《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。
2-4.都市竜の餌
「なんだ、ありゃ? 感じの悪い野郎だな」
と、ロンはシャルリスにそう尋ねた。
「ルエド・ノライン。もともとここの学生で、ボクと同じ時期に入ったんっスけど。すぐに試験に合格して、正式に竜騎士になったっス。今は先生をやってるんっスよ」
ルエドが先生ということには驚かされた。まだ若そうだったから、生徒かと思っていた。立場としてはロンと同じということだ。
「あいつ。年齢は?」
「さあ。ボクが12歳でこの卵黄学園に入園したときに、あの男は16だったっスから。えっと……いまは19歳ぐらいじゃないですかね」
と、シャルリスは指折り数えていた。
「若いな」
シャルリスは3年近くここで見習いをやっていると言っていたから、いまは14歳ないし、15歳といったところか。
「あの人は、それだけ優秀なんっスよ」
と、シャルリスはいじけるように言った。
「ここの学園は、年齢はいくつでも受け入れてくれるのか?」
「ボクは12歳で入ったっスけど。たぶん年齢による制限はないんじゃないっスかね。まぁ、それでも若い人が多いイメージっスけど」
ロンはもう28歳だが、それなら生徒として入るのもありだったな――と思った。シャルリスに接近することが出来れば、それで良かったのだ。
「19歳の兄ちゃんが、15歳相手にイキってたんじゃカッコウつかねェな」
「エレノア竜騎士長にボコされた先生も、カッコウつかないっスよ」
「……痛いところを突くなぁ」
「気にすることないっスよ。エレノア竜騎士長は、剣術も魔力も騎竜術も、ズバ抜けて強いっスから。だから、竜騎士長なんっスけどね」
「オレのこと、幻滅しちゃった?」
うーん、シャルリスは首をかしげた。
「まぁ、ドラゴンとしゃべれるみたいですし、まだ幻滅はしてないっスよ。タダモノじゃない雰囲気出てますし」
「チョット返答に迷いがあったぜ。ま、良いけどさ」
実力を隠して入園してきてるわけだから、幻滅されても仕方がない。見栄を張るために来たわけでもない。
「ルエドは入園してきて、すぐに正式な竜騎士になったんっスよ。なのにボクは3年やっても、まだ見習いなんっスから。よっぽど才能ないんでしょうねぇ」
はぁ、と重いため息を吐いている。
「早咲き遅咲きってのもあるからな」
「なんスか、それ?」
「年齢の若いうちに才能を開花するヤツがいれば、ジジィババァになってから開花するヤツだっているってことだよ。オレの師匠がよく言ってた。先に花を咲かせるようなヤツより、地中でシッカリと根っこを張ってるヤツのほうが、結果的に良い仕事をするようになるって」
ロンの師匠というのは、覚者の長である。ロンの育ての親でもある。ロンは実の親を知らず覚者たちに育てられたのだ。
「どうなんっスかね。早く才能を開花させたほうが、いろいろと得することは多いと思うっスけどね」
「まぁ、ンなことで悩むような年でもねェだろ。シャルリスはまだ15歳なんだったら、人生これからだ。オレからしてみりゃ19歳だろうと、15歳だろうと、まだまだヒヨッコだぜ」
羨ましいな、と思った。
ロンだって若い時期はあった。シャルリスと同じぐらいの時分に、学園に入学していれば、それはそれで面白かっただろう。
嬉しいことも、辛いことも、どんなことにも鋭く感じていた。いつからだろうか。年齢を経るにつれて、感情が鈍化しているように思う。
ロンは覚者として、ずっとゾンビと戦って過ごしてきた。もう腐った青春は取り戻せないのだと思うと切ない気持ちになる。
「そりゃオッサンから見たら、そうでしょうけど」
「あ、それ禁句な。お兄さんだから」
「自分で年上ぶったこと言うからじゃないっスか。ま、たしかにお兄さんでも通じると思うっスよ。イケメンですし。正直この先生で当たりだなって思っちゃいましたし」
「おっ。良いこと言うね」
「先生って、チョロイっすね。変な女とかに引っかかったりするんじゃないっスか?」
