《完結》腐敗した世界の空で、世界最強のドラゴンは、3人の少女を竜騎士に育てます。

執筆用bot E-021番 

2-2.シャルリス・ネクティリア

「聞いてますよ。今日から新任の先生が来てくれるって。あなたがボクの先生になってくれるンっスか?」


 エレノアに案内されて来たのは、大きな石造りの部屋だった。
 何もない立方体の空間だった。いや。何もないというのは語弊がある。窓がある。朝日がさしこんでいる。少年が1人いる。それからドラゴンが1匹いる。


 話しかけてきたのはその、赤い髪の少年だった。その少年が補欠の見習い竜騎士ということらしい。
 伝えることだけ伝えると、エレノアは立ち去ってしまった。


 ロンは部屋の隅に移動した。


「おい、ターゲットは女子って聞いてたけど、これで合ってるのか?」


《どうやら無事に、潜入できたようですね》
 と、ハマメリスから返答がある。


「まぁな。言われた通りにザコを演じて、補欠の隊に回されたけどよ」


《それがターゲットの女子です》


「いや。男の子っぽいぜ」


《そう見えるというだけでしょう。髪が短いですが、女子のはずです。胸などを触って確認してみてください》


「それ普通に犯罪だからな」


 先生、どうしたんっスか――と尋ねてきた。
 不審に思われてはマズイ。
 コホン――と咳払いをかました。


「いや。ただの独り言。オレは今日から補欠の隊の先生を任されることになった。ロンだ。よろしく」


「ボクは、シャルリス・ネクティリア。シャルリスって呼んでください」


 あらためてその風貌を確認した。
 真っ赤な髪の毛をショートボブにしている。目鼻立ちがハッキリしている。特に真紅にかがやく瞳には、若いチカラを感じさせられた。エレノアのような凄みはない。だが、くもりなき快活さを感じさせられた。


「女の子――なんだよな?」
 失礼を承知で、率直に尋ねてみることにした。


「よく男に間違えられンっスけど。れっきとした女子っスよ」
 と、シャルリスは頬を人差し指でかき、クチ先をとがらせてそう言った。


「ボーイッシュ女子ってわけか」


 その短い髪の毛や、華奢な体格からは、余計なものをそぎ落としたような魅力を感じた。よくよく見てみれば、胸元のふくらみや、手足の丸みには女性特有のものがある。
 もしかすると将来は大変な美女に化けるかもしれない。


「戦闘になったら長い髪の毛って邪魔かな――って思って切り落としたら、男と間違えられることが多くなったんっス」


「髪の長い竜騎士だっているだろ。エレノア竜騎士長とか、まさにその代表格だぜ。あの人はポニーテールに縛ってるけど」


「あー。たしかにブロンドの髪が長かったらキレイですよね。けど、ボクの場合は癖毛なんで、長く伸ばすと手入れとかも大変なんっスよ」
 と、シャルリスは頭をかきむしった。


「見たところ直毛だがな」


「伸ばしたらカールするんです」


「オレは髪を伸ばしたことないから、良くわかんないなぁ」


「でも先生は、長髪でもよく似合うと思いますよ。すっごいキレイな黒髪ですし。しかもけっこうイケメン」


「おう。ゴマのすりかたを良くわかってるじゃないか」


「でしょ」
 ニシシ、とシャルリスは歯を見せて笑った。キレイに並び整った歯だった。


(これがホントに、ヤツなのか?)
 と、ロンは疑惑をおぼえた。


 今回、ザコを演じて、わざわざ補欠の隊に回されるように計らった。
 シャルリスに接近するためだ。
 シャルリスに【腐肉の暴食】が寄生している疑惑がかけられているのだ。
 それを調べるための潜入調査だ。


