《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
12-6.アジサイの夢
アジサイはオブラティオに処された子だった。オブラティオは、子供を神に授けるという意味だ。要するに、貴族が子供を捨てるときの言い訳だ。
捨てられたときにアジサイは親がパッチワークでつくった衣をまとっていたと聞いている。そのせいかは自分でもわからないのだが、裁縫が好きだった。
服を作るのが好きなわけでも、自分を表現したいわけでもなかった。技術を磨きたいわけでも、周りからホめてもらいたいわけでもなかった。
ただ、物を縫う、という行為に安らぎを覚えるのだ。
破れている物。ほつれている物。離れてゆく物を、そこに縫いとめる。繋ぎ止めるという行為は、すなわち愛だ。そう思う。
あらゆる物を縫いつけていく。布だけにとどまらない。昆虫。動物。そして人間。その工程で針はどんどん大きくなっていった。
さすがに人間同士を縫い合わせようとしたときは、教会のシスターから激怒をくらうことになった。
たぶん、周囲からは奇妙に思われていたのだろう。そのせいか、あまり周囲に馴染むことが出来なかった。
大人になって働くようになった。
服を縫うことを仕事とした。
べつに上手になろうと思って縫っていたわけではないのだが、気づくと都市ダミアノスで有名な服屋になっていた。
しかし服を縫うだけでは満足できなかった。
やっぱり。
人間を縫い合わせたかった。
つなぎ止めることこそ愛ならば、縫い合わせることこそ愛の体現ではないか――と思った。
しかし、さすがに人間同士を縫い合わせることが許されないだろう、という分別ぐらいはつくようになっていた。
そこで。
アジサイは夜な夜なコッソリと地上におりて、ゾンビを縫い合わせるという趣味を見出すことにした。
はじめてゾンビを縫い合わせたときは、射精するほどの快感を得たものだ。
それを趣味としているうちに、ゾンビとの戦い方を習得するようになった。べつに強くなろうと思ったわけではない。ただ縫い合わせたかっただけなのだ。
しかし、言われた。
「それは真実の愛ではねェぜ。コゾウ。ずいぶんと隘路に迷い込んじまったようだな」
と。
そう言ったのは覚者長のノウゼンハレンだった。
「覚者にならないか?」
と、誘われた。
好きなだけゾンビを縫い合わせて良いと言う。まぁ、ゾンビを縫い合わせても良いのなら、なっても良いかと思った。
どうして、そんなことを思い返しているのか。
死ぬからか。
これが走馬灯なのか――。
結局。
真実の愛とは、いったい何なのか。
「ぐはッ」
と、アジサイは声を漏らした。
カラダに強い衝撃が走った。ゾンビ化したのかと思った。違う。何か大きなものに叩きつけられたのだ。
それによってアジサイは走馬灯から抜け出すことになった。
気づくとアジサイは大きな岩の下敷きになっていた。
クルスニクの頭から落っこちたようで、地面が沼地になっていた。
カラダが沼地に沈みこむ。沼の水が耳穴から入り込んで来るのが不快だった。
「無事か」
「あぁ? お前しゃべれたのかよ」
アジサイにタックルをかましてきたのは、ミツマタだった。大岩のカラダでタックルをかまして来たものだから、全身に激痛が走った。
「援護要請。オレ、イチバン、近かった」
ハマメリスが援護を要請したのだろう。ミツマタは言葉数がすくないので、意味をくみとりにくい。
「ッたく、カッコウつかねェな。ってかお前の担当は良いのかよ」
「仕方ない」
「はぁ? わざわざオレさまを助けるために、担当を放棄してきたのかよ」
「ハマメリスの命令。避難民より、アジサイひとりを優先する。それが人類のため。戦力の問題」
「片言でわかんねェよ。あー、痛ってぇ」
タックルをかまされたことよりも、左手を失ったことのほうが痛い。
「死のうとしていた。楽になろうとしていた。オレ、許さない」
わーってるよ、とアジサイは応じた。
「気を付けろ。ヤツは目で対象をゾンビ化させるチカラがあるようだ」
「聞いている」
「もっと、チャントしゃべれねェのかよ」
「オレ、戦わない。疲れた」
「はぁ? 楽になろうとしてるのを許さないんじゃないのかよ」
「……」
「おい。まさか死んだんじゃねェだろうな」
応答がなくなった。
ミツマタは巨大な岩のカタマリだ。応答しないならば、もう完全に岩そのものだ。
《聞こえますか。アジサイ》
「おう。聞こえてるぜ。ハマメリスちゃん」
イヤリングからだ。アジサイは白銀のイヤリングを右の耳につけている。
《そちらにヘリコニアが向かっていますので、お2人は撤退してください》
「避難民のほうはもう良いのかよ」
《お2人を失うことのほうが、世界の痛手となります。ミツマタはもう体力が残っていませんし、アジサイも重傷ですので》
ミツマタはどうやら、死んではいないらしい。
「大岩なんてかぶってるから、すぐに体力がなくなるンだよ。このデカブツが」
《すぐに拾います。安全な場所で待機していてください》
「了解」
どうやら安全な場所に移動する必要はなさそうだ。漆黒のドラゴンが飛んで来ていた。