「ガキに心配されるほど、落ちぶれちゃいないよ」
「すみません」
と、謝る気がなさそうな笑みを浮かべて、シャルリスは言った。ロンだってまだ子供と言える少女に本気で謝って欲しいとは思わない。
「で、その腕は?」
さっきから人間の腕と思われるものを、シャルリスは弄んでいる。ルエドとかいうさっきの男が投げつけてきたものだ。
「これ、人間の腕っスよ。死体の」
「なんで、そんなもん放り投げて来てんだ?」
見たところ、冷凍されているようだ。
「都市竜の餌っスよ。ドラゴンって基本的に、人肉を食べるんっスよ。ゾンビの肉も食べるっスけど、あれも元を辿れば人肉ですし」
シャルリスは拾い上げた腕を左右に振りながら言う。
「それはゾンビじゃなくて、人の腕なのか?」
「これは、人のっスよ。都市では死んだ人間を食わせてるんっスよ。竜食葬って言ってるんですけど。たぶんこれも、どこかの誰かさんの腕っス」
ロン先生。知らないんっスか? と、尋ねてきた。
「オレ、あんまり都市で生活することないからなぁ」
「都市で生活することないって、じゃあどこで生活してるんっスか。人間はふつう都市竜のうえで生活してるでしょ」
「下?」
と、ロンは床を指差した。
「下ぁ?」
と、シャルリスはスットンキョウな声をあげて、石造りの床を見下ろしていた。
「地上な」
「えぇーっ。危険すぎるっスよ。なんでそんなところで暮らしてるンっスか。ってか地上で暮らせるような場所あるんっスか?」
言われてみれば、地上で生活しているのは覚者ぐらいだ。チョットしゃべりすぎてしまった。
「冗談だよ、冗談」
と、誤魔化すことにした。
「なんなんですか、その冗談。面白くもないっスよ。あーあ。これから餌やりしに行かなくちゃならないんっスけど……」
シャルリスはそう言うと、ロンに上目使いをおくってきた。どことなく甘えているように見える。
ボーイッシュのなかに潜んでいる少女らしさが、かいま見えた。
「オレはいちおう補欠隊の先生だからな。付き合うよ」
「ありがとうっス」
ニシシ……と、まるで照れ隠しのようにシャルリスは笑った。
と、ロンはシャルリスにそう尋ねた。
「ルエド・ノライン。もともとここの学生で、ボクと同じ時期に入ったんっスけど。すぐに試験に合格して、正式に竜騎士になったっス。今は先生をやってるんっスよ」
ルエドが先生ということには驚かされた。まだ若そうだったから、生徒かと思っていた。立場としてはロンと同じということだ。
「あいつ。年齢は?」
「さあ。ボクが12歳でこの卵黄学園に入園したときに、あの男は16だったっスから。えっと……いまは19歳ぐらいじゃないですかね」
と、シャルリスは指折り数えていた。
「若いな」
シャルリスは3年近くここで見習いをやっていると言っていたから、いまは14歳ないし、15歳といったところか。
「あの人は、それだけ優秀なんっスよ」
と、シャルリスはいじけるように言った。
「ここの学園は、年齢はいくつでも受け入れてくれるのか?」
「ボクは12歳で入ったっスけど。たぶん年齢による制限はないんじゃないっスかね。まぁ、それでも若い人が多いイメージっスけど」
ロンはもう28歳だが、それなら生徒として入るのもありだったな――と思った。シャルリスに接近することが出来れば、それで良かったのだ。
「19歳の兄ちゃんが、15歳相手にイキってたんじゃカッコウつかねェな」
「エレノア竜騎士長にボコされた先生も、カッコウつかないっスよ」
「……痛いところを突くなぁ」
「気にすることないっスよ。エレノア竜騎士長は、剣術も魔力も騎竜術も、ズバ抜けて強いっスから。だから、竜騎士長なんっスけどね」
「オレのこと、幻滅しちゃった?」
うーん、シャルリスは首をかしげた。
「まぁ、ドラゴンとしゃべれるみたいですし、まだ幻滅はしてないっスよ。タダモノじゃない雰囲気出てますし」
「チョット返答に迷いがあったぜ。ま、良いけどさ」
実力を隠して入園してきてるわけだから、幻滅されても仕方がない。見栄を張るために来たわけでもない。
