《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

9-1.チェイテの特技

「よぉーし。竜騎士としてオレたちの初任務だ」 と、ロンは切り出した。


 城の中庭。ロンの前には3人の竜騎士と、2匹のドラゴンがいた。


 シャルリス・ネクティリア。
 チェイテ・ノスフィルト。
 アリエル・キャスティアン。


 そして、チェイテは白銀のドラゴン、
 アリエルは黄金色のドラゴンを連れている。


 チョット前までは、まだ見習い竜騎士だった。いまや正式な竜騎士だ。そしてロンも先生ではなくて、今は小隊長だった。


 正式な竜騎士になってから、そう時間は流れていないが、3人とも顔つきはすこし凛々しくなったようにも見える。顔の輪郭がハッキリしてきた。


(オレもなりきらないとな)
 と、思う。


 ロンはシャルリスのなかにいる【腐肉の暴食】が暴走したときのために、傍についているのであって、本気で小隊長をやっているわけではない。が、3人が本気なのだから、ロンのほうも半端な気持ちでは申し訳がない。


3人とも布の鎧クロス・アーマーの上から、部位要所に竜具を身に着けていた。腕当てや脚甲などだ。竜具は竜騎士規定のもので、基本的には赤黒い色をしている。


「左脇腹地区でゾンビが出現したらしい。詳細はわからないが、伝令官がさきほどゾンビになったとも聞いている。なので、そこそこの感染爆発が起きているのだろう。オレたちの任務はその左脇腹地区の近くである左背面地区に行き、竜神教の教祖の安否を確認することだ。そして現場に到着すれば、騒動がおさまるまで、教祖さまの身辺警護だ」


 そうだったな――とロンは隣にいる少年に確認した。


「はい。よろしくお願いします」
 と、少年は頭を下げた。


 灰色の髪に、灰色の目をしている。眉が「八」の字に垂れているから、気弱そうに見える。名前はニトと名乗っていた。


「じゃあ、先頭はオレとシャルリスだ。チェイテとアリエルは付いてくるように。シャルリスは、ニト少年を落っことさないように気を付けろよ」


 了解です、と3人が声をそろえた。


 ロンは自分のカラダを竜化させた。漆黒のドラゴンになる。チェイテやアリエルの連れているドラゴンよりも、ひとまわり大きい。シャルリスたちはもう見慣れているが、ニトは初見だったようだ。


「うわーっ。すごいですね。触ってみても良いですか」


「遊んでる場合じゃないぜ。触るんじゃなくて、今からオレに乗るんだよ」


「竜人族の末裔の背中に乗せてもらえるなんて……、そんな失礼なことをしてもよろしいのでしょうか」
 と、ニトが狼狽していた。


「オレが良いって言ってンだから、良いだろ別に」


 シャルリス、まかせた――とロンが言った。 
 了解っス――とシャルリスは、ロンの背中に鞍を固定した。


 ニトが前に、シャルリスが後ろに乗った。ロンは轡を噛まない。人とドラゴンと姿を変化することが多いし、轡はあまり噛みたくない。よって、手綱もない。シャルリスには背中のウロコをつかんでいてもらうしかない。


 どうにか呼吸を合わせて、シャルリスはロンを乗りこなすのにコツをつかんできたようだ。


「落っこちないようにな」


「はい!」
 と、ニトが返事をした。


 翼を広げて空へと飛び立つ。
 ロンが羽ばたくと、チェイテとアリエルもつづいた。


 チェイテとアリエルのドラゴンも、他にはあまり見ないものだ。チェイテのはノスフィルト家のドラゴンだと言っていた。アリエルのは、姉のエレノアが使っているドラゴンの系列のものだろう。


