《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

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3-2.チェイテ・ノスフィルト

 医務室の前で待機していた。


 シャルリスが出てくるまで、そこで待つことにした。ここならばシャルリスがゾンビ化しても、すぐに対処することが出来る。


 石造りの通路が左右に伸びている。左手には教室へ入るトビラが並んでいる。右手が校舎のエントランスホールになっていた。


 石造りの広間。石造りであることに違いはないが、天井が異様に高い。空中では、四方八方へと空中廊下が伸びている。蜘蛛の巣が張り巡らされているかのようだ。
 各地にドラゴンの石像が置かれてあった。ロンのすぐ近くにも、その1つの石像が置かれている。ウロコのひとつひとつまで、丁寧に彫り込んであった。


 不意に耳につく笑い声が聞こえた。


 目をやる。
 2階からエントランスホールに伸びている階段を、見知った青い髪の男が下りてくるところだった。


 ルエドだ。


「野郎……っ」


 シャルリスに迷惑はかけたくないが、一言なにか言ってやらねば気がおさまらない。あやうく殺されかけたのだ。ロンは良いにしても、シャルリスはケガまで負っている。


「おい、てめぇ」
 と、ロンは声をかけた。


「んあ?」
 まさか生きているとは思っていなかったのか、ルエドは意表をつかれたような表情をしていた。


「てめェに殺されかけたこと、あとでエレノア竜騎士長に報告しておくからな。そうなりゃお前は、竜騎士なんてクビだ」


「なに言ってやがる、オッサン。オレは何も知らないね。被害妄想が過ぎるんじゃないか?」


 ルエドは薬指でメガネを押し上げると、やれやれとでも言うかのように肩をすくめて見せた。ロンのことを見て最初は驚いたようだが、平静を取り戻したようだ。


「えらく強気だな」


「エレノア竜騎士長は、実力主義者なんだよ。チカラのあるほうの意見を認める。それにオレに殺されかけたなんて証拠があるのかよ」


「言うじゃねェか。シャルリスはケガしてんだよ。それがなによりの証拠だ」


「オレがやった証拠にはならないね」


「図太いことを言うじゃねェか。なんだったら、ここでやりあっても良いぜ。実力主義なんだろ」


「エレノア竜騎士長にボコされたオッサンが、オレに勝てるのかよ」
 と、ルエドは人をナめくさったような目を向けてきた。階段。ロンのほうが階下にいるから余計にそう見えるのかもしれない。


 周囲の生徒たちが不穏な空気を嗅ぎつけたのか、野次馬となって集まって来ていた。


「あんまり大人をナめるもんじゃねェぜ」


「なにが大人だよ。こっちも先生やってんだ」


「19歳なんざ、オレからしてみりゃ、まだまだガキだ」


 まさかここで手を出すわけにはいかない。手を出せば、問題になる。最悪クビだ。セッカク上手く潜入したのがムダになる。
 それに年下相手に手を出しては、ロンもまたルエドと同種ということになる。


 殺気を送るだけにした。軽く脅すだけでも、それなりに効果はあるはずだ。


 刹那――。


「ちッ。今日のところはカンベンしておいてやる」
 と、あわてたようにルエドは、逃げるように階段を駆け上がって行った。


 いちおう殺気を送ったのだが、それに怖れをなしたという感じではなかった。もっと別のものに怯えていたようだ。


 おーっ、チェイテだ……と生徒たちが声をあげていた。
 声を受けて、振り返る。


 ロンのさらに階下。
 少女がひとりたたずんでいた。


 白銀の髪を腰のあたりまで伸ばしている少女だった。険しい表情でこちらを見ていた。眉間にシワを寄せて、さらに左目の下のところには古傷の痕跡は見受けられた。その傷跡が、少女に厳めしい雰囲気を付与していた。


「何者だ。あんた」


 どこかで会っている気がした。が、思い出すことはできなかった。


「チェイテ・ノスフィルト。見習い竜騎士のひとり」


 ルエドと対峙していたために、ロンの胸裏にはまだ殺気だったものが残っていた。初対面の相手に向けるものではない。すぐに引っ込めた。


「先生じゃないんだよな?」
 と、いちおう尋ねておいた。


 年齢のほどはシャルリスとそう変わりなさそうだった。シャルリスよりも、もうひとまわりカラダが小さい。


 生徒だろうとは思ったが、まとっている風格が生徒という感じがしなかった。周囲にいた生徒たちも、チェイテにたいして特別な視線を向けていた。たしかにチェイテには何か普通ではない雰囲気が宿されていた。


「そう。見習い。つまり生徒」


「はじめまして。オレは補欠隊の先生を任されることになった、ロンだ」


「ウワサは聞いてる」


 いったいどんなウワサだろうか。気にはなったけれど、あまり良い内容ではなさそうだ。センサクしないことにした。


「チェイテって呼べば良いか?」


「何でも良い」


「チェイテが来たから、ルエドが逃げたみたいに見えたが……」


 チェイテは生徒。一方でルエドのほうはもう先生を任されているということだから、立場としてはルエドのほうが上のはずである。


「私はいちおう、最強だから。ルエド先生も私の強さにビビった――と思う」
 と、チェイテはルエドがさっきまで立っていた場所あたりに目を注いだ。


「最強?」
 と、ロンは尋ねた。


 チェイテがその険しい表情を、ロンに向けてきた。まだまだ幼い顔立ちをしているくせに、眉間には哲学者のようなシワが刻まれていた。怒っているのだろうか? もともと、そういう顔立ちなのだろうか。気圧されるものがある。


「そういうことになっている。ノスフィルト公爵家の出だから」


「ノスフィルト公爵家……」
 つぶやく。


 竜騎士や貴族のことに関しては、あまり詳しくない。
 聞き覚えのない名前であるはずだった。が、やはりどこかで耳にした気がする。名だたる者たちを輩出してきた家柄なのだろう。


「兄はカルク・ノスフィルトと言って、都市クルスニク12騎士のひとりだった」
 と、チェイテは淡々と言った。


「あぁ……」


 思わず間の抜けた声が出た。


 あのカルクだろう。
 妹なのか――。


 あらためてチェイテのことを見つめてみた。あまりカルクの面影はない。が、たしかに似たような銀髪をしていた。


 ロンが、以前にどこかで会ったような錯覚を受けたのは、きっとそのせいだ。


 カルクとは、たいして深いつながりがあるわけではない。それでも、あの閃光のカルクの妹だと思うと、チェイテのこともまったくの他人とは思えなかった。
 

 カルクのことを知っているとは言えなかった。知り合いというほどの関係でもなかったし、なによりロンには助けることのできなかった命だ。


「だから、私は今年の新入生のなかでは最強。ルエド先生もだから逃げたのかもしれない」


「生徒にビビったのかよ。先生のくせに情けねェな」


「私はもう行く」


「おう。サンキュウな」


「何が?」


 チェイテは小さく首をかしげた。気のせいかと思うほど小さな所作だった。


「ケンカを止めてくれただろ。あやうくオレも手が出るところだった」


「そんなつもりじゃなかった。ただ、来ただけだから」


 そう言い残すとチェイテは階段を上がって行った。白銀の後ろ髪に見惚れた。


 生徒たちがザワついていた。「あれがノスフィルト家の御令嬢だ」「さすが最強の新入生って感じだな」「きっとすぐに名のある竜騎士になるだろうぜ」……などとヤリトリが聞こえてきた。


(おっと……)


 チェイテの後ろ姿に見惚れている場合ではない。そろそろシャルリスの手当も終わっているころだろう。

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