今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)

細木あすか

人の話はちゃんと聞くべき



久しぶりに来たメールがこれって。

「………………」

休憩時間。控室でSNSを確認していたら、あの人からメールが来た。数ヶ月待って、やっと。
でも、それは望んだものじゃない。

「……嫌だ。嫌」

画面に名前が出た時、すごく嬉しかった。
やっと帰ってきてくれたのかと思った。

でも、違った。

「……やだよぅ」

きっと、「わかった」って言わないといけないんだ。そうすれば、好きな人は困らない。

でも。でも。

嫌だ。絶対嫌。
私には、彼が居ないとダメなの。何やっても、彼に褒められることばかり考えてる私には。
絶対に、側に居ないとダメなの。

他の女が居てもいいから。
そのくらいなら、全然気にしないから。
だから…………。

『次の撮影の日、終わったら時間ください』

絵文字も顔文字もない、真面目な文面。
いつもと違うから、言いたいことはすぐにわかった。

「これきりなんて、言わないで……」

控え室の端に座る私は、スマホに涙を一滴溢す。


***


チャイムが鳴った。

「終わったあ!」
「夏休みだ!」

それは、期末テスト最後の教科、「数学」が終わったことを知らせるチャイム。
同時に、教室中……いや、隣のクラスからも歓声が聞こえるわ。

「燃え尽きた〜」
「お疲れ様。どうだった?」

私も例外なく、テスト終わりを喜んだ。答案用紙が回収された途端、なんだか全身の力が抜けちゃった。
マリなんか、顔がもう夏休みだわ。水着渡したら、勝手に海へ行っちゃいそう。

「名前はちゃんと書けたよ」
「……そう、偉いわね」

本当、マリってばよくうちの高校受かったよね!
補習になったら、どうするんだろう? 夏休みに学校行くとか、絶対無理。

「青葉ー。佐渡が呼んでるぞ」
「ありがとう」

なんて喋っていると、青葉くんが理花に呼ばれたみたい。まだHR終わってないのに、青葉くんはいつもの黒いリュックを背負って教室を出て行ってしまった。……お母さんが宣伝してるリュックだったんだよね。未だに実感ないや。
でも、誰にも言わないから安心しててね。

「お待たせ、佐渡さん」
「青葉くん! 行こう」
「う、うん」

……あ。理花、青葉くんの腕取った。
青葉くん、大丈夫かな。少し肩が上がってる。怖いんだろうな。
助けた方がいい? でも、怖いなんて私の想像じゃないの。違ってたら、相手に失礼だわ。

「…………」

いえ。
あれは、怖がってる。
顔がこわばってるもの。
髪の毛で見えないけど、私にはわかる。

それに気づいた私は、マリとの会話を止めて立ち上がる。……借りてた筆記用具を返す話にしようかな。それなら、自然な会話ができるはず。

「青「鈴木ー。3年の先輩が呼んでる」」
「え?」

私が青葉くんに声をかけようと近づくと、後ろから眞田くんに呼び止められた。
彼の指差す方を見ると、そこには、にっこり笑ってこちらに手を振っている牧原先輩の姿が。タイミング悪いわね、本当!

「あ、ありがとう」
「おう。知り合いか?」
「……一応ね」

でも、あまり近づきたくないんだけど。呼ばれたなら、行かないと不自然だよね。

牧原先輩の待つ後ろの入り口に行くと、すぐに声をかけてくる。

「やっほー、梓ちゃん」
「……お疲れ様です」
「テスト終わったから、迎えに来たよ」
「……!?」

牧原先輩って、表情豊かだよね。
なんて考えていたら、視界が真っ黒になった。

「梓ちゃん、どこ行く?」
「ちょっ……せんぱっ」
「んー? 付き合ってるんだから、これくらいいいでしょ?」
「……は?」

視界が真っ黒になったわけじゃなかったわ。

私は、いつのまにか牧原先輩の腕の中に居た。それがわかった瞬間、腕に力を入れて引き離そうとしたけど、うまくいかない。

いやいや、それより!!
今、牧原先輩なんて言った?

「え、昨日告白したらOKくれたでしょ? 忘れちゃったの?」
「…………え?」

衝撃的な言葉に、全身の力が抜けていく。
今、先輩なんて言った?

「だーかーら。梓ちゃん、僕の彼女になったんだよ」
「…………嘘」

その言葉で、教室中がシーンとなってしまったこと。いえ、廊下に居た人たちも含めて、静かになってしまったこと。更にその光景を、どこかへ行こうとしていた青葉くんと理花にも、振り返って見られていたこと。

頭が真っ白になってしまった私は、何一つ気付かず牧原先輩の腕の中で呆然と立ち尽くした。


          

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