《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
10-5.覚醒。それは圧倒的
シャルリスは自分のカラダの輪郭を意識することで、バトリのチカラを抑え込んでいる。
バトリにカラダを任せると、その感覚が曖昧なものになる。カラダが空気中に漂っているような気分。たぶん、カラダのあちこちから腕やら顔が生えてくるからだろう。痛くはないし、心地も悪いわけではない。
シャルリスのまとっている布の鎧をつきやぶって、翼が生えた。肉の翼だ。
カラダが浮く。
「ちょ、ちょっと、浮いてるっスよ」
「案ずるでないわ」
と、右手の甲から顔を生やしてバトリが言う。
巨大種がシャルリスのことをつかもうと、手を伸ばしてきた。大きな手だ。つかまれたら、握り潰される。
肉の翼を羽ばたかせて、シャルリスは自在に空を飛びまわる。
シャルリスの意識ではない。勝手に動いている。
バトリの意識によって動かされている。
自分のカラダのはずなのに、別人の肉体を見ているかのような心地だった。
シャルリスの服の内側で、肉がモゾモゾと動いた。布の鎧を突き破って、脇腹から腕が4本生えてきた。
その腕がパン生地みたいに伸びて、巨大種のカラダにつかみかかった。いや。つかみかかったように見えたが、よくよく見てみると、4本の腕が巨大種のカラダに抉りこんでいる。血が吹き出している。
「ゾンビは、核にダメージを通さないと、倒せないっスよ」
「ンなもん、言われんでもわかっておるわい。ワシを誰じゃと思うておるのか。それに、倒す必要などありゃせん。今ので巨大種の動きを止めただけじゃ」
たしかに4本の腕に刺し貫かれて、巨大種はその場にとどめられていた。
「倒す必要がない?」
「これはワシにだけ許された対処法かもしれんがな。チョットこれを外せ」
「これって、どれっスか?」
「ワシの頬の糸じゃ」
シャルリスのワキバラから4本の腕が生えているわけだが、それもまたシャルリスの意識で動かしているわけではない。
シャルリス自身の手はまだ余っている。右手の甲からバトリの顔が生えている。左手で、バトリの赤い糸を引っ張った。
「強く引っ張っても良いっスか?」
「ワシにはもう痛覚など残されてはおらん」
「でも、痛みを幻覚することがあるって言ってなかったスか?」
「ほお。ワシの話をよく覚えておるではないか。気にすることはない。ンな程度の痛みなど、たいしたもんでもないわ」
ドラゴンにカラダを食いちぎられることに比べれば、あらゆる痛みは、たいしたことないだろう。
引く。
プツッ。何かが小さく弾ける感覚とともに、赤い糸がほどけた。
裂けているバトリのクチがパカリと開く。
クチのなかから、堰を切ったように大量の腕があふれ出てきた。まるで白蛇の大群だ。
その白蛇の大群が、巨大種のことをからめとった。巨大種はその白蛇を払おうともがいているように見えたが、埋め尽くされてすぐに見えなくなった。
すべての腕が、バトリの口のなかへと戻ってゆく。
戻ったときには、巨大種の姿が跡形もなく消えていた。
「どうしたっスか?」
「食った」
と、バトリは舌舐めずりをして言った。血のように赤い舌が、ヒルのようにヌラリ。桜色の唇を這いまわっていた。
「あのデカいのを食べたンっスか!」
「そうじゃと言うておろうが。これで良いんじゃろう。あの程度のゾンビなど、始祖たるワシの前ではザコじゃからな」
と、バトリは威張るような表情をして見せた。
ドヤ顔――というのだろうか。
「な、なに勝手なことしてるんっスか。それ食ったら、ボクの中に入ってくるんじゃないっスか? お腹痛くなったりしないっスか? 大丈夫なんっスよね!」
「なんも心配することはない。そもそも心配するところは、そこなのか」
「そりゃ、ゾンビなんて食ったら、不安になるっスよ」
心なしか、腹が痛い気がする。
「これで貸しひとつじゃからな」
「そんなこと言われても、借りなんて返せないっスよ」
「ワシはすこし休むとする」
そう言うと、バトリの顔がシャルリスの腕のなかへと引っ込んでいった。背中から生えていた翼も引っ込む。
肉の翼で浮いていたシャルリスのカラダが落下していく。うわぁぁっ。地面に叩きつけられるかと思ったが、ワキバラから生えていた腕が、クッションになってくれた。
その腕も腹のなかへと戻って行く。
シャルリスは自分自身の足で、地面に立っていた。
(何がしたかったんだろう?)
