《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

11-4.帝都竜ヘルシング

 帝都竜ヘルシング――。


 皇帝陛下のいる城は、ヘルシングの首の根本あたりにあった。


 3重の城壁で守られているのが見て取れる。
 周囲の都市と、城をハッキリと隔てる外壁。郭には食糧庫や、ドラゴンの厩舎といった重要施設がある。
 そして内壁に守られた郭には、竜騎士たちの兵舎がある。


 最内部の中心壁に守られた郭。
 主塔がある。


 その中心郭の庭。ロンは降り立った。
 急なドラゴンの来訪に、周囲の竜騎士たちは驚いたようだ。5人の竜騎士が、ロンを包囲するようにして集まってきた。5人ともドラゴンから降りると剣を向けてきた。


 これが――。
 帝都の竜騎士たちだ。
 基本的には都市竜クルスニク所属の竜騎士とそう変わりない。


 ロンは竜化をといて、人の姿にもどった。シャルリスを乗せるために巻きつけてあった鞍が解け落ちた。


「何者だ!」
 誰何の声をかけられた。


「覚者ヘリコニアだ。都市竜クルスニクからの使いで来た。大至急、皇帝陛下に会わせてもらいたい」


「覚者だと。後ろの者は?」


「付き人だ」
 シャルリスのことをいちいち説明している余裕はない。


 竜騎士たちは困惑しているようだったが、ロンのことを覚者だと認めたようだ。目の前でドラゴンから人の姿に戻ったのだ。それがなによりの証拠だろう。


 皇帝陛下直属の部隊である覚者だが、おもに地上で過ごすことが多い。そのため、帝都の者たちも、覚者の顔を知らない者がたいはんだった。


 竜騎士のひとりが前に進み出てきて言う。


「いちおう唾液を採らせてください。ゾンビ感染の検査をしないと、都市内に人を入れることは出来ませんので」


「わかってる」


 竜騎士が差し出してきたシャーレに唾液を吐き落とした。シャルリスも同じようにして唾液を出した。そこに真っ赤な液体が流し込まれる。竜の血だ。検査は竜の血と混ぜ合わせることによって行われる。


「よし。異常ありません。皇帝陛下はいま、主館のほうにおります」


「わかった」


 ひとりの竜騎士がサインをもらおうとして来たが、他の竜騎士にいさめられていた。急いでいるので、相手をしている余裕はなかった。


「ご案内します」


「助かる」


 ロンとシャルリスは竜騎士の、うしろに付いて行くことにした。案内に5人も必要ないのだが、5人ともロンを守護するようにして付いてきた。物珍しいものでも見るかのように視線を向けてくる。ロンと目が合うと、気まずそうに目をそらしていた。


「それにしても、シャルリスはあの検査に引っかからないんだな」
 周囲の竜騎士に聞こえないように、小声尋ねた。


「あの検査って、ドラゴンの血で《不死の魔力》が混入していないかを調べてるみたいっスよ」


「そうだな」


 ドラゴンはあらゆる異常を受け付けない強靭な血を持っている。むろん《不死の魔力》すらはじき返す。
 その反応で、陰性か陽性かを調べるのだ。


「でも始祖って言われる連中は、《不死の魔力》をあるていど操れるみたいですから、たぶん反応を隠せるっスよ」


「それでマシュも、検査では引っかからなかったわけか」


 シャルリスがゾンビ化しなかったのも、バトリが《不死の魔力》を取り除いたからなのだろう。

「まぁ、ボクの場合は検査される唾液が、ボク自身のものなんで、バトリとは別物なのかもしれないっスけど」


「ゾンビの親玉が、検査に引っかからないってのは、なんだかシックリこねェが」


 シックリ来なくて悪かったのォ……とシャルリスのコメカミのあたりから、クチが出てきた頬のところが赤い糸で縫われたクチだ。バトリのクチだとすぐにわかった。


「こらっ。こんなところで出てきちゃダメっスよ」
 と、シャルリスが注意している。


 バトリはシャルリスのなかに引っ込んだようだ。
 その様子を見ていると、決して仲が悪いようには見えなかった。同居人と仲が悪ければ、やっていけないだろう。それなりに上手く付き合っているようだ。


「食用人間は《不死の魔力》を他人のカラダに混入させるチカラを持ってるンっスよ。バトリは自分の血を瘴気にして、人間をゾンビにするって言ってましたし。だからたぶん、マシュもそういう能力を持ってるのかもしれないっス」


 マシュ・ルーマン。
 いまは、クルスニクのどこかに厳重に閉じ込められているはずだ。あれは貴重な実験体だ。
 多くの情報を残された人類に与えてくれるはずだ。


「食用人間か……。そんな連中が、まだ都市内に潜んでいるとすれば、ゾッとするな」


「ロン隊長も、怖いとか思うことあるんっスね」

「オレがそんな冷血人間に見えるか?」
 と、冗談で尋ねた。


「そ、そんなことないっスけど、でもロン隊長は強いっスから」


「個体として強くても、誰かを守れなきゃ意味はない。オレもいままで救えたはずの多くの命を取りこぼしてきた」


「そう――なんっスか?」


 最近では、チェイテの兄であるカルク・ノスフィルト。竜神教の教祖。ニト。竜読みの巫女。誰1人としてマトモに救えた試しがない。


 そういう意味でも、シャルリスの存在はロンにとっては慰めになる。シャルリスは、いちおうロンが助けたと言える命のひとつだろう。


 シャルリスの存在は、ロンの誇りでもある。自分の助けた命なのだと思うと、何か大きなことを成し遂げたような気になる。


 むろん、そんな独りよがりの感情を、シャルリスに押し付けようとは思わない。


 話を転じることにした。


「これから皇帝陛下とご対面だぜ。緊張するか?」


「そりゃ緊張するっスよ。だって、この世界でイチバン偉い人なんですよね」


「いちおうな」


 クルスニク
 コスマス
 ダミアノス
 ダンピール
 その4匹の都市竜は、領主が統治している。その4人の領主のトップにいるのが、帝都竜ヘルシングの王――皇帝陛下ということになる。


「昔はもっと、いろいろと国があって、いろんな王様がいたって聞いたことあるっスけど」


「今は、分断するほど人もいないんだろうさ。そもそも【方舟】って1匹の都市竜からはじまった領土だしな」


 さりとて人類がみんな一枚岩というわけではない。貴族たちには各々の思惑があるようだ。
 どれだけ人類が減少しても、一致団結する日は来ないだろう。たぶん、そういうふうに出来ているのだ。


「ロン隊長は、皇帝陛下と会うのに緊張とかしないっスか?」


「オレは昔からの知り合いだからな」


「そう言えば、覚者って皇帝陛下の直属の部隊なんっスよね」


「ああ。それとは別に、オレは小さいときから皇帝のことを知ってるのさ」


 両親を知らないロンは、覚者長であるノウゼンハレンに育てられた。
 その当時から、皇帝とは知り合いだ。知り合いというか、ロンからしてみれば、爺ちゃん、という感覚だ。子供ころに何度か遊んでもらった記憶もある。


 竜人族の末裔であるロンのことを、小さいころから手懐けておこうという皇帝の打算だったのだろう。


 どうぞ、こちらへ――と、案内してくれていた竜騎士が言った。
 主館のなかへと招き入れられた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品