今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)
登り坂と下り坂
「……よかったあ!」
お風呂に入った私は、自分の部屋で政経と物理の問題用紙をチェックしていた。
奇跡的なことに、ちゃんと問題は解いていたの。さすが、私! 後は、どのくらい合ってるかってところね。
特に、政経は結構勉強したから身体が覚えてたって感じかな。本当、助かったわ。追試なんかになってたら、マリのこと笑っていられなくなる。
「はあ……」
なんだか、身体の力が一気に抜けちゃった。
私はベッドに寝転がり、仰向けになりながらスマホ画面を見る。改めて、今日起きた出来事を振り返らないと。
「まずは、橋下くんね」
橋下くんが主演のドラマに、私もエキストラに出るって話。
その場限りのものだと思ったんだけど、橋下くんから日時の連絡がきてたんだよね。しかも、ご丁寧に彼のマネージャーさんから電話もきたわ。高久さん、だったかしら。
パパに繋いだら、「これも社会勉強だと思って行ってきなさい」って言われたんだ。まあ、夏休みで学校休む必要ないし、パパがダメだって言う要素なかったけど。
『……で、本音は?』
『マオくんのサインもらってきてください』
『ぼくもっ』
『わたし、セイラさんっ!』
『……はあ』
だってさ。頼めばくれるのかな。
……って、遊びじゃなくて一応お仕事なんだけど!
「あとは、先輩か」
結局、先輩からメッセージは来なかった。
私から送る約束したとかだったら、どうしよう。本当、申し訳ないくらい全く覚えてないんだよね。
もしかして、私ってば「もう1人の自分」的な何かがいるってこと!?
いたとしたら、きっと私より頭が良い人なんだわ。だって、苦手だった社会契約説の部分の解答が完璧だったし。ホッブズとルソーが毎回逆になってたのに、ちゃんと書けてたし。
「……はあ」
もう、何が何だか。
私は、ため息をつきつつ、部屋の壁にかけている上着を視界に入れる。
それは、青葉くんのもの。
返そうと思ったんだけど、これが手元から無くなったら、本当に彼との繋がりがなくなる気がして言い出せなかったんだ。クリーニングもしないといけないし。
テスト期間が終われば上着必須の校則はなくなるから、まだ持ってても大丈夫だよね? ダメかな……。
あーあ。私も理花みたいに、みんなの前で青葉くんとおしゃべりしたい。
夕飯一緒に食べて、みんなでゲームもしたい。
また、ぎゅーって抱きしめて欲しい。
……とかね。私は何様なんだろう。
もらったぬいぐるみ抱っこして、我慢しなさいよ。
「……ふびゃぁっ!」
なんて考え事をしていたら、顔面にスマホが落ちてくる。
変な声が出ちゃった。
スマホは、仰向けでいじるモノじゃないわね。
***
「っつーことで、昨日お願いした仕事に梓も来るから」
時刻は、午後9時。
駆け込み寺……もとい、五月のマンションに来たオレは、最後の追い込みをすべく机の上に教科書を開いていた。もちろん、先生は目の前の家主。
五月も、そこまで勉強ができるわけじゃない。でも、2人でグダグダやってると結構覚えんだよな。前回、こいつの方が順位高かったから「先生」ってこと。
「……は?」
オレの話を聞いた五月は、数学の問題集片手に固まってしまった。
……あ、シャーペン落としやがった。そんなに衝撃的だったのか?
「だーかーらー、梓にエキストラとして出てもらうことにしたから」
「……鈴木さんが出たいって言ったの?」
ん? 嬉しくなさそう。
こいつら、またなんかあったんか?
いやでも、昨日泊まったらしいからそんなことないか。
梓の家の風呂に2人で入るって聞いたときは、とうとう付き合うことになったのかって思ったけどさ。まさか、梓の父親と入るとは。どんな流れでそうなったんだ?
まあ、五月ってば嬉しそうに話してたから、嫌ではなかったんだろうな。
「違う違う。学食で勉強してる梓見つけて、嬉しくなって声かけちまって。周りから接点聞かれて、とっさに理由作ったんだ」
「うわ。お前、もう少し自分が有名人だって自覚持った方が良いよ」
「悪かったとは思ってるよ。でも、五月とオレが仲良いのあんま知られたくないんだろ? 名前は出してねえから」
「……俺より、鈴木さん優先してあげてよ」
「んだよ、嬉しそうじゃねえじゃんか。学校じゃあんま喋れなくなったんだろ? 外なら問題ねえじゃん」
「うーん……」
……やっぱ、なんかあったんか?
もしかして、オレ、また余計なことしたとか?
オレは、五月の話を聞くべく筆記用具を机の上に置く。
「俺は普通に嬉しい。でも、鈴木さんと現場で喋ってたら、他のモデルさんどう思う?」
「……あ」
やっべえええ!!
そこまで考えてなかった。
確か、美香さんは確実に来る。高久さんが言ってたし。
他、五月と遊んでたやつ誰が来る?
……わかんねえよ。
あー、オレの馬鹿!
          
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