と、疑問に首をひねった。
バトリは、自身を不死身にした人間と、バトリのことを餌にしていたドラゴンにたいして深い憎悪を抱いている。
その憎悪が消えたわけではないはずだ。
そのバトリを封じ込めているシャルリスにたいしても、良い感情を抱いているとは思えなかった。
なのに、助けてくれた。
食べたとか言っていたが、助けてくれたことには違いない。
いや。
考えるのは後だ。
とにかく今は、この状況をどうにかしなければならない。
状況を確認した。
アリエルとチェイテは昏倒している。チェイテも死んではいないはずだ。チェイテのドラゴンもまだ倒れている。ふたりを背負っては帰れない。
上空。
黒いドラゴンが、飛びまわっているのが見えた。
ロンだ。
「ロン隊長ッ」
空に向かって火球を打ち上げた。気づいてくれたようだ。降下してきた。
とりあえず、助かったのだ。
竜読みの巫女は助けられなかったけれど。
巫女のかぶっていた、ドラゴンの被り物が、寄る辺なく転がっていた。せめて持ち帰ろうかと思った。
一陣の風が吹いて、その被り物をどこか遠くへと運び去ってしまった。
バトリにカラダを任せると、その感覚が曖昧なものになる。カラダが空気中に漂っているような気分。たぶん、カラダのあちこちから腕やら顔が生えてくるからだろう。痛くはないし、心地も悪いわけではない。
シャルリスのまとっている布の鎧をつきやぶって、翼が生えた。肉の翼だ。
カラダが浮く。
「ちょ、ちょっと、浮いてるっスよ」
「案ずるでないわ」
と、右手の甲から顔を生やしてバトリが言う。
巨大種がシャルリスのことをつかもうと、手を伸ばしてきた。大きな手だ。つかまれたら、握り潰される。
肉の翼を羽ばたかせて、シャルリスは自在に空を飛びまわる。
シャルリスの意識ではない。勝手に動いている。
バトリの意識によって動かされている。
自分のカラダのはずなのに、別人の肉体を見ているかのような心地だった。
シャルリスの服の内側で、肉がモゾモゾと動いた。布の鎧を突き破って、脇腹から腕が4本生えてきた。
その腕がパン生地みたいに伸びて、巨大種のカラダにつかみかかった。いや。つかみかかったように見えたが、よくよく見てみると、4本の腕が巨大種のカラダに抉りこんでいる。血が吹き出している。
「ゾンビは、核にダメージを通さないと、倒せないっスよ」
「ンなもん、言われんでもわかっておるわい。ワシを誰じゃと思うておるのか。それに、倒す必要などありゃせん。今ので巨大種の動きを止めただけじゃ」
たしかに4本の腕に刺し貫かれて、巨大種はその場にとどめられていた。
「倒す必要がない?」
「これはワシにだけ許された対処法かもしれんがな。チョットこれを外せ」
「これって、どれっスか?」
「ワシの頬の糸じゃ」
シャルリスのワキバラから4本の腕が生えているわけだが、それもまたシャルリスの意識で動かしているわけではない。
シャルリス自身の手はまだ余っている。右手の甲からバトリの顔が生えている。左手で、バトリの赤い糸を引っ張った。
「強く引っ張っても良いっスか?」
「ワシにはもう痛覚など残されてはおらん」
「でも、痛みを幻覚することがあるって言ってなかったスか?」
「ほお。ワシの話をよく覚えておるではないか。気にすることはない。ンな程度の痛みなど、たいしたもんでもないわ」
ドラゴンにカラダを食いちぎられることに比べれば、あらゆる痛みは、たいしたことないだろう。
引く。
プツッ。何かが小さく弾ける感覚とともに、赤い糸がほどけた。
裂けているバトリのクチがパカリと開く。
クチのなかから、堰を切ったように大量の腕があふれ出てきた。まるで白蛇の大群だ。
その白蛇の大群が、巨大種のことをからめとった。巨大種はその白蛇を払おうともがいているように見えたが、埋め尽くされてすぐに見えなくなった。
すべての腕が、バトリの口のなかへと戻ってゆく。
戻ったときには、巨大種の姿が跡形もなく消えていた。
「どうしたっスか?」
「食った」
と、バトリは舌舐めずりをして言った。血のように赤い舌が、ヒルのようにヌラリ。桜色の唇を這いまわっていた。
「あのデカいのを食べたンっスか!」
「そうじゃと言うておろうが。これで良いんじゃろう。あの程度のゾンビなど、始祖たるワシの前ではザコじゃからな」
と、バトリは威張るような表情をして見せた。
ドヤ顔――というのだろうか。
「な、なに勝手なことしてるんっスか。それ食ったら、ボクの中に入ってくるんじゃないっスか? お腹痛くなったりしないっスか? 大丈夫なんっスよね!」
「なんも心配することはない。そもそも心配するところは、そこなのか」
「そりゃ、ゾンビなんて食ったら、不安になるっスよ」
心なしか、腹が痛い気がする。
「これで貸しひとつじゃからな」
「そんなこと言われても、借りなんて返せないっスよ」
「ワシはすこし休むとする」
そう言うと、バトリの顔がシャルリスの腕のなかへと引っ込んでいった。背中から生えていた翼も引っ込む。
肉の翼で浮いていたシャルリスのカラダが落下していく。うわぁぁっ。地面に叩きつけられるかと思ったが、ワキバラから生えていた腕が、クッションになってくれた。
その腕も腹のなかへと戻って行く。
シャルリスは自分自身の足で、地面に立っていた。
(何がしたかったんだろう?)
と、疑問に首をひねった。
バトリは、自身を不死身にした人間と、バトリのことを餌にしていたドラゴンにたいして深い憎悪を抱いている。
その憎悪が消えたわけではないはずだ。
そのバトリを封じ込めているシャルリスにたいしても、良い感情を抱いているとは思えなかった。
なのに、助けてくれた。
食べたとか言っていたが、助けてくれたことには違いない。
いや。
考えるのは後だ。
とにかく今は、この状況をどうにかしなければならない。
状況を確認した。
アリエルとチェイテは昏倒している。チェイテも死んではいないはずだ。チェイテのドラゴンもまだ倒れている。ふたりを背負っては帰れない。
上空。
黒いドラゴンが、飛びまわっているのが見えた。
ロンだ。
「ロン隊長ッ」
空に向かって火球を打ち上げた。気づいてくれたようだ。降下してきた。
とりあえず、助かったのだ。
竜読みの巫女は助けられなかったけれど。
巫女のかぶっていた、ドラゴンの被り物が、寄る辺なく転がっていた。せめて持ち帰ろうかと思った。
一陣の風が吹いて、その被り物をどこか遠くへと運び去ってしまった。
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