《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
5-4.新しい仲間
都市竜が羽を休めるタイミングは、都市竜にしかわからない。人間はガンバって予測をたてようとして、都市竜観測隊、と言われる部隊を編制した。
都市竜が飛んで行く先や、羽を休めるタイミングを観測し、予測をたてて、発表をする。
観測隊の予測はそこそこ当たるそうだ。観測隊の発表によると、1週間以内には都市クルスニクは地上に着陸する――ということだった。
「っていうか、ロン先生は観測隊に向いてるンじゃないっスか?」
学園の食堂。
石造りの大部屋。
都市竜の胃袋の中かと思うほどに広い部屋だった。天井からはシャンデリアがつるされている。いまは昼間だから発光してはいない。
アーチ状の窓にはステンドグラスが飾られている。ドラゴンの絵が描かれているようだ。木造の長机とイスが数えきれないほど並べられている。
生徒たちはトレイを持って、思い思いの席に座っていた。ロンとシャルリスは食堂の入ぐちに近い席に座って、入ってくる生徒を見ていた。ロンのもとに付いてくれる生徒を探すためだ。
「なんでオレが観測隊に向いてると思うんだ?」
ロンとシャルリスはオムレツを食べていた。半熟卵のオムレツ。スプーンを入れるとトロリと黄身があふれ出してくる。
「竜語をしゃべれるンなら、都市竜の話も聞けるじゃないっスから」
「ああ。たしかにな。あんなジジババどもの話を聞こうとも思わなかったが」
「都市竜ってジジババなんっスか?」
「ドラゴンって、すげぇ長い年月をかけて成長するんだよ。だから都市を担げるほどの大きさになるには、数百年ってかかるわけ」
「じゃあ、5匹の都市竜は、もうお爺ちゃんお婆ちゃんなんっスね」
「逆に、竜騎士が乗るような、ああいう小さいドラゴンは、まだ仔どもってことだ」
最古のドラゴン【方舟】が生んだと言われている、5匹の都市竜は長い年月をかけて今の大きさにまで成長したのだ。
「竜語ってどこで覚えたんっスか?」
「質問攻めだな」
「だって、ロン先生ってなんか怪しいっスよ。ボクが都市竜から落っこちそうになったときの動きとかも、普通じゃなかったですし」
ロン先生と呼ばれることに、まだ違和感がある。心臓の裏っかわがくすぐられているような心地になる。
「オレはしがないひとりの先生だよ」
「しがないひとりの先生は、竜語なんてしゃべれないっスよ。ドラゴンと会話できる人とか、はじめて見ましたよ」
ドラゴンの血が混じっているのだ。物心ついたときから、ドラゴンと意思疎通ができた。竜人族と言われる種族のチカラなのだろう。しかしすべてを正直に答えるわけにはいかない。
「逆に、こっちから質問しても良いか?」
と、話をはぐらかすことにした。
「なんっスか?」
と、シャルリスはスプーンで卵をすくいあげて、クチにふくんでいた。モゴモゴとやわらかそうな頬が動いていた。
「学費とかどうしてるんだ?」
このオムライスも、ロンのおごりだった。シャルリスは遠慮していたのだが、自分だけ食べるのも居たたまれないので、おごることになった。シャルリスは金遣いに渋いところがあるようだった。
「基本的には、親が遺してくれたお金があるっスから。あとは、ときおり水汲み隊とかの手伝いに行って、バイト代をもらったりして、どうにかやってるっス」
「その歳で苦労してンなぁ」
両親はいない。バイトして自分で稼ぐ。そのくせ、竜騎士としての結果が出ない。補欠やらオチコボレとして蔑まれている。逆風の真っただ中である。
オマケに【腐肉の暴食】が体内に潜りこんでいるという疑惑まである。
そこまで苦労してるのに、シャルリスからは暗い雰囲気をまるで感じない。
むしろ逆境に立ち向かうチカラ強さすら感じる。
