべて水の泡になったかのようだった。息をきらせて山頂に到着したと思ったら、まだ山のふもとだったような感覚だった。


 以上だ――と、シャングが声をあげた。


「これが帝都でヌクヌクと暮らしてきた竜騎士諸君と、死地を抜けてきたクルスニクの竜騎士との差だ。帝都の竜騎士の隊長として、私もこの結果は情けなく思う。が、悲嘆することはない。苦難の先には、得られる物が必ずあるのだ。それを肝に命じろ」


 この結果を、シャングはわかっていたのだろう。


 クルスニクの竜騎士が、どれほどのものなのか、帝都の竜騎士たちに見せつけるための儀式だったのかもしれない。


 シャングは言葉をつづける。


「顔合わせは以上だ。総員出撃準備! これより竜騎士部隊は、廃都探索隊の護衛につく。ただちに準備にかかれ!」


 いつまでも倒れているわけにはいかない。リーは跳ね起きた。
 隣で倒れているマオは、悔しそうに歯ぎしりをして空を見上げていた。

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