《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
6-5.シャルリスの努力
《さすがですね。ヘリコニア。見事でした》
と、ハマメリスの声が、イヤリングから聞こえてくる。
「ッたく、人使い荒いぜ」
と、ロンは翼を広げて卵黄学園に戻っていた。
都市の風景を空から見下ろすことが出来る。
ゾンビ騒動を受けて、多くの人たちが避難している場面が見えた。この様子なら、たいして感染は広がっていないはずだ。
《都市内に出現したゾンビの素性を探る必要がありましたので。至急、向かってもらいました》
「今回のゾンビは、間違いなくシャルリスが原因じゃないぜ。シャルリスは学園にいるからな」
《それは理解しています。しかし、都市クルスニクで連日のゾンビ騒動です。どうも不審なものが感じられます》
「たしかにな。こんなにヒンパツするなんて珍しい」
《その場にいて、何か感じることはありませんか?》
「いや。特にないがな。もしかすると【腐肉の暴食】は、シャルリスじゃなくて、別のヤツに寄生してるんじゃないか……と思うことはあるが」
《その可能性もあります》
「オレはどうすれば良い?」
《続投してください。ターゲットも気になりますので》
「了解」
《返事が良いですね》
「先生って立場が面白くなってきてな」
シャルリスに騎竜術を叩きこもうと考えていた。チェイテから慕われているのも心地が良い。
《あまり入れ込まないように注意してください。ターゲットが【腐肉の暴食】に寄生されていた場合は、抹殺しなくてはなりませんので》
「ああ」
と、短く応じた。
わかってはいるが、それを思うと心が重たくなる。
《それではターゲットの監視に戻ってください。私からの連絡は以上です》
「了解」
学園の城塔に降り立った。翼をしまって、人の身形を整えた。
シャルリスとチェイテには教室に戻ってもらっている。
教室。
窓から戻ることにした。
窓。閉まっている。中からシャルリスかチェイテに開けてもらおうと考えていた。中を覗きこむ。
シャルリスとチェイテが向かい合って座っている景色が見えた。能面のチェイテにたいして、シャルリスが笑っていた。
「ふふん」
と、ロンもつられて笑いがコボれた。
ずっと独りで補欠としてガンバってきたシャルリスの友人に、チェイテはなってくれるかもしれない。
そう見込んで、チェイテを誘ったという意味もある。
チェイテがいることによってシャルリスの寂しさが紛れているのだとすれば、それはロンにとっても喜ばしいことだった。
(もし……)
自分の娘がいたら、こんな感じだろうか、と思った。まぁ、娘というにはほどには、歳は離れていない。離れていないと思いたい。
まだ知り合ってから2日目とは思えないほどの入れ込みようだった。
覚者を目指しているというシャルリスだからこそ、ロンにとっては他人事とは思えないのかもしれない。
【腐肉の暴食】に寄生されているなら、自分の責任だ……という思いもある。
(マジで気を付けなくちゃな)
場合によっては抹殺しなくてはならない――とハマメリスの言葉を思い出した。
窓をノックする。
シャルリスがそれに気づいて、窓を開けてくれた。
「先生。どこ行ってたんっスか?」
「悪いな。チョット用事が出来てしまって。すこしぐらいはドラゴンに乗れるようになったか?」
「そんなに簡単に乗れるなら、3年も苦労してないんっスよ」
と、シャルリスはクチ先をとがらせた。
「チェイテからコツとか教わったりしたんだろ?」
「教えてもらったっスけど、ぜんぜん上手くいかないっス」
「チョットやって見せてくれ」
「ボク、ドラゴンに食われたりしないっスよね?」
「3年も相手してて、まだ食われてないんなら、大丈夫だろう。イザってときは、止めてやるよ」
「でも、心配っスから」
と、シャルリスが甘えたような上目使いを送ってきた。
少年のような風貌をしているくせに、ときおり少女の可憐さを見せてくる。
その表情に年甲斐もなくドキッとさせられた。
心の乱れを悟られたくなくて、咳払いでごまかした。
甘えたい――だけなのだろう……とシャルリスの心境を看破した。
両親を失って、ずっと独りで生きてきたのだ。独りで生きてゆけるだけの芯の強さを、シャルリスは持っている。
竜騎士になりたいという夢は、ドラゴンに食われる心配なんて些細なことで折れるものではない。
シャルリスの甘えを、見抜いたうえで、甘えさせてやることにした。
「上手く乗りこなせたら、良い料理店に連れてってやる」
「マジっスか」
「乗れたらの話だぜ」
「じゃあ、見ててください!」
と、とドラゴンの鞍にシャルリスはなかば跳び乗った。
ドラゴンはカラダをよじって、シャルリスのことを振り落とそうとした。そして食おうとしていた。どうしてシャルリスのことを食おうとするのか、竜語で尋ねてみた。
やっぱり「美味そうだから」という理由らしい。
相性が悪いのかもしれない。
そう思って別のドラゴンを厩舎から連れてきて試させたのだが、それでもダメだった。
夕刻になっていた。
シャルリスのカラダもくたびれていた。
「根本的にドラゴンに好かれない体質なのかもなぁ」
「ボク、でも諦めないっスよ。今まで続けてきたっスから。セッカク先生も来てくれたし、仲間もできたっスから。今回こそは――今回もボクだけ落第なんてことは……」
と、シャルリスの目じりに涙が浮かんでいた。