「絶望的だったスけど、今はそうでもないっスよ。先生が来てくれましたから」
「そこまで頼りにされてるんじゃ、期待に応えなくちゃな」
「期待してるっス」
「お……」
と、ロンは食べる手を止めた。
「どうしたっスか?」
「心当たりのある生徒を見つけた」
「どれっスか?」
と、上体を乗り出してシャルリスが尋ねてくる。
心当たりのある生徒というのは、女子生徒のなかにいるチェイテのことだった。
チェイテはたしか、どこの先生にも付いていないと聞いている。ルエドが勧誘をかけたが、それを断ったとも聞いている。
目があった。
チェイテはロンに向かって会釈を送ってきた。
「あれって、まさかチェイテ・ノスフィルトのことじゃないっスよね?」
「いや。チェイテのことだが」
シャルリスとそう年齢も離れていないようだし、良い組み合わせだと思う。
「冗談じゃないっスよ。あれは最強のノスフィルト家の御令嬢っスよ。あんなスゴイ人を仲間にできるわけないっスよ」
「まぁ、誘ってみなくちゃわからねェだろ」
ノスフィルト家の名は凄まじいそうだが、本人はチカラがないことを悩んでいる様子だった。しかも周囲が最強だと勘違いしているのだ。
「なに?」
チェイテは歩み寄ってきて、そう尋ねてきた。
「実はチェイテのことを誘ってみようと思ってたんだけど。オレの隊に入ってくれねェか? 補欠隊なんだけど」
「私の実力を知っていて、誘っているの?」
ダメっすよ、ヤバいですって……と、シャルリスが小声でそう言う。
「実力を知ってるから誘ってるんだよ。どこの隊にも所属してないんだろ?」
「ロン先生が私を受け入れてくれるなら、むしろ、私のほうから頼みたかった。私のことを鍛えてくれる?」
「じゃあ、承知してくれるんだな」
「ええ」
よろしくお願いします――とチェイテは頭を下げた。
白銀の長い髪が垂れさがる。垂れ下がった髪を、チェイテは指でかきあげて耳に引っかけていた。ローズマリーの高貴な香りがした。
「ウソーっ。マジっすかーッ」
と、シャルリスが叫び声をあげていた。
都市竜が飛んで行く先や、羽を休めるタイミングを観測し、予測をたてて、発表をする。
観測隊の予測はそこそこ当たるそうだ。観測隊の発表によると、1週間以内には都市クルスニクは地上に着陸する――ということだった。
「っていうか、ロン先生は観測隊に向いてるンじゃないっスか?」
学園の食堂。
石造りの大部屋。
都市竜の胃袋の中かと思うほどに広い部屋だった。天井からはシャンデリアがつるされている。いまは昼間だから発光してはいない。
アーチ状の窓にはステンドグラスが飾られている。ドラゴンの絵が描かれているようだ。木造の長机とイスが数えきれないほど並べられている。
生徒たちはトレイを持って、思い思いの席に座っていた。ロンとシャルリスは食堂の入ぐちに近い席に座って、入ってくる生徒を見ていた。ロンのもとに付いてくれる生徒を探すためだ。
「なんでオレが観測隊に向いてると思うんだ?」
ロンとシャルリスはオムレツを食べていた。半熟卵のオムレツ。スプーンを入れるとトロリと黄身があふれ出してくる。
「竜語をしゃべれるンなら、都市竜の話も聞けるじゃないっスから」
「ああ。たしかにな。あんなジジババどもの話を聞こうとも思わなかったが」
「都市竜ってジジババなんっスか?」
「ドラゴンって、すげぇ長い年月をかけて成長するんだよ。だから都市を担げるほどの大きさになるには、数百年ってかかるわけ」
「じゃあ、5匹の都市竜は、もうお爺ちゃんお婆ちゃんなんっスね」
「逆に、竜騎士が乗るような、ああいう小さいドラゴンは、まだ仔どもってことだ」
最古のドラゴン【方舟】が生んだと言われている、5匹の都市竜は長い年月をかけて今の大きさにまで成長したのだ。
「竜語ってどこで覚えたんっスか?」
「質問攻めだな」
