今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)

細木あすか

私のお母さんは、学生気分が抜けない人



「ただいまー」

私が家に帰ると、リビングの方で掃除機の音がする。

今日は、月曜日。
お母さんがお休みなんだ。

「お帰り、梓!」
「ただいま。瑞季たちは?」

私がリビングに入ると、掃除機を止めてお母さんが挨拶を返してくれる。

……私、昔のお母さんにそっくりらしいの。お母さんも、昔はメイクバリバリだったんだって。だから、おしゃれしてても怒られないんだ。
飽きたメイク道具くれるし、カラー・パーマ代も出してくれるの。優しいでしょ?

「あの子たちは、吉井さんのお宅に行ったわ。勉強するって言ってたけど、宿題そこに忘れてね」
「クラスメイトのさっちゃんね。あそこ、ゲームの新作買ったらしいから」
「なるほどね。帰ってきたら、ご飯前に宿題させないと」
「あはは。そうだね」

私とお母さんは、仲が良い方だと思う。……ううん、すごく仲良し。私、お母さん大好きだもん。

「リビング掃除機かけ終わったら、夕飯作るから」
「いいよ、今日早く帰れたし私作る」
「あらそう?じゃあ、一緒に作りましょうか」
「うん!」

お母さんとキッチンに立つのって、いつぶりだろう。
ここ数ヶ月、なかった気がする。嬉しいな。

「さ!手を洗ってきなさい。ご飯作りながら、「青葉くん」について教えてちょうだいね」
「わかった、洗ってくる!」

持っていたカバンをソファに置いた私は、お母さんの言葉に従って、手を洗いに洗面所へ向か……。

「………………!?!?!?」

待って待って待って待って。
待ってください、落ち着いて。

え、今確か……。

「ちょっとお母さん!」
「なによ、騒がしいわねぇ」
「い、い、い、今、青葉くんって……?」
「言ったわよ?それがどうしたの?」

どうしたの?じゃないわ!
なんで知ってるのよ!

私、今なら顔から火を出せるわ。その火力で、料理も作れるかもしれない。
……なんて、冗談が頭に浮かぶ程度には冷静だった。多分。

「……瑞季たちから聞いたのね」
「ええ。あなたのクラスメイトで、優しくてもの凄い格好のお兄さんがいるって」
「……い、いるけどぉ」
「何回か、一緒にご飯食べたんだって?」
「……うっ」
「土曜のケーキ、その子からのお土産だったんだってねぇ。美味しかったわあ」
「……」

この顔!ニヤニヤしながらこっち向かないでよ!
別に、青葉くんとはそういうのじゃないんだから!

お母さんは、掃除機片手に私の顔を見て笑っている。こういうのって、親に知られるの恥ずかしいんだよね。私だけかな……。

「ははあん。今日の朝のメイク時間が長いと思ったら、そういうことなのねぇ」
「違う!」
「いいから、手洗いうがいしてきなさいな。惚気話は、それから聞くわ」
「だから、青葉くんはそんなんじゃないってば!」
「ふふふ。いいじゃないの、青春だわ。お母さん、応援しちゃう」
「だーかーらー!」
「はあ、ケーキのお礼言わないとねぇ」
「私がお礼言ったから、いいの!」
「いやよ、私も会いたい」

……言っても無駄ね。
だってお母さん、この類の話大好きなんですもの。
恋愛小説の見過ぎなんだって!お母さんの部屋の本棚にたくさんあるの、私知ってるんだから!

私は、潔く諦めて洗面所へと向かった。
どうか、お母さんと青葉くんが鉢合わせしませんように!!

          

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