《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
5-2.試験
寮を出る。
中庭――。
中庭には緑のカーペットのように芝が敷かれている。
教員寮のまわりにも鉄柵が張り巡らされている。
左から右へと色とりどりの花弁が散って行く。花弁の向こうには女子寮が見えた。
「ボーッとするな。新入り」
玄関トビラが開く。
後ろからエレノアが出てきた。ロンが立っていたので邪魔になったのだろう。
教員寮は、部屋が別れているだけて、男女の施設そのものは同じだった。エレノアも起きたところなのかもしれない。まだブロンドの髪をポニーテールに縛っていなかった。
「あ、これは失礼」
寮前にはあってもなくても同じような、3段しかない石段がある。ロンはそれを下った。
「昨晩の騒ぎは知っているか?」
「女子寮のゾンビの件ですか」
「そうだ。お前も気を付けておけ。いちおう検査は済んでいるが、感染経路が判然とせん」
シャルリスのことが脳裏をよぎった。が、すぐに打ち消した。
違う――はずだ。
ロンが見つけたとき、シャルリスには何も異常はなかったのだ。
「しかし都市内でもゾンビの出現は、ありえなくもないでしょう」
「ありえなくはない。が、きわめて稀な事象だ」
と、エレノアはコハク色の双眸を、女子寮のほうに向けていた。陽光の加減か、異様に輝いて見えた。
「珍しいですか」
「特に学園内ではな。検査は入念に行っている。それに、生徒たちは地上へ行く機会が少ないからな」
「言われてみれば、そうですね」
「細心の注意を払う必要がある。もし手に負えぬほど広がれば、こうして人類が空に逃げた意味もなくなるのだ」
「そうですね」
「しかし女子寮に、あのノスフィルトの娘がいて良かった」
「チェイテのことですか?」
「あの娘がいたおかげで、ゾンビへの対処が済んだのだ。生徒たちのあいだでも、すでに話題になっているようだな。チェイテが火系統の魔法でゾンビを焼き尽くしたらしい。ハッキリとはわからんが、ゾンビを消し炭にするほどだ。尋常じゃない魔力だ」
しゃべっているうちに、エレノアの白い頬に朱がさしこんでいた。
(昨晩のあれは……)
ロンが片付けたゾンビは、チェイテが片付けたことになっているらしい。
実力を伏せておかなければならない、ロンにとっては都合が良い。チェイテには申し訳ないが、そういうことに、しておいてもらおう。
「良い」
と、エレノアの目がうるんでいた。
「何がです?」
「ノスフィルト家に続く、強者、の血がだ」
「強いことに、意味なんてありますか」
むろん、とエレノアは強く首肯した。
「強ければ強いほど、その存在は美しくなる。その存在は輝きを増すのだ。私は子供のころに水汲み隊をやっていた。その際に、家族全員がゾンビに襲われた。命からがら逃げだしたが、生き残ったのは私と妹だけだった」
妹――というのは、ルエドの隊に所属している、アリエルのことだろう。
「エレノア竜騎士長にも、そういう時期があったんですね」
「強ければ、ゾンビなど蹂躙できるほどの強さがあれば、悲劇を味わうこともないのだ。すなわち穢れなき孤高に近づく」
「まぁ、そういう考え方もあるんですかね」
ロンはべつに、強さ、にたいして自分の哲学を持っているわけではない。エレノアは、強者、ということに異常な執着があるようだった。
「あれほどの魔力が使えるなら、チェイテ・ノスフィルトはすでに先生としてやっていけるほどの実力者だ。貴様のことも補欠のメンドウをみるために雇っているだけだ。ウカウカしていると、チェイテ・ノスフィルトに抜かされるかもな」
「かもしれませんね」
と、肩をすくめてみせた。
「すこし、しゃべりすぎたな。補欠の娘の調子はどうだ?」
「良いと思いますよ。意気込みは充分ですから」
「意気込みだけでは、どうにもならんがな。才能がないのなら、すぐに辞めてもらってほうが本人のためでもある。自分のやりたいこととは、マッタク別のところで才能が開花されることだってあるのだからな」
「もう少し様子を見てみますよ」
「好きにしろ。近々ふたたび都市竜は羽休めのために着陸する。そのさいに、各生徒の実力を見ようと思っている」
「どうやって実力をみるんです?」
「いつもやってることだ。詳細は補欠の娘にでも聞いておけ」
エレノアがそう言ったとき、教員寮からシャルリスが出てきた。
シャルリスはエレノアを見ると委縮したように、頭を下げていた。エレノアは「ふん」と鼻を鳴らすと、その場を後にした。