「ルエドは入園してきて、すぐに正式な竜騎士になったんっスよ。なのにボクは3年やっても、まだ見習いなんっスから。よっぽど才能ないんでしょうねぇ」
はぁ、と重いため息を吐いている。
「早咲き遅咲きってのもあるからな」
「なんスか、それ?」
「年齢の若いうちに才能を開花するヤツがいれば、ジジィババァになってから開花するヤツだっているってことだよ。オレの師匠がよく言ってた。先に花を咲かせるようなヤツより、地中でシッカリと根っこを張ってるヤツのほうが、結果的に良い仕事をするようになるって」
ロンの師匠というのは、覚者の長である。ロンの育ての親でもある。ロンは実の親を知らず覚者たちに育てられたのだ。
「どうなんっスかね。早く才能を開花させたほうが、いろいろと得することは多いと思うっスけどね」
「まぁ、ンなことで悩むような年でもねェだろ。シャルリスはまだ15歳なんだったら、人生これからだ。オレからしてみりゃ19歳だろうと、15歳だろうと、まだまだヒヨッコだぜ」
羨ましいな、と思った。
ロンだって若い時期はあった。シャルリスと同じぐらいの時分に、学園に入学していれば、それはそれで面白かっただろう。
嬉しいことも、辛いことも、どんなことにも鋭く感じていた。いつからだろうか。年齢を経るにつれて、感情が鈍化しているように思う。
ロンは覚者として、ずっとゾンビと戦って過ごしてきた。もう腐った青春は取り戻せないのだと思うと切ない気持ちになる。
「そりゃオッサンから見たら、そうでしょうけど」
「あ、それ禁句な。お兄さんだから」
「自分で年上ぶったこと言うからじゃないっスか。ま、たしかにお兄さんでも通じると思うっスよ。イケメンですし。正直この先生で当たりだなって思っちゃいましたし」
「おっ。良いこと言うね」
「先生って、チョロイっすね。変な女とかに引っかかったりするんじゃないっスか?」
「ガキに心配されるほど、落ちぶれちゃいないよ」
「すみません」
と、謝る気がなさそうな笑みを浮かべて、シャルリスは言った。ロンだってまだ子供と言える少女に本気で謝って欲しいとは思わない。
「で、その腕は?」
さっきから人間の腕と思われるものを、シャルリスは弄んでいる。ルエドとかいうさっきの男が投げつけてきたものだ。
「これ、人間の腕っスよ。死体の」
「なんで、そんなもん放り投げて来てんだ?」
見たところ、冷凍されているようだ。
「都市竜の餌っスよ。ドラゴンって基本的に、人肉を食べるんっスよ。ゾンビの肉も食べるっスけど、あれも元を辿れば人肉ですし」
シャルリスは拾い上げた腕を左右に振りながら言う。
「それはゾンビじゃなくて、人の腕なのか?」
「これは、人のっスよ。都市では死んだ人間を食わせてるんっスよ。竜食葬って言ってるんですけど。たぶんこれも、どこかの誰かさんの腕っス」
ロン先生。知らないんっスか? と、尋ねてきた。
「オレ、あんまり都市で生活することないからなぁ」
「都市で生活することないって、じゃあどこで生活してるんっスか。人間はふつう都市竜のうえで生活してるでしょ」
「下?」
と、ロンは床を指差した。
「下ぁ?」
と、シャルリスはスットンキョウな声をあげて、石造りの床を見下ろしていた。
「地上な」
「えぇーっ。危険すぎるっスよ。なんでそんなところで暮らしてるンっスか。ってか地上で暮らせるような場所あるんっスか?」
言われてみれば、地上で生活しているのは覚者ぐらいだ。チョットしゃべりすぎてしまった。
「冗談だよ、冗談」
と、誤魔化すことにした。
「なんなんですか、その冗談。面白くもないっスよ。あーあ。これから餌やりしに行かなくちゃならないんっスけど……」
シャルリスはそう言うと、ロンに上目使いをおくってきた。どことなく甘えているように見える。
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「オレはいちおう補欠隊の先生だからな。付き合うよ」
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