《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

5-4.新しい仲間

 都市竜が羽を休めるタイミングは、都市竜にしかわからない。人間はガンバって予測をたてようとして、都市竜観測隊、と言われる部隊を編制した。


 都市竜が飛んで行く先や、羽を休めるタイミングを観測し、予測をたてて、発表をする。


 観測隊の予測はそこそこ当たるそうだ。観測隊の発表によると、1週間以内には都市クルスニクは地上に着陸する――ということだった。


「っていうか、ロン先生は観測隊に向いてるンじゃないっスか?」


 学園の食堂。
 石造りの大部屋。


 都市竜の胃袋の中かと思うほどに広い部屋だった。天井からはシャンデリアがつるされている。いまは昼間だから発光してはいない。


 アーチ状の窓にはステンドグラスが飾られている。ドラゴンの絵が描かれているようだ。木造の長机とイスが数えきれないほど並べられている。


 生徒たちはトレイを持って、思い思いの席に座っていた。ロンとシャルリスは食堂の入ぐちに近い席に座って、入ってくる生徒を見ていた。ロンのもとに付いてくれる生徒を探すためだ。


「なんでオレが観測隊に向いてると思うんだ?」


 ロンとシャルリスはオムレツを食べていた。半熟卵のオムレツ。スプーンを入れるとトロリと黄身があふれ出してくる。


「竜語をしゃべれるンなら、都市竜の話も聞けるじゃないっスから」


「ああ。たしかにな。あんなジジババどもの話を聞こうとも思わなかったが」


「都市竜ってジジババなんっスか?」


「ドラゴンって、すげぇ長い年月をかけて成長するんだよ。だから都市を担げるほどの大きさになるには、数百年ってかかるわけ」


「じゃあ、5匹の都市竜は、もうお爺ちゃんお婆ちゃんなんっスね」


「逆に、竜騎士が乗るような、ああいう小さいドラゴンは、まだ仔どもってことだ」


 最古のドラゴン【方舟】が生んだと言われている、5匹の都市竜は長い年月をかけて今の大きさにまで成長したのだ。


「竜語ってどこで覚えたんっスか?」


「質問攻めだな」


「だって、ロン先生ってなんか怪しいっスよ。ボクが都市竜から落っこちそうになったときの動きとかも、普通じゃなかったですし」


 ロン先生と呼ばれることに、まだ違和感がある。心臓の裏っかわがくすぐられているような心地になる。


「オレはしがないひとりの先生だよ」


「しがないひとりの先生は、竜語なんてしゃべれないっスよ。ドラゴンと会話できる人とか、はじめて見ましたよ」


 ドラゴンの血が混じっているのだ。物心ついたときから、ドラゴンと意思疎通ができた。竜人族と言われる種族のチカラなのだろう。しかしすべてを正直に答えるわけにはいかない。


「逆に、こっちから質問しても良いか?」
 と、話をはぐらかすことにした。


「なんっスか?」
 と、シャルリスはスプーンで卵をすくいあげて、クチにふくんでいた。モゴモゴとやわらかそうな頬が動いていた。


「学費とかどうしてるんだ?」


 このオムライスも、ロンのおごりだった。シャルリスは遠慮していたのだが、自分だけ食べるのも居たたまれないので、おごることになった。シャルリスは金遣いに渋いところがあるようだった。


「基本的には、親が遺してくれたお金があるっスから。あとは、ときおり水汲み隊とかの手伝いに行って、バイト代をもらったりして、どうにかやってるっス」


「その歳で苦労してンなぁ」


 両親はいない。バイトして自分で稼ぐ。そのくせ、竜騎士としての結果が出ない。補欠やらオチコボレとして蔑まれている。逆風の真っただ中である。


 オマケに【腐肉の暴食】が体内に潜りこんでいるという疑惑まである。


 そこまで苦労してるのに、シャルリスからは暗い雰囲気をまるで感じない。
 むしろ逆境に立ち向かうチカラ強さすら感じる。


「絶望的だったスけど、今はそうでもないっスよ。先生が来てくれましたから」


「そこまで頼りにされてるんじゃ、期待に応えなくちゃな」


「期待してるっス」


「お……」
 と、ロンは食べる手を止めた。


「どうしたっスか?」


「心当たりのある生徒を見つけた」


「どれっスか?」
 と、上体を乗り出してシャルリスが尋ねてくる。


 心当たりのある生徒というのは、女子生徒のなかにいるチェイテのことだった。


 チェイテはたしか、どこの先生にも付いていないと聞いている。ルエドが勧誘をかけたが、それを断ったとも聞いている。


 目があった。
 チェイテはロンに向かって会釈を送ってきた。


「あれって、まさかチェイテ・ノスフィルトのことじゃないっスよね?」


「いや。チェイテのことだが」


 シャルリスとそう年齢も離れていないようだし、良い組み合わせだと思う。


「冗談じゃないっスよ。あれは最強のノスフィルト家の御令嬢っスよ。あんなスゴイ人を仲間にできるわけないっスよ」


「まぁ、誘ってみなくちゃわからねェだろ」


 ノスフィルト家の名は凄まじいそうだが、本人はチカラがないことを悩んでいる様子だった。しかも周囲が最強だと勘違いしているのだ。


「なに?」
 チェイテは歩み寄ってきて、そう尋ねてきた。


「実はチェイテのことを誘ってみようと思ってたんだけど。オレの隊に入ってくれねェか? 補欠隊なんだけど」


「私の実力を知っていて、誘っているの?」


 ダメっすよ、ヤバいですって……と、シャルリスが小声でそう言う。


「実力を知ってるから誘ってるんだよ。どこの隊にも所属してないんだろ?」


「ロン先生が私を受け入れてくれるなら、むしろ、私のほうから頼みたかった。私のことを鍛えてくれる?」


「じゃあ、承知してくれるんだな」


「ええ」


 よろしくお願いします――とチェイテは頭を下げた。
 白銀の長い髪が垂れさがる。垂れ下がった髪を、チェイテは指でかきあげて耳に引っかけていた。ローズマリーの高貴な香りがした。


「ウソーっ。マジっすかーッ」
 と、シャルリスが叫び声をあげていた。

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