(あとは任せたぜ。ヘリコニア)
と、アジサイはまぶたを閉ざした。
捨てられたときにアジサイは親がパッチワークでつくった衣をまとっていたと聞いている。そのせいかは自分でもわからないのだが、裁縫が好きだった。
服を作るのが好きなわけでも、自分を表現したいわけでもなかった。技術を磨きたいわけでも、周りからホめてもらいたいわけでもなかった。
ただ、物を縫う、という行為に安らぎを覚えるのだ。
破れている物。ほつれている物。離れてゆく物を、そこに縫いとめる。繋ぎ止めるという行為は、すなわち愛だ。そう思う。
あらゆる物を縫いつけていく。布だけにとどまらない。昆虫。動物。そして人間。その工程で針はどんどん大きくなっていった。
さすがに人間同士を縫い合わせようとしたときは、教会のシスターから激怒をくらうことになった。
たぶん、周囲からは奇妙に思われていたのだろう。そのせいか、あまり周囲に馴染むことが出来なかった。
大人になって働くようになった。
服を縫うことを仕事とした。
べつに上手になろうと思って縫っていたわけではないのだが、気づくと都市ダミアノスで有名な服屋になっていた。
しかし服を縫うだけでは満足できなかった。
やっぱり。
人間を縫い合わせたかった。
つなぎ止めることこそ愛ならば、縫い合わせることこそ愛の体現ではないか――と思った。
しかし、さすがに人間同士を縫い合わせることが許されないだろう、という分別ぐらいはつくようになっていた。
そこで。
アジサイは夜な夜なコッソリと地上におりて、ゾンビを縫い合わせるという趣味を見出すことにした。
はじめてゾンビを縫い合わせたときは、射精するほどの快感を得たものだ。
それを趣味としているうちに、ゾンビとの戦い方を習得するようになった。べつに強くなろうと思ったわけではない。ただ縫い合わせたかっただけなのだ。
しかし、言われた。
「それは真実の愛ではねェぜ。コゾウ。ずいぶんと隘路に迷い込んじまったようだな」
と。
そう言ったのは覚者長のノウゼンハレンだった。
「覚者にならないか?」
と、誘われた。
好きなだけゾンビを縫い合わせて良いと言う。まぁ、ゾンビを縫い合わせても良いのなら、なっても良いかと思った。
どうして、そんなことを思い返しているのか。
死ぬからか。
これが走馬灯なのか――。
結局。
真実の愛とは、いったい何なのか。
「ぐはッ」
と、アジサイは声を漏らした。
カラダに強い衝撃が走った。ゾンビ化したのかと思った。違う。何か大きなものに叩きつけられたのだ。
それによってアジサイは走馬灯から抜け出すことになった。
気づくとアジサイは大きな岩の下敷きになっていた。
クルスニクの頭から落っこちたようで、地面が沼地になっていた。
カラダが沼地に沈みこむ。沼の水が耳穴から入り込んで来るのが不快だった。
「無事か」
「あぁ? お前しゃべれたのかよ」
アジサイにタックルをかましてきたのは、ミツマタだった。大岩のカラダでタックルをかまして来たものだから、全身に激痛が走った。
「援護要請。オレ、イチバン、近かった」
ハマメリスが援護を要請したのだろう。ミツマタは言葉数がすくないので、意味をくみとりにくい。
「ッたく、カッコウつかねェな。ってかお前の担当は良いのかよ」
「仕方ない」
「はぁ? わざわざオレさまを助けるために、担当を放棄してきたのかよ」
「ハマメリスの命令。避難民より、アジサイひとりを優先する。それが人類のため。戦力の問題」
「片言でわかんねェよ。あー、痛ってぇ」
タックルをかまされたことよりも、左手を失ったことのほうが痛い。
「死のうとしていた。楽になろうとしていた。オレ、許さない」
わーってるよ、とアジサイは応じた。
「気を付けろ。ヤツは目で対象をゾンビ化させるチカラがあるようだ」
「聞いている」
「もっと、チャントしゃべれねェのかよ」
「オレ、戦わない。疲れた」
「はぁ? 楽になろうとしてるのを許さないんじゃないのかよ」
「……」
「おい。まさか死んだんじゃねェだろうな」
応答がなくなった。
ミツマタは巨大な岩のカタマリだ。応答しないならば、もう完全に岩そのものだ。
《聞こえますか。アジサイ》
「おう。聞こえてるぜ。ハマメリスちゃん」
イヤリングからだ。アジサイは白銀のイヤリングを右の耳につけている。
《そちらにヘリコニアが向かっていますので、お2人は撤退してください》
「避難民のほうはもう良いのかよ」
《お2人を失うことのほうが、世界の痛手となります。ミツマタはもう体力が残っていませんし、アジサイも重傷ですので》
ミツマタはどうやら、死んではいないらしい。
「大岩なんてかぶってるから、すぐに体力がなくなるンだよ。このデカブツが」
《すぐに拾います。安全な場所で待機していてください》
「了解」
どうやら安全な場所に移動する必要はなさそうだ。漆黒のドラゴンが飛んで来ていた。
(あとは任せたぜ。ヘリコニア)
と、アジサイはまぶたを閉ざした。
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