「だって、ロン先生ってなんか怪しいっスよ。ボクが都市竜から落っこちそうになったときの動きとかも、普通じゃなかったですし」
ロン先生と呼ばれることに、まだ違和感がある。心臓の裏っかわがくすぐられているような心地になる。
「オレはしがないひとりの先生だよ」
「しがないひとりの先生は、竜語なんてしゃべれないっスよ。ドラゴンと会話できる人とか、はじめて見ましたよ」
ドラゴンの血が混じっているのだ。物心ついたときから、ドラゴンと意思疎通ができた。竜人族と言われる種族のチカラなのだろう。しかしすべてを正直に答えるわけにはいかない。
「逆に、こっちから質問しても良いか?」
と、話をはぐらかすことにした。
「なんっスか?」
と、シャルリスはスプーンで卵をすくいあげて、クチにふくんでいた。モゴモゴとやわらかそうな頬が動いていた。
「学費とかどうしてるんだ?」
このオムライスも、ロンのおごりだった。シャルリスは遠慮していたのだが、自分だけ食べるのも居たたまれないので、おごることになった。シャルリスは金遣いに渋いところがあるようだった。
「基本的には、親が遺してくれたお金があるっスから。あとは、ときおり水汲み隊とかの手伝いに行って、バイト代をもらったりして、どうにかやってるっス」
「その歳で苦労してンなぁ」
両親はいない。バイトして自分で稼ぐ。そのくせ、竜騎士としての結果が出ない。補欠やらオチコボレとして蔑まれている。逆風の真っただ中である。
オマケに【腐肉の暴食】が体内に潜りこんでいるという疑惑まである。
そこまで苦労してるのに、シャルリスからは暗い雰囲気をまるで感じない。
むしろ逆境に立ち向かうチカラ強さすら感じる。
「絶望的だったスけど、今はそうでもないっスよ。先生が来てくれましたから」
「そこまで頼りにされてるんじゃ、期待に応えなくちゃな」
「期待してるっス」
「お……」
と、ロンは食べる手を止めた。
「どうしたっスか?」
「心当たりのある生徒を見つけた」
「どれっスか?」
と、上体を乗り出してシャルリスが尋ねてくる。
心当たりのある生徒というのは、女子生徒のなかにいるチェイテのことだった。
チェイテはたしか、どこの先生にも付いていないと聞いている。ルエドが勧誘をかけたが、それを断ったとも聞いている。
目があった。
チェイテはロンに向かって会釈を送ってきた。
「あれって、まさかチェイテ・ノスフィルトのことじゃないっスよね?」
「いや。チェイテのことだが」
シャルリスとそう年齢も離れていないようだし、良い組み合わせだと思う。
「冗談じゃないっスよ。あれは最強のノスフィルト家の御令嬢っスよ。あんなスゴイ人を仲間にできるわけないっスよ」
「まぁ、誘ってみなくちゃわからねェだろ」
ノスフィルト家の名は凄まじいそうだが、本人はチカラがないことを悩んでいる様子だった。しかも周囲が最強だと勘違いしているのだ。
「なに?」
チェイテは歩み寄ってきて、そう尋ねてきた。
「実はチェイテのことを誘ってみようと思ってたんだけど。オレの隊に入ってくれねェか? 補欠隊なんだけど」
「私の実力を知っていて、誘っているの?」
ダメっすよ、ヤバいですって……と、シャルリスが小声でそう言う。
「実力を知ってるから誘ってるんだよ。どこの隊にも所属してないんだろ?」
「ロン先生が私を受け入れてくれるなら、むしろ、私のほうから頼みたかった。私のことを鍛えてくれる?」
「じゃあ、承知してくれるんだな」
「ええ」
よろしくお願いします――とチェイテは頭を下げた。
白銀の長い髪が垂れさがる。垂れ下がった髪を、チェイテは指でかきあげて耳に引っかけていた。ローズマリーの高貴な香りがした。
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