【腐肉の暴食】が、都市内にいるかもしれないなんて言うと、パニックになる可能性がある。秘密裏に調査を行えということだった。

 
 あの戦いのとき――結局、【腐肉の暴食】を逃してしまったのだ。仕留めそこなった。


 もしもこの少女の体内に【腐肉の暴食】が寄生していることが確定すれば、その場で抹殺せよということだ。無情である。しかしまぁ、確定したわけではない。何もなければ、それで良いのだ。


(つぅーか)
 寄生ってなんだよ……と思う。聞けば聞くほど、【腐肉の暴食】ってのは、妙な能力を持っている。あまり良くわかっていないのだが、始祖、というのは通常のゾンビとは勝手が違うようだ。


「どうしたんっスか。先生」
 と、シャルリスは不思議そうな表情をして見せた。


「いや。なんでもない。それより何してたんだ? このドラゴンに餌でもやってたのか?」


 真っ赤なドラゴンだ。
 大人しくはしているが、いちおう鎖でつながれていた。


「ガンバってなつかせてたんっスよ。ボクいちおう見習い竜騎士で、3年近くも卵黄学園にいるんですけど、ドラゴンをなつかせることが出来なくて、いつまで経っても卒業できないんです」


「卵黄学園って、何年制度なんだ?」


「べつに年とかは関係ないっスよ。竜騎士として1人前だと認められる試験があるんっスけど、それに合格すれば卒業できるっス」


「まぁ、半人前のヤツを卒業させるわけにはいかねェか」


 至らない点があっても卒業できる――なんて甘えは許されない。なにせ竜騎士は死と向き合うことになるのだ。


「竜騎士になろうと思ったら、やっぱドラゴンを飼い慣らす必要がありますよね」


「そりゃ竜騎士だからな。ドラゴンはあらゆる疾病や状態異常にたいしての免疫を持ってる。だからゾンビ化もしない。ゾンビと戦うにはもってこいの生き物だ」
 と、目の前にいた赤いドラゴンの頭をナでた。ウロコの硬い感触が、手のひらに伝わってくる。


 かつて地上で生活していた人は、戦に馬を起用としてたと聞く。いまでは馬はただの移動手段だ。戦ならば必ずドラゴンが使われる。


「懐かせるのに、コツとかいるんっスかね」


「このドラゴンは、シャルリスのものなのか?」


「いえ。学園のものっス。ドラゴンは卵黄学園を卒業するさいに、個人のものになるので」


「学園の仕組みは詳しくないが、ドラゴンをなつかせるのは、わりと得意なほうだ」


「マジっスか!」


「話しかければ良いだけだ」


 ロンはいちおうドラゴンでもある。ドラゴンとコミュニケーションをとることは、そう難しいことではない。
 ただドラゴンは人間ほど高度なコミュニケーションを取らないので、ヤリトリする内容はいたってシンプルになる。
 

 竜語で話しかけてみた。


「なんでお前、この娘になつかねェの?」


《美味そうな匂いがするから》
 ということだった。


 乗り手というより、餌として見られてる。


「うわっ。先生っ。なにそれ? ドラゴンと会話できんの? それってスゴくないっスか?」
 と、当人のシャルリスは目を輝かせて興奮をあらわにしていた。


(あ……)


 人前でドラゴンと会話しても良いのかな? 実力を隠して潜入しろって言われてるんだけど。まぁ良っか。


 他者から聞いたときには、ロンのクチから唸り声が漏れているように聞こえるはずである。竜語はふつうの人間には理解できない。


「オレがドラゴンと話せることは秘密でよろしく」


「了解っス」


「チョット失礼」


 ロンは屈んでシャルリスと目線の高さをあわせた。
 シャルリスの首元に鼻をおしつけて、その匂いをたしかめてみた。べつに美味そうな匂いがするわけではない。むしろ少女らしい甘い香りがした。


「な、ななな、なにするんッスか。このヘンタイ!」


 バチン。
 頬をはたかれた。


 少女だと思って油断していた。考えてみれば、ずいぶんとブシツケなことをしてしまった。
 それにしてもさっきから、暴力を受けてばかりな気がする。

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