《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

6-2.ルエドの戦い

 ルエドはアリエルを連れて、ゾンビが出現したという背前部A地区に向かうことにした。


 都市竜の背中に都市があるので、区分けが都市竜の部位名称そのものになる。
 背前部、手羽元近区、仙骨上部、尾骨近区……などなど。さらにA地区、B地区、C地区と細かくわけられている。


 ドラゴンに乗って、現場に向かう。


「マシュはいないんですか?」
 と、アリエルが尋ねてきた。


 アリエルも自分のドラゴンに騎乗している。アリエルのドラゴンはエレノアと同じく黄金色のものだ。すでに騎竜術は教えてある。
 一方、ルエドの乗るドラゴンは青い。


「マシュはどうやら、騒動に巻き込まれているらしい」


「背前部A地区には、美味しいシュークリームの店があるんですよ。そこに行くって言ってました。もしかしたらそこで、事件に巻き込まれたのかもしれません」


「良し。そこに向かおう」


「良いんですか? 現場に入っても」


 真下。
 ルエドはドラゴンに乗っているので、周囲を俯瞰することができた。


 すでにゾンビが出現した地区は、封鎖が行われているようだ。各区域に城壁があって、ゾンビの発生した区域は封鎖できるようになっているのだ。正確には、隔壁、というべきなのだろうが、城壁ということで通っている。
 住民の避難は済んだようで、人の姿は見当たらなかった。


「これは良い機会だと思わないか」


「え?」


「ここで戦果をあげれば、アリエルは正式な竜騎士に1歩近づく」


 ルエドの評価も上がるというものだ。


「でも、私はまだ見習いですし……」


「こういうときのために訓練を積んできたんだろ」


「そうかもしれませんけど……」
 と、アリエルはうつむいてしまった。


(ちッ)
 と、胸裏で舌打ちをした。


 姉のエレノアは優れた竜騎士で好戦的だ。一方、妹のアリエルは臆病な面があった。
 どうして姉妹でここまで違ったのか……と思う。そんなことをいま考えても仕方がない。


「マシュの安否も気になるだろ」


「それは、もちろん」


「なら行くぞ」


「わかりました」


 乗り気ではなさそうだが、ルエドの指示には逆らえない様子だった。


 石畳のストリートが伸びている。そこにゾンビと思われる人影を見つけた。


 報告は5匹と聞いている。それ以上、いると見て間違いない。1匹いれば、100匹いると思え。そういう言葉があるぐらいだ。


 急降下した。
 ルエドの乗っているドラゴンが地上に接近する。


 ドラゴンが首を前方に長く伸ばす。そして着陸ついでに、地上を歩いていたゾンビをくわえ取った。
 強靭なアゴによって、ゾンビの肉体が上下に噛み千切られた。上半身と下半身が左右に飛散する。
 ドラゴンの青いウロコを、返り血が赤く染めていた。


 ルエドはドラゴンから跳び下りた。足が地につく。
 後ろにアリエルがつづいた。


 ドラゴンがかみ砕いたゾンビの肉体が再生されてゆく。核を破壊しないかぎり、ゾンビは何度でも再生する。


 白濁した目を向けてきた。唇は腐り落ちたのか、歯茎がむきだされていた。ケロイドによって顔面が、赤く膨れ上がっていた。


 ゾンビは、ルエドとアリエルに向かって走ってきた。骨が機能していないようで、軟体生物のようにカラダがグニャグニャしている。


 ドラゴンの尻尾が迎え撃つように叩き伏せた。吹き飛ばされたゾンビは、街灯に背中を撃ちつけていた。
 街灯がへし曲がる。
 

 ゾンビはめげずに立ち上がる。
 ヤツらに痛覚はないとされている。


「どうしてゾンビが、人を襲うのか知っているか?」
 と、ルエドはアリエルに問うた。


「生きた肉を食べたいからでしょうか?」


「そういう説もあるが、性欲だという説もある」


「性欲?」


「ゾンビどもは、人間以外の生物には興味を示さない。また同じゾンビ同士で共食いをすることもない。ヤツらは、仲間を増やそうとしているのさ」


「子孫繁栄ってことですか」


「《不死の魔力》それが、体内に入るとゾンビ化してしまうようだ」


 ルエドは続ける。


「実戦では竜具を装備するから、ある程度は接近戦が可能だ。が、接近戦は極力避けろ。噛まれでもしたら、感染するのだからな。かすり傷でも致命傷だと思え」


「はい」


「基本は魔法だ。魔法もまた竜騎士にとっては、必要なスキルだからな」


 そう言って、ルエドは青い魔法陣を展開した。魔法陣から氷針アイス・ニードルが射出される。氷の針が、ゾンビの左右にヒザを貫いた。


 ゾンビがその場に倒れ伏した。
 上半身だけで這いつくばってルエドに接近してくる。


 さらに氷針アイス・ニードルを射出する。


 頭、右肩、背中……と氷針アイス・ニードルが腐った肉を貫いては、血を飛散させた。


 それでもゾンビのカラダは再生されてゆく。


「先生……」
 と、アリエルが不安気な声を出した。


「案ずることはない。魔法は足止めだ。とどめはドラゴンに任せるのが定石だ」


 ルエドのドラゴンが、ゾンビにかぶりついた。咀嚼していく。ドラゴンのクチから、真っ赤な血がしたたり落ちる。


 ドラゴンは、ゾンビを食べる。
 下手をすると、ドラゴンに人間が噛まれるという事故も起きる。


 だからこそ竜騎士は、ドラゴンを上手に手懐ける必要がある。


「さすがです。ルエド先生」


 生徒の称賛に気分が良くなった。


 しかし……と、ルエドは思う。
 チェイテ・ノスフィルトは、女子寮に出現したゾンビを、魔法だけでゾンビを倒したと聞く。普通ではない。
 まだ見習いの生徒にたいして劣等感を抱いている自分が厭になった。


「当たり前だ。オレは卵黄学園を首席で卒業したんだからな。マシュが行ったという店はどこかわかるか?」


「はい。こちらです」
 と、アリエルが先導してくれた。


 ドラゴンたちがのそりのそりと、ルエドの後ろについてくる。


「ここです」
 と、アリエルが足を止めた。


 木造の店。「シャルル」という看板がかかげられていた。看板はきっとドラゴンのウロコを加工してつくられたものだ。ドラゴンのウロコは並みの金属よりも硬質で軽い。加工すればあらゆる物になる。


 壁面はガラス張りになっていた。そのほとんどが割られていた。
 内装が見えている。
 木造の家具でそろえていたようだ。丸太を輪切りにしたようなテーブルに切り株のようなイスが並べられていた。
 

 割れた窓の一部から店内に踏み込んだ。食材やら食器やらが床に散乱している。足を進めるたびに、氷が割れるような音がひびく。


「民衆が、あわてて逃げ出して、それで散らかってるのか」


「ここがゾンビの出現地点なのでしょうか?」


「どうだろうな。マシュが無事であれば良いが」


「マシュがゾンビになっているかもしれないってことですか?」


「可能性としてはな」


「そんな……」


「油断するなよ。2階へ行こう」


「あんまり深入りしないほうが良くないですか?」


「竜騎士たちはきっと、避難した人たちのなかに感染者がいないか調べているのだろう。まだ現場に駆けつけてない。これは名をあげるチャンスだ」


「そうですけど……」


「案ずることはない。オレがついているのだからな」


 2階へつづく木造階段がある。


 幅は人ひとりが通れるぐらいだ。上のほうは暗くなっている。
 その暗闇がまるでルエドのことを手招きしているかのように見えた。


 足を、進める。

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