今まで視界にも入らなかった地味なクラスメイトが、実はかなりのイケメンチャラ男だったなんてことある!?(仮)

細木あすか

モヤモヤする理由


「……あの人が橋下くんだよね」
「え、あ、ああ!そうね」

……青葉くんが橋下くんだったの!?
え、クラスメイトじゃなかったっけ?

「隣にいる人は誰だろう……。うちの制服着てるよね」
「へ? ……と、隣?」
「そうそう、黒髪のすごいピアス穴の」
「ほ、本当だ……。誰だろう」
「そっちの人もカッコいい」

青葉くんにばかり気がいってしまっていたけど、誰かと喋っていたよね。そっちが橋下くんってことか。
私は、改めて橋下くんとやらを……いや、それよりも青葉くんよ。何であの格好で学校歩いてんの!?

「こんな近くで見れてラッキー。マリたちに自慢しよ」
「え、ええ。そうね。お弁当も冷めるから行きましょう」

私は、なんだか妙にモヤモヤする胸の中を抑えつつ、食堂中の注目の的になっている2人に背を向けて奥へと歩いていく。


***


由利ちゃんと席に戻ると、シャッター音を隠そうともしないでスマホのカメラを起動させているふみかと、その画面を覗く詩織の姿が。

え、マリ?
その隣で、目をハートにする勢いで橋下くんのことを見ているわ。
その光景に、私と由利ちゃんは苦笑してしまった。だって、周りの人たちと全く同じ行動なんだもの。

「お待たせー」
「さっき、電子レンジのところで橋下くん間近に見ちゃった!」
「え!? 私もパン温めてくる!」
「ちょっと、やめてよ! 温かい生クリームは食べたくない!」

と、本当にやりかねない!
由利ちゃんの話を聞いたマリが、購買の袋片手に立ち上がるのを私は全力で止める。だって、その袋の中身を食べるのは私なんだから。

「冗談よ、冗談! にしても、やっぱりカッコいいなあ。なんていうか、オーラが違う!」
「わかるー」
「でもさ、その隣にいる人誰だろう? あんな人、うちの学校にいた?」
「うーん……。どっかで見たことあるんだけど、思い出せない」

そんな会話をしつつ、私は温めたお弁当をマリの前に置いた。すると、マリも手に持っている購買の袋を私にくれる。
中身を見ると、スペシャルパンが2つも入ってるじゃないの! さすがマリ。

自分のお金で買うほど食べたいとは思わないんだけど、このパン結構好きなのよね。美味しいんだけど、1つ400円は高すぎる。だったら、298円の豚バラ買って家にある野菜炒めて食卓に出した方が安上がりでしょ。

「ふみかと詩織も、ご飯食べよう」
「うん。写真撮れたから、もう満足」
「ふみかは、本当にカメラ好きだよね」
「好き! だって、いつまでもデータとして残るじゃない?」
「一眼は持ってないの?」
「欲しいけど……。カメラとフラッシュ、レンズにレフ板買うとなると今のバイト代だけじゃ足りない。維持費もかかるし」
「へえ。よくわかんないけど、凄そう」
「スマホでも十分綺麗な写真撮れるから、今のところはコレで満足しておくの」
「見せて見せて!」

ふみかのスマホ画面を覗くと、あの注目の的になっている2人がバッチリ写っていた。2人とも、周囲をあまり気にせず楽しそうに会話してる。仲良しさんなのかなあ。

「橋下くんもカッコいいけど、隣の人もカッコいい!」
「うーん、私は橋下くんの方が良いな」
「あたしは、隣のイケメンくん!なんか、ミステリアス!」
「わかる〜。でも、どこかで見たことあるんだよねえ」
「もしかして、2人とも芸能人?」

私は、あの姿知ってるけどみんなは知らない。
多分、同一人物だって気づく人いないだろうな。だって、全然違うし。

「……」

ああ、そうか。
このモヤモヤは、みんなが青葉くんのことを見てるからだ。

私の本当の姿は誰にも見せられないのに、青葉くんの本当の姿はああやって曝け出しても受け入れられている。いいなあ。

私は、そんなことを思いながら、スペシャルパンを食べ始めた。
なんだか、今日の生クリームは苦く感じる。



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