 左脇腹地区は、都市竜の左脇腹に建造された地区だ。背中の上ではなくて、脇腹――つまり側面に木々を組み合わせて強引に造られている。貧民街だと聞いている。


 ロンたちが向かうのは、左脇腹地区ではなく左背面地区だ。左背面地区のあたりには、石造りの建物が多い。


 騒動は左脇腹地区でおさえられているはずだ。そう思った。しかし、こうして見下ろしてみると左背面地区のあたりにもゾンビがあふれかえっていた。


「おいおい。けっこうな量だぜ。地区担当の竜騎士は封じ込めに失敗したのか」


「どうするっスか?」


「オレたちの任務は、教祖さまの安否の確認と、身辺警護だ。教会に急ぐぞ」


 この様子だと、教祖とやらも無事ではないかもしれない。


「了解っス」


 竜神教の教会の場所を、ニトが教えてくれた。近くに鐘楼があったので、すぐにわかった。鐘楼の近くにあった石造りのストリートにおりた。


 着地。
 その付近にもゾンビが多くいた。
 ロンは竜化を解いた。
 破れた服が、瞬時に再生していく。


 ロンの服は、覚者のひとりである裁縫者アジサイによってつくりあげられたものだ。いったいどういう仕組みなのかはわからない。アジサイも覚者のひとりなのだから、きっと特別なチカラによるものなのだろう。


 ロンが竜化を解くと、カラダが小さくなるので自然と鞍も取れる。


 周囲のゾンビたちは、ロンたちにはまだ興味を示す様子がなかった。


「前方に2匹。後方の馬車のなかに1匹いる。それから裏路地の入口のところに3匹がタムロしてやがるな」


「あそこの建物にもいる」
 と、チェイテが石造りの背の高い建物を指差した。たしかに窓辺に立ち尽くしているゾンビがいる。


「よく気づいたな」


 見えないところにも、けっこうな数がいるかもしれない。


 異常は、ゾンビだけではない。


 建物の壁面は血で濡れていたし、よくよく見てみると肉が付着している。なんの肉かは、言わずもがなだろう。肺腑にえぐりこんでくるような死臭も感じる。


「近くに11から14匹いる」
 と、チェイテが鼻をクンクンとうごめかして言う。


「ホントに君は、鼻が良いな」


「そう?」
 と、チェイテは眉間にシワを寄せて、険しい表情で小首をかしげた。怒っているわけではないのだ。チェイテの表情は、素が険しい。


「それはチェイテの特技だろうさ」


「すこしうれしい。ゾンビだけじゃなくて、もっと厭な臭いがする。マスクをしたほうが良いかもしれない」


「わかった。各々マスクをするように」


 マスクは瘴気による感染を防ぐためのものだ。瘴気は都市までは上がって来ない。
 

 地上へ出撃するさいにのみマスクは使われる。が、チェイテが何かを感じ取ったのなら、その意見を尊重するべきだ。チェイテは不思議と鼻がきくのだ。


 たしかにこのあたりは酷い臭いがしているし、マスクがあったほうが呼吸しやすいほどだ。


 ロンはマスクをする必要がないので、自分の分をニトに与えた。


「思っている以上に、感染広がってるっぽくないっスか?」


「みたいだな。いちいち相手にしてられん。極力、戦闘は避けたいところだ。こいつらは無視して教会に入るぞ」


 シャルリスたちはまだ実戦経験が乏しい。
 もしゾンビがこちらに向かってくるようならば、ロンが対処する必要がある。


 すぐ左手に教会があった。


 白くて四角い箱に、屋根をかぶせただけのシンプルな建物だった。壁面にはドラゴンの模様に壁穴が開けられている。
 周囲を石の塀で囲まれている。入口にあった鉄のトビラが壊されているのが気にかかる。


「もうすでに教会内部にゾンビが入り込んでいるかもしれん。チェイテは何か感じ取れるか?」


「マスクをしてるから、わからない。ただ、このあたりは凄く厭な臭いに満ちている。外して確認する?」


 いちいちチェイテの鼻ばかりにも頼ってはいられない。チェイテに有害な物質を吸引させるわけにもいかない。


「いや。大丈夫だ。でも、警戒を怠るなよ。率先してゾンビと戦うようなことはするなよ。見つけ次第、オレに報告しろ。オレが相手をする」


「了解」


 この様子だと、左脇腹地区の竜騎士が封じ込めに失敗したのかもしれない。問題はこっちの左背面地区の担当騎士が上手くやってるかどうか――だ。ここの封じ込めにも失敗した場合は、都市竜全土にゾンビ化が広がる可能性がある。
 都市竜クルスニク存亡の危機となるかもしれない。


(思ったよりも深刻かもしれん)
 と、ロンは生唾を飲んだ。

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