中庭――。
中庭には緑のカーペットのように芝が敷かれている。
教員寮のまわりにも鉄柵が張り巡らされている。
左から右へと色とりどりの花弁が散って行く。花弁の向こうには女子寮が見えた。
「ボーッとするな。新入り」
玄関トビラが開く。
後ろからエレノアが出てきた。ロンが立っていたので邪魔になったのだろう。
教員寮は、部屋が別れているだけて、男女の施設そのものは同じだった。エレノアも起きたところなのかもしれない。まだブロンドの髪をポニーテールに縛っていなかった。
「あ、これは失礼」
寮前にはあってもなくても同じような、3段しかない石段がある。ロンはそれを下った。
「昨晩の騒ぎは知っているか?」
「女子寮のゾンビの件ですか」
「そうだ。お前も気を付けておけ。いちおう検査は済んでいるが、感染経路が判然とせん」
シャルリスのことが脳裏をよぎった。が、すぐに打ち消した。
違う――はずだ。
ロンが見つけたとき、シャルリスには何も異常はなかったのだ。
「しかし都市内でもゾンビの出現は、ありえなくもないでしょう」
「ありえなくはない。が、きわめて稀な事象だ」
と、エレノアはコハク色の双眸を、女子寮のほうに向けていた。陽光の加減か、異様に輝いて見えた。
「珍しいですか」
「特に学園内ではな。検査は入念に行っている。それに、生徒たちは地上へ行く機会が少ないからな」
「言われてみれば、そうですね」
「細心の注意を払う必要がある。もし手に負えぬほど広がれば、こうして人類が空に逃げた意味もなくなるのだ」
「そうですね」
「しかし女子寮に、あのノスフィルトの娘がいて良かった」
「チェイテのことですか?」
「あの娘がいたおかげで、ゾンビへの対処が済んだのだ。生徒たちのあいだでも、すでに話題になっているようだな。チェイテが火系統の魔法でゾンビを焼き尽くしたらしい。ハッキリとはわからんが、ゾンビを消し炭にするほどだ。尋常じゃない魔力だ」
しゃべっているうちに、エレノアの白い頬に朱がさしこんでいた。
(昨晩のあれは……)
ロンが片付けたゾンビは、チェイテが片付けたことになっているらしい。
実力を伏せておかなければならない、ロンにとっては都合が良い。チェイテには申し訳ないが、そういうことに、しておいてもらおう。
「良い」
と、エレノアの目がうるんでいた。
「何がです?」
「ノスフィルト家に続く、強者、の血がだ」
「強いことに、意味なんてありますか」
むろん、とエレノアは強く首肯した。
「強ければ強いほど、その存在は美しくなる。その存在は輝きを増すのだ。私は子供のころに水汲み隊をやっていた。その際に、家族全員がゾンビに襲われた。命からがら逃げだしたが、生き残ったのは私と妹だけだった」
妹――というのは、ルエドの隊に所属している、アリエルのことだろう。
「エレノア竜騎士長にも、そういう時期があったんですね」
「強ければ、ゾンビなど蹂躙できるほどの強さがあれば、悲劇を味わうこともないのだ。すなわち穢れなき孤高に近づく」
「まぁ、そういう考え方もあるんですかね」
ロンはべつに、強さ、にたいして自分の哲学を持っているわけではない。エレノアは、強者、ということに異常な執着があるようだった。
「あれほどの魔力が使えるなら、チェイテ・ノスフィルトはすでに先生としてやっていけるほどの実力者だ。貴様のことも補欠のメンドウをみるために雇っているだけだ。ウカウカしていると、チェイテ・ノスフィルトに抜かされるかもな」
「かもしれませんね」
と、肩をすくめてみせた。
「すこし、しゃべりすぎたな。補欠の娘の調子はどうだ?」
「良いと思いますよ。意気込みは充分ですから」
「意気込みだけでは、どうにもならんがな。才能がないのなら、すぐに辞めてもらってほうが本人のためでもある。自分のやりたいこととは、マッタク別のところで才能が開花されることだってあるのだからな」
「もう少し様子を見てみますよ」
「好きにしろ。近々ふたたび都市竜は羽休めのために着陸する。そのさいに、各生徒の実力を見ようと思っている」
「どうやって実力をみるんです?」
「いつもやってることだ。詳細は補欠の娘にでも聞いておけ」
エレノアがそう言ったとき、教員寮からシャルリスが出てきた。
シャルリスはエレノアを見ると委縮したように、頭を下げていた。エレノアは「ふん」と鼻を鳴らすと、その場を後にした。
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