「まだ都市竜の羽休めまで時間はあるんだから。ユックリやっていこうぜ」
と、慰めることにした。
と、ハマメリスの声が、イヤリングから聞こえてくる。
「ッたく、人使い荒いぜ」
と、ロンは翼を広げて卵黄学園に戻っていた。
都市の風景を空から見下ろすことが出来る。
ゾンビ騒動を受けて、多くの人たちが避難している場面が見えた。この様子なら、たいして感染は広がっていないはずだ。
《都市内に出現したゾンビの素性を探る必要がありましたので。至急、向かってもらいました》
「今回のゾンビは、間違いなくシャルリスが原因じゃないぜ。シャルリスは学園にいるからな」
《それは理解しています。しかし、都市クルスニクで連日のゾンビ騒動です。どうも不審なものが感じられます》
「たしかにな。こんなにヒンパツするなんて珍しい」
《その場にいて、何か感じることはありませんか?》
「いや。特にないがな。もしかすると【腐肉の暴食】は、シャルリスじゃなくて、別のヤツに寄生してるんじゃないか……と思うことはあるが」
《その可能性もあります》
「オレはどうすれば良い?」
《続投してください。ターゲットも気になりますので》
「了解」
《返事が良いですね》
「先生って立場が面白くなってきてな」
シャルリスに騎竜術を叩きこもうと考えていた。チェイテから慕われているのも心地が良い。
《あまり入れ込まないように注意してください。ターゲットが【腐肉の暴食】に寄生されていた場合は、抹殺しなくてはなりませんので》
「ああ」
と、短く応じた。
わかってはいるが、それを思うと心が重たくなる。
《それではターゲットの監視に戻ってください。私からの連絡は以上です》
「了解」
学園の城塔に降り立った。翼をしまって、人の身形を整えた。
シャルリスとチェイテには教室に戻ってもらっている。
教室。
窓から戻ることにした。
窓。閉まっている。中からシャルリスかチェイテに開けてもらおうと考えていた。中を覗きこむ。
シャルリスとチェイテが向かい合って座っている景色が見えた。能面のチェイテにたいして、シャルリスが笑っていた。
「ふふん」
と、ロンもつられて笑いがコボれた。
ずっと独りで補欠としてガンバってきたシャルリスの友人に、チェイテはなってくれるかもしれない。
そう見込んで、チェイテを誘ったという意味もある。
チェイテがいることによってシャルリスの寂しさが紛れているのだとすれば、それはロンにとっても喜ばしいことだった。
(もし……)
自分の娘がいたら、こんな感じだろうか、と思った。まぁ、娘というにはほどには、歳は離れていない。離れていないと思いたい。
まだ知り合ってから2日目とは思えないほどの入れ込みようだった。
覚者を目指しているというシャルリスだからこそ、ロンにとっては他人事とは思えないのかもしれない。
【腐肉の暴食】に寄生されているなら、自分の責任だ……という思いもある。
(マジで気を付けなくちゃな)
場合によっては抹殺しなくてはならない――とハマメリスの言葉を思い出した。
窓をノックする。
シャルリスがそれに気づいて、窓を開けてくれた。
「先生。どこ行ってたんっスか?」
「悪いな。チョット用事が出来てしまって。すこしぐらいはドラゴンに乗れるようになったか?」
「そんなに簡単に乗れるなら、3年も苦労してないんっスよ」
と、シャルリスはクチ先をとがらせた。
「チェイテからコツとか教わったりしたんだろ?」
「教えてもらったっスけど、ぜんぜん上手くいかないっス」
「チョットやって見せてくれ」
「ボク、ドラゴンに食われたりしないっスよね?」
「3年も相手してて、まだ食われてないんなら、大丈夫だろう。イザってときは、止めてやるよ」
「でも、心配っスから」
と、シャルリスが甘えたような上目使いを送ってきた。
少年のような風貌をしているくせに、ときおり少女の可憐さを見せてくる。
その表情に年甲斐もなくドキッとさせられた。
心の乱れを悟られたくなくて、咳払いでごまかした。
甘えたい――だけなのだろう……とシャルリスの心境を看破した。
両親を失って、ずっと独りで生きてきたのだ。独りで生きてゆけるだけの芯の強さを、シャルリスは持っている。
竜騎士になりたいという夢は、ドラゴンに食われる心配なんて些細なことで折れるものではない。
シャルリスの甘えを、見抜いたうえで、甘えさせてやることにした。
「上手く乗りこなせたら、良い料理店に連れてってやる」
「マジっスか」
「乗れたらの話だぜ」
「じゃあ、見ててください!」
と、とドラゴンの鞍にシャルリスはなかば跳び乗った。
ドラゴンはカラダをよじって、シャルリスのことを振り落とそうとした。そして食おうとしていた。どうしてシャルリスのことを食おうとするのか、竜語で尋ねてみた。
やっぱり「美味そうだから」という理由らしい。
相性が悪いのかもしれない。
そう思って別のドラゴンを厩舎から連れてきて試させたのだが、それでもダメだった。
夕刻になっていた。
シャルリスのカラダもくたびれていた。
「根本的にドラゴンに好かれない体質なのかもなぁ」
「ボク、でも諦めないっスよ。今まで続けてきたっスから。セッカク先生も来てくれたし、仲間もできたっスから。今回こそは――今回もボクだけ落第なんてことは……」
と、シャルリスの目じりに涙が浮かんでいた。
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